第87話:妹より食欲を優先した罪は重い

 フィオナさんのナデナデが終わると、急いでキッチンへ向かった。


 今日は朝から、リーンベルさんのバスタオル姿、スズとのハグ、フィオナさんのナデナデと、変態パワーが蓄積し続けている

 心臓が爆発する前に、食事会の料理にぶち込んで処理するしかない。


 僕は急いで、果物を贅沢に使ったゼリーを作っていく。


 1.モモパンティをギュッと絞って100%のモモジュースを作る

 2.ゼラチンをお湯で溶かして、混ぜ入れる

 3.容器に取り分けて、皮と種を取り除いたモモパンティの果肉を入れる

 4.固まるまで冷やしたら、完成


 これを『パックリマンゴー』でも作る。


 贅沢すぎてもったいない気もするけど、最高のデザートを作るためだ。

 変態パワーで暴走している僕は全力で作り続けていく。


 特にモモパンティへの愛情は強い。

 フィオナさんのおしr……何でもない。

 フィオナさんが桃色のぱんt……何でもない。

 ……フィオナさんの体の一部を思いながら、モモパンティを握りつぶす。


 極限に達している変態パワーのおかげで、繊維すら残らずモモのジュースになった。


 パックリマンゴーも激しく握り潰したよ。

 女の子のマウントを取らない僕は、こういうところでマウントを取っていくんだ。


 さっき抱きしめてくれたスズを思いだし、じっくりと搾り取っていく。

 なぜか優越感が溢れ出してくるよ。 


 作ったゼリーは、魔石冷蔵庫に入れて冷やせばオッケーだ。

 念のため、『食べるの禁止』の紙も貼っておいた。


 冷やしている時間に焼き鳥の準備もしよう。

 竹串に肉とネギを刺しまくって、タレを作るだけなんだけどね。



 いったん区切りがついたところで、ギルドへ行ってリーンベルさんに報告する。

 ギルドに入ると、明らかにリーンベルさんが浮いていた。

 どうやら昨日の影響で肩身が狭いようだ。


 僕はリーンベルさんに近づいて、小声で話そうとすると、


「…………ぐっ…………」


 どうしたんだろう、必死で何かに耐えている。

 口をギュッと結んで、歯を食いしばっている。


 あっ、良い匂いがするけど我慢してるのか。


「偉いですね、今回は頑張って耐えましたね」


「…………………ハァハァ。キミ……だけだよ……褒めてくれるのは」


 変なところで株が上がった。


「2人はまだ怒ってるんですか?」


「昨日よりはマシって感じだけど、まだ視線が痛い……です」


「一応こっちは準備の目処が立ちましたよ。スズが思ったより怒ってて、無理矢理説得しました。その結果、リーンベルさんへ厳しい罰を与えることで仲直りすることになりました。すいません、うまく慰めることができなくて」


「ううん、大丈夫。スズが許してくれるなら、それでいいよ。どんな罰でも受け入れようと思うから」


 リーンベルさんも食べられるように協力はしよう。

 スズがかなり怒ってたから保証はできないけど。


 焼き鳥のアロマにしっかり耐えて、自分を見失わないでね。


「今からヴェロニカさんを買収しますね。明日のお昼に3人とも余分に休憩もらえないか、交渉してみます。それまではスズと顔を合わせられないと思うので、今日の夜ごはんは自分で食べてくださいね」


「……は、はい、わかりました」


 ここで少しごはんを渡してあげたいけど、我慢できそうにないから上げることができない。

 仕事中にもう1度そんなことしたら、絶対にアウトだからね。

 頑張って耐えてください。


 僕はコッソリと受付の中に侵入し、サブマスのヴェロニカさんを手招きする。


「ヴェロニカさん、ちょっとお願いがあるんです。明日のお昼に、受付3人とも余分に休憩を取らせてもらえませんか?」


「いくら神の頼みとは言え、3人まとめてというのは……」


 呼び方が『クッキー様』から『神』へ昇格しましたね。

 嬉しいのかどうかわかりませんよ。


「そうですか、残念です。以前開発した、濃厚なお菓子『トリュフチョコレート』っていうのがありましてね。作るのは手間がかかってしまうし、在庫も残り僅か。国王がおいしすぎて、気絶したほどの物なんですが……」


「神よ、明日のお昼休憩は3人とも3時間取りましょう」


「さすがヴェロニカさんですね。今1つお渡しして、明日皆さんの休憩が終わってから、もう1つお渡ししますね。間違いなく気絶するおいしさですから、気を付けてください」


「ははっ」


 扱いやすい大人は素晴らしいね。

 ヴェロニカさんにトリュフを1つ渡す。


「こ、これが国王ですら気絶した伝説のお菓子……」


 バタッ


 伝説かどうかはわからないけど、幸せそうな顔で倒れてるからいいよね。

 よし、このまま置いていこう。

 ヴェロニカさんと僕の関係は、すごくドライなんだ。


 リーンベルさんの元に行って報告をする。


「OK取れましたので、2人を誘っておいてくださいね」


「あの~、どうやって誘えばいいですか? 会話の始め方がわからなくて……」


 あなたはどうしてしまったんですか。

 僕と出会った時の天使リーンベルさんは、いったいどこへ行ってしまったのか。

 何もできない子供のようになっていますよ。


 早く失ったお姉ちゃん属性を取り戻してください。

 いじけてる姿も可愛いですけどね。


「普通でいいんですよ。マールさん、アカネさん、ちょっといいですか?」


 2人の名前を呼ぶだけで、リーンベルさんは尋常じゃないほど挙動不審になってしまう。

 椅子に座ったまま、高速で阿波踊りを踊っているんだ。

 混乱しすぎだよ。


 マールさんとアカネさんは、気にする様子もなく近づいてくる。


「明日、リーンベルさんと一緒にお昼ごはんを食べるんですけど、一緒にどうですか?」


 リーンベルさんは必死に両手を合わせて、『お願いします! お願いします!』と、ジェスチャーを送っている。

 目をギュッとつぶって、声は全く出ていない。

 それを見た2人は、声を出さずに笑っている。


「わかったわ」


「ボクもいいよ」


 マールさんもアカネさんも怒ってないね。

 多分リーンベルさんが怯えすぎて、怒っているように感じているだけだろう。

 スズのような感じじゃなければ、それでいい。


 女性の先輩後輩関係って、すごく複雑そうだからね……。


 2人が自分の受付に戻ると、リーンベルさんはぐったりしていた。

 大丈夫か心配になりながらも、僕はギルドを後にした。


 家に帰ると、早速準備に戻る。

 大量のごはんを炊いて、いつでも食べられる準備を始めていく。


 一応リーンベルさんも食べられるという前提で作っておこう。

 スズ次第だけど、途中で許可がおりると思うから。

 泣きわめくリーンベルさんの前で、スズが食べ続けられるはずがないもん。


 スズはとても優しい子だって知ってるから。

 ……た、たぶん。



- 翌日の正午 -



 冷蔵庫に冷やしておいたゼリーを2人分だけ残して、残りはすべて回収する。

 フィオナさんとシロップさんにお昼ごはん(ホットドッグとサンドウィッチ)を渡して、スズと一緒にギルドへ向かった。


 今から親子丼と焼き鳥を食べるけど、今日の夜ごはんも同じメニューにするつもりだ。

 シロップさんとフィオナさんの2人が食べられなくなっちゃうからね。


 ギルドへ向かう道中、明らかにスズの足取りが重かった。

 リーンベルさんと喧嘩中だから、会うのが気まずいのかもしれない。

 それとも、やっぱり許せないのか……。


「リーンベルさんのこと、まだ怒ってるの?」


「怒っていない、厳しい罰で許す。でも、それで治るか心配」


 リーンベルさんにとっては厳しい罰になるだろうけど、治るかは微妙だよね。

 一応、昨日も我慢してたから反省はしてるけど。


 ギルドに着くと、ヴェロニカさんが受付カウンターに座っていた。

 受付の3人はすでに休憩に入っていて、近くのテーブルで3人とも休んでいる。


 マールさんとアカネさんの2人は仲良くしゃべっているけど、リーンベルさんはうつむいたまま、イジイジと手を動かしていた。

 どうやらまだ2人との距離感がわからないみたいだ。


 スズと一緒に3人の方へ近付いていくと、リーンベルさんがスズに気付いた。

 すると、ものすごい勢いでスライディング土下座をかました。

 全員が呆気に取られてしまう。


「スズ様、すみません、許してください。お願いします、何でもします。ごめんなさい、本当にごめんなさい」


 スズは口がポカンと開いたまま、姉の唐突な土下座に驚いている。

 リーンベルさんはオデコを地面に付けたまま、スズの反応を待っていた。

 スズは固まっていたのでトントンっと肩を叩いて、正気に戻してあげる。


「お姉ちゃん、もう怒っていない。私も言い過ぎた。でも、厳しい罰は受けてもらう」


「……それで許してくれるんだよね?」


「うん」


 今から何が起こるかわかっている僕としては、少し複雑な気分だ。

 リーンベルさんが耐えてくれることを祈ろう。

 僕達5人はその場を後にして、街の外へ歩いていく。



 南門から出て南東の森を5分ほど歩くと、大きな湖がある。

 景色もきれいで遠足のような気分になれる場所だ。

 今回はそこで、大自然を感じながら優雅に食事をしようと思っている。


 スズ、マールさん、アカネさんを先頭にして、歩き進んでいく。

 2人に嫌われたと思っているビビりリーンベルさんは、僕と一緒に遅れて歩いている。

 さっきから「大丈夫かな、大丈夫かな」と、ずっと不安な言葉を口にしてばかり。


 誰も怒っていないから、ただ厳しい罰を受けに行くだけだよ。

 人のことより自分の心配をしてくださいね。


 湖に着いたら、テーブルと椅子をアイテムボックスから取り出して、4人に座ってもらった。


「一応お伝えしておきますが、言い出しっぺはリーンベルさんです」


 マールさんとアカネさんがリーンベルさんを見ると「ヒィィィ、ごめんなさい」と両手を合わせて謝っている。


「リーンベルさん的には、食事会をするから仲直りをしてくださいって形になります。準備をしたのは僕ですけど、後で報酬をもらいますから気にしないでください。反省しているみたいなので、許してあげてくださいね」


 二人とも全然怒ってないけどね。

 さっきからリーンベルさんに見つからないように、2人ともコソコソ笑ってるもん。 


「それで、さっきもスズが言ってたんですけど、厳しい罰を与えることになりました。マールさんもアカネさんも協力してください。少しでもリーンベルさんが食欲を抑えられるようになってほしいので」


 アイテムボックスからロープを取り出し、スズに手渡す。

 スズはAランク冒険者の凄まじい動きで、リーンベルさんを椅子に縛り付けていった。


「厳しい罰の内容をお伝えしていませんでしたね。今からリーンベルさんは、お昼ごはんを食べずに見学をしてください。香りだけ楽しんで、充分に反省してくださいね」


 リーンベルさんは思っていた罰と違っていたのか、縛られたまま固まってしまった。


「お姉ちゃん、文句は言わせない。妹より食欲を優先した罪は重い」

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