第220話:王都への帰還

 - 5日後 -


 ドワーフの里を離れ、僕達はフェンネル王国へ向けて馬車を走らせていた。


 ダークエルフの襲撃を受けているであろうフェンネル王国が持ちこたえている保証はない。

 事前にユニークスキルで料理を作っておいたとはいえ、ダークエルフは特殊な戦い方をするから。

 不死鳥にはステータスが3倍になる人が2人もいるし、問題はないと思うけど。


 そんな心配を吹き飛ばすように、馬車が揺れる度、フィオナさんのおっぱいがバインッバインッと僕を弾いてくる。


 柔らかいおっぱいに「大丈夫だよ」と言われているみたいで、安心感を覚えてしまう。

 ダークエルフもおっぱいを触れば、考え方が変わるかもしれないな。

 おっぱいの触れない魔物より、人間やエルフの方が素晴らしいと思うに違いない。


 もしかして、今までのダークエルフ達はおっぱいの柔らかさも知らずに……。

 いや、この話はやめよう。

 これから戦うダークエルフに情けは無用。

 僕も手でおっぱいを触ったことがないし、直接戦うことはないだろうけど。


「見慣れた景色になってきましたから、もうそろそろ王都に着くと思います。ところどころ地面が荒れていることが心配ですが」


「帝国は北からやって来るはずでしたよね。西のドワーフ側まで荒れてるなんて、敵の数が多いのかもしれません。鉢合わせしないといいんですけど」


「スズとお馬さんが警戒していますので、それは大丈夫だと思いますよ。すでにドワーフ達は帝国の街に着いているはずですし、私達がゆっくりしている場合ではありません」


 ドワーフの里から出立する前に、フィオナさんがドワーフに交渉をした。

 一方的な提案というより、ドワーフ達に配慮した形になっている。


 このままドワーフ達と一緒にフェンネル王国へ行けば、敵対勢力と思われる可能性がある。

 すでに帝国とフェンネル王国との戦争は始まっているはずだから、戦場を混乱させるようなことは避けたい、と。


 魔石通信で連絡が取れればよかったんだけど、今回は連絡を取ることができなかった。

 多くの魔法が飛び交っていると、通信できるような状態ではなくなるらしい。

 おそらく、魔石から出る魔力と魔法の魔力が干渉するんだろう。


 無事でいてくれるといいんだけど。


 とはいえ、ダークエルフを相手にするなら、できるだけ戦力を集めたいのが本音だ。

 帝国兵や魔物に邪魔をされれば、まともに戦うこともできない。


 そこで、ドワーフ達には帝国へ攻め込んでもらい、帝国民を人質に取ってもらうことになった。

 帝国兵を撤退させることに成功すれば、戦力が大きく分散されるから。


 さすがに民が人質になれば、帝国兵は撤退せざるを得ない。

 他国を攻め込むことより、自国の防衛を優先するだろうからね。

 仮にそこでダークエルフと仲間割れするなら、それはそれで戦力ダウンに繋がる。


 どういう形でダークエルフが指揮をしているかわからないけど、帝国兵の教育は世界の秩序を正すこと。

 魔物を召喚して戦うダークエルフの姿を見れば、普通の人はおかしいと気付く。

 こっちには帝国最強の兵士であるエステルさんもいるし、戦場でうまく説得できる可能性もある。


 そのためにも、早くフェンネル王国へ戻って、帝国兵を押し返さないと。


 真面目なことを考えているけど、僕の頭の6割は背中おっぱいに埋め尽くされている。

 路面の凹凸が著しく悪く、バッバインッ、バババイーンッ! と背中のバイブレーションを感知して、腹パンをくらったかのような衝撃で意識が完全に覚醒する。


 おっぱいとは、癒しの暴力をふるうことがある。

 幸せな暴力をくらってしまい、Mが目覚めるのも待ったなしだな。


 なんとなく頭がスッキリしたところで、馬車のスピードが減速していることに気付いた。

 不審に思って周囲を確認すると、大きな城壁が見え始めていた。

 遠くからでもわかるほど、魔物に襲撃されている王都の城壁が……。


 おびただしい数のスケルトンが城壁を壊そうと攻撃し、中へ侵入しようとよじ登っている。

 城壁の上では槍を使って侵入を阻止する騎士団の姿があり、圧倒的に不利な展開が見てとれた。


 このまま近付くのは、危険と判断したに違いない。

 エステルさんは馬車を止めて、降りてきた。

 護衛のために歩いていたスズも近寄ってくる。


 背中おっぱいをもっと堪能したい気持ちを押さえ、フィオナさんと一緒に馬車を降りていく。


「周囲の様子を見てくる。他にも魔物がいるかもしれない」


 こういう時のスズは行動が早い。

 忍者のようにサッと消え、身の安全を確保してくれる。


「ドワーフの死体を集めていた理由がわかりましたね。お馬さんには……酷なことですが」


 おそらく、スケルトンの素となったのは帝国兵で間違いないだろう。

 異様に数が多いし、全員が武器を持っている。

 このタイミングでフェンネル王国を攻めている人間がいないのも、不自然に感じるから。


 確かダークエルフのグレイスは「新鮮なドワーフの死体を」と言っていた。

 わざわざフェンネル王国を攻撃する直前に攻めたのも、新鮮な死体でスケルトンを作る予定だったんだろう。

 操りやすいのか、強化しやすいのかわからないけど。


 チラッとエステルさんを見てみると、悲しんだり悔しがったりするようなことはなく、ジッとスケルトンを眺めていた。


「まだ決まったわけじゃないが、心の準備だけはしておこう。どう足掻いても、帰るべき母国はないのかもしれないとな」


 ダークエルフが行動を移した以上、もう帝国は存在しないのかもしれない。

 城や街などの建物は残っていたとしても、そこに住む人は……。


 牽制目的で向かったドワーフ達も、予想外の光景を眺めているだろう。

 踏み込んだ他国の領地が無人になっているのか、魔物が住んでいるのかわからないけど、まともな生存者が残っている可能性は少ない。


「今は目の前の敵に集中しましょう。フェンネル王国が持ちこたえているといっても、ギリギリの状態だと思いますから」


「わかっている、やるべきことが増えただけだ。エルフの償いよりも先に、帝国兵を安らかな眠りへ導いてやらねばならない。今はもう……何も感じていないかもしれないが」


 帝国兵の魂を天に帰せたとしても、いたたまれない光景が焼き付いているだろう。


 仮にもエステルさんは、帝国の第4王女。

 自国民がこんな目にあえば、内心は穏やかでいられないはず。

 出会った頃の暴走する人とは、別人のように感じるよ。


 まだ遠くにいるとはいえ、どこでダークエルフが見ているかわからない。

 少し離れた位置で休み、スズの帰りを待つことにした。

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