第124話:エルフと獣人

 獣人国にいる全ての獣人に芋料理を渡し続けていると、気が付けば夜になっていた。


 休憩に入った獣人達が次々にじゃがバター、ポテチ、フライドポテトを食べ、能力を高めて復興作業に戻る。

 人数が多すぎて一巡回る頃には、最初に食べた獣人が再び休憩に入るという、無限ループだった。


 おかげで仮の宿舎が土魔法でどんどん立てられるほど、順調に復興が進んだよ。

 今は手伝ってくれたタマちゃんとクロちゃんと別れ、スズと相部屋で過ごしている。


 戦闘疲れより、料理を作りすぎてしんどかった。

 スズが早くも丸まって休んでるから、僕もゴロゴロして体を休めている。


 遠くからワンワンと吠える声が聞こえてくるから、メイプルちゃんがやって来るな。

 騒がしいからすぐにわかっちゃうよ。

 なんで王女なのに誰よりも走り回って、伝令役をやっているんだろうか。


「ワンワン、シロップと兄さんが目覚めたワン」


 よかった、血塗れだったから心配だったんだよね。

 2人が1時間もダークエルフ達を抑えてくれていたから、災害級の魔物を倒す時間が作れた。

 MVPの座は譲らないけど、影のMVPは時間を稼いでくれた2人だよ。


 意識が戻ればこっちのもんだし、作り起きしてある雑炊を食べてもらおう。


 ワンワン吠えながら走るメイプルちゃんに案内され、2人がいる部屋へ走っていく。

 部屋に着くと、ベッドで上体を起こした2人と椅子に座る獣王がいた。


 訪問者が僕達だと気付いたアルフレッド王子は、早くも頭を下げてくる。


「ちょうど大まかな話を聞き終わったところだ。何から何まですまない。お前達が来てくれなかったら、間違いなく滅んでいた」


「ギルドの依頼として来ていますから、気にしないでください。それより、血塗れになって倒れていましたから、まだ本調子じゃないはずです。とりあえず、雑炊でも食べて体を治してください」


「わかった、ありがたくカツ丼様の慈悲をいただくよ」


 2人に雑炊を渡すと、ゆっくりと食べ始めた。


「そういえば、たっちゃ~ん、ちゃんと聞いたよ~」


 聞いてしまいましたか、僕の大活躍を。

 獣王すら時間稼ぎしかできなかった相手を、いとも簡単に捻り潰した武勇伝。

 サポートだけでもMVP、ボス戦においてもMVP、まさに獣人国を救った英雄ですよ。


 ご褒美はご無沙汰になっているスーパークンカクンカでお願いします。


「今度は芋なんだってね~」


 そっちですか、フライドポテトの方ですか。

 期待をした眼差しで手を出してこないでください。

 少しはアルフレッド王子を見習ってくださいよ。


「俺達のいも祭りが始まるな」


 王子、お前もか。


 まだじゃがいもは残ってるけど、出来立てのストックがないんだよね。

 今日は獣人国全員分を作り続けたから、じゃがいもを見たくもないんだけど。


 チョンチョンと袖を引っ張られたので隣を確認すると、どや顔をしているスズがいた。

 どうやら料理作りにハマったらしい。


 料理ができる準備だけして、フライドポテト用のカットしたじゃがいもと、じゃがバター用のカットしてないじゃがいもを手渡していく。

 バターはクロちゃんが作りすぎて余っているので、問題はない。


 ササッと手慣れた動きで芋を蒸し始めたスズは、流れるような動きでじゃがいもを切り、油を高温にして揚げていく。

 おこぼれを欲しがるメイプルちゃんは、ピッタリとスズをマークしている。


「スズちゃんが作るの~?」


「………ふっ」


 最高のどや顔を返しながら、器用にフライドポテトを裏返していく。


 トンカツもフライドポテトも揚げられるなら、もう揚げ物マスターと認定してもいいだろう。

 また泣いて油に涙を入れそうだから、絶対に言わないけど。


「何度聞いても良い音を鳴らすわね~ん。今度エルフが遊びに来たら、一緒に食べさせてあげたいわ~ん」


 獣王は唐突に大事なワードをぶち込んでくるから困るよ。

 その話はゆっくりしたかったんだけど、仕方ないか。

 ここには王族とショコラのメンバーしかいないし、詳しく聞いても問題はないだろう。


「エルフって絶滅したんじゃないんですか? ベジタリアンっぽいイメージだから、じゃがいもも食べるとは思いますけど」


「やだ~ん、まだ生きてるわよ~ん。10年前から遊びに来なくなったから、今はどこにいるのか知らないけどね~ん」


 肝心なことは知らないのか。

 でも、エルフが生きているという事実を知れたことは大きい。

 獣人達と接点もあったなら、エルフに近付くヒントもここにあるだろう。 


 僕はハイエルフだし、エルフにとっては特別な存在になるはず。

 どうしよう、美人のエルフお姉さんに弄ばれてしまったら……。


 美系で同性まで虜にしてしまうほどの綺麗な顔立ち。

 ナイスバディで魅惑的な体。

 長生きによる経験豊富なテクニック。


 色んなプレイを優しく教えていただくのも良い。

 でも、バカにされて襲われるのも良い。


 勝手にエルフを女性だと決めつけ、話を進めていく。

 エルフのことについて知っておかないと、ハイエルフの謎もわからないから。


「獣王様は敵の姿を一目見ただけで、ダークエルフと判断しましたよね。一般的に出回ってない言葉だと思うんですけど、どうして知ってたんですか? そもそも、エルフと獣人って仲が良いんですか?」


「あらあら~ん、そんなこと言ったらあんた達の方がおかしいじゃな~い。まるでダークエルフがどういう存在か知っているような感じだわ~ん」


 そんな口調で鋭い質問をしないでくれないか。

 緊張感が沸かないんだ。

 でも説得は得意だよ、任せてくれ。


「カツ丼様の命令です。ダークエルフを討伐してエルフを探し出すように言われているんです。世界樹を探し出すようにも言われています」


 獣王は納得するように頷いた。

 アルフレッド王子、シロップさん、メイプルちゃんもダークエルフについて知っていたのか、同じように頷く。


 カツ丼って言葉がオールマイティーになってきた。

 獣人国限定だけど、都合のいいようにカツ丼を使おうと思う。


 唯一、カシャンッと箸を落として驚いたのは、料理を作っているスズだ。

 頭を抱えて震えだし、「そうだったのか、カツ丼様がそんな任務を……」と、小声でつぶやいている。


 君は話を合わせてくれるだけでいいのに、熱心な信者だから扱いに困るよ。


 なお、ちょうどフライドポテトを揚げ終わったところだ。

 乱れた心を取り戻したスズが6人分に取り分け、それぞれに渡していく。


 ……いや、僕はいらないよ。

 君も当然のようにまだ食べるんだね。


 食べながらでもいいから、ポテチも作ってあげてほしい。

 切ったじゃがいもは、アイテムボックスの中に残ってるから。


「さすがは全知全能の神様だわ~ん。そんなことも知っているのね~ん」


「いえ、カツ丼様も詳しいことはわからないみたいです。何か知っていることがあれば、教えてもらえませんか? なかなかダークエルフという言葉を出しにくくて、情報が集まらないんです」


「なによ~ん、そんなことなら最初から言ってくれればよかったのに~ん。カツ丼様のためなら何でも話しちゃうわよ~ん」


 ふっ、さすが説得に定評がある僕だよ。

 他国の王族をいとも簡単に説得してしまうとは。


「すべて話すべきだろう。カツ丼教は獣人国の国教、カツ丼様の御心のままに」


 お、おう。さすが真面目で律義なアルフレッド王子。

 いつの間にか、正式な国教に認定されているし。


「世界樹なら、いも祭りの起源の話に出てくるワン」


 ちょろすぎてガードの緩さが心配だよ。

 そんな大事なことをあっさり言われても困るんだ。


 ……フライドポテトのおかわりを僕に言われても困るんだ。

 裾を引っ張るのはやめてくれ。


「はっきり覚えてないけど~、2,000年前の戦争が終わって食料が少なくなった時に~、小さい女の子とエルフがじゃがいもを教えてくれた話だよね~。その女の子の名前が世界樹だったんじゃないかな~」


 それは『樹』じゃなくて『人』じゃん。

 世界を守り続ける立派な大きな樹をイメージしてたのに、恐ろしいフェイクだ。


 って、シロップさんも知ってたのかよ!

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