第225話:ドラゴンゾンビ
冒険者なのに指揮を執る男、カイルさんの言葉で伝令が走る。
餃子を食べまくった男の顔は違う。
豚汁の代わりにカレーをくれ、という意味不明な言葉が忘れられない。
部屋を出るとき、やっぱりデザートは角煮すべきだったか、と謎の後悔もしていた。
シロップさんのニオイ情報を元に、騎士団や冒険者達が慌ただしく動き始めている。
彼らはオーク肉をモリモリ食べ、元気を取り戻してやる気にみちあふれていた。
なお、お腹いっぱいになっているであろうため、餃子神の加護を与えることはできない。
戦闘中に腹痛を訴えられても困るからね。
というのが表向きな理由で、実はもう在庫がないんだ。
今朝、騎士達に食べさせ過ぎてしまったことと、さっきの食事ですべて消えてしまった。
英雄と呼ばれた人間による独占である。
その分、しっかり働いてくれるから問題はないだろう。
そんなこともあって、僕達は本隊がいると思われる北門にたどり着いた。
他の門にも魔物襲撃があるらしく、戦力を分散。
冒険者と騎士団を向かわせ、ここには戦闘力の高いメンバーだけが存在する。
食い過ぎた英雄の不死鳥とショコラ、そして、なぜか近くにいた国王だ。
醤油戦士と国王の戦力外っぽい雰囲気は異常であり、足手まとい間違いなし。
でも、かつてダークエルフが侵攻してきたとき、不死鳥が本隊をたった4人で打ち破っている。
スズもいるから、5人に任せておけば1番安全な場所とも言える。
そう、僕は1番安全な場所と理解して、あえて戦場に立っているんだ。
ドワーフの里でダークエルフを倒した、勇ましい醤油戦士はもういない。
スズとシロップさんのお尻を追いかける、いつもの変態がいるだけ。
なぜフィオナさんではなく、隣が国王なんだとクレームを入れたいと思っているくらいだからね。
きっと国王は『ワシが前線に出なければいけない最終局面だ』的な、王のカンが働いたんだろうね。
凛々しく立つ姿は、とてもカカトにポテトサラダを塗る男とは思えない。
薬草が発達した世界なんだから、カカトのひび割れはちゃんと薬草でケアをしてほしい。
昼ごはん時には晴れていた天気も、ダークエルフがやって来ることを知らせるように暗くなってくる。
ポツポツと振り始めた雨が冷たく、不穏な空気が漂い始める中、1人の男が魔物の群れを先導してくるように歩いている姿が見えた。
魔物を率いてくる人間はこの世に存在しないため、ダークエルフで間違いない。
国王のカンが働いただけのことはあるな。
本当にこれが最後の戦いになるだろう。
チビリそうなくらいの迫力がある、ドラゴンゾンビの群れによる襲撃。
ボロボロの羽では空を飛べないのか、ノソノソと歩くように進軍してくる。
数はおよそ、50匹。
「ドラゴンはゾンビ化すると攻撃力が上がる魔物。この規模は災害級の領域では収まらない。ブレス攻撃を被害なしで防ぐのは難しい」
お願いだよ、スズ。
巻き込まれそうな子供とオッサンがなぜか戦場にいるから、頑張って防いでくれ。
「殴って軌道を変えられないかな~?」
恐ろしいパワープレイに走ろうとしているな。
仮にできたとしても、シロップさんぐらいですよ。
「普通に考えてくれ、ブレスを殴って軌道を変えられるのは獣王くらいだろう。……お前ならできそうだな。それより、1番奥のドラゴンゾンビ、異様にでかいし様子がおかしくないか?」
確かに獣王はヒュドラのドラゴンブレスを両手で塞いで突進していたな……と思いつつ、目を細めて遠方を確認。
暗くてわかりにくいけど、大きいドラゴンゾンビがいるな。
通常のドラゴンゾンビが1体3mほどに対して、大きさは3倍ほどある。
「大きいよね~、あんな大きな骨の竜は見たことがないな~」
無邪気なシロップさんが体を動かして巨大なドラゴンゾンビを眺めている中、リリアさんが持っている杖でポコッと頭を叩いた。
「……古代竜」
リリアさんの言葉で、誰もが理解できずにピタッと固まった。
おそらく、みんな頭の中で言葉の意味を整理しているんだろう。
エルフの里で出会った、古代竜の大きさは10m。
肉が爛れ落ちてなくなったことを考えれば、現れたドラゴンゾンビのサイズとピッタリだ。
2,000年前、古代竜はダークエルフに操られた友を手にかけた、そう言っていた。
もしあれが古代竜の亡骸だった場合、ダークエルフの手で蘇ったのならば、相当マズいことにならないか。
通常のドラゴンゾンビの群れが、災害級を超えるレベルだ。
古代竜のドラゴンゾンビは、単独で災害級を超えるレベルだろう。
さらに、それをダークエルフが率いてやって来ている。
一緒に来てもいいようなレベルじゃないよ。
せめて、3段階に分けて順番に来てほしい。
こっちは戦える人間が5人しかいないんだぞ。
質を高めた数の暴力なんて、ただの弱い者いじめじゃないか。
「スズ、あれって倒せるの?」
「通常のドラゴンゾンビなら、時間をかければ何とか……」
待って、そんなにドラゴンゾンビって強いものなの?
以前、ブチ切れてワイバーンをボコボコにしてたのに、なんで大事な時に弱気なのさ。
チートキャラの本領を発揮してくれよ。
僕の思いも虚しく、ダークエルフ達はどんどん接近してくる。
そして、不自然な動き方をドラゴンゾンビ達は見せていく。
真ん中の通路を開け、古代竜のドラゴンゾンビに道を譲り始めたんだ。
ここまで完璧に統率が取れているし、ダークエルフは不気味に微笑んでいる。
もしかしたら、古代竜のドラゴンゾンビが先陣をきってくるのかもしれない。
重い攻撃をズドンッとぶち込んだ後、細かい処理を周りのドラゴンゾンビにさせる気なんだ。
もはや、何が何でも壊すという意志しか伝わってこない。
あまりの怖さに国王を盾にしていると、シロップさんが前に出て奇妙な動きを取り始めた。
バッターボックスに立とうとするため、素振りを始める野球選手に似ている。
「来そうだよね~、大きいブレス~」
マジかよ、このうさぎは本当にドラゴンブレスを素手で弾き返そうとしている。
いくらステータスが3倍でも無理があるだろう。
当然、スズはできないとわかっている。
シロップさんに近付き、肩をポンポンッと優しく叩いた。
「私が横にずらす。シロップは上にずらして」
「じゃあ~、蹴りの方がいいかな~」
相撲のツッパリ稽古を始めるスズと、サッカーの練習を始めるシロップさんが意気揚々と過ごしている。
僕は国王という盾から覗くことをやめ、大きな溜息をついた。
こんな時、指揮官であるカイルさんが頼りないことは知っている。
多分、「あいつらならやれる」と意味不明な自信で後推しするだろう。
だから僕は、長命である常識人のエルフ、リリアさんに場をまとめてもらうことにした。
もっと真剣に戦わないと死ぬぞって。
真面目に考えていることはわかるけど、そのままだと死ぬぞって。
先制攻撃を仕掛けないと、死ぬぞって。
いい加減にしろ! って、ブチ切れてくださいよ!
こっちの方が不利な状況なんですから!
「リリアさん! 今の光景を見てどう思いますか!」
「……いける」
ダメだ……、ここにまともな人間は1人もいない。
僕もおかしくなり始めたのかな。
最後はエルフと一緒にクッキーを食べて死にたい、そういう意味不明な気持ちが生まれてきた。
おそらく、これが後悔ってやつだろう。
エルフの人とイチャイチャする機会がなかったから、最後くらいはエルフと過ごしたいっていう本能が動いたんだと思う。
古代竜のドラゴンゾンビが大気を吸い、口の中にブラックホールのような不気味な黒いエネルギーを集め始めた。
どう見ても危ないドラゴンブレスの準備がされる中、僕達は割と平然としている。
キレのあるツッパリを見せるスズと、鋭い蹴りを見せるシロップさん。
堂々とした仁王立ちでドラゴンゾンビを眺める、勇敢そうな男達。
クッキーを仲良く食べる、リリアさんと僕。
そして、不思議そうな光景に目を擦るダークエルフ。
もうそろそろ違う種類のクッキーも作ろうかなーっと呑気なことを考えていると、古代竜のドラゴンゾンビが足を踏ん張った。
グオオオオオという叫び声と共に、暗黒のドラゴンブレスが解き放たれる。
それと同時に、ヴォォォォォォォという不快な音が聞こえた。
この音はなんだ? と思っていると、ドラゴンブレスに白い楕円形の物体が衝突。
すくい上げるような形でぶつかったため、ドラゴンブレスの軌道が大きく上へ反れた。
結果、スズとシロップさんは無駄に空振りする。
「誰だ!」
と、初めてダークエルフが凛々しい声を上げた。
すると、東門から迂回するようにやって来た、人間達の姿がある。
助けてもらったことは間違いない。
だが、なぜかありがたいという気持ちが沸いてこない。
リリアさんと食べるクッキーの食欲もなくなるほどの、たくましいお尻の筋肉が見える!
「ハッハッハッ! タッきゅん、危ないところだったねー。ドラゴンゾンビ達、たっくさ~ん、メッしちゃうぞっ!」
やめてくれ! 貴様だけは帰ってくれ、トーマスさん!
マールさんとのラブラブな旅路を邪魔するだけでなく、エルフであるリリアさんとの食事を邪魔しないでくれ!
そこは普通、隣にいる冒険者ギルドの統括、イリスさんが声をかけてくるところだろうが!!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます