第136話:想像していなかった悲劇
- カエルの後処理が終わった夜 -
「ごめんね、嫌いになったわけじゃないの。アイテムボックスにカエルがあると思うと、体が拒否しちゃうだけで……」
信じることができるだろうか。
冒険者と兵士達から英雄と称賛された男は、家に帰ってくると天使に完全拒否されているんだ。
片手を前に出して、近付かないでほしいオーラが全開。
もう片方の手はマールさんに抱きついているよ。
カエルが怖すぎるあまり、家までついてきてもらったらしい。
隣にいるマールさんに抱きついておっぱいを押し付ける姿は、最高に百合っぽい絵になる光景。
必死にニヤニヤしないように我慢するマールさんは、リーンベルさんの腰に手を回して抱き寄せていた。
リーンベルさんがカエルを思いだしてギュッと強く抱きしめ直す度、マールさんは感じるようにビクッと動いてしまう。
やはり彼女は本物のようだ。
そんな最高の百合展開の近くには、リーンベルさんの服をちょこっと摘まむ王女もいる。
彼女もまた、アイテムボックスに入っているカエルに怯える1人。
ベッドで僕の帰りを待っていたはずなのに、カエルがどこにあるのか聞いた瞬間に距離を取られたよ。
「わかります、体が勝手に動いて距離を取ってしまいますよね。本当は今すぐ一緒にお風呂へ入って、お尻の穴から頭皮まで洗って差し上げたい。可能ならば、その後のトイレから着替えまで全てをご奉仕させていただき、ありのままの姿を隅々までお触りしたいと……」
なぜそんなに変態思考なのに、まだキスもしてくれないんですか。
ベッドを共にしているんですから、チャンスなんていくらでもあるでしょう。
すぐに意識を飛ばす僕が悪いといったらそこまでですけど、もしかして、ヘタレなんですか?
キング・オブ・ヘタレの僕が言うのもおかしいですが、いい加減に襲ってくださいよ。
待ち続けるだけの男なんですから、好き勝手に弄んでください。
モジモジして恥ずかしそうにするフィオナさんと、カエルに警戒するリーンベルさん。
フィオナさんに好かれているところを、羨ましそうに見てくるマールさんは、意外に一途じゃないのかもしれない。
一応、フィオナさんは変装用の眼鏡を付けてるから、王女だとバレていないはず。
なぜバレていないのか不思議なんだけどね。
「君はベル先輩と付き合いながら、王女様と同じ名前で同じ体付きをした女性と婚約しているらしいね。ボクは信じられないよ。こんな可愛いベル先輩だけじゃ物足らないなんて。羨まs……ボクならベル先輩だけを選んだよ」
無理して嘘を言わなくていいんですよ。
マールさんは一途だと思ってましたけど、フィオナさんも恋愛対象として見てたんですね。
砂漠の国からフリージアへやって来たのは、フィオナさんが王女だったからかな。
普通は王女の体付きなんてハッキリ覚えていないから。
獣人国から帰って来たら怒っていたのは、リーンベルさんと付き合っていることがバレたからだろう。
リーンベルさんが自ら話したのかもしれないし、同じ家に住んでいるから発覚したのかもしれない。
いずれはバレることだったし、これは仕方ないと思う。
マールさんルートが無くなったことが悲しいだけで。
「ま、まぁリーンベルさんもフィオナさんも納得してくれてますから。とりあえず、明日の朝1番でギルドへ行って、カエルを処理してきますね」
「それがね……、カエルを処理できる人は砂漠の国へ行かないといないんだよね。砂漠の国出身の冒険者以外は討伐しないから、ギルドで解体処理もできないの。長年かけて増え続けたカエルのグループだけあって、かなり量も多いみたいだし」
苦笑いするリーンベルさんが言いたいことはわかるよ。
カエルを討伐してくれたことは嬉しいけど、早く砂漠に行って処理して来いってことだ。
調味料で戦闘の活躍をする度、恋愛運が下がっていく気がする。
サポート役や補助役に徹して付き人をしていた時は、もっと素敵な展開に溢れていたのに。
スズの付き人を始めてからは、シロップさん、フィオナさん、リーンベルさんと、次々にイベントが発生した。
ちょっと獣人国ででしゃばって戦ったら、みんな僕から離れていくんだ。
嫌われたわけじゃないはずなのに、どうしてこうもうまくいかないのか。
男からは褒められるけど、そっちの趣味はないんだよなー。
「わかりました、明日から砂漠の国へ行ってカエルを処理してきます。場所が分からないので、行き方だけ教えてもらってもいいですか?」
「ごめんね、なんか追い出すような感じになっちゃって。また明日ギルドでマールに教えてもらうといいかな。マールの故郷だもん、詳しく教えてあげてね」
遠回しに自分で教えるのを拒否しているような気がする。
わざわざ明日のギルドを指定したのも、今はマールさんから離れたくないからだろう。
フィオナさんも同じように怖がってるから、別にいいけどさ。
「は、はい! ベ、ベル先輩のお願いなら喜んで!!」
至近距離からのリーンベルさんの上目遣いという最強技に、マールさんは顔を真っ赤にして照れている。
普段からギルドで一緒に仕事をしているのに、マールさんも僕と同じで耐性がないようだ。
「ねぇ、マール。今日は泊っていかない? まだ怖いから、一緒に寝てほしいの。お風呂も一緒に入ってくれるなら、背中くらいは流してあげるよ」
「とまっ、と、と、とまと、お泊りとお風呂?! はだっ、裸のお付き合いをして、ベッドで、一緒のベッドで眠る……。せせ、せ、背中をベル先輩の手でお触りしていただっく、あっ、ありがたく、ボクは泊まります!」
人のことを言えないけど、すごい混乱の仕方だな。
1回だけ僕もリーンベルさんとお風呂に入ったことがあるけど、衝撃的なバスタオル姿に心停止したからね。
きっと女性同士のマールさんだったら、タオルで隠さずにフルオープンだろう。
背中を流し合いっこするなら、リーンベルさんの背中に触る必要だってあるんだ。
今のマールさんが鼻血を流さずにクリアできるか心配だよ。
僕と同じように、興奮して倒れる体質じゃないといいけど。
「マールは時々変に緊張しちゃうよね。私が先輩なのはわかるけど、緊張する必要なんてないんだけどなー。でも一緒にお風呂に入れば、もう少し距離が縮まるかもしれないね」
「はひーーーーん!!」
どうしてリーンベルさんも気付かないんだろうか。
明らかにあなたのことが好きすぎて興奮してるだけですよ。
鼻を大きく広げて、息が荒くなってますからね。
「あの~、私も一緒のお布団で寝てもいいですか?」
当然のようにフィオナさんもお願いするよね。
今夜は久しぶりに1人で寝ることになるのか。
せっかく家に帰ってきたのに、寂しいな。
「は、はい! 王女似の美女様ならボクはウエルカムです! べ、ベル先輩と、サ、サ、サンドウィッチありがとうございます!」
完全にアウトだろう。
やっぱりフィオナさんも狙ってるんじゃないか。
さっきのリーンベルさん一筋宣言はどこにいったんだ。
一向に気付かないリーンベルさんは「まだサンドウィッチは作ってないよー」と、呑気に笑っている。
後輩にロックオンされて、押し付けているおっぱいが狙われていると知らずに。
ここまで来ると、なぜマールさんはアカネさんに恋をしていないのか気になってくるよ。
妖艶な色っぽさを持つアカネさんの方が、女受けはいいと思うんだけど。
「よかったです。少し甘えるかもしれませんが、許してくださいね。カエルのことを考えた夜は、人肌が恋しくなってしまいますので」
「ぼ、ぼぼ、ぼ、ボクも甘えん坊です! は、は、肌を重ね合うと、あ、安心しますよね。太ももと太ももを挟み合うと、す、すご、すごく気持……落ち着くらしいですよ」
おい、完全に百合展開に持っていこうとしてるじゃないか。
それをする時は呼んでください、お願いします。
「じゃあ、今日はフィオちゃんと一緒にマールを抱き枕にして寝ようかな」
「はひーーーーん!!」
ちょっと待って、めちゃくちゃ羨ましいんですけど。
まだ僕はベッドで手を握って寝てもらう段階なんだから、先に進まないでよ。
抱き枕にされるなら、ほっぺたスリスリに太もも挟み、おっぱい攻めの3コンボだぞ。
興奮して動くと「もう、動いちゃダメ。寝れないでしょ」って、言葉責めも加わる4コンボ。
寝相が悪くて太ももが動き、大事な部分にチーンと当たれば5コンボだ……。
しかも、リーンベルさんとフィオナさんの同時プレイ!!
僕だったら間違いなく命が失われるけど、マールさんは大丈夫だろうか。
幸せ過ぎて死なないように祈っておくよ。
明日の朝、殺人事件の現場検証なんてやりたくないから。
一応国王と獣王もいるし、縁起が悪く……あれ? そういえば、獣王達がやけに静かだな。
「フィオナさん、獣王様や国王様はどうしていますか? 随分静かに感じますけど」
「お父様達も獣王様達も、カエル討伐を聞いて帰りましたよ。みなさんタツヤさんに感謝していましたけど、街から早く離れたくなったそうで……」
国王が帰る分には何も問題ないし、獣王が帰る分にも問題ない。
ただ、にゃんにゃんまで帰ってしまうのは計算外だ。
ゆっくり落ち着いてから、庭でにゃんにゃんと遊びたかったのに。
巨大なカエル達のせいで、失ったものはあまりにも大きい。
にゃんにゃんと庭でフリスビーをして遊ぶ夢。
フィオナさんとリーンベルさんと一緒に過ごすはずの甘い日々。
夜の舞踏会だってマールさんに奪われてしまった。
得たものは、兵士と冒険者達による名声と友情だけ。
……決めた。
一刻も早くカエルを処理して、失神するような甘い生活に戻ってやる!!
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