第185話:寂しがりなフィオナさん
久しぶりに我が家へ戻ってくると、エステルさんは驚いていた。
10歳の冒険者が持つような家じゃないし、フィオナさんが庭に花を植えているおかげで随分と綺麗な家になったから。
莫大な資産を持つ僕にとっては相応しい屋敷だと思うけど、家にメイドさんがいないことだけは気にしている。
王女なのに、フィオナさんが全てこなしてしまうんだもん。
そういう世話好きなところが素敵だと思いますし、早く家へ帰りたい理由の1つでもありますが。
フィオナさんの熱烈なお出迎えを期待して、家の中に入っていく。
すると、2階から誰かが降りてくる音が聞こえてきた。
「シロップ、忘れ物を取りに来たのですか? あれだけ財布を忘れないようにと、朝ごはんの時に……」
階段を降りてきたフィオナさんは、僕達を見て固まってしまう。
家の中で油断していたこともあって、フィオナさんは変装用のメガネを付けていない。
そんなところを他国の王女に見られてしまえば、完全に非常事態なわけであって……。
「なに?! 貴様は共に住む女性までいたのか! 旅館で色々な女と泊まっていたが、子供なのにモテる奴もいるものだな」
お仕置きがなくなったとわかった瞬間、随分と態度が急変しましたね。
他国の王女に気付かないことがおかしいと思いますけど、きっと戦闘できる人のデータしか入っていないんだろう。
スズのことは詳しく知っていたから。
王女との婚約がバレなくてよかったと安堵していると、フィオナさんが猛スピードで近付いてきた。
エステルさんに「お馬さんはお待ちください!」と強めの声で言うと、腕をガッと引っ張り奥へ連れていかれてしまう。
部屋の中に入ると、怒りを表すようにバンッ! と扉を閉められる。
そして、しゃがみこんだフィオナさんは顔を近付け、ドンッ! と壁ドンをしてきた。
「色々な女性と旅館に泊まっていた、というのはどういう意味でしょうか? 浮気であれば、お尻ぺんぺんが必要ですね」
こ、これはまずい。
完全に浮気をしたと思い込み、フィオナさんはブチギレている。
まさかリーンベルさんよりも遥かに怒ってしまうなんて。
いや、まぁ、マールさんと浮気をしたのは事実なんですけど。
あと、お尻ぺんぺんは流行っているんですか?
もしやりたいのであれば、していただいても構いませんよ。
「ち、違いますよ。アングレカムで獣人のタマちゃんとクロちゃんに会って、マールさんとスズと僕の5人で一緒に泊まっただけです」
「なぜ別々の部屋に泊まらなかったのですか? 旅館には露天風呂も付いており、さぞかし楽しい夜だったでしょうね」
初日はマールさんと燃え上がるような夜でしたよ。
バスタオルのマールさんが攻めてくる夢のような展開でしたから。
他の日は人が増え続けて、イマイチな夜に変わりましたが。
「違いますって、フィオナさんの誤解ですよ。逆に聞きますけど、僕が女性と一緒に露天風呂に入れると思いますか? フィオナさんと婚約する時だって、スズを思うあまりに断ろうとした純粋な子供ですよ」
「では、なぜ帝国の第4王女と仲睦まじく帰宅しているのですか。私のような王女では物足らず、他国の王女まで手を出し、権力を使って様々な女性を周りに置いて、やらしいことでもしたいのかと。ま、まさか、タツヤさんが料理を会得したのは、女性の体の上に料理を並べたいという欲求のため……」
やめてください、いつから僕はそんな変態になったんですか。
王女らしからぬ妄想で、変な疑いをかけないでくださいよ。
いくら変態でも、フィオナさん達に引かれるような行動はとりませんから。
どちらかといえば、僕は自分を料理として差し出しt(自重
「フィオナさんって、普段はどういうことを考えているんですか? 僕はまだ子供なので、全然意味が理解できませんよ。古代竜のことで気になることがあったので、エステルさんに協力をお願いしただけです」
「古代竜が暴れるかもしれないこの時に、エステル第4王女に夜の協力をですか?! ベルちゃんや私の体では、もう物足りないと……」
どうして僕より変態発想から抜け出せないんだ、フィオナさんは。
そもそも、夜は手を繋いで一緒に寝ているだけじゃないですか!
早く妄想通りの展開に導いてくださいよ。
本当に、これだからヘタレ王女は困りますよ!
「充分過ぎるほど間に合ってますからね。本当にもう……、早くフィオナさんに会いたいと思って、急いで帰ってきた僕の胸の高鳴りを聞いてくださいよ。浮気するようなら、ここまで僕の心臓は早く動きませんから」
疑り深いフィオナさんは、僕の左胸に耳を当たるように抱き締めてきた。
当然、久しぶりにお会いしたフィオナさんとの甘々な展開を求める僕の体は、勝手に雄叫びをあげ始めている。
抱き締められたら、なおさらのこと。
ドドドドドドドドド ヒエーーー
これほどわかりやすい愛情表現は存在しないだろう。
両思いで婚約する相手が、再開しただけで心臓が雄叫びをあげるほど興奮をしているのだから。
そして、安心するように再度ギュッと抱き締めるフィオナさんが可愛くて、心臓はさらに暴走してしまう。
「すみません、また新しい女の子を連れてきたのかと思いまして。カエルの件もあって、タツヤさんと一緒にいる時間が少なかったので、少々焦ってしまいました。タツヤさんのベッドに潜り込んでニオイを嗅ぎすぎたせいで、布団のニオイが自分のニオイになってからは理性がうまくコントロールできなくて」
それはまた随分と変態的な行動を取りましたね。
普通は本人に言わない方がいい内容ですが、僕はそういうことをされると燃えるタイプです。
下着のニオイを嗅がなければセーフですよ。
「気にしてませんから、大丈夫ですよ。エステルさんはちょっと訳ありで預かるだけです。少し気になることもあるので、また後でお話します。今は料理の準備をしないと、夜が大変なことになるので」
「そうですか……、わかりました。でも、もう少しだけこのままでいさせてください。本当に……タツヤさんを近くに感じるのは久しぶりですから。ずっとお会いしたいと、何度枕を濡らしてしまったことか」
本当にフィオナさんは寂しかったんだろう。
珍しく立場が逆転して頭を撫でてあげると、フィオナさんは甘えるような声も漏らし始めた。
世話好きなお姉ちゃんのリードしてくれるような声とは違う、初めて聞く甘えん坊な女の子の声。
元々寂しがり屋なこともあるけど、彼女もまだスズと同じ15歳。
王女でしっかりとしなければならいと思う反面、まだまだ脆い部分もあるんだろう。
婚約者として醤油戦士が守るべき、いや、支えるべきものがあるな。
- 甘い雰囲気が続くこと、10分 -
落ち着きを取り戻したフィオナさんが元気な笑顔を見せてくれると、僕の腰は砕け散ってしまった。
成長して大人の包容力を見せ付けたばかりなのに、いつもの姿に戻って情けない。
すっかり玄関で取り残されたエステルさんが客室に向かったのは、それからさらに10分後のことである。
腰砕けになった僕が可愛いと、フィオナさんが悶絶するイベントが起きて、誰も対応できなかったからね。
エステルさんを客室へ案内すると、夜ごはんのために僕は高速で料理を作り続けていく。
当然、寂しがりなフィオナさんが僕から離れることはない。
邪魔しないように優しくハグをして、背中におっぱいを押し付けてくる。
そして、僕の頭のニオイをスーハースーハーと嗅いで楽しんでいた。
シロップさんの専売特許、クンカクンカに代わるスーハースーハーが生まれた瞬間である。
変態エネルギーを充電するフィオナさんに対して、僕はフィオナさんの行動で変態エネルギーを生産していく。
互いに変態エネルギーを生み出し合うという発電所がフル稼働。
工場長である僕の心臓はてんやわんやと肋骨内を駆け巡り、過労死しないか心配だ。
だが、家にいる間は心臓に休暇は存在しない。
死なない程度にフル稼働してくれ。
意味不明な速度で料理を作り続けても、フィオナさんは気にしない。
溺愛するあまり、僕が傍にいれば何でもいいような状態に陥っているんだ。
頭を頬ずりされるなら、変態エネルギーに変換して処理することが可能。
背中におっぱいを押し付けられれば、過剰な変態エネルギーが生まれて暴走するように料理をしてしまう。
そこにハグをする手でへそ周りを優しく撫でるように触られた時、僕の思考回路は停止する。
なかなか触られることがない刺激により、反射的にへっぴり腰になってしまう。
しかし、フィオナさんは後ろからハグしていることにより、僕のお尻がフィオナさんの膝にベストフィット。
固まる僕にフィオナさんが気付くまでは、変態という闇に引きずり込まれていく。
我を取り戻すようにフィオナさんが落ち着いても、僕から離れることはない。
刺激が強すぎたことを反省する程度で、常時背中におっぱいは押し付けられている。
いくら変態思考で寂しがりなフィオナさんでも、これは何かがおかしい。
長期間にわたって離れていた獣人国から帰って来た時、フィオナさんはここまで愛情表現を強くしてこなかった。
まだスズだって甘噛みはしてこないし、リーンベルさんも普通の対応だったのに、フィオナさんだけは異常である。
さすがに異世界でモテ男になってきた僕は、すぐに女心を察してしまうよ。
口に出しては言えないけど、天然男垂らしのマールさんで色々学んだからね。
そう、フィオナさんは僕を試しているんだ。
過度な愛情表現をすることで、心の中に閉まっているメッセージを伝えるために。
同じ王女であるエステルさんに強く反応したのも、メッセージに気付いて欲しかったからだろう。
大丈夫だよ、フィオナさん。
僕はもうそのメッセージを受け取ったからね。
今日の夜はみんなでおいしいごはんを食べよう。
デザートは、もちろん僕だと思うけど。
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