第75話:ピッタリサイズ

 ついついドヤ顔でステータスを見せたら、異世界人であることまでバレてしまった。

 スキル【異世界言語】を持ってるからね。


 ハッハッハ、ちゃんと説明するので変な目で見ないでください。

 32歳のオッサンが小型化しただけです。

 若返りなんてよくあることですよ。

 最近だと、性別が変わっちゃう変態さんもいらっしゃいますからね。


 それから自分のことをしぶしぶ話し続けることになった。



・異世界からやってきたこと(若返ったことは言ってない)

・なぜ異世界に来たのか理由がわからないこと

・気が付けば人からハイエルフになっていたこと

・この世界にやってきて数か月しか経ってないこと

・僕が作った料理とお菓子はステータスが上がること



「それともう1つ気になることがあります。スズにも言うの忘れてたんだけど、実は……」



・オーガに襲われたフィオナさんを助ける時に胸騒ぎがしたこと

・胸騒ぎが2時間近く前に起こり、フィオナさんの元に呼ばれているように感じたこと

・ハイエルフの血と胸騒ぎが関係していると思うこと

・今回も同じように胸騒ぎが起こったこと



「もしかしたら、神獣とハイエルフの血が反応しているのかもしれません」


 僕は真面目な話をしたつもりだったんだけど、フィオナさんは途中からモジモジし始めた。

 どうやら1人で妄想モードに突入してしまったみたいだ。

 今はほっぺたに両手を添えて、とても恥ずかしそうにしている。


「私とタツヤさんは、運命のように引き寄せられたんですね。きっと小指に赤い糸が付いていて、私が引っ張ってしまったんでしょう。その興奮が胸騒ぎとなって、心を締め付け……」


 そういう妄想は父親の前でやらないでね。

 国王はメンタルが強いから気にしている様子はないけど、僕が気になって仕方がないよ。


 父親の前でイチャイチャする勇気はないんだ。

 電車の中でチュッチュする恋人ぐらい難易度が高いよ。


「フィオナが神獣と出会ってからワシも色々調べたが、もう1度調べなおしてみよう。何かあったら連絡するし、困った時はサポートもする。気軽に声をかけてくれ。あと、不死鳥フェニックスの4人が異常な活躍をしたのは、ユニークスキルのおかげか?」


「えっと、不死鳥フェニックスの4人が頑張った部分は大きいですよ。スタンピードが始まる10分前に、料理は食べてもらいましたけど。口外しないように約束していますから、誤魔化してくれていると思います」


 妄想から帰ってきたのか、フィオナさんがクスッと笑った。


「確かに広めない方がいいですね。危険を伴うことになりそうです。あのステータスではあっさり負けてしまいますもの」


「笑わないでくださいよ、僕だってレベル1で成長が止まってて、困惑してるんですから。世界が危険だというのに、肝心のハイエルフがゴブリン以下のステータスって、どういうことなのか聞きたいくらいですよ」


「ふふふ、いいではないですか。弱くて可愛い男の子なんて、愛おしくてたまりません。それなのに、2度も命を助けてくださるなんて……いいですわ!」


 フィオナさんの真面目っぽい印象はどこにいったんだろう。

 どうやら再び変態モードに突入してしまったようだ。

 愛情が高まってくれる分には嬉しいんだけどさ。


 いっぱい可愛がってもらいたいし……いろんな意味で。


 やっぱり国王はフィオナさんの反応を気にする様子はなかった。

 精神32万の僕とは比べ物にならないほどの強メンタルだ。


「ハイエルフの末裔と聞かれた時はどうしようと思っていたが、まさか本人だとは。だが、それなら気を付けてくれ。まだ他にもダークエルフがいるとワシは考えておる。今は国際的なテロ組織という扱いにして、獣人国に協力要請している。その関係でまだ仕事が残っておるから、ワシは席を外すぞ」


 そう言った国王は椅子から立ち上がり、足早に部屋を出ていった。

 長時間話しこんじゃったけど、本当に忙しかったんだろう。


 今度またおいしいものを作ってあげるね、パパ。


「不思議な方だとは思っていましたが、異世界人だったのですね」


「……嫌いに、なりましたか?」


「大好きですよ、出会った時からずっと。本当に好いているのですから、もっと私に振り向いてください。スズばかりに愛情がいっていますよ」


 そういうの言われたら、一瞬で恋に落ちちゃうイチコロな男ですよ。

 すでに振り向きまくっているのに、まだ欲しいんですか?

 フィオナさんって、意外に欲しがりさんなんですね。


 でも、僕は32年間待ち続けた待ち専門です。

 だから、好きなタイミングで奇襲をかけて来てください。


 トイレ以外で。


「フィオナは思っている以上に本気。一緒に看病してきた私はわかる。2人で体を洗うのを取り合った」


 はい、タイムアウト入りまーす。


 この火猫は不意に恐ろしいワードをぶち込んでくるから、本当に困る。

 いま「僕の体を洗った」って言わなかったか。

 看病されている間に体を洗われた記憶なんて1度もないよ。

 君達は僕が目を覚まさない間に、どんな看病をしていたんだ。


 正直めちゃくちゃありがたいことだと思う。

 ありがとうございますと、全力で土下座して感謝したいほどに。


 けど、僕にも準備をさせてほしい。

 だって、僕のサイズってかなり小さめだから……。


 小さい時って、歯ブラシに出す歯磨き粉ぐらいしかないし。

 元気になっても、簡単に手で隠れちゃう…って、おい!

 な、何を言わせるんだ、恥ずかしい。


「あの~、体を洗うとは?」


「初日はスズも力を使いすぎてダウンしてたので、独り占めできたのです。2日目からタツヤさんが目覚めるまでは、2人で体を洗いましたよ。1日置きで前と後ろを交代して洗いました。私は前も後ろもどちらも好きですよ。その……小さくて可愛いと思いましたし、愛おしかったですよ」


 なんでそんな恥ずかしそうに言うのかな。

 何が小さかったのか詳しく聞いてみたいよ。

 ハッキリ言ってもらった方が楽になるから。


「私は小さくても気にしない。大きくなったら私の手に納まるピッタリサイズだった。相性がいいのかもしれない。それに、前から私のことを見て膨らんでいる。手を繋いだときも膨らみっぱなしだった。むしろ、膨らんでいない時間は滅多にない。大丈夫、私たちは相性がいい、小さくても問題はない」


 君の手にピッタリサイズか。

 そいつは相性ピッタリだ、ハハハ。

 よく見ると君の手はけっこう小さいから、改めて現実にビックリしているよ。

 でも、君との相性が良いのであれば気にしない。


 今の君の発言ですごい自信がなくなったから、ちゃんと責任は取ってくれよ。


「スズ! 膨らむ話について詳しく聞かせてください!」


「聞かなくていいですよ!」


 心臓が猛スピードで動くんだから、そりゃ終始膨らみますよ。

 あなたの膝の上に座らせてもらった1週間は、朝から晩まで元気でしたから。

 というか、フィオナさんって意外に変態ですよね。

 僕としてはそういう変態さんの方が助かりますから、別にいいんですけど。


 いや、でも何の話か言及していないのに、変態と決めつけるのは失礼だ。

 僕が思っているものと違うかもしれないし。

 だって、人の体で膨らむものってたくさんあるからね。


 鼻ちょうちんでしょ、肺でしょ、ほっぺたでしょ。

 僕は子供だから、夢もいっぱい膨らんじゃうよ。


「聞かなくてもすぐにわかる。言葉でも一瞬で反応するから。なんだったら、いm「ストーーーップ!」」


 目線を1番危険な場所に送ってこないで!

 フィオナさんがモジモジし始めた頃から、僕は最高に膨らんでいるよ。

 小さいから気付かれにくい……けど、さ……。

 いや、うん、なんでもない。


 それにしても、スズはいったいどこまで知っているんだろう。

 基本へっぴり腰で過ごしているのもバレてるのかな。


 じゃあ、興奮しまくってるの知ってて、部屋では薄着で接してくれてたの?

 なんなのそれは、作戦なの?

 だとしたら、その作戦は有効すぎるよ。

 僕なんて「好き」って言われたらシャキーン! だからね。


 フィ、フィオナさん、しゃがんで確認しないで……。

 さすがに恥ずかしいから。


 ここは話題を変えよう。


「そ、そういえばリーンベルさんは元気かな? 心配かけてるよね」


「………忘れてた」


 えっ、スズさん? 忘れてたとは?


「タツヤが起きたら連絡するって言っておいた。ギルドに行って連絡してくる」


 話題を逸らすどころか、スズさんを追い出す形になってしまった。

 でも、今はそれで正解だ。

 フィオナさんの前で膨らむ話を続けてほしくない。


 だから、もうそれ以上しゃがんだまま観察しないで……。


 スズと入れ替わるように、不死鳥フェニックスの3人が来てくれた。

 そのおかげでフィオナさんの観察プレイが終わりを迎える。


 続きは今晩にでもお願いします。

 ベッドの上でじっくり観察してください。

 ムードって大事ですからね。


 カイルさんは部屋に入ってくると、フィオナさんがやっていたことが気になったようだ。

 僕の椅子の下を1度覗き込んで、首をかしげていた。


 きっと2人が見ている場所は違っただろう。

 1人は地面、1人は股間だ。


「もう元気になったんだってな」


 お、おう。君も股間を見ていたのか?!

 奇跡的なシンクロはやめてくれ。


「ちょっと痩せちゃったね~」


 あっ、久しぶりのシロップさんに癒される。

 最近ちょっとハードなプレイが目立つからね。

 久しぶりに見る垂れうさ耳に、自然と頬が緩んでしまうよ。


 ニコッと笑顔を作ってくれているものの、シロップさんの目元にはクマがある。

 よく見れば、カイルさんとザックにも同じクマがあった。


 きっと3人ともリリアさんの看病を寝ずに続けているんだろう。

 ちょっと前までスズとフィオナさんも、同じようにクマがあったからね。


「僕はもう大丈夫です。問題なく動ける様にもなりました」


「よかったね~」


 ザックさんもうなずいている。


「リリアさんのお見舞いに行こうと思ってましたけど、具合はどうですか?」


「そうだな、是非来てやってくれ。あいつならクッキーで目を覚ましそうだ。あの時も自分だけクッキーを大量に隠し持っていて、最後まで食べてたからな。どうやらクッキーでステータス3倍になるみたいだぞ」


「え? シロップさんだけじゃなかったんですか? てっきり獣人が覚醒してパワーアップするものだと思ってましたけど」


「どうなんだかな……、俺達もサッパリわからない。寡黙なやつだと思ってたが、最後はベラベラと説教をしてきやがったよ。まったく、目が覚めたら赤面するぐらい話を聞いてやるつもりだ」


 自分の大好物を食べると、ステータスが2倍ではなくて3倍になるのかな。

 いや、それならスズはホロホロ鳥を食べて3倍になるはず。


 うーん、よくわからない。

 料理の効果については、一度研究しないとダメだな。


 でも、ステが3倍に上がっちゃうほどクッキーが好きなら、本当に起きるかもしれない。

 リリアさんは甘いものにめちゃくちゃ弱いし、匂いだけでも飛び起きそうな気がする。


「フィオナさん、リリアさんの部屋でクッキーを焼いてもいいですか? 持ち運びできる魔石オーブンがありますので。クッキーを焼いた時に出る香りで、リリアさんが反応するかもしれません」


「わかりました。彼女は両手にクッキーを持って食べるほど好きでしたからね。本当に目を覚ますかもしれませんね、ふふふ」


 冗談なのか本気なのかわからなかったけど、みんなが作ることに賛成してくれた。

 少なくとも、リリアさんが喜ぶだろうという思いだけは、全員一致していただろう。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る