第186話:愛のメッセージ
フィオナさんと一緒に愛の共同作業をして、ひたすら夜ごはんまで料理を作り続けた。
日が落ちて不死鳥とショコラの2人が帰って来ると、フィオナさんはパッと離れてしまったけど。
きっと我を忘れるほど僕に依存していたことに気付き、恥ずかしくなってしまったんだろう。
そして、フィオナさんのチェックが外れた今、僕はフィオナさんのために料理の下準備をしていく。
愛のメッセージでリクエストされた料理を作るために。
フィオナさんはずっと、2つのおっぱいを押し付けてきた。
優しいハグと見せかけて、スーハースーハーを合わせてネットリと絡み合うような甘い展開も演出。
へそをさすって僕をへっぴり腰にさせ、自らの膝に座らせた計画的な作戦も忘れてはならない。
そして、興奮した僕の思考回路を停止させて、固まらせたことが大切だ。
もうここまで言えば、誰だって理解できるだろう。
おっぱいから生まれた乳製品のチーズに熱を通して、ネットリとした濃厚な味が食べたい、と。
興奮した僕を固まらせたことがポイントだったね。
フィオナさんは冷えて固まったチーズは苦手だけど、熱を通したチーズは好きなタイプなんだよ。
だから、必要以上にベタベタと甘い展開に持ち込んで来たっていうこと。
でも、時間も人数も多いし、凝ったチーズ料理は作れない。
元々チーズ料理は簡単なものが多いし、手抜きでもおいしいのが魅力的な食材。
初めて食べるだろうから、深く気にしないでもいいかな。
フィオナさん、楽しみにしていてくださいね。
日が暮れたリーンベルさんをスズが迎えに行くと、招かれていたマールさんとアカネさんもやってきた。
小さいパーティのような人数だったので、今夜は庭に2つのテーブルを持ち込んで、食事をすることにした。
1つのテーブルは、食い散らかして騒がしい
もう1つのテーブルは、お淑やかなフィオナさんと受付嬢の3人組、そしてリリアさんに嫌われているエステルさんに座ってもらおう。
普段ならどんどん料理を置いて餌付けをしていくけど、今日は違う。
どこにも料理を置かず、魔石オーブンを取り出していく。
そして、予め用意していたパンを中へ入れた。
「あれ? タツヤくん。今からパンを焼いていくの?」
お腹を空かせたリーンベルさんが聞いてしまうのも当然のこと。
誰よりも僕の料理を食べたリーンベルさんは、こんな不自然な展開にすぐ疑問を抱くはずだから。
でも、答えなくてもわかるはずだ。
オーブンで焼かれているのは、ただのパンじゃない。
食パンにケチャップを塗り、チーズと輪切りにしたピーマンとハムを乗せた『ピザ風トースト』なのだから。
クンクン クンクン
嗅覚の鋭いシロップさんは、早くも気付き始めたんだろう。
バジル村で手に入れたチーズが焼かれることで、辺り一面に破滅的な香りを拡散する化け物のようなパンへ生まれ変わるということに。
いち早く香りを感じたことで、椅子から立ち上がったシロップさんはオーブンに貼り付くように接近した。
「これは……これはダメなやつだよ~~~!!」
わかるよ、シロップさん。
チーズ屋さんで香りを嫌っていたのに、まさか焼くだけで良い香りになるなんて思わないからね。
目をキラキラとさせて涎を垂らす姿は、若干スズとキャラが被ってますけど。
同じニンジン仲間なので、リアクションが被るのも仕方ありませんね。
そんな興奮するシロップさんの異様な姿を、誰もが不思議そうな顔で眺めていた。
だが、もうそろそろ届くはずだ。
焼かれたチーズのアロマが!!
「どうしたんだよ、ただパンが焼かれてるだけだろ。俺は早くコロッケパンが食べたいぜ。スズから揚げ物料理だと聞かされて、極限まで腹を空かs……」
カイルさん、気付いてしまいましたか。
獣人であるシロップさんが早くもトリコになってしまった、チーズのアロマを。
おかしいと思わなかったんですか?
爆食を始めることがわかりきっているのに、すぐに食べられるように作り置きをせず、みんなの前で焼いていることに。
フィオナさんの届けてくれたメッセージを馬鹿正直に受けるだけでは、能がないただの変態男です。
香りという演出を加えることで、食欲をかき立てるのが焦らしプレイの極意ですよ。
全員がオーブンの前に張り込み始めたので、僕はそっと誰もいなくなったテーブルに近付いていく。
「私にはわかる! 焦らしプレイをする料理はおいしい!」
焼き鳥で学んだようだね、スズ。
「ちょっと待ってよ、この香りはなに? 見た目はおいしそうには見えないのに……」
リーンベルさん、残念ですよ。
あなたほど僕の料理を食べている方が仕掛けに気付かないなんて。
おそらくメッセージをくれたフィオナさんは気付いてしまうでしょうね。
一定の熱量を加えられることで、チーズの見た目が変化していくことに。
「あれ? 私の見間違いでしょうか? 少しずつ形が変わっていませんか? タツヤさんがオーブンに入れた時は、もっとしっかりとした形になっていたような……」
やはり気付いてしまったフィオナさんの言葉で、全員が静まり返ってしまう。
じっと観察するように見つめたまま、オーブンの中を見続けている。
「嘘……だろ、俺にもわかったぞ。確かに表面に乗っているチーズが広がるように伸びている! なんだこれは、今まで酒飲みの食いもんだと思っていたのに」
「わからない……なぜ固形物がトロトロに! 腐敗する大地を侵食し、全体を飲み込んでいく。汚染するように広がる姿に、空間まで支配する香り。熱が加わるだけで……Sランクにまで進化するとは」
もうそろそろ出来上がりそうですね。
こちらもテーブルに食事の準備ができたところですよ。
魔石コンロに鍋を置き、ドッサリとチーズを溶かした最強のお手軽料理。
絵力と濃厚な味を導き出す、『チーズフォンデュ』がね!
「チーズは以前にたくさん買いましたけど、今日は食べ過ぎに注意してくださいね。肉や野菜に合うと思いますが、コロッケには合わないと思いますよ」
全員が僕の言葉で振り向くと、テーブルの様子が一変していることに驚いた。
真ん中にチーズの入った鍋が置いてあり、周りには様々な食材が添えられている。
コロッケ、ハンバーグ、野菜、ウィンナー、パン……。
全員がオーブンから離れて席に着いても、誰も食事を始めることができなかった。
新しいパターンに戸惑うばかりで、どうしていいのかわからないみたいだ。
そこへ焼き上がったピザ風トーストを1番最初にスズへ渡し、「むっほーーーー!」という叫び声を上げさせて、食事会の始まりを告げる。
まずは、焼き上がったピザ風トーストを全員に手渡していく。
熱々のチーズがビヨーンと伸びるため、早くも
スズとカイルさんを中心に子供みたいな盛り上がりを見せ、楽しそうに食べている。
一方、お淑やかな受付嬢テーブルは全員が女子のため、安上がりなピザ風トーストが高級品に見えるような錯覚に陥った。
誰もが喜んで食べ、非常に良い食事の光景。
その中でも、メッセージを伝えてくれたフィオナさんの頬は緩みきっている。
やはりチーズのような濃厚な味わいを求めていたんだろう。
僕は今夜、ハグの続きを求めていますが。
すると、両想いのせいで僕の思いが伝わってしまったのかもしれない。
急にフィオナさんは立ち上がり、僕に向かって走り出してきた。
スピードを緩めることなく、飛びかかるように抱きついてくる。
ドサッ
女性が飛びついて来たら、受け止めるのがイケメンという奴だろう。
僕レベルのヘタレになってくると、一切抵抗することなく押し倒されるのがデフォルト。
きっとフィオナさんは地面に押し倒しておっぱいを押し付けることで、濃厚なチーズがおいしかったことを伝えているんだろう。
想像よりもおいしかったため、思わず抱きついてしまったんだ。
「好きです! 私、大好きです!」
突然王女に抱きつかれ、ストレートに愛の告白をされた。
こういう展開に弱い僕は即効で心停止をしてしまう。
奇跡的にドキドキするという感情が生まれないため、彼女の背中に手を回すことにした。
押し倒された奴とは思えない、イケメンのような行動である。
当然、フィオナさんが好きだと言ったのは、チーズのことだとわかっている。
僕のことを好きだというのも理解しているけど、ストレートに言われるのは受ける衝撃が違うんだ。
バレンタインに10円程度の小さいチョコをもらうのか、手作りしてあるチョコをもらうのか、というぐらいの違いがある。
まぁ、僕はチョコをもらった経験なんて1度もないけどね。
別に悲しくないよ、今が幸せの絶頂期だから。
食事中にもっとイチャイチャしたいと思いつつも、フィオナさんはすぐに立ち上がってしまう。
心停止した僕は起こしてもらうと、フィオナさんと一緒に受付嬢のテーブルへ向かっていく。
チーズフォンデュの始まりを告げるために。
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