第221話:エステルの意思
「想像以上に危険な状態。周りに魔物が全く存在しない」
偵察から戻ったスズの言葉で、城壁に群がるスケルトン達を思いだす。
遠くからでも驚くほど、スケルトンの数は多かった。
帝国兵がスケルトンにされて進軍してきただけでなく、周りの弱いゴブリン達を倒して、さらにスケルトンを増やしている可能性もある。
フェンネル王国が籠城戦をしているのも、騎士団員が倒されてスケルトン化することを恐れているからかもしれない。
敵の戦力が増え、味方の戦力が減るのは肉体的も精神的にもキツいだろうから。
「遠くから眺めた限り、王都は完全に包囲されている。あちこちで戦いの残骸があるから、何度かぶつかっているはず。多分、料理の在庫が切れて対抗できなくなったんだと思う」
「私達が離れている間、ずっと攻防を繰り返しているのでしょう。相手がスケルトンであることを考えれば、夜間の進行は致命的です。残念ながら、冒険者ギルドの援軍は間に合いそうにありませんね」
「準備や距離を考えれば、仕方ない。壊れた橋が修繕されてなければ、遠回りをするしか道はない」
古代竜と精霊獣チョロチョロの騒動がここに来て足を引っ張るとは。
フリージアと砂漠の国を結ぶ懸け橋が壊れた以上、雪山を経由して迂回するしかない。
高ランク冒険者が多数存在する冒険者ギルドは、心強い援軍だというのに。
「後、どれくらい城壁が持ちそうだったかわかる? 1ヶ所でも穴が空いたら、致命的なことになりそうだけど」
「スケルトンの強さにもよるけど、長くはないと思う。城壁は土魔法で強化して、壊れないようにしているはず。それでもよく見ると、削られている場所もあったから」
「そうですか……。間違いなく城壁は強化しているはずですので、魔力が枯渇してきているのかもしれません。通常のスケルトンであれば、数が多くてもこのようなことにはならないはずですが」
ダークエルフがスケルトン部隊を率いていることを考えれば、強い魔物になっていても不思議ではない。
世界を滅ぼそうとしているくらいだし、耐えられていることが善戦に値するはず。
早く王都内に入って、不死鳥だけでも強化してあげないと。
でも、1番の問題は………、
「これだけスケルトンがいる中、王都に侵入する方法ってありますか? 正々堂々と正面突破できるような雰囲気でもありませんし」
「「「………」」」
やっぱり、そこが問題ですよね。
料理効果でステータスを高めても、あれだけの数は無理だ。
次々にスケルトンが雪崩のようにやって来るはずだし、半端な攻撃だと復活しそうだもん。
スタンピードの比じゃないよ。
「フィオナさん、お城へ繋がる抜け道みたいなのはないんですか?」
「……あるにはありますが、今は通ることができないと思います。以前のスタンピードの際に、精霊魔法の影響で通路が崩れてしまいましたから。復旧しようにも、シビアな問題になるのでなかなか手がつけられなくて……」
初めて攻めてきたダークエルフとの戦いの影響まで響いているのか。
地形が変わるほどの大きな影響だったし、仕方ないことだと思うけど。
誰かに気付かれていることを前提に作り直さないと、侵入される恐れもあるから。
下手に作って、ダークエルフやスケルトンに気付かれるよりかはよかったのかな。
僕達が中に入れないのは、それはそれでまずいことだけど。
本当にスケルトンが夜になって強くなるなら、フェンネル王国よりも僕達の方が危ない。
ここはいったん冒険者ギルド本部と合流するために、迂回して王都を離れた方がいいかもしれない。
いつ来るかわからないことだけ、気掛かりだけど。
とはいえ、もう持たないような雰囲気であれば、合流している間に崩壊するかもしれない。
「エルフの里で、火猫の魔力をクッキーで安定させる話があったよな?」
誰もが悩み続ける中、エステルさんが唐突にクッキーの話をしてきた。
「はい、そうらしいですね。ドワーフの里でも説明した通り、本来はステータスを一時的に高める効果がメインになりますが」
「空間転移、という方法で城下町へ入るのはどうだろうか。本当にクッキーでステータスを底上げできれば、コントロールが可能かもしれない。できるかどうかは、やってみないとわからないんだが」
そういえば、エステルさんは空間魔法の使い手だったな。
スズと戦ったときは完璧に使いこなすことかできず、瞬間的な高速移動と言われていたけど。
ステータスを強化して扱える魔法の幅が増えるなら、1番理想的な形で街へ戻れる。
「無理はしない方がいい。空間魔法は扱いの難しい、最高峰の魔法。ステータスを強化しただけで扱えるようなものではない」
「じゃあ、どうやって火猫は街へ戻るつもりだ? このまま放っておけば、魔物の群れに飲み込まれるぞ。戦場にダークエルフがいないから、この程度の被害であることを忘れるな。向こうが本気を出せば、対抗できる勢力はないんだ」
「ダークエルフが出てきたとき、こっちで処理すればいい。安全に戻れない以上、様子を見ながら判断するしかない」
「確かにお前は強いが、相手がまた幻術を使うような相手だったらどうする。まだスケルトンが増えるかもしれないのに、本当にダークエルフを対処できるのか? 今以上に魔物が押し寄せる可能性もあるんだぞ」
「………。好きにすればいい」
フーンとそっぽを向くスズはいじけてて可愛い。
正直、ダークエルフとの戦いの時のように、変な場所へ転移しない限りはいいと思う。
魔力が安定している今であれば、変なことにはならないだろう。
あの時はスズも背後を取られて幻術の中だったから、嫌な思い出として残っているのかもしれないな。
元々エステルさんは空間魔法を使って戦ってきたんだし、妨害がなければきっとうまくいく。
暴れ馬から卒業したエステルさんは、今となっては頼もしい戦力になってるんだから。
いじけるスズに料理効果のことを聞けないので、魔法が上がりそうな甘いものシリーズを食べてもらった。
クッキー、トリュフ、プリン、アイスという、糖尿病街道まっしぐらのお菓子達。
味わうこともなくササッとエステルさんが平らげている間に、馬車の馬だけ逃がしてあげた。
転移の負担を少しでも減らしたいし、この辺りに魔物はいないはずだから。
一応、ニンジンの煮物でパワーアップはさせたよ。
馬もパワーアップするのかはわからないけど。
エステルさんの準備ができると、全員で手を繋いで輪になる。
目をつぶるように指示をされたので、無事を祈りながら目を閉じた。
「転移中に目を開けていると、慣れないうちは酔って嘔吐する可能性がある。しっかりと目だけは閉じておけ。転移の影響で、
違和感があるような言葉が聞こえたけど、目を開けると邪魔になるかもしれないと思って、何もすることができなかった。
すると、ジェットコースターで高い場所から下りるような独特のフワッとした感じを体感。
すぐに男達の殺伐とした声と、金属が響くような音が耳に入る。
無事に転移して、街の中へ戻ってきたようだ。
目を開けた瞬間、クラッと立ちくらみがする程度で大きな影響を受けることはなかった。
たった1人、吐血をして崩れ落ちたエステルさんを除いては。
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