第106話:にゃんにゃんに餌付け
キマイラをアイテムボックスに入れて、気絶したにゃんにゃんの元へ向かった。
幸いにも2人は他の魔物に襲われることもなく、そのまま横になっている。
きっと凶悪なキマイラと近くで戦っていたから、この辺りに住む魔物は怖くて近寄れなかったんだろう。
大変なことになってたら、どうしようかと思ったけど。
「危なそうだったからニンジンの煮物を食べさせたんだけど、傷は消えても色々ダメージが残ってるみたい」
「この2人は双子ちゃんで~、白猫が姉のタマちゃんで~、黒猫が妹のクロちゃんだね~。私がよく知ってる子だから~、起きたら話を聞いてみようね~」
「2人とも冒険者なんですか?」
「姫騎士になったはずだから~、ここに2人だけでいるなんておかしいよね~」
なぜシロップさんはそこまで冷静なんだろうか。
姫騎士って姫を守ってる護衛の人だよね。
だったら、護衛対象を失ってるってマズイことなんじゃ……。
まぁ2人が意識を取り戻すまで待つしかないか。
僕達は今の状況を整理しながら、2人が起きるのを待ち続けた。
気絶する時に言っていた言葉が気になるし、スズすら見たこともない災害級の魔物が現れたんだ。
ダークエルフによる召喚魔法の可能性が高いだろう。
このまま進むにしても、1度引き返すにしても、まず必要なのは2人が持っている情報になる。
さっき気絶したばかりだから、目を覚ますまで時間がかかるだろう。
起きた時に食事ができるように、料理を作っておこうかな。
……最近、主婦っぽいよね。
たまには冒険者らしく活躍してみたいよ。
- その日の夜 -
「にゃー! ポテトサラダ最高にゃー!」
白猫のタマちゃんは発狂するくらいに喜んで食べている。
「ニャニャ、芋に屈服させられるニャんて」
黒猫のクロちゃんは悔しそうな言葉を言っているけど、喜んでガツガツ食べている。
夜ごはんを食べようと思ったら2人が飛び起きたから、とりあえず一緒にごはんを食べることにしたんだ。
この世界の人は初めて食べる時、めちゃくちゃ驚いてくれるから嬉しいよ。
今や定番料理になっているから、スズとシロップさんは落ち着いて食事をしている。
ここでハンバーガーとかカツサンドを出すと宴会場になりそうだから、絶対に出さないけど。
ちなみに、にゃんにゃん達の防具はキマイラに破壊されてボロボロになっているので、Tシャツにショートパンツというラフな格好で過ごしている。
なお、獣人用に尻尾だけ通せるように作られていて、尻尾だけは右往左往するように動いている。
いいよね、猫耳と尻尾って。
猫っぽいスズは2人に親近感が沸いたのか、ポテトサラダにソースをかけることを教え始めた。
まずは自分が見本で食べて見せると、おかわりをよそってソースを渡してあげる。
スズが料理を誰かによそってあげるなんて初めてだったから、ちょっと驚いたよ。
「にゃにゃ、にゃ、にゃんだー! このソースというやつは! 悪魔に違いないにゃー!!」
「闇の儀式で生まれし禁断の液体ニャ。旨みの魔王が住んでるニャ」
おいしそうに食べるにゃんにゃんに癒されながら、そっと『金タマネギのみそ汁』を差し出してあげた。
にゃんにゃんは全く警戒することもなく、みそ汁を受け取って飲み始める。
「にゃー……金タマの甘みに癒されるにゃ」
「癒しの金タマニャ」
その発言はやめてくれ。
先輩風をさらに吹かせたいスズと先輩風を吹かしたくなったシロップさんは、アイコンタクトを取って頷き合う。
バッと僕の方を向いた2人は「「角煮とご飯」」と、注文してきた。
さっき2人が寝てる間に作ってたから、食べたくなったんだろうね。
今回は2人に役目を譲ろうと思い、何も言わずに差し出してあげる。
「にゃにゃ?! なんだにゃ、その破壊神のような料理は」
「ニャー、それになぜパンを持ってないニャ? 保存食で食べるなんて疑問を呈するニャ」
混乱するにゃんにゃん達にも、同じものを置いてあげる。
先輩の2人はニヤリッと笑って、同時に箸でスーッと角煮を割って見せた。
柔らかいと思ってなかったにゃんにゃんは、みそ汁をかきこみながら前のめりになる。
「肉が裂けたにゃ?! 箸で裂けたにゃ?!」
「違うニャ、肉という大地が割れたニャ」
もはや角煮しか見ていない。
先輩の2人は何も気にする様子を見せず、1度ご飯の上に角煮を乗せ、トンットンッとバウンドさせてから角煮を口に放り込む。
そして、タレが付いたご飯で追いかけるようにかきんだ。
にゃんにゃんはそんな2人の姿を見て、真っ白なご飯を手に取り、勢いよくかきこむ。
白飯だけを豪快にかきこんだにゃんにゃんに、おかわりを入れてあげる。
受け取ったにゃんにゃんは、角煮を見ながらもう1度真っ白なご飯をかきこんだ。
「角煮と一緒に食べてね」
「にゃ?! そんな馬鹿にゃ! 見とれすぎて一緒に食べていると思ってたにゃ。恐ろしい料理だにゃ」
君の行動が1番恐ろしいよ。
よく「匂いだけで3倍いけるわ」とか「見てるだけでご飯が進む」って言う人はいるけど、実行する人は初めてだ。
「角煮というメロディだけでご飯3杯はいけるニャ」
保存食といってた割に、角煮という言葉だけで3杯も食べようとするんだね。
おかわりはいっぱいあるから、皿に付いてるタレを舐めるのはやめてほしいかな。
その後、にゃんにゃんが角煮とごはんを永遠にループして、夜ごはんを食べ終わった。
お腹いっぱいになったところで、にゃんにゃんに事情を聴くことにした。
クッキーは別腹なのか、モリモリ食べているけど。
「クッキー食べながらでいいから、どういう状況だったのか教えてもらっていい?」
「にゃにゃ?! ご飯をもらって名前も言ってなかったにゃんて、失礼したにゃ。うちはタマにゃ、こっちはクロにゃ」
クロちゃんはスズとクッキーを取り合っているため、全然話を聞いていない。
「タマちゃん達は獣人国から来たんだよね。何があったの?」
「大変なことになったんだにゃ。第2王子のステファンが反乱を起こして、街全体を制圧してしまったにゃ。だから、隣国へ協力を求めに行こうとしたにゃ」
お、おう。本当にシロップさんの言った通りだった。
「獣王様は何してるの~?」
シロップさんが獣王様のことを聞いただけなのに、2人は落ち込むようにうつむいてしまった。
「第2王子が手引きした黒いローブを着た男が、恐ろしい魔物を3体も召喚したんだにゃ。獣王様ですら1体も倒せなくて、街は壊滅的な被害を受けているにゃ」
間違いなくダークエルフが関わっている。
身体能力が高い獣人達を、いとも簡単に倒してしまうほどの相手なんて、そう簡単に見つからないだろう。
そんな相手からフェンネル王国を守ったなら、英雄扱いされるのも納得だよ。
活躍は……していないけど。
「勝てないと悟った獣王様は、自らを囮にして助けてくれたにゃ。凶悪な3体の魔物を引き付けて、うちらが逃げる時間を稼いでくれたにゃ。敗北した獣王様は地下に幽閉されたけど、第1王子様と王女様を含めた一部の獣人は無事に避難できたにゃ」
同じ同胞を逃がすために自らを犠牲にして、勝てないとわかっている魔物に挑むなんて、獣王というだけあって男気があるな。
姫騎士が応援を求めようと動いたぐらいだから、まだ戦える戦力は残っているんだろう。
問題は、勝てるような魔物かどうかだけど。
「召喚された魔物は3体とも同じレベルの強さだったの?」
「そうだにゃ。特に追いつかれたライオンは厄介で……にゃ? なんで生きてるんだにゃ? もしかして、あれを倒しちゃったにゃ?」
ステ3倍シロップさんでも単独で倒せないやつを、3体も同時に召喚されているなんて。
3体しか出せないのか。
それとも、3体で充分だったから出さなかったのか。
もし後者だったら、絶望的な展開になってしまう。
「勝てたというより、なんとかなったって感じかな。でも、あのレベルの魔物がいるなら厄介だよね」
援軍を呼びに来た2人には悪いけど、フリージアは初心者冒険者が過ごす街だ。
キマイラなんて化け物は、料理を食べた
戦力になれるのは、スズとシロップさんぐらいだろう。
「このまま向かうべき。時間をかければ、凶悪な魔物が召喚され続けるかもしれない。あんな化け物が1体でも襲ってきたら、国が崩壊する。獣人国だけの問題じゃない」
実際に戦ったスズが言うんだから、間違いないだろう。
もし獣人国がこのまま滅びれば、次は隣接しているフリージアが狙われるはず。
「王女様も同じ考えだにゃ。獣人国が滅んでも止めなきゃいけないって、言ってたにゃ……」
それだけ言うと、タマちゃんは耳がしゅんと折れてしまった。
クッキーを食べ続けてたクロちゃんの耳も、同じようにしゅんと折れていた。
ここで、ようやくクロちゃんがクッキーを食べることを止める。
「化け物相手に長期戦は考えていないニャ。犠牲を多く出すことでしか得れない勝利もあるニャ」
落ち込む2人を見て、国王から聞いた世界の歴史を思い出した。
ダークエルフを討ち取るために、大勢のエルフを犠牲にして攻め滅ぼした過去がある。
今度は獣人達が身を犠牲に捧げて、世界を守ろうとしているに違いない。
なんて馬鹿なことを考えてるんだよ……。
そんなことを許してもいいのか?
否!! モフモフできない異世界に価値など存在しない!!
エルフ耳を堪能できなくなった世界から、モフモフを無くしてしまったら何が残るというんだよ。
家の庭を走り回るシロップさんを眺めて、いつかにゃんにゃん達も一緒に走らせたいと思ってた。
噴水に突っ込んで水遊びをする最高のシーンが見たくて、ずっと夢を思い浮かべていたんだ。
夢を夢で終わらせてもいいのか?
いや、夢は叶えるためにあるんだよ!!
なんだったら、獣人国を助けてクンカクンカパレードをすることが1番の夢だけど!
可愛いモフ耳をしている女の子達に取り押さえられ、全方向からニオイを嗅がれたらどれほど幸せなことだろうか。
ニオイを嗅がれるという欲求の消化。
ニオイを嗅いで喜ぶモフモフ達の笑顔。
クンクンと匂いを吸った後に繰り出される「はぁ~」という吐息。
この世界から失くしてはならぬ文化、それがクンカクンカではないだろうか。
滅んでしまったエルフのためにも、クンカクンカを守るんだ。
エルフが大好きだったクンカクンカを守るんだ!
いつの間にかエルフがクンカクンカ好きだったことに脳内で変換され、ハイエルフの血が騒ぎだしていた。
落ち込む2人を前にして、1人だけクンカクンカされたいとムラムラしながら、夜は更けていく。
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