第141話:醤油戦士をおすすめしたい

 街の中心にある冒険者ギルドという名の巨大なドームに入っていく。


 出入りしている冒険者達はニヤニヤしていて、圧倒的に男だらけ。

 中には獣人やドワーフの姿も見えるけど、目を細めてスケベそうな顔をしていた。

 きっと人族が大好きな変態達だろう。


 早くもムスッとした顔のマールさんが、繋いでいる手にギュッと力を入れてくる。


 マールさんが女の子に走る理由は、こういう男に嫌気を刺したからかもしれない。

 同じようにマールさんもチラチラと水着の女の子をチェックしてるから、人のこと言えないと思うんだけど。

 でも、男どもの視線に相当イライラしてるみたいだし、気を付けた方がいいだろう。


 ギルドの中は本部というだけあって、ギルド職員のサービスレベルが高すぎる。

 受付だけに水着女性がいるわけじゃなくて、所々に立っているんだ。


 積極的に冒険者へ声をかけて案内したり、

 おすすめの依頼を見繕って提示してたり、

 フリージアと同じように受付処理をしたり。


 冒険者達の出入りが頻繁なのは、ギルド職員が依頼を受けるように誘導して、依頼へ向かわせているからだな。

 水着美女に依頼を選んでもらって見送られれば、当然ニヤニヤして依頼へ向かうことになる。

 ギルドの滞在時間も少なくなるし、褒めてもらおうと頑張って依頼に励むだろう。


 フリージアでリーンベルさんにすべて任せていた僕が言うんだから、間違いないよ。


 なかでも一際目立っているのは、ソファに座っている3人組の男達。

 1人ずつ水着美女に挟まれながら、ワインを片手に持ってエロそうな目付きをしていた。

 女の子にどう思われるのか全く考えない程、胸元をガン見である。


 水着美女達もそれがわかっていて、わざと胸を寄せて上目遣いで媚びている。

 甘えた声で巨大ワーム討伐をお願いし、ボディタッチをするサービス付き。


 冒険者ランクが高くなると、あんなことまでしてもらえるのか。

 こっちなんて緊急依頼を持ってくるのはムキムキマッチョだぞ。

 こんなのただの大人のお店じゃないか、行ったことないけど。


 良い年した男が「俺のワームとどっちが大きいと思う?」なんて聞いてるんじゃねえよ。

 もし本当にワームよりも大きかったら、お前は魔物に分類されるぞ。

 世界初のワーム人間として冒険者ギルドから討伐対象に選ばれ、同業者のオッサンに襲われるからな。


 こ、これは嫉妬じゃないぞ!

 羨ましくなんて全然ないんだからッ!!


 マールさんにボディタッチされたいと思いながら、一緒に奥の解体場へ歩いていく。



 解体場の扉を開けると、ドームの中心に出るようになっていた。

 屋根はなくて日差しが差しているから、ドーナツのようなドームの形になっているんだろう。


 当然のように、解体する人も水着の女性。

 それぞれブースでエリアが分けられ、解体する範囲が決まっているらしい。

 列を作って並んでいる場所もあれば、1対1で接客しているところもある。


 1人だけでいいから、フリージアで解体業務をやってほしい。

 頭から蒸気を発する変態解体屋は、本部に転勤してほしいんだ。


 キョロキョロと辺りを見渡すマールさんは、「え?!」と驚くような声を上げる。

 それと同時に、ポニーテールをした女の子へ向かって走り出す。

 手を繋いでる僕は引っ張られるため、急いで足を動かした。


 視界にマールさんの後ろ姿が映し出され、ビキニ越しに見るお尻が堪らない。

 少し小さめのビキニがお尻をキュッと引き締め、ビキニのエンドラインがお尻に食い込むようになっていた。


 もしかして、マールさんは誘っているんだろうか。


 走って近付いていく僕達に気付いた女の子は、一瞬戸惑いをみせた後「マールー!」と大きく手を振って反応した。

 マールさんも大きく手を振って「ティア!」と、応える。

 距離を縮めたマールさんは僕の手を放し、そのままティアさんに抱きつく。


 可能ならば間に挟まれたい。


 再会のハグで喜びを分かち合うと、お互いに向かい合って手を握り合った。

 街に入って初めてマールさんが笑顔になった気がするよ。


 なお、マールさんのチェックが外れた今、ティアさんの水着姿を脳内メモリーに全力で保存する。

 胸もスズより大きく、フリルの水着が可愛くて仕方がない。

 顔はマールさんと同じくらい幼いという、ロリ巨乳タイプだ。


「どうしてティアが解体屋さんになってるの? 実家のパン屋さんで働くって言ってたよね」


 全然違う職業だな。

 驚くのも無理はないよ。


「えへへ、実は昔から解体屋さんに憧れてたの。反対するお父さんをお母さんが説得してくれてね。マールが旅立ってすぐに就職したんだー」


「全然知らなかったからビックリしたよ。相変わらずこのギルドは居心地悪いから、ティアがいてくれて安心だなー。解体エリアは激戦区だから、ボクでもドキドキする人が多いし」


 激戦区というのは、人気がある仕事って意味だろう。

 冒険者ギルドの本部があるぐらいだから、解体屋も華やかな仕事として捉えているのかもしれない。


 狩ってきた魔物をうまく処理する解体屋に頼めば、高く売れて利益に繋がる。

 通い続ければお近付きになれる可能性もあるし、解体している間は時間を独り占め。

 水着美女と楽しいひと時を過ごすために、また依頼も頑張れるだろう。


 お淑やかなお姉さんもいれば、ギャルっぽい女性もいる。

 列を作っていたブースは豪快な姉御肌を持つお姉さんだ。


「そうなんだよね、私もここまで激戦区だと思わなくて。魅力的な先輩に囲まれちゃって、完全に埋もれてるんだよね」


 大きな溜息を付いて見た先には、姉御肌の列が並んでいるブースだった。

 汗を流しながらサソリを解体する姿を、ティアさんは羨ましそうな顔で見ている。


 他のブースを眺めてみても、全体的に解体屋のお姉さん達は大人っぽい顔立ちの人が多い。

 ティアさんのような幼顔は1人もいないから、胸はあったとしても、幼顔=子供で未熟と判断されているのかもしれない。


「いつもレフィー先輩のおこぼれしか仕事がなくて。今月もこのままだと、来月でクビになっちゃうんだよね」


 姉御肌の女性、レフィーさん。

 何かの役に立つこともあるだろうから、名前だけはしっかり記憶した。


 いや、そんなことはどうでもいい。

 水着のロリ巨乳の少女が落ち込んでいるというのは、世界規模での非常事態に値する。


 憧れの職業に就いたにも関わらず、仕事がなくて辞めるのは悲しすぎる。

 仕事が嫌になったわけじゃないし、何かトラブルがあったわけでもない。

 意欲があるにもかかわらず、仕事をさせてもらえないなんて、そんな馬鹿な話があっていいのだろうか。


 自分の容姿にピッタリな可愛いフリル付きの水着を着て、魔物を持ってきてくれる冒険者を待ち続けているんだ。

 まるで白馬の王子様を待つお姫様のように。




 そんなティアさんには、醤油戦士をおすすめしたい。




 今ならAランクモンスターであるブリリアントバッファローを筆頭に、オーク集落時に討伐して未解体のオークジェネラルも多数存在。

 数の暴力である1,300匹を超えるカエルの軍勢は、暇つぶしと練習に最適。

 変態達も解体することができなかった災害級の魔物であるキマイラまで取り出せるという、唯一無二の存在。


 夢のために水着でおっぱいとお尻を曝け出してくれるティアさんを見捨てていいのか?

 そんなの男のやることじゃないよ。

 姉御肌に好かれて弄ばれたい気持ちはわかる。


 でも水着の解体屋さんという未来を背負った、ロリ巨乳のティアさんを放っておくなんて、冒険者達はどういうつもりなんだよ。

 男として情けないと思わないのか。

 人気メンバーを推すことも大事だけど、影で頑張り続けている女の子を推すことも大事なんだぞ。


 まったく、こんな当たり前のことに気付かないほど、姉御肌に夢中になってどうするんだ。

 貴様達は本当に高ランク冒険者なのか?


 当然のように全員がレアアイテムであるマジックバッグで持ち込みやがって。


 こっちはレアスキル、アイテムボックスだぞ。

 容量と鮮度とレア度が違うんだよ。

 頼りない冒険者達に、アイドルの推し方……もとい、ロリ巨乳の大切さを教えてやる。


 ふとマールさんの顔を確認すると、力強い目で僕を見ていた。

 どうやら意見が一致したようだ。

 マールさんの友達は、僕の友達みたいものだよね。


 仮にティアさんルートを辿ったとしても、マールさんのポイントが上がるというオプション付き。

 運気が戻って、チャンスが舞い降りてきたみたいだな!


 砂漠に住む魔物が多く持ち込まれている中、見せ付けるようにブリリアントバッファローを3体取り出す。

 ティアさんの「ひゃっ?!」という可愛い悲鳴で、周りの視線を奪い取ることに成功。

 周囲の冒険者がざわつくのも無理はない。


 1体運ばれるだけでも喜ばれるブリリアントバッファローが3体だ。

 狩ってきたばかりの状態で持ち込まれることなんて、まず存在しないだろう。


 思わず姉御肌のレフィーさんが解体途中のサソリを落とし、ポカンッとするのも当然のこと。

 売れない解体仲間のティアさんに向けて、音のならない拍手を送っている。


 きっと彼女はティアさんがうまくいくように応援していたに違いない。

 良い姉御だな、少しくらいお近付きになりたい。


 ドヤ顔をしてティアさんに向かい合うと、視界に僕よりもドヤ顔をするマールさんが映りこむ。


 冒険者達に貧乳のことでマウントを取られ続けたから、勝ち誇った思いでいっぱいなんだろう。

 ここは花を持たせてあげるのが男ってもんだ。

 女の価値は胸じゃないことを見せ付けてやるがいいよ。


 そして、ティアさんとのハグシーンをもう1度見せてくれ!!


 ドヤ顔のマールさんの背中を軽くポンポンと2回叩き、ゴーサインを送る。

 僕の意思が伝わったマールさんは、無駄に大きく咳払いをして、声を張り上げる準備を行う。


「砂漠の魔物ばかりだと飽きるし、芸がないよねー。ボクの地域にいるブリリアントバッファローを見ながら、カエルを解体するのはどう? 大人気のティアには申し訳ないけど、全部で1,000体超えちゃってるかなー。しばらく専属でお願いするよ」

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