第223話:神々の降臨
「はーい、1列に並んでくださーい! 魔法使いはトリュフ神の加護ですよー。武器を使って戦う方は、カツ丼様の弟、餃子神の加護が与えられますよー」
ドワーフの里で牢屋に閉じ込められた時、大量に作り置きしてよかったよ。
トリュフはダークエルフの幻術を打ち破った時に、魔法防御が上がったからね。
スズのエクスプロージョンを見る限り、魔法攻撃も上がるみたいだ。
魔法使いに有効なお菓子と言えると思う。
でも、僕の思いとは裏腹に、魔法使いはトリュフを食べてバタバタと倒れていく。
相当厳しい状態で城壁を強化していたため、濃厚なトリュフのおいしさに耐えられなかった、と思うことにする。
他の場所へ援軍として向かってほしいんだけどね……。
一方、近接戦闘型には餃子だ。
餃子を焼くのは少し時間がかかるけど、大量に作れるのはこれしかない。
身体能力が上がることは間違いないし、多分大丈夫だと思う。
魔法が強化されたスズのエクスプロージョンでスケルトンが消滅したことにより、騎士達の士気は異常に高くなっていた。
城門を開門して、他の門で暴れるスケルトンを迎撃しようと駆け出していく。
なお、その筆頭は餃子を食べて暴走した指揮官、カイルさんである。
疲れ切った表情をしていたのが、今となっては嘘のようだよ。
久しぶりに新しい料理に出会えた喜びと、国の命運を左右する指揮官になったストレスが爆発したんだろうね。
まだまだ他の場所ではスケルトンの侵攻に苦しんでいるだろうから、八つ当たりでどんどん討伐してほしい。
「たっちゃ~ん、国王様持ってきたよ~」
クンカクンカという欲望に支配されていたシロップさんも、すでに満足して落ち着きを取り戻している。
ちなみに、スズのトリュフ配達はギリギリだったよ。
意地でも我慢しようと思っていたのか、不自然なくらいに震えていたけどね。
これはマズいと思った僕は、スズの名誉を守るためにフィオナさんへお願いをした。
耳うちで「王女の言葉があった方がいいんじゃないですか?」と、演説の催促をしたんだ。
火猫のスズと王女であるフィオナさんの後押しがあり、トリュフ神は絶対的な存在になったよ。
だが、子供の僕が追加設定した餃子神の説得力は低いかもしれない。
人数分のカツ丼を作っている暇はないし、大量に作れるのは餃子しかないんだけど……。
そう思っていると、餃子を食べた騎士達がある行動をしていることに気付く。
餃子を食べた後、必ず抜剣して地面に剣を突き刺しているんだ。
「俺はこのパワーを知っているぞ! 魔物が襲ってきた時も、カツ丼様が俺達に力を与えてくださっていたんだ」
「だがあの時、パワーを得る者と得ない者がいたはずだ。いったい、カツ丼様は今どうなさっているんだよ! 自らを犠牲にして俺達に加護を与え、眠りに付いてしまわれたって言うのか!」
「バカ野郎! 悲しむ暇があったら、カツ丼様に応えろ! 絶対神であるカツ丼様が、身を犠牲にしてまで力を分け与えてくださったんだぞ! 餃子神の加護までいただいて、俺達が戦わないでどうするっていうんだよ!」
うわぁ……、思ってたより浸透してる。
誰も疑うという言葉を知らないのかな。
本当に希望を見出すなんて、ユニークスキルの効果ってすごいだな。
そんな光景を見せられた国王は、どういう状況か理解したんだろう。
涙を流して膝をつき、地面をドンドンッと叩いて……、何してるの?
「何と言うことだ! カツ丼様に感謝の言葉を伝えることができぬとは!」
ユニークスキルのことも、正しい歴史のことも知っている国王は騙されないでくれ。
ハイエルフの末裔である存在なんだから、もっとしっかりしてくれないと困るぞ。
カイルさんもそうなんだけどさ。
だが、国王の悲痛な思いは止まらない。
グッと涙を堪えると、城壁を駆け上がって見渡せる位置まで走っていった。
「皆の者、よく聞くがいい! もうすぐカツ丼様は、誕生日であった。我々が不甲斐ないばかりに……」
ドワーフの里へ向かう前、「カツ丼様の生誕祭が近い」と言ったけどさ。
あの時はユニークスキルのことを隠すためだったんだよ。
普通、それくらいは気付くと思うんだけど。
いま、娘がどんな気持ちで父親である国王を見ているのか察してほしい。
こんなフィオナさんの顔は初めて見るからね。
反抗期の娘が父親のことを嫌いになって、一方的に軽蔑するような顔に近いよ。
もう別居しているとはいえ、今後の生活に支障が出ないことを祈ろう。
国王がカツ丼様への熱い思いを語る中、マイペースなシロップさんが「私も餃子食べた~い」と最後尾に並ぼうと駆け出していく。
すると、途中で声を掛けられて、横入りをしていた。
喧嘩にはなっていないようだけど……と思って確認してみると、スズと一緒に並んでいた。
スズの姿が見えないと思っていたけど、まさか律義に並んで餃子待ちをしていたとは。
君はもう魔力切れなんだから、ちょっとは休みなさいよ。
……普通に動けているみたいだし、トリュフの回復力はすごいんだな。
魔法使いがトリュフを食べて倒れているけど、目を覚ました時には全快しているかもしれない。
これは予想以上にトリュフ神の信仰が期待できそうだ。
特に使い道はないんだけどさ。
そんなことより、シロップさんはニンジンでステータスが3倍になるんだから、餃子を食べずにニンジンを取りに来てよ!
こんな非常事態で餃子を食べるために並ばなくてもいいですから!
むしろ、何でニンジンから浮気をしているんですか。
浮気癖のある僕が言えた立場ではありませんけどね。
父親である国王を蔑んだ目で見るフィオナさんを手招きして、スズとシロップさんを呼んでもらう。
タタタッと小走りで2人の元に行ったフィオナさんは、ドヤ顔の2人と一緒に戻ってくる。
きっと、王女が許可を出すなら特別扱いとして先に食べられる、と思ったんだろう。
妙に足取りも軽いから、間違いない。
「シロップさんはニンジンの煮物を食べて、他の場所に援軍へ行ってください。スズは魔力を使い過ぎたんだから、その辺でちょっと休んでて。いつダークエルフがやって来るかもわからないだし」
「えぇ~、私も餃子が食べたい~」
そんなシロップさんを説得するのは、僕じゃない。
アイテムボックスから取り出した、ニンジンの煮物である。
なぜかニンジンの言葉を理解するという超人技を持つシロップさんには、きっとニンジンに逆らえない。
「シロップさん、今の言葉をニンジンの煮物に向けて言えますか? ニンジンはいま、何と言っていますか?」
「ニ、ニンジンを食べようかな~、ハ、ハハハ~」
過去最高の苦笑いをしたシロップさんは、まるでニンジンが嫌いな子供みたいだった。
ぎこちない作り笑い浮かべて食べる姿に、ニンジンからも指摘されているんだろう。
時折、「そ、そんなことないよ~、おいしいよ~」と、独り言のように呟いてニンジンをフォローしている。
そして、もう1人の餃子を食べたいスズの説得は簡単だ。
「スズ、さっきトリュフ神が休みなさいって怒ってたよ?」
即座にマジックバッグからウルフの毛皮を取り出し、サッと地面に休むのは高い信仰心の表れだろう。
カツ丼様とトリュフ神という、異なる2つの神を信仰してもいいのかな。
同じ食べ物の神である以上、同系列ということで許してもらえるのかもしれない。
この世界の宗教について詳しくないけど、他の人も餃子神を受け入れたくらいだし、特に問題はなさそうだな。
なんとなく自己解決をしたので、餃子作りに戻って、信者を増やすことにした。
止むことのない国王の謎の演説は、無駄にうるさいけど。
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