第135話:カエルとの戦い

 僅かな隙間のように開けられた門をカニ歩きで通り抜け、カエル達と対峙する。

 大喜びのカエル達は大拍手でゲコゲコ迎えてくれ、異常な喜びを見せていた。


 今から倒されるだけだというのに、構ってくれることが相当嬉しいらしい。

 きっと魔物からも人間からも、全く相手にされていないんだろう。


 どうしても構ってほしくて、あんなダンスを作り出したに違いない。


 少しカエル達を不憫に思いつつ、門から遠ざかるように歩いていく。

 城壁で見守る兵士達が怖がらず、遠くからでもわかるような少し離れた場所で戦うために。


 彼らには見守ってもらうという、大事な役割を全うしてもらいたい。


 僕の願いが通じるように、城壁の上では多くの兵士と冒険者が駆け付け始める。

 ヴェロニカさんと上官も最前列で見下ろすほど、注目を浴びていた。

 カエルを見たくないけど気になるという人が多く、泣きながら見守ってくれる兵士もいる。


 門から少し距離が取れると、大勢のカエルが取り囲むように包囲してきた。


 僕から10mほど離れた位置で、最前列のカエル達が回り始める。

 後ろにいるカエル達が合わせるように手拍子をすると、回っているカエルが踊り始めていく。


 完全に盆踊りだな。

 浴衣を着ないカエルになど、何の魅力も感じないよ。


 アカネさんのようなグラマラスボディをお持ちの方が、黒い浴衣を着て妖艶になる姿が良いんだ。

 マールさんはピンクで女の子らしさを、リーンベルさんは黄色で可愛らしさを出してほしい。


 火猫のスズは、当然のように赤色の浴衣だ!


 浴衣を着る彼女達をイメージしながら、目の前のカエルを次々に醤油ビームでなぎ倒していく。

 倒れたカエルの穴を埋めるように、後方から代わりのカエルが現れ、盆踊りが崩れることはない。

 見事な連係プレイに戸惑いを隠せないが、カエルにエロスがなさすぎる。


 お前達は弱いくせに、踊りだけ練習しすぎだ!


 次々に倒れていくカエルが外にはじき出されると、城壁の方から声が聞こえてくる。


「な、なんだ、あの魔法は。水魔法と闇魔法を混在させた、全く新しい魔法だ!」


「カエルの踊りを至近距離で見ても動じない精神力! あれが……英雄のなせる業か」


「神よ、私はあなたの力を見くびっていたようだ。まるで闇の剣がカエル達を串刺しにするような光景」


 巨大なだけの雑魚カエルを倒すだけで、恐ろしいほどの高評価を得ている。

 こいつら魔物なのに、戦わないで踊るだけだよ?

 めちゃくちゃ弱いんだから、どよめきが起きても困るんだ。


 正直……超良い気分だけどね。


 しかも、ヴェロニカさんが良い言葉を言ってくれたよ。

 醤油ビームという激ダサネーミングが付いた攻撃を、闇の剣と表現してくれた。

 中二病としてはありがたく頂戴し、技名にいただこうと思う。


 でも、それだけじゃ面白くない。


 どうせなら抜刀術を使うようなポーズから、剣を抜いて斬撃を飛ばすような演出を入れよう。

 ギャラリーが喜ぶこと間違いなしであり、何といっても醤油っぽさがなくなる。


 醤油戦士が、魔法剣士に生まれ変わる瞬間だ。


「塩分控えめ、ダークセイバー」


 ブシュッと、醤油を鋭く撒き散らかしてカエルをなぎ倒すと、城壁から「おぉー」と聞こえてきた。

 恥ずかしい気持ちがありつつも、もっと見てほしいという快感が生まれる。


 今の彼らに映るのは、中身32歳の中二病を発症した醤油を飛ばす童貞オジサンじゃない。

 天性の才能を持った子供であり、国が認めた本物の英雄なのである。


 痛い中二病が肯定され、夢と希望を託されたおっぱいのような存在!!


 無駄にカッコ付けて醤油を撒き散らかしていると、突然盆踊りが終わりを迎える。

 急遽3匹1組で編成されていき、あちこちでリンボーダンスが始まってしまった。

 棒なんて存在しないため、カエルの水掻きをビヨーンと伸ばして、棒代わりにしている。


 なお、1匹だけ3人組になれなかったカエルが可哀想だったので、醤油で倒してあげた。


 リンボーダンスの魅力といえば、ギリギリを通ろうとする時に邪魔になるおっぱいだろう。

 マールさんのような貧乳は圧倒的有利だけど、見てるこっちはちょっと悲しくなる。

 成功したことを褒めてしまうと、貧乳であることを責めているような気がして、どうしていいのかわからないんだ。


 逆にアカネさんのような大きなおっぱいをお持ちの方がチャレンジする時は、進行方向と逆の位置で拝見させていただきたい。


 だんだんと体を反らすことで現れる、重力に負けて潰れるおっぱいを眺めていたいんだ。

 棒が当たって失敗しても関係ない。

 おっぱいが大きくて不利だとわかっているにも関わらず、挑戦してくださったことに感謝を申し上げたい。


 フィオナさんやシロップさんのように、おっぱいが大きいけどギリギリクリアしそうな方に関しましては、本当にありがとうございます。

 挑戦する度にアホみたいな顔をして口を開け、固唾を飲んで見守らせていただきます。


 だが、そんな踊りを巨大カエルがやっても価値はない。

 なぜ2mもある巨体でリンボーダンスに挑むんだ。

 もっと他にも踊りの種類はいっぱいあっただろう。


 水掻きを持つ2匹のカエルだけ倒したら、挑戦するカエルが可哀想だ。

 逆に、挑戦するカエルを1匹だけ先に倒してしまうと、水掻きを持って挑戦するカエルを待つ姿が不憫になる。

 ここは3匹1組になっているカエルを、3体同時に倒すべきだろう。


 ダークセイバーだけじゃ絵にならないから、久しぶりにソースで攻撃しよう。

 見た目は全く同じでも、たまにはソースも日の目を浴びてほしいから。


 醤油ばかり使っている僕がいうのもおかしいけど、ソースだって味を変えるために大切な調味料だ。

 獣人国では、マヨネーズとケチャップが活躍した。

 王都では、味噌を出して英雄扱いになった。


 どの家の食卓にも欠かすことができないソースが活躍しないなんて、絶対に間違っている。

 ギャラリーが多く見守る中でソースの力を見せ付け、今までなかった出番を巻き返そう。


 両手を前に突きだし、圧縮したソースを3つに分けて放出!


 3本のソースの川が宙を舞うように流れ、カエルの脳天に直撃した。

 一気に1組倒れる姿を見たギャラリーが、ワッと沸くのも無理はないだろう。


「見たかよ、あれは水魔法のウォーターブラスターを闇魔法にアレンジしたんじゃないか?」


「ウォーターブラスターは中級魔法のはずだろ? 闇魔法を混ぜ込むなんて、いったいどれだけの技量があればできるんだよ」


「神よ、苦しむフリージアのために戦うお姿は、まさしく英雄に相応しい。カエルの襲来に希望を抱くことができるなんて……」


 ウォーターブラスター……か。

 本当に使えたら、どれだけ嬉しかったことだろう。

 名前がカッコイイだけでなく、高い威力を誇る魔法に違いない。


 勢いよく3本のソースを出しているだけなんて、口が滑っても言えないな。

 醤油と区別を付けるためにも、技名は少し変えよう。


「隠し味は果汁、シャドウブラスター」


 ブシュッッッと、勢いよく飛び出した3本のソースがカエルを捉えると、「おぉー」と再びどよめきが起こる。

 もう泣き叫ぶ兵士や冒険者なんていない。

 歓声を送ってくれるだけの、ただの応援団になっている。


 どうせなら、マールさんのチアダンスが見たいんだが。


 他の場所にいた冒険者と兵士達まで城壁に次々と集まり、見世物のような状態になっている。

 1人だけ女性のヴェロニカさんがいるけど、他は全員男。

 黄色い声援が全くないことに不満を抱きながらも、彼らに見せ付けるように調味料を撒き散らかしていく。


 ドヤ顔をしてソースで攻撃する度に起こる歓声。

 無駄に横っ飛びをして、アクロバティックを取り入れると起こる指笛。

 たまに見せるダークセイバーの醤油攻撃に起こる拍手。


 どうしよう、カエルのおかげで超人気が出てるじゃん。

 王都だけを守るだけでは終わらない、フリージアも守った英雄か。

 これだけ証人がいれば、相当モテるだろうなー。


 リーンベルさんが浮気に厳しいから、カッコよく誘いを断ってポイントを上げるつもりだけどね。


 カエル討伐を待つフィオナさんは、有言実行の僕にベタ惚れ間違いないよ。

 自分で言ったことを成し遂げる男ほど、立派だと思うんだ。


 ルンルン気分で討伐していくと、ノリノリの僕と外野の異常な盛り上がりにカエルは大興奮。

 こうなってしまうと、連係プレイによるダンスなんて不可能になってしまう。


 それぞれのカエルが「俺の踊りを見てくれ!」と、自己主張するようにタップダンスを始めた。

 水掻きを踵に当ててゲコゲコ鳴らし、猛アピールをしてくるんだ。


 これがカエルの求愛行動だったら、どうしようかと思っている。


 激しいタップダンスが披露されると同時に、ギャラリーの声援も一際大きくなった。

 それがまたカエルを興奮させるんだろう。

 嬉しそうな顔で必死にゲコゲコ鳴らしてくるんだ。


 つぶらな瞳でアピールして来ても、君達は巨大なカエル。

 僕が惚れることなんてないんだよ。


 四方八方にシャドウブラスターを解き放ち、問答無用に倒していく。


 獣人国から流れが変わってきたのかな。

 どうやら、世界が醤油戦士の活躍を求めているようだ。

 世界は調味料を求め、僕はエロいことだけを要求する。


 今日はすでにフィオナさんがベッドで待っているからね。

 激しい舞踏会が開かれることは間違いないよ。


 フィオナさんの腰付きを想像すると、俄然やる気が出てきた。

 体の奥からにじみ出てくる高揚感、これは変態パワーに間違いない。


 カエル達がタップダンスをしながら、指パッチンをしても気にならない。

 ソースの水たまりを華麗に滑ってトリプルアクセルに挑戦したら、着地する瞬間にぶっ飛ばす。

 組み体操を始めてピラミッドを作るなら、だるま落としのように撃退する。


 この日、1,328匹という大量のカエルをなぎ倒した僕は、最後の1匹を撃退すると大きな歓声で称えられた。

 全てのカエルをアイテムボックスに入れると大拍手が起こり、街から次々に兵士達が飛び出してくる。


 そして、予め用意してもらった水の魔石を使って、みんなで綺麗に醤油とソースを流して掃除をすることになった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る