第6章 モフモフパラダイス
第103話:ギルドの定期連絡
- 1か月後 -
リーンベルさんに告白されてから、偶数の日はフィオナさんと、奇数の日はリーンベルさんと一緒に眠ることになった。
ベッドに入ると、2人は子供を寝かしつけるお姉ちゃんみたいで、一緒に手を繋いでくれるんだ。
最初はドキドキして眠れなかったけど、今は慣れてきたんだろうね。
幸せ過ぎて、3秒で寝てしまう体になってしまったよ。
自分でも気絶しているのか、寝付きが良すぎるのかわからない。
毎晩一緒のベッドで過ごしているのに何も進展しないって、僕らしいよね。
ちなみに、リーンベルさんと一緒に寝ていたスズは、シロップさんと寝るようになった。
元々友達で仲良かったけど、最近は特に仲良くなって、一緒にピクニックへ出掛けることが増えたよ。
必ずハンバーガーのお弁当を持って「ふぉぉぉぉぉぉぉぉ」と、2人で叫んで家を飛び出していくんだ。
僕がいえる立場じゃないけど、彼女達は変態だと思う。
どこに行っているのか聞いてみたら、ブリリアントバッファローにちょっかいを出して、トレーニングをしているらしい。
何回行っても1匹も持ってこないから、こかすことができないみたいだ。
一方、フィオナさんと僕は、ひたすら専業主婦みたいなことをやっているよ。
家の花壇の手入れをしたり、掃除をしたり、休憩でクッキー食べたり。
フィオナさんは料理を手伝ってくれないけど、リーンベルさんは毎朝タマゴサンド作りを手伝ってくれるから、家で過ごす日々が楽しくて仕方がない。
そんなこんなで、全く冒険者らしくない平凡な毎日を過ごしていると、ギルドマスターに呼び出されてしまったので、ギルドを訪れることになった。
ショコラの3人でギルマスの部屋に入っていく。
コンコン
スズがノックして入ると、ギルドマスターが書類整理をしていた。
僕達の顔を見ると立ち上がり、ソファに座るように指示をしてくれる。
もちろん、僕は定位置のシロップさんの膝の上に座るよ。
「今回お前達を呼んだのは、ギルドからの依頼を受けてほしいからだ。ここから西に1週間ほど向かうと、獣人国がある。シロップは母国だから、よく知っているだろう。悪いが、そこの冒険者ギルドを訪ねてくれないか」
「なぜわざわざ訪ねる? ギルド同士で連絡を取り合ってるはず」
冒険者ギルドは国と協力関係を結んでいても、独立した組織。
違う国とはいっても、冒険者ギルド同志で定期連絡を取り合うのが規則になっている。
魔石通信(電話みたいなもの)で連絡していて、わざわざ訪ねる必要はない。
「ギルドで毎月定期連絡を取っているのは事実だ。しかし、今月はまだ定期連絡が来ていなくてな。何度連絡をしても繋がらないんだ。今日で音信不通になって1週間、機材の故障にしては長すぎるだろう。だから、どういう現状になっているのか確認して来てほしいんだ」
柔らかく言ってるけど、けっこうヤバイ状態だよね。
ワイバーンの被害が大きかったバジル村でも、緊急連絡はちゃんときてる。
それすらもできない状態ってことは……、
「ギルドが占領されてる、とかですか?」
「憶測だけで話を進めるわけにもいかないが、その可能性が高いと考えている。もう1つの可能性としては、何らかの影響で災害級の魔物が現れて、多大なるダメージを受けてしまったか。王都でスタンピードが起こった時ですら、緊急通信はやって来たんだ。万が一のこともあるかもしれんが、あの獣王が負けるとは思えなくてな。おそらく、何者かによって人質を取られて獣王が幽閉、街は占拠状態ってとこだろう」
そんなエグい場所に、よく僕達3人だけで行かせますね。
……いや、適任だから僕達を選んだのか。
このムキムキマッチョは頭が切れるからな。
獣人国出身で地理に詳しいシロップさん。
Aランク冒険者で猫のように素早いスズ。
占拠された街へ侵入して隠密行動を取るならベストな2人だし、災害級の魔物を倒せるのもフリージアではこの2人だけ。
1人だけ醤油戦士というお荷物がいるけど、ベストな選択だろう。
「獣王様はやられたりしないから~、大丈夫だと思うよ~。のんびり行けばいいんじゃないかな~」
シロップさんは軽く言うけど、気になっているはずだ。
きっと空元気ってやつだろう、めっちゃスリスリしてくるけど。
母国のギルドと連絡が取れないなんて非常事態だから、同じパーティメンバーとしては放っておけない。
今度こそにゃんにゃんとにゃんにゃんして、夏のにゃんにゃん水着大会が行われるかもしれないし。
勝手なイメージだけど、にゃんにゃん達はビキニを選ぶだろう。
可能ならば、スズとシロップさんにはビキニの横が紐になっているタイプの水着を着てほしい。
1度でいいから、紐の部分を引っ張ってみたいんだ。
海があるって聞いたことがないから、水着という文化がないと思うけど。
「準備が出来次第向かう。念のため、食材も買い込んで行く」
ギルドを後にした僕達は、スズの指示に従って、パンと野菜を大量に買い込んだ。
イケメンのスズ、改め、大富豪のスズさんはチマチマとしたショッピングをしない。
店に着いたら即効で「店にある物全部」と、選ぶことなく丸ごと買う。
思わず八百屋のオジサンが握手を求めてきたよ。
その後、フィオナさんに今日の夜ごはんを渡して、冷蔵庫に大量のマヨネーズを詰め込んだ。
僕が1か月ぐらいいなくても、リーンベルさんがタマゴサンドをしっかり作ってくれるだろう。
ちょっと寂しい気もするけど、2人がおいしい食事をしてくれた方が嬉しい。
念のため、リーンベルさんが必要以上にマヨネーズを使わないように、フィオナさんが管理するように伝えて、フリージアを後にした。
獣人国へ向かうため、西門から真っすぐ道なりに歩いていく。
ずっと歩いていると、途中でフィオナさんと初めて出会った場所にたどり着いたけど、今は何もない草原だ。
強化オーガと戦ったことを思い出しながら、普通に通り過ぎていく。
本来この道に強い魔物はいないから、強敵が出てくることもないよ。
- その日の夜 -
母国が壊滅してるかもしれないという状況でも、シロップさんは和やかだった。
普段通りと全く変わらないように見える。
ニンジンの煮物をおかずに、ハンバーガーをおいしそうに食べているからね。
どういう気持ちでいるんだろうか。
もしツラいなら、クンカクンカして気持ちを落ち着けてほしい。
それくらいしか貢献できないから。
でも、呑気にそんなことを楽しめるような気分じゃないのかもしれない。
きっと今も空元気で、心配かけまいと無理矢理笑顔を作っているんだ。
今は少しでも早く、獣人国へたどり着くことを考えよう。
クンカクンカ クンカクンカ
寝る前にクンカクンカが始まったよ。
しかも、外という解放感がたまらないのか、いつもより興奮気味で激しいパターンのやつ。
もしかしたら、本当に心配してないのかもしれない。
「シロップさんは、今回の依頼ってどう思ってるんですか?」
「ちょっと待ってね~、今良いところなの~」
クンカクンカ クンカクンカ
スリスリ スリスリ
クンカクンカ クンカクンカ
スリスリ スリスリ
これは、マーキングされてるのかな。
スリスリしてニオイを付けて、それを確認しているのかもしれない。
嫌いじゃないけどね。
「ハァ~、たっちゃんは相変わらず良い匂いだね~」
料理とお菓子を作ってるからかな。
「獣人は身体能力が高いから、心配してないよ~。獣王様は私より強いし~。第2王子が反乱して~、国全体を巻き込んでるだけだと思うよ~」
なんだ、それだけか……っておい!
国全体を巻き込むほどの反乱ってヤバイだろう。
仮にも1週間もギルドが連絡を取れないような被害なんだよ。
獣王はともかく、可愛いにゃんにゃん達は避難しててほしい。
大丈夫かなー、僕のモフモフパラダイス。
あっ、ごめんね。最近は良い思いをいっぱいしてるから、野心が止まらないんだ。
いい加減にキスの味ってやつを知りたいんだけどね。
「それって、大丈夫なんですか?」
「大丈夫だよ~、第1王子はバカじゃないし~。第2王子は思考がおかしいタイプだから~、そういうことをやっちゃうんだ~」
獣人のことだからよくわからないけど、そういうものなのかな。
勝手なイメージだけど、男の獣人は脳筋な人が多そうだ。
女性のモフモフはすべて素晴らしい、というイメージを勝手に持っているよ。
猫耳、犬耳、狐耳……。
それだけじゃなくて、モッフモフの尻尾も堪能できるかもしれない。
考えるだけで幸せな気持ちになってしまう。
僕の心はすでに、夢のモフモフパラダイスで頭がいっぱいだよ。
「でも獣王様が強いなら、第2王子は占拠できませんよね?」
「私が思うには~、王女様を人質に取って占拠してると思うだよね~。普通に戦ったら、獣王様が絶対に勝っちゃうも~ん」
もしシロップさんの言うことが事実なら、本当に危ない人だな。
自分の家族を人質に取って、親を幽閉するなんて正気の沙汰じゃない。
王になるという欲望を叶えるために、手段を選ばないタイプなのかもしれない。
でも、人質は生きてて初めて価値があるって、誰かが言ってた。
うまく助けることができれば、良い感じに解決できそうだな。
その後はきっと、お礼のにゃんにゃん夏の陣、浴衣で花火デートがあるかもしれない。
ゆ、浴衣は下着を付けないっていいますからね。
き、期待してしまいますよ。
スズに見張りを任せて、シロップさんと一緒に休むことになった。
すんなり寝始めるシロップさんとは違い、僕はまだ見ぬモフモフパラダイスに妄想だけで大興奮してしまい、なかなか寝付くことができなかった。
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