第99話:意味深な言葉

 なぜかシロップさんがギルドから飛び出していったので、スズと一緒に解体場へ来ることになった。


「おう、またブリリアントバッファローか?」


 早速ヴォルガさんが声をかけてくる。

 今日も暇そうだから、すぐに解体してくれそうだ。


「いえ、ワイバーンです」


 ワイバーンを5体ドドンッと取り出した。


「おう。お前らはもう恐ろしい魔物しか持ってこねぇな。だんだん慣れてきた俺もおかしいが。この街はBランクモンスターすら見る機会は少ないっていうのに」


「そういう依頼だったんですから、仕方ありませんよ」


 ヴォルガさんは『ピー』と笛を吹くと、また裸にオーバーオールを着た変態が走ってきた。

 しかも、今回はヴォルガさんまで頭から蒸気を出し、「シュシュシュシュ」と走り出している。


 まさか同族だったとは思わなかった。

 いや、笛を持ってるヴォルガさんがリーダー的なポジションなのかもしれない。

 これからは見る目が変わってしまうよ。


 こんな変態ショーを見たくなかったので、スズに戻ろうと提案したら「見てる」と言われてしまった。

 続々と冒険者達も解体場にやって来るし、リーンベルさん達もやって来た。

 なんだったら、シロップさんがフィオナさんをおんぶして連れてきた。


 メガネで変装してるとはいえ、こんなところまで来て大丈夫なんだろうか。


 ワイバーンと変態達を取り囲むように街の人まで集まってきて、完全にパフォーマンスショーとなっている。

 座って手拍子する人もいれば、指笛を吹いて盛り上げる人もいる。

 近くに小さい子供もいて「ポッポー」という度に、バカウケして笑い転げている。


 どうしよう、異世界人と感性が合わな過ぎて辛い。


 途中でフィオナさんがギュッと抱きかかえてくれたので、心が救われた。

 頭に頬ずりをして「お久しぶりですね」と呟いてくれるところが、ドキッとしてしまう。

 王女に公衆の面前で求愛されてると思うと、妙に興奮を覚えて堪らない。


 変態達が「ポッポー」といってワイバーンに大興奮をしている中、僕はフィオナさんのおっぱいにポッポーしていた。



- 20分後 -



 途中からギルマスがやって来て、1番楽しそうにはしゃいでた時は正直引いた。

 子供と一緒に笑い転げる姿は一生忘れないだろう。

 急いで中に戻って、オーバーオールに着替えてきたことも忘れない。


 解体ショーが大歓声で幕を閉じると、みんなはワイワイしながら帰っていった。

 フィオナさんにヴォルガさんの元へ連れて行ってもらい、ワイバーンの肉を受け取る。

 いつものように肉は分けようと思ったら、珍しくヴォルガさんが遠慮してくれた。


 他にもワイバーンの素材で大きな利益になるし、ドラゴンの肉は高すぎるらしい。

 大量にあったブリリアントバッファローの肉も、凍らせて王都で売りさばいたみたい。


 ワイバーンの肉をアイテムボックスに入れて、ヴォルガさんと別れる。

 メガネをかけただけで王女だとバレないもんだなーと思っていると、ギルドに戻ったはずのリーンベルさんが再び解体場に戻ってきた。

 ゆっくりと近付いて来て、僕の耳元に顔を寄せてくる。


 フィオナさんという最高神の背中おっぱいを感じながら、リーンベルさんに耳元を襲われるという大事件の勃発である。




「君は、フィオちゃんの方がいいの?」




 それだけ耳元で囁いて、リーンベルさんはギルド内に戻っていった。


 いったいなんだろうか、この気持ちは。

 とてもイケナイことをしているような背徳感。

 背中おっぱいという最高のシチュエーションすら萎えてしまう、この感情はいったい……。


 それからフィオナさんに抱きかかえられたまま、スズ達と一緒に家へ戻った。

 道中は解体ショーの話ばかりで、フィオナさんが「伝説のフリージアの解体ショーが見れましたね」と、大喜びしていた。

 でも、ほとんど耳に入って来なかった。


 リーンベルさんの意味深な言葉ばかりが、頭の中をグルグルしていたから。




 家に着くと、スズとシロップさんは自室に行って昼寝を始めた。

 スズは1人で冒険者をしていた時の癖か、野外でずっと見張りを続けている。

 シロップさんが加わっても、それは変わらない。

 寝るのが趣味みたいだし、ぐっすり休んでほしいと思う。


 一方、フィオナさんはずっと屋敷の手入れをしてくれてたから、暇だったんだろう。

 リビングのソファーで僕を膝の上に乗せて座り、頬ずりの続きを始めている。

 婚約者としては、フィオナさんと甘い時間を過ごすのも大切な仕事だ。


 愛おしそうに接してくれるフィオナさんはありがたい。

 変態の僕としては、こんな時間がずっと続いて欲しいと思う。


 でも、なぜ素直に喜べないんだろうか。


 さっきからリーンベルさんに対する、浮気的な気持ちでモヤモヤするんだ。

 いったいなんだったんだろう。

 リーンベルさんの言葉の意味が理解できない。


 もしかしたら、デートの約束をしたこともあって、そういう雰囲気を作ってくれているだけかもしれない。

 僕がイケメンみたいな悩みを持つことなんてあり得ないし。

 スズとフィオナさんと両想いで入れるだけでも、奇跡的なことなんだから。


「そういえば、ワイバーンの依頼へ行く前に僕を気絶させましたよね。あの時はなにをやったんですか?」


「そ、それについては忘れてください。小さい頃から寂しがりだったので、たまに我を忘れてしまうんです。だから、ちょっと欲求が抑えきれなくて……」


 でも、一戦は越えてなくてキスもしていないんだよね。

 いったいどんなことをやられたんだろうか。


「気になるじゃないですか。スズもシロップさんも教えてくれなかったんですよ」


「知らなくても大丈夫です。そんなこと言ってると……」


 ふーーー


「あぁぁぁぁぁぁぁぁ!」


 その後、何度聞いても耳フー攻撃で妨害されてしまった。

 あまりにも叫び続けるものだから、途中でスズとシロップさんがやって来て「寝れない」と怒られた。

 すいませんと平謝りして、夜ごはんの準備をすることになった。


 フィオナさんもリーンベルさんも久しぶりの夜ごはんだから、いっぱい作ってあげようと思う。

 頑張って食欲を抑えこんだリーンベルさんのためにも、今日はお腹いっぱい食べさせてあげたい。


 アイテムボックスの中にまだ料理は入ってるし、質より量を選ぶ方向でいこう。


 オーク肉とブリリアントバッファローの肉をひたすら薄く切って、塩と胡椒だけで味付けしていく。

 同時進行で、ご飯もどんどん炊いていく。


 塩と胡椒のシンプルな味付けって飽きにくいからね。

 コッテリとした照り焼きとか角煮とかは途中で……。


 そうだ、スズのために角煮を作らなきゃ。


 ワイバーンの戦いでブチギレていたスズを思いだしながら、角煮を作っていく。

 同じ姉妹だから、リーンベルさんも喜んでくれるに違いない。





 夜になってリーンベルさんが帰ってくると、お祭り騒ぎで夜ごはんを食べ始めた。

 スズも久しぶりにお姉ちゃんと一緒に食べられて嬉しいんだろう。

 いつもより食べるペースが速い。


「みなさん、見てもらっていいですか。ずっと考えていたのです。この絵力、すごくありませんか?」


 どうしたのかと思ってフィオナさんを見てみると、ごはんの上に肉をのせて、クルッと包み込むように持ち上げていた。

 ごはんを肉で巻いて食べる、グルメ番組でよく見る視聴者を意識した食べ方だ。


 見慣れた僕としてはあるあるネタなんだけど、他の3人は衝撃な光景に頭を抱えている。


「なんて恐ろしい、これが王女の発想力。そんな技を開発するとは……」


「どうやって思い付いちゃったの~?」


「この国に生まれてきてよかったよ。こんな素晴らしい王女がいてくれるなら、未来は絶対安泰だもん。速攻でマネするね、フィオちゃん」


 肉で巻いても味は変わらないにも関わらず、みんないつもよりおいしそうだ。

 ひたすら肉で巻いて食べるブームが到来しているよ。

 野菜を肉で巻いて食べ、ご飯を肉で巻いて食べ、肉を肉で巻いて食べる。


 肉を巻く楽しみを覚えた4人は、いつも以上に食べ進めていく。



- 4時間後 -



 リーンベルさんの食欲は一向に落ちる気配がない。

 他の3人もかなり食べてたけど、限界が来て2時間以上前に解散している。

 もう何人前を平らげているのかカウントすることはやめたよ。


 普段なら寝始める時間だけど、今日はお腹いっぱいになるまで付き合うって約束しちゃったからなー。

 2人きりになっても、ひたすら肉でご飯を巻いて食べている。

 おいしそうな顔が可愛いと思う反面、いつ終わるんだろうという不安でいっぱいだ。


 ご飯のおかわりを要求してきたので、茶碗にご飯を入れてあげる。

 追加でお肉を渡すことも忘れない。


「ねぇ、タツヤくん」


 知ってる、角煮も欲しいんだね。

 すべてを言う前に、サッと角煮を出してあげる。


 スズの付き人を完璧にこなす僕は油断なんてしないからね。


「明日のお昼、デートしよっか。この前約束してたし」


 ……この展開は知らないやつだ。

 あれ? 角煮が欲しかったんじゃないの?


 4時間も餌付けをしてたら、好感度が急上昇したのかもしれない。

 今日ギルドで言われた言葉も気になるし。

 昼間からそういう雰囲気を仕込んでおいて、夜に誘ってくるなんて……。


 スズと初デートはしたけど、こうやって誘われるのは初めてだから、どうしたらいいのかわからないよ。

 あの時は気付けばデートが開始してたし。


「きゅ、急にどうしたんですか?」


 なぜ素直に「うん」と言えないんだろうか。

 女性に誘われて、逆に質問しちゃうバカがどこにいるんだよ。

 お礼のデートだったとしても、好きな女性に誘われたんだぞ。


 恋愛音痴にもほどがあるよ。


「お姉ちゃんとデートするのは……嫌?」


 嫌なわけじゃないじゃないですかー!


 デートしたいのに、本命からアタックを受けたら、急に保身へ走っちゃう変わり者なんです。

 振られるのが怖いんだと思いますよ。

 誘われてる側なのに、いったい何を考えてるんですかね、僕は。


 そ、それにしても、そんな悲しそうな顔で見てこないでください。

 心臓がロックオンされて、ミサイルをぶち込まれている気分ですよ。

 迎撃システムが間に合わず、すでにハートブレイクしていますから。


「い、いえ……したいですけど」


 リーンベルさんはそっと近づいてきて、僕の目の前までやってきた。


 まるでキスしそうな距離で、

 キスしそうな雰囲気で、

 キスして来そうな感じで手を両肩に添えてくる。




 あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!




 止まるよね、キスしないで途中で止まるよね。

 知ってたよ、心臓が弾き飛びそうなぐらい興奮してるけど。


「ちょっと……君に癒されたいなーと思って」

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