第165話:口封じ

 街へ戻ると、先に旅館へ行ってマールさんを寝かせた。


 従業員さんも突然気絶した人が運ばれてきたのに、少し驚いた程度ですぐに対応してくれた。

 昨日風呂場で僕が意識を失ったことも影響しているんだろう。


 今度は相方が倒れたんだな、程度に思ったに違いない。


 物理的に攻撃を受けたわけではないので、タマちゃんとクロちゃんに看病を任せる。

 精霊獣との約束を果たすために、ギルドへ交渉するのは冒険者である僕の役目だから。


 とはいえ、なかなか難しい案件だと思うけど。


 タマちゃんとクロちゃんの二人部屋を追加でお願いして、冒険者ギルドへ向かった。

 冒険者ギルドへ到着すると、早速アズキさんの元へ向かう。


「アズキさん、変なことを聞いてもいいですか? ギルドか領主様で、スノーウルフの森の調査をしているか知りたいんですけど」


「街の外を調査するなら、領主様でも冒険者ギルドに護衛の依頼をするはずよ。この辺りの魔物は強いし、スノーウルフの森であればなおさらだわ。今はギルドで調査依頼を出してないはずだけど、一応確認してくるからちょっと待っててね」


 立ち上がったアズキさんは、ギルドの奥へと歩いていった。


 アカネさんとアズキさんは何から何までそっくりだから、勝手に親近感が沸いてくる。

 知らない場所で頼れる人がいるのは大きいことだ。

 砂漠ではマールさんがいてくれたし、雪国ではアズキさんがいてくれる。


 今回はタマちゃんとクロちゃんが護衛してくれるし、なんだかんだで恵まれてるよなー。


 太ももとお尻に魅力を詰め込んだ、タマちゃんとクロちゃんの子供っぽい双子姉妹。

 おっぱいに魅力詰め込みすぎた、アズキさんとアカネさんのたわわな大人っぽい双子姉妹。


 何でこんなにも双子姉妹って萌えるんだろうか。

 人類が悩み続けても一生わからない難しい問題だと思う。


 双子の神秘な魅力にぶち当たっていると、アズキさんが戻ってきてくれた。

 歩く度に揺れるたわわなおっぱいで誘惑しながら。


「やっぱりそんな依頼はなかったわ。そもそも、この時期にスノーウルフの森へ行こうとする人はいないわよ。彼女のためにスノーフラワーを採りに行くような人じゃない限りね」


 うっ、大人の女性にからかわれるというご褒美に戸惑いを隠せない。

 クスクスと笑う仕草と共に、おっぱいを小刻みに揺らしてくるという二段攻撃。


 これが……大人の恋愛テクニックか。

 今すぐにでも弄んでくれそうで、変な期待が高まってくるよ。

 この地域の寒さを乗り越えるため、お尻が熱くなるくらいまでパンパンッと叩いてもらいたい。


「アカネさんには内緒でお願いします。ちょっと訳ありなんで」


「えー、なになに? 同じ受付嬢のリーンベルちゃんには知られたくないのかなー。百合っ子のマールちゃんとの浮気がバレたら大変だもんね。うんうん、お姉さんは気持ちがわかるよ」


 おい、アカネさん、情報が筒抜け状態じゃないか。

 双子の姉とはいえ、何でも話し過ぎだろう。

 当然のようにマールさんが百合属性なことまで気付いているし。


 大人のお姉さんに全て知られている感じ、嫌いじゃないけどね。

 アズキさんのパシりになって、コンビニにメロンパンを買いに行きたいくらいだよ。

 あっ、そうだ。餌付けしよう。


 アイテムボックスに入れておいた、ハンバーガーを入れたお弁当の箱とクッキーが入った箱を差し出す。


「アカネさんから聞いてると思いますけど、よ、よければどうぞ。もう少ししたら、この地域にも違う料理が普及する予定ですけど」


 笑顔で受け取ったアズキさんは、中身を見ることもなく、そっと机の引き出しに隠した。

 もう中身が何かわかっているんだろう。

 もしかしたら、最初からこれが目的だったのかもしれない。


 いいなー、大人の女性の手の上で転がるのって。


「ありがたく受け取っておくわ。アカネから聞いてて、ずっと気になっていたのよ。でも、お姉さんに口封じは効かないけどね。お姉さんの口を封じたければ……キス、じゃなきゃダメよ」


 物理的な口の封鎖をご所望でございますか!!

 あぁっ、やめてください、ちょこっと舌を出して誘惑するのはご遠慮願います。

 冒険者ギルドで夜の冒険の依頼は受け付けておりません。


 Sランク依頼の口封じは、キスをした瞬間に死んでしまいます!


「ふふふ、ごめんね、ちょっとからかいすぎたわ。でも、いくら子供でも弱すぎるわよ。これくらいでハァハァしてたら、マールちゃんにもリーンベルちゃんにも逃げられちゃうぞー」


 なんて恐ろしいお姉さまなんだ。


 大きなおっぱいを見せながら舌を出してきた。

 大きなおっぱいを見せながらキスをアピールしてきた。

 挙句の果てには、大きなおっぱいを見せ付けてくるんだぞ。


 息を荒げずに過ごせるような男はいないだろう。

 マラソンを走り抜いた後に、息を切らしちゃダメって言ってるようなもんだ。


 ……もしかして、双子だからアカネさんもこういうことをやってくれるのかな。

 いつもは後輩の2人に囲まれているから、真面目な印象しかないけど。


 フリージアへ戻ったら、もう少しおっぱいに恐れずにコミュニケーションを取ってみようと思う。


「ま、まだ子供なんで仕方ないですよ。まだ子供なんで」


「そういうことにしておくわ。それで、スノーウルフの森で変な人がいたのかしら? 少なくとも、今の時期にスノーウルフの森へ入れる人をギルドは把握していないわね」


 こんなことを突然聞いたら、変に思われるのが普通だろう。

 でも、精霊獣や精霊のことを話すわけにはいかない。


「えっと、森の木が不自然に切られてたり、焼かれた跡が残ったりしてたんです。雪が積もるエリアだし、魔物の仕業にしてはおかしいと思いまして」


「うーん、確かにそうね。この地域の魔物は水魔法を使うし、木を壊すならスノーベアの可能性もあるけど、切られてるなら人為的ね。今の時期のスノーウルフを刺激したら、街が大変なことになるかもしれないわ。さすがにこれはギルドマスター案件ね、ちょっと来てもらってもいい?」


 あまりややこしくしたくないんだけど、仕方ないか。

 高ランク冒険者を集めてスノーウルフの森に行けば、もっとややこしくなる。

 ギルドから正式な調査依頼を受けた方が無難だな。


 Cランク冒険者にどこまで任せてもらえるかわからないけど、最悪は国王やイリスさんを引き合いに出せばうまく交渉できるだろう。


 アズキさんに案内されて、ギルドの2階へ上っていく。

 2階にあるギルドマスターの部屋を、アズキさんがノックをした。


 コンコンッ


「受付のアズキです。少々お時間よろしいでしょうか?」


「うむ、入れ」


 ん? なんか聞いたことあるような野太いオッサンの声だな。

 この街に知り合いなんていないはずなのに。


 疑問に思いながらもアズキさんと一緒に入ると、見知らぬ白髪のオッサンが仕事をしていた。

 アズキさんに誘導されてソファに座ると、アズキさんは白髪のオッサンに耳打ちをして経緯を話し始める。



 その時、僕は気付いた。



 白髪のオッサンにおっぱいが当たり続けていることを。

 しかも、アズキさんの囁き声で攻められるなんて最高な仕事だ。

 無駄にギルドマスターという職業に憧れ始めてきた。


「そうか、わかった。お前はもう下がって、受付に戻れ」


「わかりました」


 自分だけおっぱいと囁き声を楽しんだからって、アズキさんを下がらせないでくれよ。

 男同士の話し合いは嫌だし、一緒にいてもらった方がいいと思うんだ。

 綺麗な女性がいるだけでも、自然と話がいい方向に進む傾向があると思う。


 僕の思いも虚しく、アズキさんはスタスタと歩いてギルドマスターの部屋を後にした。

 ソファでオッサンと向き合うという、地獄イベントの始まりである。


「見た目以上に頭が回るもんだな。さすがはハイエルフといったところか」


 ……なぜハイエルフであることを見抜くことができたんだ?


 普通の人には見た目でわかることはないし、ましてやハイエルフという存在を知る者はいない。

 それをパッと見ただけで判断してしまう者。


 そうだ、やっぱりこの野太い声は聞き覚えがある。

 スノーウルフの森でティモティモを見せ付け、僕に森の依頼を出してきた張本人。


「人語が話せることを不思議に思っていましたけど、本当は人だったんですか?」


「ハッハッハ、そんなわけもあるまい。この土地のギルドマスターは、我が分身して変化した者を代々任命させておる。精霊の森を守るのは我の使命だからな」


「じゃあ、やっぱりスノーウルフキングさんなんですね」


「そうだ、人の時はうまくまぎれるように名も変えておる。今度からは、チョロチョロと呼んでくれ」


 まぎれるの下手くそだな!

 うまいこと人に変化して流暢に話せるのに、ネーミングセンスは魔物レベルか!

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