第45話:私も少し舐めていいですか?
- 翌朝 -
目が覚めると、リーンベルさんが頭を撫でてくれていた。
きっと昨日のお詫びみたいなものだろう。
頭を撫でるぐらいで忘れませんけどね。
僕は根に持つタイプですから。
こんなことぐらいで……あっ、やめて。
ちょ、ちょっと待って、なにそこ!
なんなの、そのナデナデポイント!
や、やめて。き、気持ち良すぎるからー!
「君はこの辺りにポイントがあるね~。よーしよーし。」
や、やめてーーー!
体がビクビクッてなりそうだから!
根に持たないから、許してーーー!
「でも、おーしまい。これ以上はお預けだよー。みんなが待ってるから、一緒に行こうね」
生まれて初めてナデナデポイントを攻められた。
恐ろしいほど気持ちがよかった、新体験。
なんなんだ、あのポイントは。
あんなポイントが人類に存在しているなんて……。
いったい何者なんだ、リーンベルさんは。
冒険者ギルドの受付嬢+ナデナデ師なのかな。
ユニークスキル【ナデナデ】とか持っている可能性がある。
あのままやられてたら、僕は多分……。
ダメだ、これ以上は考えないようにしよう。
変態パワーが止められなくなりそうだから。
リーンベルさんに起こしてもらった僕は、ギルドの地下にある会議室に連れてこられた。
そこには、
僕はスズの隣に座ろうとすると、
ぽんっぽんっ
スズの隣に座っているシロップさんが膝の上を叩いて、笑顔で呼んできた。
迷わず椅子に座るのをやめて、シロップさんの膝の上に座る。
早速スリスリが始まったよ。
そうだよね、僕の専用の椅子はシロップさんだよね。
危うく座る場所を間違えるところだった。
ちなみにリーンベルさんは職員だから、入り口付近で立っているよ。
「初めての者もいるため、もう1度最初から話し合いたい」
僕が座ったところで、ギルマスが話し始めた。
事情聴取みたいなものが始まるんだろう。
「本来ならEランク冒険者が関わるような案件ではないが、当事者だ。お前の意見も聞きたい。前回の依頼の時に気付いたが、子供とは思えない思考能力をしているからな。まずはフィオナ王女、当時の状況説明を頼む」
中身は32歳の醤油を出すオジサンですからね。
それなりに考えることはできますよ。
「わかりました、今回は獣人国を訪問した帰り道のことです。表立った外交ではないため、護衛も少なく馬車も偽装しておりました。この情報を知る者は多くありません。しかし、途中で黒ローブの男が現れ、「王女には消えてもらう」と、魔法陣を展開してきたのです。そこからオーガの変異種が召喚され、気が付けば黒ローブの男がいなくなり、苦戦しているところをタツヤさんに助けていただきました」
召喚された? この世界って召喚士が存在するのかな。
魔物と敵対する世界だから、あまりいい目では見られないと思うけど。
「ファイン騎士団長、実際に戦ってみてどれくらいの強さだったか教えてくれ」
「俺が戦ったオーガエリートは、Sランク並みだった。とてもじゃないが、1人で対応できるようなレベルじゃない。たまたまタツヤが加勢してくれたから助かったが、1度剣を弾かれて死にかけたほどだ。来るのが1秒でも遅れていたら、間違いなく死んでいただろうな」
あのオーガはSランクモンスターだったの?
通りでパワーとスピードがあると思ったよ。
シロップさんがオークキングを瞬殺してたけど、あれって本当に異常だったんだね。
ちょっと……この椅子に座るのが怖くなってきたよ。
あっ、でもクンカクンカが始まった、すごくいい。
「残りのオーガもAランク並みの強さを持っていて、変異種よりも色がどす黒いのが特徴だ。魔法陣で召喚されたことを考えると、強化魔法を施されていた可能性がある」
ファインさんの話が終わると、隣にいるスズが前のめりになった。
「聞きたいことがある。ファインとは何度も模擬戦をしているため、強さも理解しているつもり。私が現場に着いたときはモンスターを討伐した後で、衰弱しきったファインしかいなかった。Sランクモンスターでも簡単に死ぬはずがないのに。どれくらい戦っていた?」
「………正直にいうが、5分ぐらいだろうな。そこで剣を弾かれ、殺されかけた」
ファインさんの言葉に、場の空気が凍り付いた。
受け入れがたい現実に全員が戸惑っているように見える。
騎士団長をやっているぐらいだから、ここにいる誰もが認めるほど強いんだろう。
1つ気になるのは、胸騒ぎを感じたのが1時間以上も前だってことだ。
それなのに、実際の戦闘は5分。
この誤差がなんなのか気になる。
「ドラゴンと戦っていた方が楽だと感じるほど、オーガエリートは強かった。巨体から放たれる凄まじいパワーだけでなく、巨体に似合わないスピードで圧倒されたからな。弱点の首以外は皮が硬すぎて、俺では傷1つ付けることもできなかったよ。もしスズと共闘したとしても、勝つ自信はない。タツヤがオーガを無効化してくれたから、勝てたに過ぎない」
やだ……照れる。
みんなそういう尊敬する眼差しで見ないでよ、嫌いじゃないけど。
ゴブリン以下のポンコツ冒険者をヨイショするなんて、ファインさんも物好きなんだね。
「答えたくなければ答えなくてもいいが、いったいどうやって倒した? 普通ならEランクのお前がその場にいても、足手まといになるだけだ」
あれ、騎士団長から聞いてないの?
先にある程度ギルマスに伝えているものだと思っていたのに。
僕は騎士団長の方を見る。
「冒険者にとって、スキルや魔法は知られたくないものだろう。相手がギルマスだからと言って、簡単に話したりはしない。少なくてもお前は、命の恩人なんだ。恩人の情報を売るようなことはしないさ」
イケメン過ぎるだろう、ありがとうございます。
でも、ここにいる人で僕の能力を全く知らないのは、ギルマスだけ。
何の液体かはわからないと思うけど、どんな能力か推測はできるはず。
適当に誤魔化せるような雰囲気じゃないし、ギルマスは正義感が強いからな。
スキルの内容を公表しても、悪い扱いにはならないと思うけど……。
「まだ子供なので、判断に困ります。ちょっと相談させてください」
だいたい「子供だから」って言えば、深く突っ込まれないからね。
困った時は子供を武器にして逃げるよ。
隣にいるスズの意見を聞くため、小声で話しかける。
「王女がいるってことは国にバレると思うんだけど、大丈夫かな?」
「この国の王族は信頼できる。国王に話がいっても、悪いようにはならない。逆に王族が味方になってくれた方が安全だと思う。でも、他の貴族に拡がるのは避けた方がいい」
そういえば、前も王族に話した方がいいって言われたっけ。
「リーンベルさんにも聞いてくる」
リーンベルさんの元に向かって訊ねてみると、
「この国の王族は民思いだから大丈夫だと思うよ。スズも王女様に懐いてるし。あの子は昔から動物のカンが働くから、人を見る目があるのよ。料理効果のことはいったん伏せて、素直に話してみたらどうかな?」
2人とも賛成派みたいだから、リーンベルさんの言う通りにしよう。
この場は料理効果を伏せて、調味料で戦闘していることについて話す。
騎士団長にバレてるのも、調味料のことだけだし。
「僕は冒険者になって、まだ2か月も経っていません。普通のオーガを見たこともないですし、高ランクの魔物の討伐経験もありません。それにアイテムボックス持ちは後天的にスキル・魔法は覚えません。つまり、僕の全てを晒すことに繋がります。そのため、何があっても口外しないことを条件にしてもいいですか?」
思わずファインさんは立ち上がった。
「アイテムボックス持ちなのか! 子供という事実は百歩譲っても、戦闘ができないと言われる職に助けられるとは。俺はその条件で構わない、話を聞いてみたい」
その場の全員がファインさんの言葉にうなずいた。
「僕はユニークスキルを持っています。本来は戦闘向けのスキルではないんですが、無理やり戦闘に使っています。スキル名は、【調味料作成】。多分なんのことかわからないと思いますけど。ギルマス、ちょっと協力してもらってもいいですか? あとリーンベルさん、コップに水を入れて持って来てください」
すぐにリーンベルさんは水を取りに行ってくれた。
「先に言っておきますけど、敵意はないですからね。怒って殴りかかってこないでくださいよ」
「何をする気だ? 別に構わないが」
さすがギルマスですね。
その堂々とした態度はお見事です。
敬意を表して、ちょっとだけにしてあげますね。
リーンベルさんが戻ってきて、水が到着する。
「知りたいって言ったのはギルマスですからね。百聞は一見に如かずです。口を大きく開けてください」
ギルマスはよくわからないまま、大きな口を開けた。
みんなが見守る中、右手で狙い定めてロックオン。
さぁ、ハバネロソースをお食べ。
ピュッ
「ぬぁぁぁぁぁぁぁぁぁ! みずみずみずーーー!」
筋肉ムキムキのオジサンを倒すって、想像以上に気持ちがいい……。
普通に戦ったら絶対に勝てないのに、少量のハバネロソースで倒すことができるなんて。
おかわり、どうですか?
オークさんみたいに大きな口を開けてもいいですよ。
ハバネロソースの辛さで騒ぐギルマスをいったん無視して、ファインさんと王女に話しかけていく。
「今ギルマスに使ったのは、オーガ戦で最初に使ったものです。あれを強力にしようと無理をしたら、反動で倒れてしまいました。名前はハバネロソースといって、本来は料理に数滴だけ使うものです。だから少量とはいえ口に入れすぎると、ギルマスのようになります」
ギルマスはまだ辛さに苦しんでいるようで、縮こまって水をチビチビと飲んでいる。
オジサンが縮こまっても、可愛さは0である。
「あのー、私も少し舐めていいですか?」
マジかよ、この王女は好奇心旺盛だな。
みんな引いてるぞ?
でも、よく見れば胸もスズより大きいし、気品溢れる清楚系で最高だ。
あまりの辛さにギュッと抱きついてくれるかもしれない。
……それに、今の言葉を聞いて少しドキッてした。
生まれて初めてハバネロソースになりたいと思ったよ。
皿にハバネロソースを入れて、王女に差し出すと、指にチョンと付けて舐めていく。
「~~~~~~!!!!」
辛~いって感じで、チョコンっと舌を出している。
めちゃくちゃ可愛い。
どうしよう、好き。
可愛いから特別にクッキーを出してあげよう。
お口直しにお食べ。
王女は迷わずクッキーを口へ入れた。
「なんですか! このクッキーのおいしさは! 今まで食べてきたクッキーとは比べ物にならないおいしさです!」
スズとリリアさんが手を伸ばしておねだりしてくるけど、無視をしよう。
今はハバネロの話だからね。
「ハバネロに話を戻しますけど、これが目に入ると激痛がします。普段は魔物の顔面を狙って、口、鼻、目にハバネロを入れて攻撃しています。ギルマスみたいにムキムキでも、体の内側まで鍛えることはできませんから。なんならギルマス、目に1滴いれてみませんか?」
僕はニコニコして、ギルマスに勧めてみた。
ハバネロの辛さにやられたギルマスは、話が進んでもイジけたまま。
椅子の上で体育座りをして、水をチビチビと飲み続けていた。
「俺は初めて魔物が可哀想だという気持ちになった。ハバネロ怖い」
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