第46話:料理でぶっ倒そうと思うんだ
スキル【調味料作成】についての説明が終わったので、気になるところだけ伝えておく。
「オーガの強化については、僕も気になります。高ランクモンスターだから耐えたのかもしれませんが、オーガは辛さに耐性がありました。大量のハバネロが口に入っても、10秒もしないうちに戦闘へ復帰したんです」
それを聞いたギルマスは信じられないような顔で驚き、勢いよく立ち上がる。
「なんだとーーー!! 大量のハバネロを10秒で復帰!? 恐ろしい化け物だな」
どうやらギルマスはハバネロがトラウマになったようだ。
ハバネロを基準に魔物の強さを決めないでほしいよ。
「あの時、オーガは1度のたうち回りました。辛いものは苦手だったはずです。数秒で回復したことを考慮すると、回復力を高めていたのかもしれません。それにファインさんが全力で切りかかっても、お腹に傷は付きませんでした。強化されていたと考える方が自然だと思います」
「そもそも~、ただの変異種のオーガエリートだったら倒せてるよね~。魔法はどうだったの~?」
今まで黙っていたシロップさんが問いかけた。
さっきはスリスリして話を聞いていなかった人とは思えない、鋭い質問だ。
「仲間の騎士が魔法を試しているが、ダメだった。オーガに傷を付けられたのは、弱点である首だけ。タツヤのように体の内側から破壊してトドメを刺すか、誰かが陽動して首へ強襲を仕掛けるか。倒す方法は今のところ、この2点しか見つからない」
自分だけ大きく取り乱したことが恥ずかしかったのか、ギルマスは咳払いをした。
「わかった、いったん話をまとめよう」
ギルマスが今までの話を整理して、簡潔にまとめてくれた。
そこで生まれた問題点が3つ。
1つ、何者かによって強化されたオーガが召喚されたこと
2つ、王女の命を狙っていること
3つ、最低でも2人体制で戦わないと勝てないほどの魔物を召喚してくること
「もう1つ気になるのが、王女の行方を知っていたことだ。城の内部に情報をリークしている者がいる可能性がある。これらのことはギルドから国へ報告する。この会議であったことは全て他言無用だ、いいな」
みんながうなずいて、会議は終わった。
ギルマスとリーンベルさんは仕事があるのか、足早に部屋を出ていく。
「タツヤさん、少しよろしいですか?」
スズのところに向かおうとしたら、王女様に呼び止められた。
「どうされましたか?」
「あのクッキーはなんですか?」
スズとリリアさんがサッと現れた。
両手を差し出してくる。
そんなことをされると、昨日の無言の餌付けを思いだすからやめてほしい。
「えっと……企業秘密です」
「ひ、秘密ですか?! せめて、どこで売っているかだけでも……」
「王女もファインも大丈夫。だから、私にもクッキーを」
自分が食べたいだけで言わないでね。
僕はスズの付き人だけど、昨日みたいな餌付けはしたくないんだから。
まぁ王女様に与えてしまったことだし、少しだけだよ。
その代わり、みんなで仲良く食べてね。
……これがいけなかった。
僕は両手にクッキーを出し続けることになった。
ファインさん、王女、リリアさん、スズ、シロップさんが無言でクッキーを食べまくる。
鳩にエサをあげている気分だ。
僕の手からクッキーを奪い合っている。
カイルさんとザックさんは肉派なんだろう。
気にせずに外へ出ていった。
昨日心配してくれたシロップさんは、実はクッキー狙いだったのかな。
スズも反省していたと見せかけて、またクッキーを食べるための戦略だったのかな。
リリアさんがスズとリーンベルさんを批難したのは、確実にクッキーを手に入れるための作戦だったのかな。
僕は再び、疑心暗鬼モードになってしまった。
もし本当に心配してたら、こんな感じにならないと思う。
特にスズなんて、昨日の今日だよ?
なぜこんなに夢中で食べられるんだろう。
誰も僕の顔を見ず、手元にあるクッキーを黙々と食べ続けている。
プツンッ
頭の中で何かが切れる音がした。
みんな結局僕を見てくれないんだ。
僕のことなんか心配してくれない。
料理のことだけが心配だったんだ。
そんなに料理が好きなら、みんな料理でぶっ倒してやろう!
そうだ! そうしよう!
今までだって何度も布石はあった。
から揚げを食べただけで泣く者がいた。
ニンジンで光る者もいた。
料理を見ただけで反省する者もいた。
とんかつのおいしさを想像して倒れる者もいた。
今だって、周りが見えなくなるほどクッキーを貪り食べている。
アイテムボックスの中には大量の料理が用意されているし、全員が集まる機会もある。
僕が倒れて延期になった、とんかつ親睦会だ!
いける、いけるぞ!
こいつら全員料理でぶっ飛ばしてやる!!
僕は疑心暗鬼を通り越して、ヤケクソになってしまった。
「皆さん、よければ今日『とんかつ親睦会』をやりませんか? 準備はできているので」
シロップさん、リリアさん、スズは言葉を発しない。
首がとれそうな勢いで何度もうなずいている。
「なんですか? とんかつ親睦会というのは」
「来ないと後悔する、来るべき。死んでも来るべき。ゾンビになっても来るべき!」
「おい。こいつのこんな積極的なところを始めてみたぞ」
スズの猛プッシュにファインさんは引いている。
だが、その援護射撃に感謝をしよう。
「スズはいつもこんな感じですよ。それに、このクッキーも【調味料作成】で僕が作ったものです。クッキーをおいしく食べてもらえたのであれば、他の料理もおいしいと思いますよ。夜になったらギルドの裏庭で開催しますから、ぜひ来てください」
「わかりました、ギルドの裏庭なら大丈夫ですね。私は参加させていただきます」
「お、おう、俺も参加しよう」
「わかりました。ではシロップさん、カイルさん達にも伝えておいてください」
「は~い!」
こうして『とんかつ親睦会』の開催が決まった。
誰も僕の企みに気付かないまま……。
帰り際、リーンベルさんに開催のお知らせをする。
他の冒険者やマールさん達もいるので、小声で伝えることにした。
「リーンベルさん、今夜とんかつ親睦会をすることになりました」
リーンベルさんは立ち上がって握手を求めてきた。
僕はしっかりと握手に応じる。
「今回は王女様とファインさんも参加します。かなり多めに作りましたので、お腹いっぱいになるまで食べてくださいね」
「ありがとうごうざいます!!」
リーンベルさんは大きな声でお礼をいって、最敬礼のお辞儀をした。
小声で言った意味がなく、ギルド中の注目を浴びる。
でも、ヤケクソになっている僕には関係ない。
さらに追い打ちをかけていく。
「から揚げも用意しておきましたよ」
「「ありがとうごうざいます!!!!」」
近くにいたスズとリーンベルさんが大声でお礼を言い、再度最敬礼をしてきた。
冒険者ギルド内は異様な雰囲気に包まれる。
普段なら恥ずかしいと思うけど、今はギルド中の視線すらも快感に感じるよ。
どうやら僕は狂い始めたようだ。
「お腹、空かせておいてくださいね」
そう言った僕は、スズと一緒にギルドを後にする。
家に戻る途中、すごい勢いでカイルさんとザックさんが走ってきた。
「話は聞いたぞ! 今夜やるんだってな! 俺たちは、腹を最大まで空かせるために依頼を受けようと思う」
ザックさんも『うんうん』とうなずいている。
どんな理由で依頼をやるんだよ。
依頼主も複雑な気分になると思うよ。
だが、それでいい。
空腹は最大の
僕はこの2人もぶっ倒そうと思っているため、ガンガン煽っていく。
「ホットドッグもありますから、安心して下さいね。あっ、そうだ。肉が溶ける料理って知ってます?」
「何言ってるんだ。柔らかいオークエリートの肉でも溶けることはないぞ。……ちょ、ちょっと待て! お、お前、ま、まさか!!」
おやおやおや、思ったよりも扱いやすい人達ですね。
だが、それでいい。
「今日の親睦会が本番です。とんかつだけじゃなくて、色々な物を用意しています。史上最強に柔らか~い肉料理も」
近くにいるスズも含めて、3人は驚愕の表情をしている。
早くも体が震え、ゴクリッと唾を飲み込むほどに。
「ぜひ、お腹を空かせて来てくださいね」
「お、おう! ま、まま、任せておけ!」
2人は喜びという恐怖を感じ、ギルドへ向かって走りだした。
僕とスズは、そのままリーンベルさんの家へ向かう。
家に着く頃には、午前中が終わろうとしていた。
会議が思ったより長かったからね。
スズと一緒に早めのお昼ごはんを食べようとしたら、「私はいらない、夜まで何も食べない」と拒否された。
だが、それでいい。
君とは全力でぶつかって決着を付けるべきだと思っているよ。
なぜなら、僕たちは両想いだからね。
君には1番心配してほしいんだ。
だから、クッキーばかりに夢中になるなんて許せない!
もう2度とこんな悲劇を起こしてはいけないんだ!!
- 7時間後 親睦会開催まで残り10分 -
「スズ、もうそろそろ戦場へ行くよ」
「戦場……?」
「親睦会という名の、戦場へ行くんだよ」
僕はもうテンションがおかしくなっている。
中二病が目覚め始めているんだ。
いつもと違う僕の雰囲気に、スズは何かを悟ったように顔付きが変わる。
「これから……Sランクの戦場へ向かう気がする。ごはんを食べに行くだけなのに。なぜ武者震いが止まらない。いったい、何が起こるというの?」
「……生き残れ! それだけ君に伝えよう」
スズは自分では歩き出せないほど混乱している。
僕はスズの手を取り、ギルドへ向かっていく。
一歩また一歩と、ゆっくりギルドへ向かって歩き進める。
そこに会話など存在しない。
だが、それでいい。
今から楽しい親睦会が始まるわけじゃない。
戦場へ向かっているんだから。
ギルドに着くと、すでに4人の猛獣……いや、戦士がいた。
「
「……昼飯を抜いてきた。俺達は、食うぞ?」
「吐かなければいいですよ。今日は動けなくなるまで食べてくださいね。その代わり……、冒険者が戦場で倒れないでくださいね」
スズと合流した
僕はリーンベルさんの元へ行く。
「今日は本当にいっぱい食べてもいいんだよね? 今さらお預けは嫌だよ。お昼ごはんも抜いたんだから……」
あなたは抜いても抜かなくても変わらないでしょう。
なぜそんな自殺行為をしたんですか。
禁断症状で手が震えてるじゃないですか。
だが、それでいい。
「大丈夫ですよ、思いっきり食べてください。むしろ、最後まで生き残ってくださいね」
「………生き残る? え? 今日の親睦会ってそれほどのレベルなの?」
「僕の故郷では、親睦会のことを戦場と呼ぶ人がいます。戦場では弱肉強食。弱いものは倒れ、強者のみが生き残ります。……期待していますよ、リーンベルさん」
リーンベルさんは激しく震えだす。
もしかしたら、後悔しているのかもしれない。
頭を抱えて「何が起こるの?」とパニックになっている。
でも、もう遅いんだ。
もう止められないんだよ。
この戦いは、避けられない。
次に会うときは戦場です。
お互いに持てる力を出し尽くしましょう。
僕は全力で潰しに行きますから。
そして、ギルドが閉まった………。
リーンベルさんがフィオナ王女とファイン騎士団長を呼びに行き、舞台が整う。
さぁ、おいしい食事の時間、
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