第5章 残念リーンベルさん
第80話:フリージアへ帰ろう
- 翌日 -
フリージアに帰るため、国王に挨拶へ向かう。
国王は城でハンバーグも食べられるようになったため、朝から上機嫌だ。
「フィオナは仮にも王女だ。新しい家の近くに暗部を住まわせることになる。日常生活に干渉をするつもりはないから、気にしないでくれ」
「わかりました、ありがとうございます」
「フリージアまで馬車を用意しておいたぞ。騎士団の護衛も付けるから、のんびりと街まで帰るといい」
王女様と一緒に行くんだし、当然といえば当然か。
そんな人と醤油戦士が結婚するなんて、夢のような話だよ。
サラちゃんにも別れを告げに行くと「またねー、バイバーイ」と、やっぱりアッサリしていた。
昨日の焼き鳥で好感度が上がったと思ったのに。
次に王妃様の部屋へ向かうと、なぜか「1人ずつ顔を出してほしい」と頼まれた。
先にフィオナさんが入っていき、しばらく経つと赤面して戻ってくる。
次にスズが入っていくと、同じように赤面して戻って来た。
どんな恥ずかしいプレイが行われているのか、楽しみで仕方がない。
最後に緊張しながら僕が入り、王妃様の向かい側の椅子に座る。
「あなたは少し鈍感な気がしますから、お伝えしておきます。フィオナもスズも、あなたのことをとても好いています。サラはあげませんから、フィオナで我慢してくださいね」
なんで王妃様までロリコン認定してくるのかな。
サラちゃんに恋愛感情なんてありませんよ。
「義理の妹としか見ていません。正直、フィオナさんの積極的なアプローチで骨抜きにされていますから。頭の中もフィオナさんでいっぱいです」
「それを聞いて安心しました。あの子は意外に寂しがり屋なので、できるだけ構ってあげてくださいね。夜はぬいぐるみを抱かないと寝れないような子ですから」
ぬいぐるみの代わりに僕を抱いてくれないかな。
腕でギュッと抱きしめられたまま、一夜を共に過ごしたい。
「ちなみに、フィオナさんが好きな物ってなんですか? プレゼントすることがあるかもしれませんので、参考にしたいんですけど」
「あの子は妹を溺愛していましたが、城に戻ってからはあなたのことばかり考えています。プレゼントよりも、話し相手になってあげてください。あと、異常なほど世話好きですから、気を付けてくださいね」
もうすでにシーシーを手伝われそうになりましたよ。
寝ている間に体も洗ってもらったようですし……。
でも、そんなに好きでいてくれるなら、ヘタレの僕でも安心できますね。
王妃様の部屋を後にして、2人と合流した。
フィオナさんが僕のことを好きだと意識すると、うまく顔を合わせることができない。
どうしたら好きな人と素直に向き合うことができるんだろうか。
あぁぁぁぁ、チラッと見られるだけで心臓がはち切れそうだ。
恥ずかしくなった僕は、1人だけぎこちない足取りで歩いていく。
次に向かったのは、
部屋に着いて中へ入ってみると、4人ともボケーッとしていた。
「カイルさん、僕達はフリージアへ帰りますね」
「おぉ、そうか、フリージアにはボスがいるもんな。
俺達もついて行きたいところだが、王都に残ることにするよ。
城でうまい飯が食えるようになったし、Sランクで英雄扱いされちまってるからな。
ここに残って活動していた方が、他の奴らも安心するだろう」
ボス……? あぁ、リーンベルさんのことか。
「そうなんですよ、リーンベルさんが家の壁を食べていないか心配で」
「そんなことはないだろ、って言えないのがボスだよな。正直、俺達でも1か月食えないってなると、かなりキツイ。早く帰って食わせてやった方がいい。代わりと言ってはなんだが、シロップをショコラに入れてやってくれないか?」
「シロップさんをですか? 全然大丈夫ですけど、
「あぁ、リリアの遺言でもあるからな、痛ッ」
リリアさんが珍しくカイルさんに蹴りでツッコミを入れた。
しかも、ガチの蹴りだ。
暴力といっても過言ではないほどのスピード。
「簡単にいえば、シロップの匂い嗅ぎに耐えられるのはお前しかいないんだよ。この間なんて自分から膝の上に座りに行っただろ。あんな光景は初めてみたから、全員が驚いたぞ」
あれって羨ましいから見てたわけじゃなかったんだ。
普通は可愛い女性の膝の上に座るなんて、お金を払う案件だよ。
オプションでスリスリ、クンカクンカ、ハグが付いてくるし。
この世界の人って変わってるよね。
シロップさんから逃げちゃった子供は、将来絶対に後悔すると思うよ。
「まだ子供なんで人肌恋しい時間が多いんですよ、まだ子供なんで」
子供アピールしておけば許されると思い、余分にアピールしておいた。
実際に見た目は10歳の子供だし、今の言葉でフィオナさんがもっと積極的になってくれるかもしれない。
帰りの馬車が早くも楽しみである。
「たっちゃん、スズちゃん、フィオナちゃん。これからよろしくね~」
シロップさんはふわふわした感じで、アッサリ仲間に入った。
本当にシロップさんが
ショコラ的には何も問題はないけど、
「カイルさん、これから3人パーティになるんですよね。ザックさんは声が出なくて話せませんし、リリアさんは寡黙な方で話しません。シロップさんが抜けたら、会話がなくなりますけど大丈夫ですか?」
「「「 ……… 」」」
アイコンタクトで会話をしているような雰囲気だ。
「シロップ、
「戻らないよ~」
本人の意思を尊重することは大切だ。
真顔で見つめ合う
城門前に向かうと、すでに馬車が用意されていて、ファインさんが待っていてくれた。
そのまま馬車に乗り込み、フリージアへ向けて出発していく。
- 1週間後の昼過ぎ -
1か月以上離れていたフリージアに、ようやく戻ってくることができた。
故郷というわけでもないけど、僕にとっては異世界の拠点だから、ホッとするような気持ちになるよ。
馬車の旅は相変わらず快適だった。
シロップさんとフィオナさんの膝の上に座り続けていただけで、1週間も経っていたからね。
フィオナさんの愛のあるハグも好き。
シロップさんの欲望にまみれたスリスリとクンカクンカも好き。
胸はフィオナさんの方が大きいけど、背中おっぱいに優劣など付けられない。引き分けだ。
スズは膝の上に座らせてくれないけど、馬車が休憩する度に手を繋いできたよ。
1度だけみんなが見ていないところで、いきなり甘噛みをしてきたこともあった。
一瞬で気絶しちゃったよね。
スズさんに不意をついて攻められたら、1秒も持たなくて当然だよ。
それが自然の摂理ってもんさ。
心の準備をさせてくれたら、僕だって頑張るんだけど。
気合を入れて3秒は耐えてみせる!
……ごめん、見栄を張った、本当は2秒までしか自信がない。
馬車の護衛をしてくれたファインさん達は、少しフリージアで滞在して、城へ戻る予定だそうだ。
お礼を言って、街の中で別れる。
それから僕達4人は、2手に分かれることにした。
僕とスズはギルドへ向かい、リーンベルさんに顔を出す。
シロップさんとフィオナさんは、先に新しい家へ向かう。
ちなみに、フィオナさんは変装するために赤いメガネをかけている。
色っぽさが上がっただけに感じるのは気のせいだろうか。
イケナイ年上のお姉さんオーラが滲み出ているんだ。
あれでトイレに連れ込まれたら、シーシーを守れる自信がない。
メガネだけで変装はできないと思うけど、街の人はフィオナさんを王女と疑う者はいない。
きっと特殊な魔法が掛けられているんだろうけど、32万の高すぎる精神が上回っているんだろう。
強靭なメンタルが無駄に効力を発揮して、反応に困ってしまうよ。
フィオナさんとシロップさんを見送った後、スズと一緒にギルドへ向かう。
馬車の中で甘い時間を過ごしまくったけど、久しぶりのリーンベルさんにドキドキする。
スタンピードで寝込んでたって連絡がいってるだろうし、すごい心配してくれているはず。
「心配したんだよ……」と言いながら、スズみたいに泣くかもしれない。
「待ってたんだから……」とギュッと抱きしめられ、なかなか離してくれないかもしれない。
「1か月ぶりで、うまく話せないよ……」と、恋に発展しているかもしれない。
クソッ、ドキドキがワクワクで妄想が拡がるぜ!
「久しぶりのフリージアだね。スズはお姉ちゃんと会うの楽しみ?」
「うん、楽しみ。心配してるだろうから、泣かれないように気を付けて」
ですよね、ですよね。
妹のスズさんが言うんなら間違いない。
自然と笑みがこぼれてきちゃうよ。
「気を付けようがないと思うけどね。余計な心配をかけないように、スズがやられかけたことは内緒にしておいた方がいいよね?」
「うん、そこまで情報は入らないはず。フィオナとシロップの件もあるし、家の件もある。お姉ちゃんと一緒に過ごしたい。お風呂も一緒に入りたい」
1か月しか経ってないとはいえ、随分いろんなことがあった。
リーンベルさんに話すことはたくさんある。
でも、それよりも顔を見てホッとしたい気持ちが強い。
「久しぶりだから楽しみだよね。また『なんで無茶しちゃうのかなー』って怒られそうだけど」
「ニコニコ笑いながら怒ってきそう。あの時のお姉ちゃんは怖い」
リーンベルさんのことを話しながら歩いていると、気付けばギルドに着いていた。
扉を開けると、昼休みでマールさんしかいなかったけど。
マールさんはマールさんで可愛いから好きだよ。
貧乳なとこもいいし、いつでも元気だから楽しくなっちゃうもん。
貴重なボクっ子属性持ちだし。
僕達に気付いてくれたマールさんは、元気に手を振ってくれた。
「おかえりー!」
「「ただいまー」」
「活躍は聞いてるよ。ずいぶん出世しちゃったね~。ボクは遠い存在になったみたいで悲しいよ」
わざとらしく泣くような仕草を作ってくれるのが、また可愛い。
「そうでもないですよ。僕はサポートしただけで、直接戦闘はしていませんし」
「そんなこと言っちゃってー、英雄のくせに~」
味噌を出しただけで英雄と呼ばれるのは恥ずかしい。
それに関しては、あの……すみません。
そのまま3人で雑談していると、王都で起こったことを色々聞かれた。
僕が目覚めなかった情報も入っていたため、マールさんも心配してくれたらしい。
お世辞でも可愛いマールさんにそんなことを言ってもらえると、嬉しくて仕方がないよ。
誰とも壁を作らないマールさんの話し方に、久しぶりとは思えないほど会話が盛り上がった。
そこにお昼休みが終わったリーンベルさんがやってくる。
「あっ、ベル先輩! 2人が帰ってきましたよ」
「おk『ぐぅ~』」
「「「 ……… 」」」
あれ? この展開は……嫌な予感がするんだけど。
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