第39話:黄金比というパワーワード

 ツンツン ツンツン


 あっ……今日もリーンベルさんがほっぺたツンツンで起こしてくれた。

 朝を迎えるのが嬉しくて仕方がない。


「おはようございます」


「うん、おはよう。そういえば、この前お昼にタマゴサンドわけてもらったよね。お礼するって言って何もしてなかったから、頭ナデナデしてあげるね」


 ナデナデ


 僕も甘く見られたものですね。

 お礼を頭ナデナデで済ませようと思っているんですか?

 冗談でしょう? これだけは言っておきますよ。


 本当にありがとうございます。

 長時間コースでお願いします。


 それにしても、リーンベルさんの頭の撫で方がうますぎる……。

 なんなの、この頭ナデナデは。最高に気持ちがいい。

 ナデナデ検定2段をプレゼントしよう。


「こらこらっ、寝ちゃいけないでしょ」


 寝ない方が無理でしょう。

 至福の時間過ぎますから。


「がんばって起きるので、もっと撫でてください」


「ふ~ん。そんなにナデナデされたいんだ。ふ~ん」


 あぁっ! 『ナデナデ』と『ふ~ん攻撃』のコラボはやめてください。

 死んでしまいますよ。


「君は本当に頭を撫でられるのが好きだねー。そんなに気持ちいいのかなー。スズもそうなのよね。よーしよーし」


 確かに猫っぽいスズは、頭を撫でられるのが好きそうだ。

 僕は撫でるよりも撫でられたいけど。


「よし。じゃあもうそろそろ起きよっか。一緒に朝ごはんの準備をしようねー」


「はい」


 なんて幸せな朝なんだ……。

 さすが天使リーンベルさん。

 体の毒素が全て浄化されたような気がする。


 このまま一緒に朝ごはんの準備を……、待って。

 朝ごはんの準備するのって、僕1人じゃないですか。

 リーンベルさんはお茶を入れるだけだもん。


 クソッ、騙された、この策士め。だが好きだ。


 朝食は『タマゴサンドとみそ汁』で固定されている。

 2人が食べたいんだから仕方ない。

 今日はナデナデのお礼に『ふろふき大根』も作ったけど。


 スズは『ふろふき大根』を見て「あっ、ゴンゴン響くやつ」と言っていた。

 料理の感想としては0点だ。

 打楽器みたいに言わないでほしい。


 リーンベルさんは初めて食べたため、「響く……響きすぎて心に刻まれる」と言っていた。

 よくわからないのでノーコメントだ。


 ギルドへ向かうリーンベルさんを見送った後、スズと一緒にお肉屋さんを訪ねる。

 注文しておいたウィンナー1,000本を取りに行くためだ。

 ちょうどホットドッグに最適な大きさのウィンナーだったから助かったよ。


「オジサン、ウィンナー取りに来ました」


 オジサンはドヤ顔で迎えてくれる。


「初めて1,000本頼まれたが、しっかり作っておいた。焼いて良し、茹でて良しの自慢のウィンナーだ。金は昨日もらったから、このまま持ってってくれ」


「みんなでおいしくいただきますね。また大量に買いに来ますから、お願いしますね」


 お肉屋さんのオジサンはニコニコだ。

 口笛を吹いちゃうほどご機嫌だ。

 きっと『良い客見付けたぜ』と思っているんだろう。

 他に買い足す物がないので、リーンベルさんの家へ戻っていく。


「今日はそれで夜ごはん作る?」


「僕としては軽食やお昼ごはんとして食べたいけどね。今日は夜ごはんとして出そうと思ってるよ」


「楽しみにしてる」


「また昨日みたいになりそうで怖いけどね。ホットドッグっていうんだけど、簡単にできる割に人気があっておいしいから。パンと肉とソースの絶妙なバランスって、黄金比だと思うんだよね」


「お……黄金比?! 初めて聞く言葉。意味がわからない、黄金比の意味がわからない。それなのに、胸に突き刺さるようなパワーワード! ホットドッグ……なんておいしそうな……」


「じゃあ、お昼また味見「する!」」


 スズのこういうところが子供っぽくて好きだ。

 本当に楽しみなんだろうね、「どっぐ、どっぐ、ほっとど~っぐ♪」って、歌いだしたよ。

 さっき朝ごはん食べたばかりなのに。


 このまま冒険に出かけなかったら、食べると寝るを繰り返すだけの毎日になるのかな。

 せっかく同じ街にいるんだし、シロップさんと遊んでくればいいのに。


 家に着くと、早くもスズは昼寝に向かったので、僕は1人でホットドッグを作っていく。



 1.ウィンナーをフライパンで焼き色が付くまで焼いていく

 2.金タマネギをみじん切りにする

 3.パンに切れ目を入れ、小悪魔レタスとウィンナーを挟み、金タマネギのみじん切りをトッピング

 4.【調味料作成】でケチャップと、香辛料のマスタードで味付けして完成



 何個作れば足りるのか、全く想像がつかない。

 リーンベルさんが200個ぐらい食べそうだもん。

 さすがにそこまで食べないか。


 いや、普通に食べそうだよね。

 予想だけど「無限に食べられるねー」とか言いそう。

 どうしよう、本当に言いそうで怖い。


 謎の恐怖に襲われたので、黙々と作り続けることにした。


 お昼になると、お腹を空かせたスズが起きてくる。

 食い意地を張っているため、寝過ごすことはあり得ない。

 朝でも昼でも、絶対に起きて食べにくるんだ。


 パッとスズの方を見ると、すでに箸を持って座っている。

 スタンバイ完了のようだ。

 パンだから箸は使わないけど。


 僕は向かいの椅子に座って、一緒にホットドッグを食べることにした。

 アイテムボックスから取り出し、目の前へ出してあげる。


「おぉぉぉぉぉぉ! 見た目が、見た目がもうヤバイ!」


 君のリアクションの方がヤバイと思うけどね。


「味見だから1個だけだよ? 残りはタマゴサンドで我慢しようね」


「わかった。もう食べていい? さっきからホットドッグが『早く食べて』と言ってる。この料理は楽しみが楽しみで楽しみを楽しみ」


「よくわからないけど楽しみなんだね。ゆっくり食べて」


 目をキラキラさせて、ホットドッグにかぶりつく。


「むっほーーー! 絶妙なバランス。これ以上でも、これ以下でもない。ウィンナー、レタス、タマネギ、パンが2種類のソースで仲良く手を繋いでいる。誰も邪魔をしない、口の中を一緒に駆け抜けていく。黄金比……これが黄金比なのか!」


 君はたまに食レポが上手だよね。

 一切否定することができないお手本のような食レポだったよ。


「夜ごはんに出すなら、どれくらい必要だと思う?」


「お祭り騒ぎになりそう。お姉ちゃんは止めない限り止まらないと思う」


 200じゃ少ないですか?

 やっぱり、無限パターンですかね。


「ホットドッグだけだと寂しいよね。他は何を作ろうかな」


「ホットドッグだけでいいと思う。その代わり、多めに食べてOKにしよう? だって、黄金比だから。シロップだけニンジンでなんか作ってあげて」


「じゃあ、そうしよっか」


 黄金比だからって、理由になってないけどね。

 多分お腹一杯になるまで自分が食べたいだけだろう。

 でも、スズがそう言うなら従うことにする。

 捨てられたくないから。


 午後はホットドッグ作りを一時中断して、『極・癒しニンジンの煮物』を作る。

 今回はシロップさんが相手だから、ニンジンを大きめにカットしよう。

 贅沢に大きなニンジンを食べられる演出だ。



 1.極・癒しニンジンを、大きめに切っていく

 2.鍋に昆布だしと極・癒しニンジンを入れて、火を通していく

 3.醤油と砂糖で薄めに味付けをしたら完成



 かぼちゃと違って、トロトロになるまでは煮ていかない。

 柔らかいけど食感を残した方が、ニンジンはおいしいと思う。

 相手がうさぎさんだから、本来のニンジンのうま味を活かすために味付けを薄くしたよ。


 途中でクンカクンカとスリスリを思いだすと大興奮してしまい、我を忘れてニンジンの煮物を作り続けてしまった。

 気が付いた時には、変態パワーで大量に出来上がっていたよ。


 これは……仕方がないよね。

 アイテムボックスがあれば腐らないし、問題なしということにしよう。

 スズもニンジン仲間って言ってるくらいだから、ニンジンの煮物は大好きだろう。

 2人が喜んでくれれば、それでいい。


 煮物を作り終えると、時間が来るまで再度ホットドッグを作り続けていく。

 この2日間、料理を作ったら日が暮れるという意味の分からない生活をしている。

 しかも、とんかつの準備が全然できてない。


 もっと違う料理も準備しようと思ったんだけどなー。


 待てよ。僕が毎日新しい料理を作ってるから、ダメなんじゃないのか?

 このペースで行けば、毎日新しい料理を作り続けてしまう。

 もっと色々食べてもらいたいという、サービス精神がいけないんだ。


 明日以降は、『豚肉の塩と胡椒焼き、みそ汁、パン』だけにしよう。

 今のペースで進めば、とんかつ親睦会ができなくなってしまうから。



 日が暮れてきたところで、スズと一緒にギルドへ向かう。

 すると、ギルドの入り口でバッタリと不死鳥フェニックスに出会ったため、一緒に中へ入っていく。


 中に入ると、いつもと違う光景が映っていた。

 以前、リーンベルさんを口説いていた貴族のボンボン息子が、また同じことをしているんだ。

 貴族という地位を逆手にとった、悪質極まりない行為。厄介なやつめ。


 でも、スズはお構いなしと言わんばかりに、貴族の男に近付いて行った。


「なんで私のお姉ちゃんを口説いているの?」


「はぁ?! なんだって~? ぼくはなぁ~、伯爵家で貴族なんd……」


 ボンボン息子は固まる。


「だから何? 私のお姉ちゃんをなんで口説いてるの?」


「いえ、あ、あの~、すいません。ちょっと急ぎの用がありますので、こ、これで失礼させていただきますね」


 ボンボン息子は足早に帰っていく。

 スズっていったい何者なんだろうか。

 伯爵家って、確か上位の貴族に分類されるはず。

 Bランク冒険者の方が弱い立場になると思うんだけど。


「スズ、今の貴族様だけど大丈夫なの?」


「問題ない、私のバックには王族がいる。同じことができないように報告しておく。顔は覚えた」


 ヤバい、15歳という若さで権力まで振りまわせるとは。


 資産3億円

 Aランク冒険者に認められる武力

 王族をバックに付けた権力

 スタイル良し

 ルックス良し

 家では薄着でミニスカート


 なんて最高な女性なんだ。

 ちゃんとクッキーで餌付けしよう。

 絶対捨てられたくない。

 拾われて育ててもらいたい。

 むしろ、ペットとして飼われたい。


「ありがとね、スズ。しつこいから肩凝っちゃったよー。あの人たまに来るぐらいなんだけど、いっつもあーなのよね。……あっ、ちょうどギルド閉める時間だから、先に裏庭へ行ってて」


 リーンベルさんに言われた通り、スズと2人で裏庭へ行く。 

 裏庭では、すでに不死鳥フェニックスがスタンバイを完了しており、机も椅子も用意されていた。


 君たちの食に対する情熱は、すでにSランクだと思うよ。

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