第114話:ドーピング選手権

- 翌朝 -


 朝から大賑わいで、獣人達が朝ごはんを楽しんでいる。

 メニューは大量に作ったカツ丼と、鉄板で焼いて食べるお好み焼き。


 お好み焼きは手軽でおいしいだけでなく、野菜がたっぷり取れる料理でもある。

 ひっくり返すのが難しいだけで、材料と鉄板さえ用意すれば、大体の人は自分で作れるだろう。


 料理をしたことがない獣人達も、意気揚々とお好み焼きを自分で作って食べている。


「おい、見ろよ。俺のお好み焼きはふわふわドン」


「押し潰してカリカリにした方がうまいドン」


「バカ、マヨネーズを1か所に出したら芸術点がヒヒーン」


「俺の斧技、お好み焼き返しを見てくれワン」


「なんでお前はお好み焼きでメシが食えるんだワン」


 戦闘経験の豊富な獣人達は、剣や斧で器用にお好み焼きを裏返すため、誰も料理に失敗しない。

 ここに来てから、初めてみんなが笑顔で過ごしているところを見るよ。

 9割以上が男で、むさ苦しいけどね。


「親分、大盛りドン。肉は15枚ドン。カツ丼も大盛りドン」


 ドンドンいうのはサイの獣人だ。

 覚醒したサイの獣人は頭に生えた角が大きくなり、輝きが違うからすぐわかるよ。

 数は多くないけど、たくましい存在だ。


 ランニングキャベツと寄り添うネギを細かく切って、小麦粉・鰹だし・卵を混ぜた物を渡してあげる。

 薄く切ったオーク肉とカツ丼も一緒に渡してあげれば、各自鉄板へ戻って、カツ丼を食べながらお好み焼きを焼き始める。


「はい、どうぞ。調味料がなくなったら言ってくださいね」


 ケチャップ・ソース・マヨネーズは1人に1つずつ渡している。

 だから、お好み焼きのタネさえ作ればセルフサービスの完成だ。

 火魔法を使える人に火だけ出してもらってるけどね。


「なくなったら貰いに来るドン。俺はお好み焼きを作る才能があるみたいで、すっげぇうまくてビビってるドン」


 自分で作ると愛着が沸き、何故か人が作った物よりおいしく感じてしまうパターンのやつだ。

 ケンタウロスの獣人以外にも大好評で、アルフレッド王子も自ら焼いて食べている。


 彼らが勝手にセルフで作ってくれている間に、同時進行でクロちゃん達と一緒にカツ丼を作り続けているよ。


 タマちゃんとクロちゃんはオーク肉の下ごしらえやご飯を炊いてくれている。

 スズはトンカツを揚げる専門。

 僕がトンカツをカツ丼に変えて、お好み焼きの種と一緒に受け渡しを担当。


 お好み焼きばかりに偏ることもなく、カツ丼も根強い人気がある。

 菜食主義のケンタウロス達もカツ丼をおかわりしに来るほどだ。


 最初は食べようか食べないか迷っていたケンタウロスが多かったけど、1人が挑戦したらあっという間にみんな食べ始めたよ。


 カツ丼教としては、喜んでもらえて何よりだ。

 ちなみに、王女のメイプルちゃんは避難誘導係りに入ってるので、カツ丼をガツガツ食べている。


「たっちゃ~ん、大盛りで肉10枚ちょうだ~い。あとマヨネーズも追加で~、ネギは多めがいいな~。カツ丼は卵多めで~」


 シロップさんも自分で作れたので、僕はホッとしている。

 オークの赤ちゃんを作り出さないか心配だったけど、普通に作れてよかったよ。


「あまり食べ過ぎちゃダメですよ。黒ローブはスズもやられかけた相手なんですから」


「マヨネーズ多めにかけると止まらなくて~。ソースたっぷりで濃い味なのに~、ネギがおいしすぎるの~」


 お好み焼きとたこ焼きにマヨネーズは正義だもんね。

 なんで元からソースで味付けされてるのに、ついついマヨネーズをかけてしまうんだろうか。

 僕もマヨネーズ多め派だから、気持ちはわかるけど。


 すでにシロップさんにニンジンの煮物を渡してるけど、まだ妖艶な感じは見られない。

 きっとデザートに残してるんだと思う。

 食べ過ぎて、途中でお腹が痛くならないことを祈るよ。


 他の獣人達も普通に食事を楽しんでるけど、この後は災害級の魔物を討伐しに行くってわかってるよね?

 ただの宴会だと思ってないか心配だよ。



- 食事を初めて1時間 -



 ようやく獣人達の食事が終わった。

 いまは防具をチェックしたり、武器についたソースやマヨネーズを拭きとったりしている。

 作戦の確認も忘れずに、それぞれのパーティで分かれて話し合っている。


 パーティといっても、冒険者達のような感じじゃない。

 犬なら犬、猫なら猫で集まって、それぞれの種族の特徴を活かして戦うことになった。


 軽く紹介していこうと思う。


 犬獣人は同じ種族であろうケルベロスの討伐だ。

 3つの首が独立して動こうが、10倍の30人の犬獣人が蹂躙してくれるだろう。

 いい年したオッサン達が集まって、人一倍うるさくワンワン吠えているよ。


 猫獣人はヒュドラの討伐だ。

 姫騎士にも選ばれる優秀な血統が多く、半分以上の者がカツ丼で覚醒するという最強の軍団。

 9つの首を持つヒュドラでも、圧倒してくれるに違いない。


 サイ獣人はミスリルタートルの討伐だ。

 男らしい圧倒的なパワーを活かして、ミスリルという超防御を持った亀の甲羅をパワフルな力で叩き割ってくれるだろう。

 語尾がドンドンいうだけでなく、会話の途中で地面をドンドン蹴っている。

 この場所が崩れないか心配だ。


 ケンタウロス達はメイプルちゃんと一緒に、機動力を生かして避難誘導を行う。

 王女のメイプルちゃんも前線に出ることで、速やかに避難指示に従ってくれるはず。

 誘導が終わったら、それぞれ魔物討伐の援護に向かってもらう。


 ちなみに、戦いが始まると同時に覚醒したケンタウロスは別行動を取り、獣王の救出へ向かってもらう。

 戦える獣人を逃がすために囮となった獣王が参戦することで、士気が上がること間違いなし。

 獣人国最強の戦士をカツ丼パワーで高め、地上を掌握していく。


 シロップさんとアルフレッド王子は、黒幕の第2王子と黒ローブの処理だ。

 獣王を処刑しようと考え、街を破壊した第2王子は完全に討伐対象になっている。


 同じ獣人とはいえ、やってしまった罪は重いんだろう。

 獣人達の問題だから、僕がどうこう口を挟む問題じゃない。


 ここまで最強のモフモフ軍団を作り上げてしまったから、負けることはないと思う。

 災害級の魔物がいるとはいえ、ダークエルフは料理効果を得たスズと同等レベル。

 ぶっ飛んだほどの過剰戦力だから、モフモフパラダイスも目前だよ。


「皆の者、よく聞くがいい」


 やっぱりこういう決戦に向かうときは、リーダーが最後に力説してしゅっぱt……、スズじゃん。

 いつの間に真っ赤なマントまで用意したんだよ。

 バサッとマントを動かす姿は中二病としてはカッコイイと思うけど、戦闘でも日常でも邪魔になる装備部門第1位だ。


 そもそも、君が出しゃばっていいタイミングじゃない。

 今すぐアルフレッド王子と変わってくれ。

 獣人達をまとめるのは王族の仕事であって、スズでもカツ丼様でもないんだ。


「カツ丼様の力を借りたお前達が力を合わせれば、必ずや勝利を得ることになるだろう。なぜなら、カツ丼様は勝利を呼び込む絶対神だからである! 敗北の2文字など、カツ丼様がいらっしゃれば存在しないのだ。全員、1時間以内に任務を遂行せよ、行くがいい!」


 スズの開戦宣言で、獣人達は「うぉぉぉぉぉぉ!」と、走り出していった。

 1番大声を出して先頭を駆け抜けて行ったのは、異常なハイテンションしていたアルフレッド王子。


 彼はカツ丼を食べたその日から、毎晩寝る前にカツ丼の舞と祈りを律儀に捧げている。

 次期獣王だと思うんだけど、獣人国は大丈夫だろうか。

 本当にカツ丼教が国教になりそうで怖いよ。


 クンカクンカパレードが目的なんだから、獣人国の歴史にカツ丼教を残さないでくれ。


 やり遂げたスズと一緒に、タマちゃんとクロちゃんの元へ向かう。

 タマちゃんは疲れ果てて、クロちゃんは僕達が食べる用のカツ丼を作ってくれていた。


「にゃ~、早くカツ丼を食べさせてにゃ~」


「いま揚げてるところだから待つニャ。親分のとこに行って、先にお好み焼きを食べてくるニャ」


「そうにゃ、みんな楽しそうに焼いてて気になってたにゃ。って、親分が来たにゃ! タマにもお好み焼きセットを渡してほしいにゃ」


 タマちゃんにお好み焼きセットを一式渡すと、スズも一緒に欲しがったので渡してあげた。


「お好み焼きの育て方を教えてやろう」


「さすが先輩にゃ! 早く焼きに行くにゃ」


 2人は仲良く鉄板の方へ向かっていった。


 スズもお好み焼きは初めてのはずなんだけどな。

 さっきからチラチラと観察してたから、きっと上手に作るだろう。

 中二病を引きずってるのが、少し心配だけど。


「クロちゃんはお好み焼きいいの?」


「カツ丼作ったら行くニャ。もっとおいしく作れるように練習したいんだニャ。 だから、代わりにお好み焼き作ってくれると嬉しいニャ」


 クロちゃんは料理人の修業をしているみたいだ。

 昨日もトンカツを揚げるためのアドバイスを聞かれたし、肉の最適な厚みについて意見を求められた。

 家庭料理レベルしかわからないから、聞かれても困るんだけどね。


 もう充分おいしいカツ丼だし。


 今だって4つのフライパンを使って、同時に8枚のトンカツを揚げている。

 まだ料理を始めたばかりなのに、成長スピードが速すぎるよ。

 特に目立った失敗もしないし。


「じゃあスズ達と一緒に作って待ってるね」


 クロちゃんにカツ丼を任せて向かおうとすると、「あっ!」と大きな声がしたので振り向いた。


「親分! ご飯が足りないニャ! 残ってるご飯を分けてほしいニャー!」

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