第210話:チョロイオッサン
「8日後の朝、帝国の使者が里を訪れる手筈だ。そこで帝国の本体と通信で連絡を取った後、フェンネル王国へ向かう準備を始める。順調にいけば、10日後にここを出発するだろう」
ドワーフのリーダーであるオッサン、ガーモックさんの意思は弱い。
餃子とお酒で一杯やった後、すぐに情報を売りに来てくれた。
情報を与えたとしても、牢から出られないと思っているからね。
ビックリするくらいチョロくて、僕が1番驚いているよ。
「なるほど、餃子1人前をお渡しましょう。ちなみに、ドワーフ全員でフェンネル王国へ向かうんですか?」
「戦えぬ者を除いてはな。帝国の攻撃で弱りきったフェンネル軍に追い討ちをかければ、容易く崩れるはずだ。防衛戦をしているフェンネル国の城壁を我らが破壊して、戦争の幕は下ろされる」
パワーのあるドワーフ達が城壁を破壊して、帝国兵が街へなだれ込み、一気に片を付ける作戦か。
フェンネル王国は王都で防衛戦をすることになっているし、有効的な方法になるだろう。
でも、わざわざそんなことをする必要があるのかな。
ダークエルフが戦場に出てくるなら、あまり関係ないように感じるんだ。
理にかなっているように思えるけど、ドワーフと手を組むメリットが少ない気がする。
「みんなには内緒だぞ」
「わかっていますよ。おっと、ここでボーナスタイムが入りました。帝国がいつ攻撃を始めるか教えていただけると、さらに餃子を3人前プレゼントです」
「8日後の夜だ。日があるうちは牽制をするだけで、攻撃は夜しか行わない」
「なるほど、餃子3人前を追加でお渡しましょう」
「よしっ!!!!」
嬉しそうな顔をしたガーモックさんは、餃子の皿を受け取った。
誰にも見られていないことを確認してマジックバッグへ入れる姿は、スパイのような存在感がある。
もしかしたら味方なんじゃないかなと、勝手に親近感が沸いているほどだ。
「心配せずとも、お前達の命は保証する。だ、だが、帝国にバレると大変だからな。ドワーフの里で過ごすことをオススメするぞ!」
きっとガーモックさんも、僕達に親近感が沸いてしまったんだろう。
餃子を食べただけで、里の滞在を許可してきた。
まだ餃子を3つしか食べていないのに、ここまで餌付けされるとは。
時間をかけていけば、帝国と対立させることもできるかもしれない。
タイムリミットが8日間だと、チャンスは多くないと思うけど。
「ところで、お前達の装備を作ったのはオレッチの野郎だろ。いまも元気にしてるのか?」
ドワーフの里を訪ねてわかったこと、それは、超ハイテンションドワーフのオレッチが異質な存在だということだ。
あそこまでキャラが濃いドワーフは、この里に存在しない。
「見ただけでわかるものなんですね」
「鍛冶職人のワシ等は、武器や防具を鑑定するスキルを持っているからな。外界に出たドワーフで、そこまで優秀な装備を作れるのは奴ぐらいだろう。たった3日間で師匠であるワシの技術に並び、マジックバッグを開発したことは忘れられん」
あの人のキャラが1番忘れられませんけどね。
「そんな功績のあるオレッチさんを、どうしてドワーフの里から追放したんですか? 王都に住むはぐれドワーフは、そういう人だと聞きましたけど」
「いや、追放などしていない。奴は独自の考え方を持っていたために、ドワーフの里を自ら出ていったんだ」
確かに、彼は色々オリジナリティが溢れていますからね。
全てがオリジナルと言ってもいいほど、オンリーワンの存在ですよ。
「ワシらは最高の武器や防具を作るために、鍛冶を極めている。どんな物でも斬れる最強の剣や、どんな攻撃も防ぐ最強の鎧を作ってみたい。だが、奴は違う。面白そう、という斬新な考えだけで物作りを続けているんだ」
きっと「小さい袋の中から物がいっぱい出てきたら面白いニィー!」と思って、マジックバッグを開発したんだろう。
新しい料理を食べる度に「アイデアが止まらないニィー!」と騒ぐのは、面白いことを思い付いたから。
どうしよう、オレッチの心情をわかっても全然嬉しくない。
従来の頑固なドワーフ達と意見が合わず、ドワーフの里を旅立つのも当然のこと。
柔軟な人族や獣人族の間で人気なのも、うなずけるってもんだよ。
「随分と個性的な方だとは思いますけどね。作るスピードも異常に早くて、僕の装備は2分で完成してしまいましたし」
「ハッハッハ、そんなわけはあるまい。それだけ手が込んでいると、2週間はかかるだろう。2分で作られたら、人でもドワーフでもないぞ」
そう言ったガーモックさんは、嬉しそうな顔をして牢を去っていった。
弟子であったオレッチの話を聞けて嬉しいのか、また餃子とエールで飲み直せるのが嬉しいのかわからない。
ただ、とてもぎこちないスキップをして喜びを表現する姿は、最高にダサかった。
まさかオレッチが、ドワーフの里で手加減して物作りをしていたとは。
2週間で作るものを2分で作ったら、相当反感を買っただろうからね。
空気を読めるタイプだったなんて、意外なことだな。
それに、良い話も聞けた。
僕の装備が手の込んだ物と見抜くなら、ひそかに細かくチェックしていたはずだ。
自然と目がいってしまう、職業病のようなものだろう。
今はマジックバッグを愛用しているくらいだし、武器や防具以外にも興味があるかもしれない。
手先の器用な技術を評価してもらえば、もっと親しくなれる可能性もある。
それなら、無駄に鍛えた僕の得意分野を見せてやろう。
細かい物作りもできる子供をアピールして、尊敬の眼差しを抱かせるんだ。
好感度を上げて交流を深めることで、人族の信頼を勝ち取っていく。
オッサンの好感度を上げるなんて不本意なことだけど、フィオナさんのためにやるしかない。
結果的にフィオナさんの好感度を上げることになるから、僕はやる気に満ち溢れているよ。
熱心に餃子を作っているフィオナさんの隣に座り、唐突にトリュフを作っていく。
騒ぎ疲れたエステルさんと、追加の餃子が食べられないとわかったスズが昼寝を始めたけど、今はどうでもいい。
ゆっくりと休んで、僕とフィオナさんの邪魔をしないでくれ。
フェンネル王国の未来は、餃子とトリュフにかかっているんだ!
久しぶりにトリュフを作ることもあって、うまく形を成型することができない。
慣れてくれば大丈夫だから、今は焦らずに作っていこう。
この世界には存在しないであろう、可愛い動物の形をしたトリュフをな!
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