第226話:援軍
ダークエルフが恐ろしい屁を放つ男に気を取られている間に、イリスさんが砂漠で活動する優秀な冒険者達を率いて近付いてきた。
統率しているダークエルフが固まってしまったため、ドラゴンゾンビもどうしていいのかわからず、同じように固まっている。
「随分と大規模な襲撃ですのね。他の門にも魔物はいましたけど、明らかにここだけ戦力のレベルが違いますわ。それなのに、どうして少人数しかいませんの?」
僕に聞かないでください。
指揮官はカイルさんです。
「俺達は前の戦いでここを4人で守ってるからな。他の門の方がキツいくらいだろう」
「あなた、Sランク冒険者だからといって、アレを見て同じことが言えますの?」
さすが冒険者ギルドの統括だ。
カイルさんの情報がすでに頭に入っている。
そして、恐ろしいほどの正論をぶつけてくる。
「正直なところ、シロップ任せなところはある。後、あんなにいっぱいドラゴンゾンビが来るなんて俺も聞いていない」
子供のように拗ねるキャラが目立つ最近のカイルさんは、メンタルが弱すぎる。
ここは強靭なガラスメンタルを持つ僕が、ちゃんとフォローしてあげないと。
「イリスさん、今は戦闘中です。対処の仕方を相談しましょう。敵もいつ動き始めるかわからな……」
ダークエルフの方を向いた瞬間、西の方から女の子走りをして近付いて来る者が見えた。
ブーメランパンツからはみ出るケツを見せつけるトーマスさんは動かないため、ダークエルフは東の方を向いて、ケツを直視していて気付かない。
「え~~~~~~~いっ!」
緩い声とは裏腹に、恐ろしい轟音が鳴り響く。
ドラゴンゾンビの頭を粉砕する恐ろしい拳を解き放ったのは、次々に連撃を叩きこんでドラゴンゾンビを完全消滅させるオカマ、獣王だ。
ブーメランパンツの男からオカマにターゲットが変更されても、ダークエルフは真顔になったまま。
少し前に襲撃した時と比べて、変人率が高くて戸惑っているんだろう。
その気持ちは痛いほどわかる。
2人の変人を合わせるのはダメ。
こんな光景を見せられたら、人類が滅びても仕方ないっていう気持ちにもなるからね。
獣王に続けと言わんばかりに、東から獣人の大群が押し寄せていく。
タマちゃんとクロちゃんの姿も見えるため、話し合いをする時は獣王以外でお願いしたい。
「冒険者達は東側を叩きなさいな!」
このタイミングしかないと思ったのか、イリスさんが本部から連れてきた冒険者達へ指示を送った。
砂漠から移動し続けて、変態にはもう慣れたんだろう。
心を取り乱すことなく、ドラゴンゾンビへ向かっていく。
「ヘイヘーイ、マッきゅんがいないと思ったら、随分と可愛いレディー達といるんだね。いつの間にタッきゅんはモテモテになったんだい?」
「いえ、元からパーティを組んでおりますので」
いつの間にか距離を詰めてきていたトーマスさんには、冷たくあしらう程度がちょうどいい。
スズや
これ以上のマイナスポイントは、人類の間で存在しないよ。
だからお願いだよ、カイルさん。
驚くような目で見つめてこないくれ。
「おい、タツヤ。お前はトーマスさんと知り合いなのか?」
「ビックリするくらい初対面です」
「ハッハッハ! タッきゅんは相変わらず照れ屋さんだね! 僕とタッきゅんはあだ名で呼び合うほど仲良しさ!」
「いえ、こちらは一度もお呼びしたことはありませんが」
どう返答しても、トーマスさんは都合の良いように解釈してしまう。
変態で自己中心的な考えをもつ、恐ろしい人なんだ。
「いつの間に知り合いになったんだよ。風神のトーマスさんなんて、魔法使いなら誰もが憧れる冒険者だぞ」
全世界の風神様、本当に申し訳ございません。
お怒りになってしまった場合、トーマスさんに神の鉄槌を与えていただいて構いません。
同じ魔法使いであるエルフのリリアさんは首を横に振っているため、一部のおかしい人間達が憧れているだけですから。
「私宛てのサインが欲しい」
やめてくれ、スズ。
僕を経由してトーマスさんのサインを貰おうとしないでくれ。
1番ねだってほしくないものだよ。
「後にしなさいな。ダークエルフが動き始めましたわ。これほどのドラゴンゾンビを操るなら、相当の使い手ですのよ」
イリスさんによるド正論が炸裂したところで、ようやく場の空気が引き締まる。
すでに国王は自分の出番がないことを悟ったんだろう。
3歩下がって仁王立ちし、見届け人のような存在になっていた。
近付いて来るダークエルフに対して、誰よりも先にスズが駆け出していく。
何度も対峙しているだけあって、戦うことにあまり抵抗がないんだろう。
「あっ! 待ちなさいな! Aランク冒険者が1人で相手をするのは危険ですの!」
当然のように、スズの情報も入っているね。
でも、今のスズは魔法も物理も使いこなし、猫にもなっちゃうチートキャラだ。
幻術を使うような相手でもない限り、1人で戦わせても問題はないだろう。
猫がチートに分類されるかは知らないけど。
「大丈夫だと思いますよ。今回は色々とありましたから、やる気になってると思いますので。とりあえず、他の方で大きなドラゴンゾンビを対処してもらってもいいですか?」
付き人の長い僕としては、今回のスズはメラメラと燃えていると思っている。
1つ目の理由は、ドワーフの里でみすぼらしく敗北してしまったこと。
相性が悪かったとはいえ、何もできなかったことを後悔している。
僕が倒した後、大泣きしていたのも大きいかもしれない。
本当なら、僕が倒したという嘘みたいな話を問い詰めてくるだろう。
でも、今回のスズは必要以上に聞いてこない。
巨大ワームを倒した時は、ずっと説教してきたのにね。
2つ目の理由は、命を懸けて転移したエステルさんの存在だ。
誰かのために行動する正義感の溢れるスズは、同じ仲間を見捨てることはない。
身を犠牲にしてまで転移してくれた彼女から、後を託されたと思っているだろう。
だから、ダークエルフを討伐するのは自分以外にないと思っているはず。
「やる気の問題ではありませんわ!」
イリスさんの正論パンチも、強靭な僕の心の前では無意味である。
ダークエルフが動き出したことで、古代竜のドラゴンゾンビも待ってはくれない。
暴れ始めることを宣言するように、グオオオオオオオオと高らかに咆哮をあげた。
「もう! どうなっても知りませんわよ! いったん
シロップさんを先頭にカイルさんとザックさんが駆け抜けていくと、変態のトーマスさんはお尻を突き出して、足踏みを始めた。
深刻な状況の中、1人だけ楽しそうである。
そんな中、ガシッと肩を捕まれたので振り返ると、リリアさんが鋭い目付きで睨んできた。
口が悪いことがバレたくないのか、いきなりジェスチャーゲームを始めている
なになに、ええっと……、
あんな、屁をこく奴と、一緒は、嫌だ。
ダークエルフを、倒す、かな。
「イリスさん、リリアさんもダークエルフ討伐の方がいいかもしれません。彼女の魔法は強力なので、きっとダークエルフにも致命傷を与えると思いますから」
「そうしなさいな。ダークエルフと1対1なんて、無謀ですわよ」
ウンウンと頷くリリアさんの姿を見て、うまく理解できたことに安堵した。
エルフ族の一員としては、ダークエルフを野放しにできなかったのかもしれない。
戦う機会があれば、自分で討伐する決めていたんだろう。
……本当に屁をこく奴が嫌なだけかもしれないけど。
リリアさんも同じ風魔法を使うはずだから、余計に腹が立つんだろうな。
長命で博識なエルフが、屁をこいて風神と呼ばれる奴に負けるわけにはいかないよね。
なんとなく納得したけど、古代竜のドラゴンゾンビは怖い。
ドラゴンブレスに対抗するため、異次元の屁をこける存在にはしておこう。
この戦いが終わった後、彼が強烈な痔に襲われても僕は構わない。
とてつもなく不本意だけど、足踏みをするトーマスさんに近付く。
「と、トーマスさん。極力関わりたくないんですけど、トリュフ神という神がフェンネル王国にいてですね、これを食べると魔法の力が上がるみたいなんですよ。ドラゴンブレスに対抗するため、1つ食べてもらってもいいですか?」
「ヘイヘーイ、仕方ないなー。タッきゅんのプレゼントを、食べないわけにはいかないね。なぜなら僕達は、マブダッチだからね!」
ドラゴンブレスに焼かれて消滅してしまえばいいという思いと、マブダチだと言われたことをみんな戦闘に集中して聞いていないでほしいという思いが交差する。
パクッと食べたトーマスさんの姿を見て、僕は妙に疲れて、大きな溜息を付いた。
一刻も早く、この人の傍から離れよう。
ササッと移動すると、イリスさんに肩を軽く叩かれ、手を差し出される。
「私も気になりますの、トリュフ神」
恐ろしく疑うような目を見て、僕は悟った。
完全に疑われていると。
火猫ブランドが浸透していて、極限状態に追い込まれていたフェンネル王国の人間はいい。
獣人国でバレなかったのも、追い込まれていたからという理由が大きいだろう。
でも、知的キャラで嘘がきかないイリスさんはダメだ。
一口食べれば、ユニークスキルだと感づかれてしまう。
「いや、ちょうどなくなったみたいですね。残念なことに」
「……フィオナ王女、浮気には厳しそうな方ですわね。もし浮気をしていたら、嫌われて絶縁状態になるかもしれませんわ」
クソッ、やっぱり嘘であることが見抜かれている。
イリスさんと体の関係を持とうとしたことが知られれば、本当にフィオナさんと絶縁状態になるかもしれない。
それだけじゃない、スズもフィオナさんもなぜかロリコンには厳しい。
人形のようなロリキャラであるイリスさんとの関係は、致命的な問題に発展してしまう。
ましてや、マールさんとの浮気もバレたら大変なことになるぞ。
リーンベルさんまで飛び火すれば、同僚に手を出した男、として嫌われるかもしれない。
僕のモテモテライフを崩壊させるだけの情報を、第2の妹であるイリスさんは握っている。
悔しいという気持ちよりも、なぜ嬉しいという気持ちが出てきてしまうんだろうか。
「まだ、1つだけ残ってたみたいです。ど、どうぞ……」
「そうですの、よかったですわ」
口の中に入れてトリュフを味わう姿は、最高に可愛いと思う。
興奮のあまり、ケツを高速で叩き始めた近くいる変態男とは大違いだよ。
「ふーん……トリュフ神ですの……。60分も力を与えてくださる、素晴らしい神ですわね」
制限時間を知っているということは、ステータスを見てしまったんですか。
絶対にユニークスキルだとバレていますよね。
ニコニコした表情でこちらを見るのは、お控えください。
僕は笑顔を告白と受け取るような人間ですから、今度こそ責任を取ってもらいますよ。
尻に敷かれてイリスさんと過ごすのもいいと思いつつ、僕はダークエルフと戦闘しているスズの援護に向かう。
連携が取れるような要素は低いけど、たまに調味料は活躍するからね。
1人目のダークエルフは、味噌に足を取られて敗北。
2人目は、腐った牛乳の海に溺れて敗北。
3人目は、チョコレートで生き埋めになって敗北。
僕はもう知っているんだよ。
ダークエルフの弱点は、調味料だってね!
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