第92話:マヨネーズトラップ
ブリリアントバッファロー討伐の前に、パワーアップをするため、呑気に昼ごはんを食べながら作戦会議をした。
サンドウィッチと、ニンジンに味噌マヨネーズを付けた手軽な昼ごはんだ。
作戦はいたってシンプル。
スズが誘き出して、シロップさんが横から殴ってこかす。
わざわざ正面から向き合って、殴り合う必要はない。
いきなり横から精霊魔法クラスの攻撃力を誇る、シロップさんというトラックが衝突してくるような残酷な作戦。
こかすというより、全力でぶっ飛ばすパワープレイ!
なお、僕の出番は料理を出した時点で終わっている。
ごはんを食べ終わると、早速スズとシロップさんで高原を進んでいった。
1匹だけはぐれて食事をしているブリリアントバッファローに、スズは迷わずファイヤーボールで攻撃を仕掛ける。
顔面にドンッとぶつけられたブリリアントバッファローは、ゆっくりと振り向き、スズを睨みつけた。
口の中に入っている草をムシャムシャ食べた後、動き出す。
情報通り、ブリリアントバッファローにダメージは全く通っていない。
食事の邪魔をされてイライラしただけだ。
樽のような足を小刻みに動かして、スズに向かって走り始める。
意外に早く、自転車を立ちこぎしているくらいの速さで移動していた。
スズはジグザグに動きながら、シロップさんの方に誘導していく。
他のブリリアントバッファローを巻き込まないように、辺りを見回しつつ慎重に行動している。
惹き付けるためにファイヤーボールを繰り返し使っているけど、ブリリアントバッファローは避けるそぶりすら見せていない。
何度当たってもスピードを落とすことなく突っ込んでくるから、本当に痛くも痒くもないんだろう。
作戦の衝突ポイントまで誘き出すことに成功したため、シロップさんが動き始める。
身をひそめるようにしゃがみこんでいたシロップさんは、クラウチングスタートを切るように走り出す。
全速力で駆け抜け、全くスピードを緩めることなく、ブリリアントバッファローを真横から殴りかかる!
ドゴーーーーーーンッ
辺りには轟音が鳴り響き、大地が揺れるほどの衝撃が走る。
しかし、ブリリアントバッファローは余裕で耐えきって、こける様子などない。
攻撃力108,000を誇るシロップさんの攻撃で、50cmほど横にずれただけ。
まだまだ余裕だと言わんばかりの涼しい顔をしているように見える。
なんて筋肉をしてやがるんだ。
しかも、殴りかかったシロップさんに土魔法で攻撃を仕掛けてきた。
縦横ともに1mほどの巨大な岩を一瞬で頭上に3つ生成し、シロップさんに投げつける。
華麗にバックステップで3つとも避け、スズと一緒に戦闘離脱。
攻撃しにくそうなフォルムだとは思ったけど、あの筋肉は全て防御のためなのか。
巨体なだけに魔法攻撃はないと思ってたから、ビックリしたよ。
2人は僕の元まで戻って来た。
「予想外、あの攻撃でノーダメージ。撤退しよう」
「手が痛かったよ~」
硬すぎるブリリアントバッファローに手が痺れてしまったのか、シロップさんの手は少し痙攣していた。
まさかこんな化け物だとは。
メンタルが弱いだけと勘違いしていたよ。
だが、こういう絶対防御を持っている敵には、トリッキータイプの僕の出番だろう。
パワーでなぎ倒す必要はない、こかせばいいんだから。
「僕も戦ってみてもいい? 遠くから攻撃してみたいんだ」
「別に構わない。でも、ブリリアントバッファローの魔法は強力。シロップに運んでもらうといい」
僕はシロップさんに抱かれて、クンカクンカマシーンを装着した。
シロップさんはいつだってブレない。
ブリリアントバッファローが近付いて来るのに、まずやることはクンカクンカだ。
それで落ち着きを取り戻す僕も頭がおかしい同類だろう。
クンカクンカでエネルギー補充をしたシロップさんに、20mの距離まで運んでもらった。
これより近付けば、土魔法が飛んでくるのかもしれない。
ブリリアントバッファローと同じ速度で後退しながら、同じ距離を保ち続けている。
そのままブリリアントバッファローの進行方向に、マヨネーズの塊を発射する。
恥ずかしいから言わないけど、『マヨネーズ
ドンッドンッ べちゃべちゃ
ブリリアントバッファローはバレバレのマヨネーズ
樽のように接地面の大きい手足のため、油分が多いマヨネーズでも滑らないと思っているんだろう。
いや、2本足の人間と違い、4本足だと踏んでこけるという発想すらないのかもしれない。
真っ直ぐ僕らだけを見据えたまま、マヨネーズエリアに足を踏み込む。
ツルッ すてーん
その時だ!!
ブリリアントバッファローの手足だった樽が、4つとも外れてゴロゴロと転がってきたんだ。
見たことあるだろうか、いきなり動物の手足が外れて、転がってくる衝撃的な光景を。
樽みたいな見た目をしてるから、なんとなく受け入れることができる不思議な感覚。
こけた本体は本当にショックだったのか、両目から一粒の涙を流し、そのまま目を閉じて動かなくなった。
体の構造を知っていたシロップさんは冷静に僕をおろして、転がってきた樽を受け止める。
僕はその手足を観察してみたけど、やっぱり樽にしか見えなかった。
「これはどういう仕組みなんですか? 手足が転がってきましたよ」
「こけちゃうと~、いじけて手足が取れるんだよ~。そのショックで死んじゃうの~」
「不思議な、魔物ですね……」
難しく考えないことにした。
世の中不思議なことっていっぱいあるからね。
こういうのって突っ込んだら負けだと思うんだ。
スズが拗ねたような表情で近付いて来る。
「タツヤが勝てるのに、勝てないのが悔しい」
僕がゴブリン以下のザコ冒険者って知ってるもんね。
なんか……ごめんね?
「相性の問題だから仕方ないよ。マヨネーズは油分が多いから、こけやすいもん」
「それじゃあさ~、地面にマヨネーズいっぱい撒いて~、一気にこかそうよ~」
「「 ……… 」」
ちょっと面白そうと思って、地面にマヨネーズを撒きまくった。
せっかくだから、大きめの25mプールをイメージして作ってみたよ。
第8レーンまでキッチリ再現したマヨネーズプールを4つ作成すると、高原がマヨネーズだらけになってしまった。
本当に申し訳ない。
醤油による環境破壊を反省したつもりだったけど、またやってしまったよ。
調子に乗ったのは僕だけじゃなかったようで、スズとシロップさんは楽しそうにブリリアントバッファローの群れに攻撃している。
さっき倒せなかった恨みからか、スズはガチで突っ込んでいって、土魔法で反撃されてるけど。
結局、釣った数はおよそ50体。
地鳴りのような音をたてて、小刻みに足を動かすブリリアントバッファローが走ってくる。
僕達はマヨネーズプールを踏んでもらえるような場所で待ち構えた。
「ブリリアントバッファローが50匹も襲ってくる。ちょっと怖い。王都で戦った黒ローブよりも怖い」
スズは本当に怖いんだろう。
体をブルブルと震わせ、天に祈るように両手を合わせている。
「こんなのが街を襲ってきたら~、国が滅亡する大災害だよね~」
シロップさんは僕を持ち上げたまま、結果を見守っているよ。
スズが魔物に怯える姿が初めてで、僕もちょっと怖くなってきた。
でも、女の子っぽくて可愛いと思う。
呑気なことを考えていると、ブリリアントバッファローの戦闘集団がマヨネーズプールに差し掛かる。
綺麗に横1列になって、第1レーン~第8レーンを疾走していく。
ツルッ すてーん ツルッ すてーん
ツルッ すてーん ツルッ すてーん
ツルッ すてーん ツルッ すてーん
ツルッ すてーん ツルッ すてーん
肩の力が抜けるように、僕達はホッと安堵した。
ブリリアントバッファローは、例外なくマヨネーズに弱いみたいだ。
しかし、大事ことを忘れていた。
いじけたブリリアントバッファローの手足が取れて、大量に転がってきたんだ。
物凄い勢いで、次々に手足が転がって来る。
マヨネーズの油分で加速する手足の群れは、樽を落として攻撃してくるゲームのようだった。
スズは祈りをやめて、急いで手足を集め始める。
さすがにシロップさんも混乱したんだろう。
持っている僕をどうしようか迷って、スズが拾って立てておいた手足に投げ捨てた。
投げられた僕は手足の山にクリーンヒット。
ボウリングなら、見事にストライクだったよ。
しかし、ブリリアントバッファローの手足は待ってくれない。
次々にブリリアントバッファロー達が転んでいるので、どんどん手足が流れてくる。
転がって来る手足を懸命に拾うスズとシロップさん。
手足にぶつけられた腰を押さえながら、アイテムボックスにしまう僕。
僕達は合計200本の手足が転がって来るのを、まるでミニゲームのように頑張って集め続けた。
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