第188話:話し合い

 僕の部屋に集まったスズ、リーンベルさん、フィオナさんに向けて、アングレカムでの情報を共有した。

 ハイエルフだと知っている3人には、今回のことを知っておいてもらった方がいいと思ったから。


「納得した、神々しい魔物が人型になった時は驚いたから」


 そうだよね、あの時の精霊獣チョロチョロはプリンに夢中で話を聞いてなかったもんね。


「じゃあ、話題の古代竜は悪い魔物じゃないのね。精霊獣さんと一緒で、暴れすぎて療養中なのかなー」


「具体的なことはわかりませんが、このチャンスを逃したら接触は難しいかと。グアナコのギルドマスターも初めて見ると言っていましたし、偶然にも魔力を感知できる人がいますから」


 あのブーメランパンツの男を思いだしたくはない。

 温泉を進めてくれて感謝してるけど、関わり合いたいとは思わないんだ。


「それで、家に帝国のお馬さんを連れてきたのですね。彼女がエルフの調査隊にいるのも、その能力と戦闘力を買われたからでしょう。手綱を引けている間はいいですが、油断できる人ではありません」


 フィオナさん、エステルさんのことを『お馬さん』と呼ぶのはやめてください。

 なんか……響きがエッチですよ。


「危ないのは事実だと思いますが、今回は彼女に頼るしか方法はありません。エルフや魔物のことになると暴走する傾向がありますけど、正義感のある人ですからね。敵対する理由がない限り、古代竜の散策中に裏切ることはないと思いますよ」


 古代竜を見付けた時は暴れそうですけど。


「私もタツヤに同意する。帝国の理念に反する理由がない限り、裏切ることはないと思う。シロップもいれば、もしものことがあっても安全」


「あっ、それなんだけど、不死鳥フェニックスにも手伝ってもらうのはどうかな? ギルマスの許可は下りたんだけど、エステルさん対策を万全にしておきたいから」


 スズとエステルさんが戦った時、クッキーを食べて魔法攻撃力を高めていた。

 膝から崩れ落ちるほどのフルパワーをススが出して、ようやくエステルさんに勝てただけ。

 翌日はケロッとするほど回復をしてことを考えれば、並外れた防御力と生命力を持っているはず。


 常時料理を食べ続けることはできないし、野営もするなら人数は多い方がいい。


「おすすめはしない。リリアは帝国が嫌い。衝突した時、本気の殺し合いに発展するかもしれない」


「あぁ……リリアさんって、そこまで帝国が嫌いなんだ。目付きは鋭いけど、優しそうな印象の方が強いんだけど」


「周りをよく見るタイプで、魔法の才能は際立つ。過去に帝国と大きな問題があったと思う。詳しく話すようなタイプじゃないから、詳しくはわからない」


 確かにリリアさんは口数が極端に少ないからな。

 クッキーでご機嫌を取りながら、エステルさんと離して過ごせば問題はないだろう。


不死鳥フェニックスと共に行くべきでしょう。ハイエルフが関わる以上、私も行きたいと思います」


「「「え?!」」」


 3人で目を丸くして驚く中、フィオナさんは当然のような顔で僕を見つめてきた。


「精霊獣様がおっしゃった、今回のハイエルフはおかしい、というのが気になります。フェンネル王国の家系を考えれば、本来は私がハイエルフになる予定だったのかもしれません。太古から生き続ける古代竜様なら、きっと何か気付くはずです」


 僕が何らかの影響で異世界に来たため、フィオナさんはハイエルフになる資格を失ってしまったのかな。

 それとも、フィオナさんがハイエルフになれなかったから、僕が異世界にやって来たのか……。


 どちらにしても、フィオナさんと一緒に行くべきだ。


 最初にダークエルフが襲撃してきたのも、ハイエルフの血統を消滅させようとしていたわけだし。

 フィオナさんが神獣から力をもらっていることも考えれば、無関係な存在と言い切れない。


 そんな真面目な話をしている中で、フィオナさんは急にモジモジし始めた。

 両手を頬に当てて、恥ずかしそうに顔を赤く染めていく。


「そ、それに、これ以上タツヤさんと離れることはできません。また明日から離れるとなれば、私は寂しくて死んでしまいます。せめて、1か月は近くで充電しないと胸が張り裂けてしまいそうで……」


 もうフィオナさんルートがなくなることはないだろう。

 度が過ぎる変態だけど、僕にとってはありがたいことだし、正直嬉しい。


 誰よりも気品溢れる由緒正しい王女なのに、誰よりも大胆なアプローチで攻めてくる。

 自分の武器であるおっぱいを押し付けてくるだけじゃなく、常に人肌恋しい寂しがり屋さん。

 近くで話しているけど、きっと今も膝の上に座らせてハグしたいと思っているはずだ。


 少なくとも、僕はそうされたいと思っている!

 お互いにリーンベルさんが怒ると思っているから、やろうと思わないだけであって。


「フィオナの言うことも一理ある。一緒に接触を試みた方がいい」


 無事にスズの許可が下りれば、決まったも当然だよ。

 護衛は大変になってしまうけど、これで僕の快適な馬車ライフは約束された。


 シロップさんのクンカクンカも捨てがたいけど、相思相愛の愛情表現には敵わないからね。

 おそらく、途中でクンカクンカタイムが入るとは思いますが。


「では、私も同行するということで決まりですね。念のため、お父様に報告しますので、2日程時間をください。橋が壊れてからずいぶん経ちますので、古代竜様も2日で逃げることはないと思いますから」


「わかりました。では、そういった形で不死鳥フェニックスにも声をかけたいと思います」


 うまく話がまとまって、終わりを告げようと思った、その時だ。

 真っ直ぐビシッと手を挙げるリーンベルさんの姿が目に映る。


「私だけ、置いてけぼりです」


 いや、僕に言われても困りますよ。

 リーンベルさんと一緒にいたい気持ちはありますけど、受付嬢を連れて行くような場所ではありませんからね。


「お姉ちゃん、無理」


 妹であるスズは、恐ろしいほどストレートに言葉で殴りにいった。

 バッサリと斬り捨てるという言葉がピッタリだろう。


 そして、リーンベルさんはわかっている。

 スズに言葉で勝てないということを。


 だから、なぜかフィオナさんに助けを求めるように、ジーっと見つめている。


「え、えっと、こればかりは仕方がないかと。私も一応王女ですので、無理を言うつもりはありませんでした。ハイエルフのことになったので、ついていこうかと思いまして……」


「フィオちゃん、私、置いてけぼり」


 謎のリーンベルさんプレッシャーは強い。

 王女であるフィオナさんがしゅーんとなり、一般市民の受付嬢であるリーンベルさんがゴゴゴッと黒い波動を出して迫っていくような形。


 そう、あれはリーンベルさんが怒る時に現れる、謎の黒いオーラである。

 誰も逆らうことができない、堕天使リーンベルさんが降臨してしまった。


「え、えーっと、はい、ゆ、譲ります。タツヤさんの添い寝は、譲ります……から……」


 そうすべきですよね、という顔で頷くリーンベルさんを見て、僕は悟った。


 きっと僕が帰って来た時の添い寝の順番を決めていたんだろう。

 普通だったらリーンベルさんも口を出さなかったけど、同行するなら譲れよっていう思いが強くなったんだ。

 フィオナさんは前面に寂しいオーラを出してきても、リーンベルさんは出さないからね。


 嫉妬チェックは厳しいけど。


 黒い波動にビビった2人がササッと部屋を出ていくと、にこやかなリーンベルさんと2人きりになった。

 天使と2人きりの部屋で、少し重い愛をぶつけられたいま、僕の期待値どんどんと高まっていく。


「ねえ、タツヤくんはすぐ気絶しちゃうでしょ? だから、今日は朝まで向かい合って話そうと思うの」


 妙に納得してしまった僕は、リーンベルさんの子供っぽい提案をすぐに受け入れた。

 甘々な展開よりも、一緒に過ごす時間を大切にしたい、そんなリーンベルさんの思いが嬉しかったから。


「そういえば、告白した返事をまだもらってなかったよね。お姉ちゃんの目を見て、ちゃんと『好き』って言ってみよっか」


 あっ、これは弄ばれるパターンのやつだ。

 意外にリーンベルさんって子供っぽい遊びが好きなんだよね。


 思わず笑みがこぼれて、クスッと笑ってしまう。


「ふ~ん、笑うってことは言える自信があるんだね。じゃあ、お姉ちゃんと手を繋いだまま言ってみよっか」


「え?! いや、それは難易度が高すぎます! 最初の方でも難易度が高いので、もう少しレベルを落としていただけると」


「だーめ、もう決まったことですー。ちゃんと言わないと、今夜は眠れないぞ~。まずは練習として、私の口元を見て言ってみよっか」


 当然のように、ヘタレの僕はリーンベルさんの目を見て『好き』と言えることはない。


 でも期待に応えるべく頑張ると、もう少しで言える、というところまでやって来る。

 が、リーンベルさんが顔を近付けて僕を緊張させてくるため、振り出しへ戻ってしまう。


「ほーらー、早くしないと朝日が昇って来ちゃうぞー。それに、もっとしっかり手も握らないとダメでしょ。お姉ちゃんに愛が伝わってこないんだけどなー」

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