第73話:雑炊は回復魔法に含まれますか?

- 1週間後 -


 リハビリ生活のまま1週間が過ぎると、体の調子も随分回復していった。

 体がだる重い程度で、日常生活を過ごす分には問題ないほどに。


 ここまで付きっきりで看病してくれた2人には、本当に感謝の思いでいっぱいだ。

 両想いだったとしても、他人のためになかなかできるものじゃないからね。


 もう少し元気になったら、2人のために新しい料理を作ろうかな。


 この1週間の食事についても、一言いいたい。

 料理長の愛が怖くて、仕方がなかったんだ。

 毎日おかゆにハートマークを書かれたら、さすがに焦るよね。


 普通に話せるようになって聞いてみると、「ハートを書くと治りやすいんです、師匠」と、わけのわからないことを言っていたよ。

 フィオナさんに確認したら、「私とサラの時は刻んだトマトでハートが書かれていました」と、誰にでもやってることがわかった。


 そういう趣味がないなら、先に教えて欲しかったよ。

 ケツを掘られるのかと思って、心臓に悪かったんだから。


 フィオナさんが料理長のことを嫌いな理由って、これが1番の原因だろうね。


 もう自分で料理ができるくらいまで回復したことだし、早速雑炊を作ろうと思う。

 以前、ネネちゃんのお母さんの風邪が雑炊で治ったからね。

 状態異常や病気を治す効果があるのかもしれないんだ。


 今のステータスを確認してみると、


----------------------


 名前:タツヤ

 年齢:10歳

 性別:男性

 種族:ハイエルフ

 状態:衰弱(中)


 Lv:1 (MAX)

 HP:100/100

 MP:0/0


 物理攻撃力:100

 魔法攻撃力:100


 腕力:50

 体力:50

 知力:90

 精神:320000

 敏捷:70

 運:100(MAX)


【スキル】

 アイテムボックス、異世界言語


【ユニークスキル】

 調味料作成:Lv.7 1up new!

(料理調味料:Lv.7 1up new!・お菓子調味料:Lv.7 1up new!)


【称号】

 悲しみの魔法使い、初心な心、パティシエ、クッキーの神様、ニンジンの神様


----------------------


料理調味料:Lv.7

・醤油    ・ソース

・香辛料   ・卵

・塩     ・味噌

・昆布だし  ・鰹だし

・ケチャップ ・マヨネーズ

・料理酒   ・みりん

・ゴマ油   ・片栗粉


お菓子調味料:Lv.7

・砂糖

・チョコレート

・牛乳

・生クリーム

・インスタントコーヒー

・ココアパウダー

・ゼラチン


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 状態が衰弱(中)になっている。

 体がだる重い原因は、おそらくこれだろう。

 雑炊で治ればありがたいんだけど……。


 あと、調味料作成のレベルも上がっているね。

 味噌で足を取っただけなのに、経験値が入ったみたいだ。


 早速雑炊を作ろうと思ったけど、1番大事な材料の『米』を持っていない。

 料理効果のことはスズ以外に言えないし、こっそり買ってきてもらおう。


 そういえば、僕って王族に料理効果のことを話に来たはずだよね。

 スッカリ忘れて帰ろうとしていたよ。

 それ以外にも色々聞きたいことがあるし、スズに相談しようかな。

 でも、まずは雑炊作りからだ。


 近くでお茶を飲んでいるスズに声をかける。


「スズ、雑炊で状態異常が治るか実験したいから、買い物お願いしてもいい?」


「わかった、私も食べたい」


「うん、じゃあお願いね」


 スズはすごい勢いで走っていった。

 そこまで急いで買ってこなくてもいいんだけどね。

 多分、スズは雑炊の味がずっと気になっていたんだろう。


 そういえば、オーガ戦で倒れた時みたいにクッキーをせがまれなかったな。

 今度は本当に僕を見てくれていたんだね。

 ずっと心配して看病してくれてたし。


 スズって本当に僕のことを思ってくれてたんだって実感すると、なんだか嬉しくなっちゃうよ。


「なんで笑ってるの? 雑炊そんなにおいしい?」


「早っ! え、もう買ってきたの?」


 スズはマジックバッグから、土鍋20個と大量の米を出してくれた。


 まだ5分も経ってないのに、どんだけダッシュしたんだよ。

 君は相変わらずハイスペックだよね。

 でも、こんなに買ってきても大量に作らないよ。


 僕は厨房に行かず、部屋でコンロとテーブルを取り出し、作り始めていく。

 以前の要領で雑炊を作るけど、まだ細かい動きに体が付いていかない。

 少し時間をかけながら、ぎこちない動きで調理をしていった。


 出来上がった雑炊を見て、妙に嬉しくなったよ。

 異世界に来て、初めての米だからね。


 スズも香りを嗅いだだけで上機嫌だ。

 鼻歌を口ずさんでいるよ。


 早速テーブルの上を片付けて、2人で食べることにする。


 今まで気付かなかったけど、どうやらスズは猫舌らしい。

 何回も雑炊をふーふーして、なかなか食べ始めようとしない。

 揚げたてのから揚げとかはガツガツ食べてたのに。


 まぁスズは猫っぽいから、猫舌であってもおかしくない。

 でも、そんなにふーふーしなくても大丈夫だよ。

 熱いのは熱いけどね。……熱ッ!!


「やっぱりタツヤの料理が1番落ち着く、おいしい」


「雑炊は優しい味だから落ち着くよね」


 雑炊を食べ始めたスズは、いつものように奇声をあげることはなかった。

 いまは部屋に2人っきりで、おいしく雑炊を食べている。


 スズは雰囲気に流されちゃうタイプなのかな。

 普通の女の子と食事を楽しむみたいで、新鮮な感じがするよ。

 初心うぶな心もドドドドって動き出して、「確かにそうだな」って言ってるみたいだ。


 それにしても、久しぶりの雑炊は思ったより熱いな。

 ネネちゃんのお母さんは、どういう口の構造をしてたんだろうか。

 全速力で食べてたけど、なぜ火傷しなかったんだろう。


 恐ろしく口内が強いとしか考えられないよ。


 僕とスズはゆっくりと食べて、2人で熱さと戦いながら完食した。

 食べ終わってから、再びステータスを確認する。


----------------------


 名前:タツヤ

 年齢:10歳

 性別:男性

 種族:ハイエルフ

 状態:状態異常耐性(1時間)


----------------------


 衰弱(中)が治っているし、体のだる重さも取れている。

 逆に状態異常耐性が付いているぐらいだし、かなり便利な料理かもしれない。

 難点なのは、熱すぎるから食べるのに時間がかかることだ。


「さっきまで衰弱(中)があったんだけど、雑炊で治ったよ」


「回復魔法より強力。やはりユニークスキルは強い」


 コンコン


 スズと話していたら、フィオナさんが部屋に入ってきた。


「体の調子はどうd……クンクン。なんだか、良い匂いがしますね」


 ヤバイ、バレてしまった。

 盗み食いしたわけでも、つまみ食いしたわけでもない。

 治療の一環として料理を作って食べただけだ。


 悪いことをしたわけではない。


 それなのに、なぜいけない気持ちになるんだろうか。

 とりあえず、誤魔化してから考えよう。


「そ、そうかなー?  き、気のせいじゃないかなー? ね、ねぇー? スズ?」


「う、うん。その通りだー。ひ、久しぶりにク、クッキーでも食べよう?」


「そ、そうだよねー。ク、クッキーを3人で食べようではありませんか」


 なんでこんなに演技ができないんだろう。

 スズも酷いけど、僕も酷い。


 挙動不審度100%、誤魔化せない確率99%。


「お体は大丈夫なんですか? クッキー食べてもお腹は平気ですか?」


 1%の奇跡が起こったようだ。

 下手くそな演技で奇跡的に誤魔化せたみたい。

 別に悪いことはしてないけどさ。


「はい、もう大丈夫です。2人ともずっと看病してくれてありがとね」


「お礼はクッキーでいい」


「では、私もお礼のクッキーをいただきましょう。その後で、先ほどの匂いについてお話しましょうか」


 やっぱり誤魔化せてないですよね。

 一度スズとしっかり相談して、どこまで打ち明けるべきか考えよう。

 フィオナさんとは結婚するから、大事なことはあまり隠しておきたくないんだ。


 弱みを握られた後、「言うこと聞かないとバラしましますよ」って、責められるのも嫌いじゃない。


 料理効果のことは伝えるとして、ハイエルフについて悩むんだよね。

 この国はハイエルフと関係があるみたいだし、王族の誰かが同じようにハイエルフの可能性もある。

 黒ローブが言ってた言葉が気になるよ。


 でも、まずはフィオナさんが怒ってるから、コーヒー牛乳をプラスして機嫌を取ろう。

 スズさんもどうぞ、久しぶりのお茶会は楽しくしないと。


「コーヒー牛乳はおいしくいただきますが、先ほどの匂いは別のお話ですよ」


 さすが王女様だ、しっかりしている。

 リーンベルさんだったら、絶対に誤魔化せたのに……。


 スズなんてコーヒー牛乳とクッキーのコンボでめっちゃ和んでるよ。

 久しぶりに食べられて癒されまくってるね。

 君は幸せそうでいいなぁ。


 でも君の幸せそうな顔を見ていると、こっちも幸せになってくるよ。

 ……僕って単純だな。


 ほんわかした雰囲気のまま、3人でクッキーを楽しんだ。

 クッキーが食べ終わると、フィオナさんの尋問が始まってしまったけど。


「さて、先ほどの匂いについてお話しましょうか」


 なんだろう、この感じは。

 ニコニコリーンベルさんのような黒いオーラは見えない。

 それなのに、空気が痛いんだ。


 まるで、全身をバラのトゲでチクチク刺されているような感じ。


「フィオナ。……あ、いえ、フィオナさん。落ち着いてください。私達は悪いことをしていません」


 思わずスズが呼び方を『さん』付けにしてしまった。

 まさか、一瞬でプレッシャーに負けるなんて。

 普段怒らない人が怒ったら、めっちゃ怖いパターンのやつじゃん。


 1番怒らせちゃダメなタイプだよ。


「落ち着いているではありませんか。何の匂いだったのか、確認しているだけですよ」


 何も言い返すことができない、正論という名のプレッシャーだ。

 お風呂に入ってる間に女性からメールが来て、問いただされているオジサンの気分だよ。

 でも、こういう尻に敷かれるの嫌いじゃない。


 彼女に歯向かえない感じがたまらないんだよ。

 空気がグサグサ刺さるほど痛いけど、もっと問い詰められたい。

 変態だと思われてもいい。

 僕はすでに変態でヤバイ奴と思われているはずだからね。


 でも、このゾクゾクする感じは耐えられない。


「2人だけで食事をしたことはごめんなさい。ちょっと確認したいことがあったから、勢いでやってしまったんです」


「何を確認されたのですか?」


 一応スズの顔を確認すると、スズはうなずいていた。


「以前、フリージアで地下会議をしたときに、【調味料作成】がユニークスキルだとお話しましたよね。あの時に隠してたことがあるんです。実は、僕の調味料で作った料理を食べると、色んな効果が生まれるんです。すでにクッキーとコーヒー牛乳を召し上がっているので、ステータスを確認してもらえませんか?」


 フィオナさんは不思議そうに首を傾けながら、ステータスを確認してくれた。

 そして、わかりやすく固まってしまう。


 あれだけ痛々しかった空気もスッカリ和らいで、この部屋に安息の時が流れ始めたよ。

 スズもホッとした表情で緊張から解放されていた。


「 ……… 」


 あれ? 思ったより硬直が長いな。

 全く動かないけどどうしたんだろう。


「フィオナが驚きすぎて、座ったまま気絶してる」


「えー、気絶するほど驚くことじゃないと思うんだけど」


「カイル達も驚きすぎて、しばらく声がでてなかった。自分のスキルの価値をそろそろ改めるべき。他人のステータスに影響するのは、ユニークスキルの中でも異質」


 本人は強くないただの醤油戦士だけどなー。



- 1時間後 -



「あ、あれ? 私は何を……」


「起きましたか? 驚いて気絶していたようですよ」


「……あっ、そうです、思い出しました! ま、まさか他人のステータスを向上させるスキルがあるとは思いませんでした。それも、普通においしく食べるだけで強化されるなんて」


「以前、風邪を治した料理があったので、僕の状態異常も治せるか実験したんです。それでスズに協力してもらいました。フィオナさんを除け者にしたかったわけではありませんよ。いつ打ち明けようかスズと相談しようと思っていたところだったんです」


「そうでしたか、無理に聞き出してしまい申し訳ありません。その……少し嫉妬してしまいまして」


 嫉妬? 嫉妬をしていただけたのですか?

 32年の人生で初めての嫉妬だよ。

 いつもイケメンに嫉妬していた僕がされる側になるなんて。


 もっと嫉妬してどんどん問い詰めてほしい。

 過剰なまでに責め立てて、罵倒されたいんだ。


 そ、そして仲直りの、な、仲直りの……あぁぁぁぁ、これ以上は言えない!


 恥ずかしそうにしているフィオナさんがまた一段と可愛くて、鼻血が出てきそうだよ。

 あぁぁ、僕は大興奮d……鼻血が出た。


 ごめんなさい、スズさん、ティッシュを取ってください。


「興奮しすぎ。そんなに興奮するところはなかった」


 ごめんね、ファーストキスを奪われる妄想したら、勝手に鼻血が出てきたんだ。

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