第63話:果物の名前決めたやつ、ちょっとこっち来い

 王都は果物が有名というだけあって、果物市場はすごい人だった。


 圧倒的に女性のお客さんが多く、男性の姿は少ない。

 デートで来るというより、女友達と一緒に来るような雰囲気だ。


 人の多さに戸惑っていると、恋人繋ぎしている手にギュッと力が入れられた。

 体に電気が走るように、ビクッと反応してしまう。


 そんな僕の反応が楽しかったのか、スズを見ると少し笑っていた。


「僕の反応で遊んでませんか?」


「ふふっ、可愛いと思う。あそこから順番に買っていく」


 スズさんに可愛いといわれるのは、とても嬉しくなってしまう。

 遊ばれるのも嫌いじゃないから、もっとやってほしい。

 もっと公開プレイで弄ばれたい。


 そのまま恋人繋ぎをしたまま、スズと一緒に近くの果物売り場へ入っていく。



 まずはメロンからだ。


『モヤモヤメロン1玉-銀貨5枚

 ムラムラメロン1玉-銀貨5枚』


「お姉さん、ムラムラ100玉」


「あら? スズちゃん、今日はおしゃれね。相変わらずムラムラしてるの?」


「定期的に食べないとムラムラしてくる。私のムラムラはもうピーク。抑えることができない」


「あまりムラムラしてると、一気に食べたくなるから気を付けてね」


「わかった、早めにムラムラを解消する」


 タイムアウトを要請します。


 ちょっと待ってほしいんだ。

 女の子同士がする会話じゃないよね。

 メロンの話のはずなんだけど。


 なんで2人とも「ムラムラする」しか言わないんだ。

 違う意味にとらえてしまうから、やめてほしい。


 しかも、「ムラムラ」って言う度に、スズが手をギュッとしてくるんだ。

 ムラムラしてるって言ってる人にそんなことをされるとさ、今日の夜……期待しちゃうじゃん。


 今夜は僕のムラムラもちゃんと解消してくださいね。



 次はリンゴだ。


『ムッチリリンゴ1個-銅貨5枚

 ムチムチリンゴ1個-銅貨5枚』


「お姉さん、ムチムチ300個」


「スズちゃん、今日はすごく可愛いね。たまにはムッチリもどう?」


「ダメ、ムチムチがいい。ムチムチにかぶりつくのがたまらない。あと、ムチムチの絶対領域が最高に萌える」


「そっかー、絶対領域が好きならムチムチね。狙いを定めて噛みついてね」


「ガブッといく」


 リンゴの話であって、太ももの話じゃないよね?

 ムチムチにかぶりつくって恐ろしいワードが聞こえたよ。

 なんだよ、リンゴの絶対領域って。


 でも……そんなにムチムチしているなら、じっくり感じてみたい。


 リンゴを両手で持って、目を閉じたままほっぺたに押し付けたいよ。

 人生で1度はやられてみたいランキングトップ5に入る、『絶対領域の太ももに顔を挟まれる』って、夢が叶いそうなんだ。


 城に戻ったら……ちょっと1人にしてね。



 次はみかんだ。


『ペロペロみかん1個-銅貨3枚

 レロレロみかん1個-銅貨3枚』


「お姉さん、ペロペロ300個」


「スズちゃん今日はワンピースなのね、可愛い。でも、お姉さんのおすすめはレロレロよ。たまにはレロレロしたくならない?」


「ソフトなペロペロがいい。レロレロだと舌に纏わりつく大人の味。私はまだ子供の感覚だから、ペロペロしたい」


「もうちょっと大人になったら、お姉さんとレロレロしようね」


「わかった、その時はレロレロしにくる」


 それはダメ、お姉さんとレロレロしないで!

 僕はそっち系も大好きだけど、スズを店員さんに奪われたくないんだ。


 だって、こんなお姉さんのテクニックにやられてしまったら、僕みたいな素人じゃ物足りなくなるもん。

 それに、甘い衝撃に耐えられない僕はペロペロじゃないと無理だよ。

 レロレロなんて一瞬でノックアウt……。


 みかんの話だったね。

 スズがみかんを食べる時は、隣りで眺めることにするよ。


 今度1人でここに来て、お姉さんにレロレロをレクチャーしてもr……あっ、手をギュッてしないで。

 ご、ごめんね、あとでペロペロするから許して。



 次は桃だ。


『モモパンティ1個-銀貨1枚

 モモTバック1個-銀貨1枚』


「お姉さん、Tバック300個」


「待って! なんでTバックなの?」


 ここでもお姉さんとの会話を楽しみたい。

 でも、スズがTバック派なのは許せない。

 幼顔のスズには、パンティ以外あり得ないだろう。


「まさかタツヤはパンティ派なの?」


「Tバックはまだ早いと思う。15歳ならパンティであるべきだ」


「ダメ、Tバックだけは譲れない。私はTバックに被りついて、甘い汁を吸い尽くしたい。パンティであの味は出せない」


 Tバックにかぶり付いて、甘い汁を吸い尽くしたいだと?!

 スズはいつの間にそんなド変態になったんだ。


 今度、僕が履くから吸い付くs(自重


「パンティにだって、魅力があると思わないの?」


「確かにパンティも魅力的。でもお願い、許して。私はTバックがないと生きていけない。私はTバック派なの!」


 1つだけ聞きたい、君はいまTバックを履いているのか?

 ワンピースの下にTバックなんて、初デートで攻めすぎだろう。

 へっぴり腰になるから、やめてくれよ。


「リーンベルさんの前でも、同じことが言える? スズがパンティ派じゃなくて、Tバック派だと知ったらリーンベルさんは驚くよ。きっと『もう私の知ってるスズじゃない』って悲しむから。お願い、パンティにしよう?」


「……そこまで言うなら、どっちも買う。お姉ちゃんにもシロップにも確認して、対決する。パンティ VS Tバックでケリを付けよう」


 スズのTバックが止められないとは、クソッ。

 こんな可愛いスズには、圧倒的にTバックよりもパンティだろう。

 ワンピースの下にTバックなんて履いていたら、変なオジサンにストーカーされちゃうよ。


 もちろん、スズのTバックにも興味はある。

 可愛い幼顔をしたスズがTバックを履いてたら、ギャップ萌えを通り越して大興奮だよ。

 だから、僕はさっきからへっぴり腰なんだ。


 でも、絶対モモパンティの方が需要あるよ。

 色んな種類のモモパンティがあるから、少しずつ大人になっていこう。

 ちょっと背伸びしたいなら、レースのモモパンティで我慢してほしい。



 違う、パンツの話じゃない、桃の話だった。



 次はマンゴーだ。


『パックリマンゴー1個-銀貨5枚

 ビラビラマンゴー1個-銀貨5枚』


「お姉さん、パックリマンゴー200個」


「あらっ、スズちゃん。可愛い男の子を連れてるわね。今日もスズちゃんはパックリなの?」


「うん、私はパックリ」


「残念ね、お姉さんはビラビラなのよ。最近バイトで入った子もパックリなのよね」


「ビラビラは熟しすぎてる気がする。パックリは初々しさがある」


「熟した方がおいしいのに~。今度1回ビラビラを食べてみて」


「ダメ、私はビラビラじゃない」


「もう~、意地っ張りなんだから~」


 このお姉さんまだ20歳ぐらいだ。

 僕はスズと手を繋いでいるのにも関わらず、お姉さんが気になってしまったよ。


 いったいどれほどの修羅場をくぐってきたというんだろうか。

 清楚っぽい見た目なのに、百戦錬磨なのかな。

 こんなお姉さんにリードをされるのも、悪くないと思う。


 というか、1戦だけでもいいから弄んでほs……あっ、ごめん、ギュッてしないで。

 あとで一緒にパックリするから許して。



 次は苺だ。


『乙女イチゴ1パック-銀貨3枚

 処女イチゴ1パック-銀貨3枚』


「お姉さん、処女300パック」


「スズっち~、今日はいつもより処女いっぱい買うんだね」


「私は処女(派)だから」


「私も処女かな~」


「処女じゃないと食べたくない」


「だよね~、特別感があるよね」


 この世界はいったいどうした?

 果物に何を求めているんだ?


 スズの口から「私は処女宣言」を出されてしまったぞ。

 僕はどういうリアクションを取ればいいの?

 2人の会話をどういう顔して聞けば正解なの?


 お願いだから、処女苺でテンション上がってギュッて握ってこないで……。



 次は、スイカだった。


『スイカAカップ1玉-銀貨5枚

 スイカHカップ1玉-銀貨5枚』


「お姉さん、Aカップ100玉」


「たまにはHカップもどう? 大きいよ?」


「大きければいいとは限らない」


「そう? 大きいHカップの方が人気があるんだけどな~」


「大きさで買う人は中身を見てない。見る目がないと思う」


 スズの言う通り、大きさで選ぶなんて邪道だよ。

 小さいには小さいなりの良さがある。


 当然、大きいには大きなりの良さがある。

 そこで優劣を決めずに、中身を見ることが大切なんだ。


 でも、1つだけ言わせてほしい。

 お姉さんもすごく大きなスイカを2つ持っている。

 そのスイカをいただくことはできm(自重


 僕は貧乳も巨乳も大好きだよ。

 スイカを目の前にして、何を考えているんだろうね。



 次はブドウだ。


『初潮ブドウ1房-銀貨5枚

 童貞ブドウ1房-銀貨5枚』


「タツヤ、これは絶対童貞を買うべき!」


 今日1番強い力で、手をギュッと握ってくれた。


 僕は嬉しい思いとホッとした気持ちがあるよ。

 32年分の思いをスズは受け入れてくれるに違いない。

 でも、確認をしたい。


「スズは童貞が好きなの?」


「童貞が大好き」


 ありがとう。


「童貞のどんなところが好き?」


「皮を向いたらすぐ食べられるところ」


 ありがとう。


「リーンベルさんも童貞が好きかな?」


「絶対大好き、私よりも好きかもしれない」


「じゃあ2人のために童貞を使ってデザートを作るよ。だから……リーンベルさんと一緒に、僕の童貞(ブドウのデザート)を食べてくれる?」


「うん、タツヤの童貞食べる」


「ありがとう、童貞にしよう」


「お姉さん、童貞500房」


 スズさん、本当にありがとうごうざいます。

 そして、リーンベルさんと共によろしくお願いいたします。


 少なくても、僕の童貞を食べる宣言をしてくれたスズには、感謝をしたいと思う。

 あくまで『僕が作る童貞ブドウのデザートの話』なのはわかってる。

 でも、違う意味でとらえたいんだ。


 僕は何の買い物をしているのか、途中でわからなくなっていた。

 ただ、この買い物のおかげで心が軽くなったのは間違いない。


 今までちゃんと卒業できるかなって不安だったけど、安心することができたよ。

 とても清々しい思いでいっぱいだ。


 女神スズが心を浄化してくださったから。

 本当に、ありがとうございます。



 スズと買い物が終わると、ちょうどお昼頃になっていた。

 せっかくのデートだから、公園で昼ごはんを食べることにする。


「公園でテーブルを出すわけにもいかないよね。サンドウィッチでも食べよっか」


 タマゴサンド、ポテサラサンド、カツサンドを取り出す。


「ほっほっほっほっほっ」


 ピクニックのような雰囲気に、スズは大興奮だ。

 興奮の仕方が人というよりサルだけどね。

 女神と間違えるほど可愛いワンピース姿の女の子が、サルのように喜ぶのはダメだ。


 その部分だけ記憶から隠蔽することにした。



 サンドウィッチを食べたら、また手を繋いでお城へ帰る。

 お城に着くと、スズは僕を部屋まで送ってくれて、違う部屋へ着替えに行った。


 部屋に入った僕は、ボーッと放心状態になってしまう。


 長い間ずっと手を握り続けたことで、右手にスズの温もりが残り続けている。

 近くにスズがいなくても、ずっと手を握っているような感覚。


 恋人繋ぎをして、一緒に買い物デートをしただけなのになー。

 この調子だと、甘噛みなんて耐えられるはずがない。

 でも、またやってもらいたい。


 僕の人生初デートは、幸せな思い出でいっぱいだ。


 スズがリードしてくれて、

 スズと一緒にショッピングできて、

 スズから装備をプレゼントしてもらって、

 僕が昼ごはんを出してあげた。


 あれ? 男と女の立場が逆じゃない?

 まぁ、デートの仕方なんて人それぞれだよね。


 お互いに楽しかったら、それでいいと思うんだ。

 スズが喜んでくれたら、それで………。


 今日のデートで、スズが喜ぶ要素はどこかにあったっけ?

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