第132話:災害級(?)の魔物
- 翌日の早朝 -
昨日はリーンベルさんとにゃんにゃんが意気投合して、同じ部屋で眠ることになった。
その結果、父親である国王が違う部屋で寝ているのに、僕はフィオナさんと一夜を共にした。
久しぶりだったこともあり、婚約者であるフィオナさんの甘えっぷりがすごかったよ。
2人っきりになると、燃え上がっちゃうんだろうね。
実に良い思いをさせてもらったよ。
飛び跳ねて嬉しそうな顔でやって来る姿。
前屈みでおっぱいを見せ付け、上目遣いによる誘惑。
甘えるような愛おしい声で名前を呼んでくると、積極的に押し倒してくる大胆さ。
1秒も持たなかったよ。
そう、今は1秒以内の記憶を鮮明に思いだし、噛み締めるようにエロい部分を抽出しただけさ。
エロの耐性が弱まっているせいで、こうでもしないとエロいことを体験できないんだ。
早くいつものように背中おっぱいを堪能したい。
そんなことを考えながら、今日は朝早くから国王とファインさんと共にギルドを訪れた。
ギルドマスターとヴォルガさん率いる解体の変態4人組と一緒に、災害級の魔物を解体するためだ。
冒険者と依頼を出す市民に混乱を与えないように、早朝で行うことにしたらしい。
受付嬢達も立ち入り禁止にして、誰にも見られないようにヴェロニカさんが警戒するほどの徹底ぶり。
災害級の魔物なんて本来は見る機会がないため、出迎えてくれたギルマスとヴォルガさんの空気が重い。
国王が来たというにも関わらず、声を発しないほどだ。
軽い会釈だけで済まされるほどの神妙な雰囲気。
なお、解体の変態4人組だけは早くも頭から謎の蒸気を排出して、走り回っている。
「早速、キマイラを出してくれないか」
戦うことはないとわかっているはずなのに、ギルマスは珍しくフル装備をしていた。
兜だけは装備していないけど、フルプレートアーマーの重装備。
騎士団長のファインさんは国王の護衛をするため、当然のように装備を付けているけどね。
昨日の用務員さんみたいな服装がイレギュラーなだけで。
「それでは出しますね」
アイテムボックスからキマイラを取り出すと、状況は悪化する。
背中に背負っていた斧を手に取ったギルマスは、死んだはずのキマイラに戦闘態勢を取った。
同様にファインさんも抜剣して国王の前に立ち、キマイラに剣を向ける。
初めて見る災害級の魔物との対面に、緊迫した空気が流れていく。
アルフレッド王子がキマイラと対面した時のように、2人は武器でツンツンして生死を確認。
一切動かないキマイラに安堵したのか、肩の力を抜いて武器を納めた。
数多の戦闘を重ねてきたからこそ、何か感じるものがあるのかもしれない。
なお、変態の解体屋4人組は異常な興奮を見せ、蒸気が黒煙へ変わっている。
火災したと勘違いされるから、一刻も早く普通の蒸気に戻してほしい。
気が付けばヴォルガさんも混じって走り出していて、1人だけレインボーカラーのオリジナル蒸気を放出。
体の構造がどうなっているのかさっぱりわからない。
そんな中、国王だけは冷静な顔でキマイラを見つめ続けていた。
おふざけと真面目の温度差が酷い。
「これが2000年前に暴れまわったと伝わるキマイラか。書物のままの姿は、災害級の魔物だと認めずにいられないな。冒険者ギルドの本部へ直接ワシからも連絡しよう。ところで、ファイン団長、実際に災害級の魔物を見てどう感じる?」
国王から声をかけられても、ファインさんは顔を合わせることはない。
ジッとキマイラだけを見つめている。
「死んでもなお、威圧感を放つ魔物は初めてです。歴史に語り継がれる2000年前の大戦がどれほど恐ろしいものだったのか、逆に全く想像がつかなくなりました。同じ人間が過去に戦っていたということが、不思議で仕方ありません。全ての騎士団を動員しても、勝つことはできないでしょう」
騎士団長が国王の前で、あっさりと国を守れないと言ってしまった。
普通なら大問題のはずだけど、国王は冷静に頷くだけ。
お互いに本音で言い合えるのは大切なことだし、きっと国王も素直な意見を聞きたかったんだと思う。
ここが城内で周りに貴族や大臣がいたら、また変わったかもしれないけど。
騒がしい解体の変態達が一切取り上げられることもなく、ギルマスはそっと膝をついてキマイラを触り始める。
傷口、爪、皮など順番に確認していく。
「現役時代に出会っていたら、間違いなく死んでいたな。アイテムボックスに入って時間停止をしていたとはいえ、まだ表皮に濃縮された魔力が流れ続けている。国が壊滅するほどの魔物を災害級と分類するが、冒険者を引退してからその意味を理解することになるとは」
数少ないSランク冒険者まで自力でたどり着いたギルマスは、本物の実力を持っているはずだ。
フル装備で来たのも、現役時代に戻ったつもりで対峙したかったのかもしれない。
本当にSランク冒険者でも倒せない相手なのか、肌で感じたかったんだろう。
ムキムキマッチョの癖に頭で考える真面目なタイプだからね。
「キマイラの表皮に魔力が流れているなら、時間が経たないと解体できないかもしれませんね。物理攻撃でダメージは与えることができませんでしたから」
僕の言葉で、解体の変態達がわかりやすく落ち込んでいく。
迷惑だった蒸気が止まり、地面に座っていじけ始めたんだ。
ヴォルガさんだけは真顔で佇んでいるけど。
一方、ギルマスは冒険者の血が騒ぎ出したのか、ニヤリと笑いながら再び武器を手に取った。
キマイラに向けて武器を構え、敵意をむき出しにしている。
「現役を退いて10年以上経つが、全身全霊の一撃なら現役当時の威力と対して変わらない。今日1日は筋肉を痛めて使い物にならんだろうが、災害級の魔物の実力を体感してみたい。悪いが、少し離れてくれ」
みんなが離れるより先に、ギルマスは大きく斧を振りかぶった。
巻き込まれそうな気がして、急いで離れていく。
「オォォォォォ!」
気合いを入れるように叫び始めると、ギルマスの周りに赤いオーラが見え始めた。
魔力を使って自分のステータスを上げているのか、闘気を纏って戦うスタイルなのかわからない。
ただ、Sランク冒険者まで上り詰めた男の、『赤鬼』と恐れられた由来はここにあるだろう。
ギルマスを纏うオーラが燃え滾るような真紅に染まっていくと、武器も応えるように赤くなり始める。
それが合図だったのか、ギルマスの表情が険しくなっていく。
「ヌァァァァァ!!」
僕のようなザコでも、周囲の空気がピリピリと痛く感じる。
圧倒的な実力を見せ付けられるような姿に、手からは冷や汗が流れだしていた。
緊迫した空気の中、ギルマスはグッと地面を踏み込んだ。
振り上げていた斧で全身全霊の一撃をキマイラへ叩き下ろす!
どんっ
思ったよりも遥かに小さな音が鳴り響いた。
……正直、拍子抜けしている。
攻撃したギルマスも目をパチクリさせて、キマイラから武器を離そうとしない。
いたたまれなくなったのか、ノコギリで切るようにギコギコ動かし始めた。
なんか、ちょっと可哀想。
「ま、待ってくれ、ここまで力の差があるというのか。相手は死んだ魔物だ、どうやってこんな傷を付けたんだ。今のは当たれば、ドラゴンでも致命的なダメージを負う攻撃。まるで衝撃が吸収されてしまうような不思議な感覚だったぞ」
ステータス3倍のシロップさんですら無理だったんだから、傷付くはずがないよ。
魔力を表皮に流して衝撃を和らげているとは思わなかったけど。
「さっきも物理攻撃はダメって言ったじゃないですか。なんとか隙を作って魔法攻撃で討伐したんですから。普通に戦って勝てるような相手じゃありませんでしたよ」
「い、いや、ここまで何もできないとは思わないだろう。現役時代は世界一の攻撃力を持つ男と言われ、俺のことを知らない冒険者なんていなかったんだぞ。えー、いや、ちょっと、えー、現実かー?」
取り乱しすぎですよ。
ひたすらギコギコ動かすのはやめてください。不憫です。
ギルド側の人間が全員落ち込むという謎の結果に終わり、キマイラはアイテムボックスに回収という形になった。
変態達とヴォルガさんも解体に挑戦してみたけど、表皮を傷つけることもできず、剥ぎ取ることができなかったから。
獣人国から寄付されることになったケルベロスは、犬獣人による噛みつき攻撃の痕もあったため、解体は可能と判断された。
しかし、滅多に見ない災害級の魔物ということで、国王がフリージアの変態解体屋たちに剥製処理を依頼。
意外なことに解体屋の変態達は、剥製処理も得意らしい。
初めて災害級の魔物を剥製処理できることに喜んだ変態達は、ピンク色の蒸気を噴出させて、謎のウィニングランを始める。
どうやらヴォルガさんは解体処理が専門らしく、真顔で佇んだまま。
そのまま3周ほど回った後、変態組4人がケルベロスの周りに集まり、解体場の奥へ運んで行った。
冒険者や市民に見えないような場所でこっそり処理するんだろう。
攻撃の反動で顔を歪めるギルマスが、落ち込むように下を向いてギルドへ戻っていく。
国王とファインさんも解体場を後にするように歩き出したから、これで終わりみたいだ。
災害級の魔物の処理も終わり、獣人国との話し合いも終わった。
長い依頼だったけど、これでひと段落ついたかな。
しばらくはスズとシロップさんが帰って来るまで、のんびり家で過ごそう。
遅れて解体場を後にすると、冒険者が数人やって来ていた。
受付嬢の3人もすでにカウンターに座っている。
なぜかにゃんにゃんに挟まれてカウンターに座るリーンベルさん。
眠そうにあくびをする姿まで色っぽく、口に手を添えた時におっぱいがムニュッと動くアカネさん。
昨日に続きジト目の冷たい目線を送って来るマールさん。
そういえば、なんでマールさんにジト目で見られるんだろうか。
何か怒らせるようなことでもしたかな。
昨日の大食いでにゃんにゃんに懐かれすぎのリーンベルさんも気になるけど、ここはいったん置いておこう。
彼女達に害はないし、天使とにゃんにゃんの夢の競演に心が癒されるからね。
マールさんの元まで駆け足で走っていく。
目の前までやって来ても、やっぱりジト目で見られてしまう。
明らかに僕のことを敵視していることがわかる。
「マールさん、何かありました?」
「ボクは認めないよ。君みたいな子供がベルせn「大変だー!!」」
マールさんの言葉を遮るように、街の兵士さんがギルドへ飛び込んで来た。
肩で息をすると共に、体を震わせて事態の深刻さを表している。
「奴らが、奴らがやって来たんだ! 冒険者全員参加の緊急依頼を出してくれ!」
勢いよく立ち上がったアカネさんは、おっぱいをプルンッと揺らして驚きを表現した。
一瞬だけ心臓が鷲掴みにされたような感覚が起こっても、倒れることはない。
昨日はフィオナさんと共に過ごしたから、少しだけ耐性が戻ってきたようだ。
「そ、そんな馬鹿なことはあり得ないわ! 奴らは3年前に来て、2週間も滞在したのよ。4年の周期を崩したことは、今まで1度もなかったじゃない」
アカネさんが大声を張り上げるところなんて、初めてみたよ。
おっぱいしか見てなかったけど、何か大変なことが起こったと伝わってくる。
1番大変なのは、大きなおっぱいに押し出されて弾き飛びそうなボタンだと思うけど。
兵士さんが絶望するように座り込むと、装備が地面にぶつかり、ガシャーンと金属音が鳴り響く。
歯を食いしばって頭を抱える姿は、嘘を付いているようには見えなかった。
「連日の大雨に昨日はとてつもない嵐だった。その影響で奴らは、必要以上にはしゃいでいるんだよ。もう先頭グループは城壁から見える距離だ。耳を澄ませばわかるだろう。奴らの鳴き声が……聞こえてくる」
兵士さんの声で、ギルド内は確認するように静まり返った。
シーンとする静寂の中、遠くから「ゲコゲコゲコ」と、カエルの鳴き声が聞こえてくる。
……うん、どう聞いてもカエルだな。
えっ、カエル?!
4年に1度の周期? 2週間の滞在?
わけのわからない僕とは裏腹に、ギルドはパニック状態。
冒険者達はガタガタと震え、アカネさんはカウンターに両手を付いて現実を受け入れないでいた。
タマちゃんとクロちゃんまで、怯えるようにギルドを飛び出していく始末。
マールさんだけはリーンベルさんの元へ近付き、怖がるリーンベルさんを抱き締めてドヤ顔している。
なんとなく冷静に話が聞けそうなマールさんに近付いていく。
「ふーん、タツヤはカエルにビビらないんだね。そこだけは認めてあげるよ。でも、いつまで持つのかな。砂漠生まれのボクは1ミリもカエルなんて怖くないからね」
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