第119話:覚悟するがいいニャ
いとも簡単に調味料スキルの弱点が見抜かれてしまった。
食べるという工程がいる以上、気軽に使えるようなものではない。
どっちみち、奪われる可能性があるから気軽に使えないけど。
「こっちもなんとかわかりましたよ。隠密・ハイド系の効果を付与するポーションですね。目視していない限り、あなたの出した音やニオイは感知できないんでしょう」
「ふっ、本当に頭がまわるガキだ。貴様がいなければ、ここまで苦労することもなかっただろうな」
「王都で会ったダークエルフとあなたでは、戦闘スタイルが違いすぎます。以前は剣士のような戦いをする方でしたが、あなたはアサシンのような暗殺タイプですね。複数人を相手にするのは、苦手なのでは?」
僕の言葉と共に、スズとタマちゃんが攻撃を仕掛ける。
舌打ちをしながら剣を構えたダークエルフは、スズの拳を剣で受け止め、反撃をせずに後ろへ距離を取った。
首を動かしてタマちゃんの位置を確認した後、追撃するスズの飛び蹴りを受け流して、タマちゃんの袈裟斬りを剣で受け止める。
剣を押し返したダークエルフが横に飛んで再び距離を取ると、休む暇を与えないようにスズが攻撃を仕掛けていく。
やっぱり王都で戦ったようなダークエルフじゃない。
ただでさえ高いステータスをポーションで向上させ続けたことで、今まで剣技を必要としてこなかったんだ。
未知のポーション能力を巧みに使って混乱させ、不意を付いて奇襲するスタイル。
状況に応じて使いわけていたポーションも、強敵との連戦によって制限がかかってる。
理性を失ってまで味方をバーサク化させたのは、相当追い込まれているからかもしれない。
ここにクロちゃんが加われば、戦いを有利に進めることができる。
斧を地面に突き刺したクロちゃんは、立て膝を付いて両手を地面においた。
魔力を練り込んでいるのか、目を閉じたまま動こうとしない。
「クロちゃん? 本当に魔法は使えるの?」
「任せるニャ、クロの魔法は時間がかかるんだニャ。これだけは練習してできるようになった、唯一の闇魔法ニャ」
黒猫で名前はクロ、魔法も闇で漆黒をイメージさせるなんて、僕の中二病が反応してしまいそうだよ。
クロちゃんはカツ丼作りもあれだけ熱心だったんだ。
1つしか使えないといっても、強力な闇魔法だけを厳選して猛練習したんだろう。
敵の影からシャドーウルフを召喚して、足元から攻撃する召喚魔法か。
ブラックホールのように闇へ引きずり込む、強力な魔法かもしれない。
あらゆる影を武器に変化させて攻撃し、精神異常を起こすような魔法の可能性もある。
いったいどんな闇魔法が飛び出すんだろうか。
「準備できたニャ。これはちょっとやそっとで破れるような魔法じゃないニャ。覚悟するがいいニャ、シャドウニャインド」
スズの拳攻撃を剣で受け流したダークエルフに、連続攻撃で体を回転させて裏拳を叩き込もうとしていた。
器用にタマちゃんの場所を確認しながら、ダークエルフが守りに入ろうとした時だ。
ダークエルフの影から黒くて可愛い2匹の子猫が顔を出し、トコトコっと足元に近付いて噛み付いた。
とても愛らしくて癒される姿。
ぬいぐるみにしてほしい。
その瞬間、ガードをしようと動かしていた手が急に止まり、スズの攻撃に対して無防備状態になる。
バキッッッ
裏拳がノーガードのまま肩に放たれ、骨が折れる音が鳴り響く。
シャドウニャインドで拘束したことで、スズの強力な攻撃を受けても全く動くことがない。
そのため、命中した肩一点で攻撃受け止めるように威力が集中し、いとも簡単に骨を折ってしまった。
思っていたより地味で可愛い闇魔法だったけど、恐ろしいほど強力なバインド効果だ。
好機と思ったスズは迷うことなくダークエルフの顔面に向けて、全力で拳を叩き込む。
歯を食い縛ることしかできないダークエルフは、無防備のままスズの攻撃を受け入れ、右頬にクリーンヒットした。
シャドウニャインドが外れ、今度は吹き飛ばされていく。
「ニャニャ?! もう外れてしまったニャ。短時間でシャドウニャインドを外すなんて、恐ろしい魔力を持っているニャ。さすがは優れた魔法を使うといわれたエルフだニャ」
宙を舞ったダークエルフは、器用に折れてない方の手で青いポーションを作り出し、そのまま吹き飛ばされながら口にする。
地面に着く頃には飲み干し、空のポーション瓶を投げ捨てた。
すかさずタマちゃんが駆け抜け、追撃していく。
上体を起こそうとしたダークエルフに、タマちゃんは剣を地面に突き刺すように振り下ろす。
ダークエルフが体を捻って攻撃をかわすと、不安定な姿勢のまま地面を片手に付き、後ろ蹴りでタマちゃんの腹部を攻撃。
何とかガードをしたタマちゃんは、いったんダークエルフと距離を取った。
スズもいったん攻撃を止め、ダークエルフを睨みつける。
立ち上がったダークエルフは、唾を吐くような仕草で折れた歯を吐き捨てた。
折られた腕は治っているけど、前歯が1本なくなっている。
ポーションだけで治せなかったみたいだから、本当に回復効果が落ちているんだろう。
料理効果はまだ20分以上あるから、このまま追い込めば勝てる。
「王都でダークエルフと戦ったと言っていたな。あいつがやられた相手と知っていたら、確実に暗殺から入っていた。舐めてかかったわけじゃないが、ここまで俺様が追い込まれるとは」
対峙しているスズを無視して、僕の方を睨みつけてくる。
君の相手は僕じゃないから、もう命は狙わないでくれ。
クロちゃんが庇って刺されたことが、けっこう精神的に来てるんだよ。
助けようとした仲間が致命傷の攻撃を受けるところなんて、今まで1度もないんだぞ。
回復したから良いものの、完全にトラウマになる展開だ。
いったい僕が何をしたっていうんだ、よく考えてみろよ。
小説を読み漁って妄想を繰り返した日々を参考に、スキル内容をベラベラと話しただけだ。
クンカクンカパレードを夢見て、災害級の魔物を討ち取らせるためにユニークスキルを使ったのも僕だけど。
幽閉されて弱った獣王を回復させたのも……雑炊があったからで。
……超活躍してんじゃん。
「静止すると、小さな擦り傷が治癒していないのがよくわかりますね。戦闘で何度もタマちゃんの攻撃を意識していたのは、傷口が治っても失った血液は元に戻らないから。剣で傷を付けられて、出血するわけにはいかないはずです」
片側の口角を不自然にあげてダークエルフが笑うと、手元にまた新しい黒いポーションを作りだした。
「弱点なんてスキルを使っている俺が1番理解している。とはいっても、Sランク冒険者並みの敵を複数相手にすることなんて滅多にないがな。念のため仕込んでおいて良かったぜ。これをやると、しばらく記憶が飛ぶから嫌いなんだけどな。お前達はよくやったよ。恥じることはない、安心して死んでくれ」
グイッと黒いポーションを飲み干すと、ダークエルフがブラックホールに吸い込まれるように消えていく。
辺りの瓦礫や物は吸い込まれることはなく、ダークエルフだけが闇に引きずり込まれていったんだ。
「ちょっと~ん、何よこれ~ん。いきなり光り出したわ~ん」
後ろを振り向くと、ステファンは逆に眩しい光を放っていた。
徐々に小さいな光の粒子になって体が消えていく姿は、誰がどう見ても普通じゃない。
ステファンの上に乗って押さえて込んでいた獣王が地面にドンッと着地すると、埃が舞うように光の粒子が散らばった。
蝶のように緩やかな速度で動き始めて、導かれるようにダークエルフの闇へ向かっていく。
キラキラと光り輝く粒子は幻想的で、思わず目を奪われてしまう。
声を出すこともできないくらい綺麗で、戦っていることを忘れるほどに。
全ての光の粒子が闇に集まると、溶け込むように闇へ吸い込まれた。
暗黒が支配するような闇の空間が全ての光を飲み込むと、ゆっくりと形を変えていく。
さっきは幻想的な光景を見て声を出せなかったけど、今度は違う意味で言葉が出せなくなる。
ポーションの効果といっても、想像もしていないようなことが起こってしまったから。
まさか、融合ポーションまで存在していたなんて。
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