第126話:違う、そうじゃないんだ

「そうか……まさか獣人国が滅びかかるほどのテロリストだったとはな」


 メイプルちゃんが魔石通信を準備してくれて、フリージアの冒険者ギルドと連絡を取ることができた。

 魔石を使ったテレビ電話みたいな感じだよ。


「獣王様から許可をもらって、ケルベロスをフェンネル王国へ寄付する形になりました。今回のことをきっかけに、フェンネル王国との付き合い方を変えてくれるそうなので。キマイラは個人的に倒したので、フリージアで納めますね」


 想像を遥かに上回るダークエルフの脅威に協力を拒否してきたため、災害級の魔物素材を寄付して和解することにした。

 結局、ダークエルフが攻めてきた時に助けたのは、フェンネル王国に住む僕達だったからね。

 派遣したのは冒険者ギルドだったから、ちょっとややこしくなるけど。


「キマイラなんぞ俺も見たことがない。災害級の魔物を解体したやつなんていないだろうから、できるかどうかわからんぞ」


「フリージアの解体屋さんはみんな変態ですから、喜んでやってくれると思いますよ。無理そうならアイテムボックスに封印しておきます。買い取りの値段もつけようがないと思いますし」


 もし解体できたら、フィオナさんやサラちゃんの装備に使ってもらおうかな。

 なんだかんだで命を狙われることも多いだろうし、外交する時に役立つと思うんだ。

 間違いなく最強の防具ができるからね。


「確かにうちで解体しても、買い取りまでは難しいな。優秀なドワーフでも頭を悩ますような素材になるだろう。相当腕に自信がないと、加工すらできないかもしれん」


 そっちも王都に変態職人オレッちがいるから大丈夫ですね。

 1分もあれば、最高の装備品を作ってくれるでしょう。

 あまり深く関わりたくないけど、腕だけは間違いないから。


「それで、いったんフリージアへ戻る予定なんですけど、国王に時間が取れないか確認してもらえませんか? 早ければ今日、遅くても明日には獣人国を出発するつもりです。王都かフリージアで、国王と僕と獣王で話し合いをしたいんですが」


「連絡するも何も、国王は3日後にフリージアへいらっしゃる。しばらく滞在する予定だから、フリージアで話し合うといい。だが、なんでわざわざお前が仲介人をやっているんだ? 国同士の話し合いなんて、冒険者が関わるような案件じゃないだろう」


 色々あったんですよ。

 ややこしくなりそうなので、深くは聞かないでください。

 スズに捨てられた可能性のある傷心した心を、姉であるリーンベルさんに埋めてもらいたいんです。


 それにしても、国王はなぜフリージアへやって来るんだろう。

 新しい料理が気になってきたのか、娘の顔が見たくてやって来るのか。

 何が目的かわからないけど、こっちにとっては好都合だ。


「獣人側の希望ですよ。慣れ親しんだ人族がいた方が、話し合いをしやすいじゃないですか。今まで突っぱねてきた人族に寄り添うためには、ワンクッション入れた方がいいんです」


「なるほどな、仮に何か問題があったとしても、お前は頭がまわるから大丈夫だろう。国王様がいらっしゃったら、その辺りのことも話しておく。ギルド的にも国とパイプがある者がいてくれた方が安心だ」


 完全に知的キャラじゃん、エリート冒険者街道まっしぐらだよ。

 僅か10歳にしてフェンネル王国の英雄と呼ばれ、獣人国では親分と親しまれる。

 両国の懸け橋となり、明るい未来のために希望を繋ぐ男。


 やだ、超カッコイイ。できる男感がすごいよ。

 クンカクンカパレードをやってもらいたかっただけなのにね。

 逆にシロップさんのクンカクンカがお預けになるという、異世界人生最大の失態をしてしまったけど。


 早く家に帰って、フィオナさんに無茶苦茶されたい。

 今回は期間が開いちゃったから、相当な甘々タイムになるだろうな。ぶへへへ。


 ギルマスと細かい事を話し続けても仕方ないので、再度予定だけ確認して通信を切った。


 別室に待っているメイプルちゃんに報告へ行くと、ワンワン吠えながら国王とアルフレッド王子に報告へ行ってくれた。

 その後、通信の後片付けをワンワン吠えながらやってくれる。

 王女なのに雑用をしてて偉いので、クッキーを分けてあげよう。


 さりげなく王女を餌付けすることも忘れない。


 早いと今日、獣人国を離れることになるので、腐った牛乳の跡地を見に行くことにした。

 敵を倒すためとはいえ、獣人達には酷な環境を作ってしまったからね。


 メイプルちゃんの報告では、腐った牛乳があるエリアを土魔法で丸ごと地盤沈下させて、巨大な穴を作ったらしい。

 大量の瓦礫を投げ捨てる処分場にした後、土魔法で穴に土を入れて、ピッタリ塞いだと報告を受けている。


 もう全然影響はないみたいだけど、自分の目でしっかり確認しておきたいんだ。


 意気揚々とした気分で、宿舎を後にした。



 宿舎から一歩でも外に出ると、堂々と胸を張って歩く必要がある。

 大人気芸能人並みのスーパースターだからね。


 早速獣人達に発見され、「親分!」と声を上げて近付いて来る。

 僕の顔を見ただけで、笑顔を作って喜んでくれるほどの人気っぷりだ。


 手を軽く挙げて制した後、眉間にシワを寄せて難しい顔で進んでいく。


 カッコ付けたいわけじゃない、男しか寄って来ないんだ。

 男がどんどん寄って来るため、ただ不快感が表れただけだよ。

 なぜ女性の姿が見当たらないんだろうか。


 よく考えれば、獣人国に多大なる貢献をしたにも関わらず、全く良い思いができていない。

 珍しく意識ぶっ飛ぶ系の変態イベントが起こっていないんだ。


 そういうことがしたくて助けにきたんだから、最後くらいお願いしますよ。

 クンカクンカでもモフモフでもいいから、次から次へとたらい回しにしてほしい。

 犬と猫の獣人もいるんだから、ペロペロだってできるじゃないか。


 腐った牛乳の跡地なんて、早くもどうでもよくなってきたぞ。

 健康的な美少女獣人の体を見て癒されないと、エロ目的で来た僕の心が満たされない!


 入念に辺りをジロジロ見渡しながら歩いていくと、土魔法による復興の早さに驚いてしまう。

 色んな建物がどんどん建築され、順調に復興していることがわかる。

 フリージアから持ってきた食材を管理する場所も、氷の魔石を用意してしっかり管理されているからね。


 いや、復興の状態が気になるわけじゃないんだよ。

 健康的でピチピチな太ももを堪能したいんだ。



- 1時間後 -



 女性獣人に出会うことなく歩き続けていると、前方からようやく女性のにゃんにゃんが歩いてくる姿が見えた。

 タマちゃんとクロちゃんだ。

 手を振って走ってくる姿は、激萌えとしか言いようがない。


 でも、料理を教えている2人に関しては、異性というより弟子になってしまう。

 そのため、あまり変な目で見ることはできないんだ。


 ……全然見ないとは言ってないよ、あまり見ないだけで。


「にゃにゃ、大勢の獣人を引き連れて何をしてるにゃ?」


 タマちゃんの言葉に疑問を覚えて、ふと後ろを振り返る。

 目を疑ってしまうような光景に、声を発することができない。

 難しい顔で無視してきたはずの男の獣人達が、2列になって後ろをついて来ていたんだ。


 騒がしいとは思っていたけど、まさかこんなことになっているなんて。

 男の獣人を引き連れてパレードがしたいわけじゃない。

 女の獣人に囲まれて、クンカクンカパレードをしてほしいんだ。


 言葉を失った僕の代わりに、先頭にいるケンタウロスとサイの獣人が一歩前に出てくる。


「親分は今、獣人国の復興を厳しくチェックされているヒーン。ちゃんと住める土地になったのか、細かく見てヒヒヒーン」


「人族でありながら、どこまでも獣人のことを考えるお方ドン。まさに親分は男の中の男、首領ドンに相応しいドン!」


 え、何そのできる男。

 美少女のピチピチな体を探してるだけだよ。


「獣人達はニャぜ連れてきているニャ?」


「別れを惜しむ俺達のために、親分は背中で語っているドン。別れに言葉はいらない、それが親分の答えドン」


「カツ丼様の力で我らを導くだけでなく、熱い想いが溢れヒーン。応えることができなくては、獣人のヒヒッヒヒーン。ヒヒッヒヒー、ヒッヒヒヒーン!!」


 男泣きを始めたケンタウロスは、何が言いたかったのかよくわからなくなってしまった。

 つられるように大行列で並んでいる獣人達まで、大泣きをする始末。


 ど、どうしよう、そんなつもりはないんだよ。


 可愛いワンワン達のパンチラとか見たいの。

 走り回って遊ぶ獣人達のおっぱいが揺れるところとかさ。

 プリプリ揺れ動くお尻を追いかけて、迷子になるとかアホみたいなことがしたいんだよ。


「さすが親分にゃ。男の獣人に応えるために、わざわざレディースデーを使ってそんなことをするにゃんて」


 タマちゃん、いま変なことを言わなかったか?

 レディースデーとかいう謎のワードが聞こえたぞ。

 映画の割引でもしてくれそうな響きだよ。


「あっぱれだニャ。女の獣人達が一歩も家から出ない休日と知って、あえてやってることだニャ。男の友情に女は不要だニャ」


 説明ありがとうね、クロちゃん。

 大事な復興する時期でも、獣人達は女性に優しい種族なんだね。

 まさか女性だけがノビノビと家で過ごす日を設けているなんて、考えもしなかったよ。


「タマちゃんとクロちゃんはどうして外に出て来たの?」


「にゃにゃ、そうだったにゃ。今日の昼ごはんを食べたら、フリージアへ向かうことになったにゃ。フェンネル王国の国王を待たせるわけにはいかないにゃ」


「獣人の都合で突っぱねてきたからニャ。謝罪をするのはスピードが大事だニャ。タマとクロは親分と一緒にいた時間が長いから、付いていくことになったニャ。集合場所は親分が泊ってた宿舎前ニャ」


 そっか……。良い思いはできなかったけど、2人が一緒なら救われるよ。

 スズとシロップさんがいない今となっては、フリージアまでどうやって欲望を我慢しようか考えていたからね。

 健全な太ももとお尻という素晴らしいものを見ながら、一緒に街まで帰ろう。


 もう弟子とか関係ないよ、バレないようにめっちゃエロい目で見るね。


 ゆっくりと頷いた後、2人が道を譲ってくれたので歩き始めていく。

 女性の獣人がいないとわかっているのに、無駄にキョロキョロしながら。


 感動して泣き叫ぶ男の獣人達の期待を裏切るわけにいかない……。

 すっごい行列なんだもん。

 泣き叫ぶ男を引き連れて歩くこっちの身にもなってほしいよ。


 誰も先頭を歩く僕を追い越そうとせず、律義に後を付いてくる。

 だんだんと本当にパレードのような盛り上がりを見せつつ、真剣な顔で進んでいった。




 獣人国は意外に広いため、隅々までチェックすると完全に昼を過ぎていた。

 お腹は空いたけど、獣王達を待たせるわけにはいかない。

 出発したら、歩きながらサンドウィッチでも食べようかな。


 無言のまま男の獣人達を引き連れて、宿舎に向かっていく。


 早くタマちゃんとクロちゃんの姿をエロい目で見たいと思って、急いで待ち合わせ場所に着いた、その時だ。

 目の前の光景を信じることができなかった。

 勝手に涙が溢れ出して、膝から崩れ落ち、地面を濡らすことしかできなくなる。




 最後の最後で、大勢の女性獣人達が並んでお見送りに来ているじゃないかッ!!

 違うんだ、それは求めてなかったんだよ!


 別れ際の僅かな時間だったら、せいぜいチラ見しかできないじゃないか!




 なぜニオイをクンカクンカをしてくれない。

 なぜモフモフイベントが発生しない。

 なぜスリスリしてくれない。


 もっと……もっとエロいことをしたかった。

 感動の別れのシーンとか求めていないんだ。

 日常の何気ないエロスが欲しかったの。


 刺激が少ないパンチラとかでよかったんだよ。

 僕はそんなので大喜びする変態なんだから。


「お、親分。泣かないでくれ。俺達も、別れが寂ヒヒヒヒーン」


 うるせえ! ケンタウロスは語尾に出すヒヒーンのタイミングが早えーんだよ!

 何を言ってるのかよくわからないことだって、けっこうあったんだぞ!


「男の別れに……涙゛は゛い゛ら゛な゛い゛ト゛ン゛」


 バカやろう! ガタイが良すぎてお前らは怖いんだよ!

 ミスリルタートルを全力でいじめてた姿は一生忘れないからな!


「ワンワンワンワンワンワンワンワン!」


 黙れ! ワンワンワンワン吠えやがって。

 普通は献身的に伝令をしてくれたメイプルちゃんが惚れるパターンだろうが!

 ワンワン吠えるだけでボディタッチの1つもなかったじゃないか!


 けっこう……期待して待ってたんだぞ。


 地面に大粒の涙が流れ落ちていくと、1人の大きな獣人が近付いてきた。

 泣き崩れる僕を抱え、フリージアへ向けて歩いていく。


「ほら~ん、行くわよ~ん。永遠の別れじゃないの~ん、いつでも遊びに来るといいわ~ん。人族とここまで別れ惜しむのは初めてよ~ん」


 1番ツッコミたいのはお前だよ!

 なぜ獣王がオカマなんだ!!

 王妃様は亡くなったのか逃げられたのかわからないから、聞くに聞けないじゃないか!


 アルフレッド王子、ステファン、メイプルちゃんと3人も子供がいる。


 随分と子作りに励んだみたいで羨ましい……。

 どうやったら最後までいけるのか教えてくださいよ。

 まだファーストキスもしたことないんですよ。


 獣王に抱えられたまま、タマちゃんとクロちゃんと一緒に獣人国を後にした。


 こっちから姿が見えなくなっても、様々な遠吠えや鳴き声が響き渡る。

 それだけ異種族である僕を仲間と思ってくれてるから、嬉しいのは嬉しい。

 悪い思い出があるわけでもないし、動物が嫌いなわけじゃないから、けっこう楽しい時間だったと思う。


 モフモフとクンカクンカに未練があるっていうだけで……。

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