第29話:不死鳥と初めての食事
スズとの抱擁が終わると、料理を作ってほしいと頼まれた。
魔石コンロで初めての野外クッキングになる。
すでにメニューは決まっている。
『ときめき卵のタマゴサンド』で、シロップさんをキュンキュンさせたい。
『心に響く大根のふろふき大根』で、シロップさんの心を響かせたい。
『野菜たっぷりの豚汁』で、シロップさんを温めてあげたい。
スズと抱きあったばかりなのに、シロップさんのことを考えてて申し訳ない。
スズに抱きしめられたのはとても嬉しかった。
でも、シロップさんに抱きしめられたことも嬉しかったんだ。
だって、スリスリとクンカクンカのオプションまで付いてきたからね。
このまま好感度を上げたら、添い寝してくれるんじゃないかと思って必死なんだ、許してほしい。
『ときめき卵のタマゴサンド』は、いつも通り作るので問題はない。
次に『野菜たっぷりの豚汁』を作ろう。
1.極・癒しニンジン、心に響く大根、できる白菜、油揚げ先生、寄り添うネギ、オーク肉を適度な大きさに切る
2.切った具材を油で炒める
2.鰹だしを入れた鍋に、炒めた具材を入れる
3.味噌をといて煮込めば完成
具だくさんの豚汁って、いろんな出汁が出るからおいしいよね。
心も体も温まるし、すっごい贅沢な気分になるよ。
栄養も豊富だし、文句なしのみそ汁だよね。
最後に『心に響く大根のふろふき大根』を作ろう。
1.大根の皮を向いて、面取りをする
2.昆布だしを入れた鍋に、大根を入れて炊いていく
3.味噌と砂糖を混ぜて、味噌だれを作る
4.大根に味噌を乗せて完成
『ふろふき大根』は大人に人気の定番料理だと思うから、喜んで食べてくれるだろう。
まぁ女性陣が喜んでくれたら、それでいいんだけどね。
料理作りが終盤になると、カイルさんとザックさんが帰ってきた。
良い匂いが届いているんだろうね。
遠めなのに『ぐぅ~』って、2人のお腹の音が聞こえてくる。
偵察お疲れ様です。
その横でシロップさんがブツブツ言っている。
気になるから近付いて聞いてみると、
「男の子の手料理、男の子の手料理、男の子の手料理……」
さすがに擁護できない感じになってきたね。
でも、僕の守備範囲は広いから安心してほしい。
料理を食べた後に僕をデザートとして食べてほしいと思っているんだ。
1番危ないやつは僕かもしれないね。
早くもクンカクンカが恋しくなってきたよ。
シロップさんの温もりを思い出しながら、料理を作っていく。
すると、スズが
「大事な話がある」
「どうした? そんな真剣な顔で」
「今回の依頼は難易度が高い。戻ってきたカイルの顔を見ればわかる。状況は良くない、場合によっては全滅するかもしれない」
「すまんな、誤魔化すのが苦手なんだ。いま偵察してきたが、思っている以上に繁殖が進んでいた。いつスタンピードが起こってもおかしくない状態だ」
予想よりも事態は悪いんだね。
全滅を否定しないのは、それだけ酷い状態ってことか。
Aランク冒険者ですら危ないって、さすがに怖くなるよ。
「
「……そうだな、俺たちが力を合わせてもSランクには届かない。成功確率の方が低いだろうな」
みんな死を覚悟してここに来ているのかな。
あの馬車の楽しい時間なんだったんだろう。
無理して明るくしてくれていたのかもしれない。
「でも、戦力を見誤ってほしくない。私だけで合流したわけじゃないから。ここにはショコラとして来ている」
「どういう意味だ?」
スズは1度僕の方をチラッと見た。
「タツヤはユニークスキルを持っている。現状を大きく変えるほどの、国宝級のスキル」
国宝級と聞いて僕が1番驚いてますけどね。
さっき聞いた話より、明らかにグレードアップしてるんだもん。
でも、そういう『こいつはすごいのか?!』っていう目線は好きだよ。
もっと尊敬の眼差しで見られたいんだ。
今まで変人扱いをされ続けた醤油戦士を褒め称えてほしい。
「でも、スキルの内容を拡げられたくない。だから、誰にも話さないことを約束してくれるなら、ユニークスキルを使って戦おうと思う」
「そんなにヤバいやつなのか?」
「うん」
シーンと静寂に包まれる。
僕とスズは4人の答えを待つ。
「俺たちは絶対に口外しないと誓う。お前たちを裏切ったりはしない」
「わかった、続きはごはんの後に話す。そっちの方が説明しやすいから。ごはんはおいしすぎるけど、騒がないでね?」
いきなり食事の話に代わり、
急に緊張感がなくなったからね、仕方ない。
でも、おいしすぎるなんて言われたら、僕も嬉しくなっちゃうよ。
早速、アイテムボックスからテーブルと椅子を取り出す。
ちょうど出来上がった、豚汁、ふろふき大根、タマゴサンドを並べていく。
初めて見る料理に戸惑いを見せる
初めて見る料理に大興奮のスズ。
早くもスズは「ふぉぉぉぉぉぉ!」と、いつものリアクションだ。
4人はそんなスズを見て、完全に引いている。
そのため、1人だけ異常に興奮したスズが浮いていた。
でも、スズのそういう興奮している姿が好き。
「たっちゃん、スズちゃんのキャラが変わっちゃったよ~」
これがスズの真の姿ですよ。
目もキラキラしてて可愛いですよね。
放っておくとよだれ垂らすのがマイナスですけど。
「気にしなくても大丈夫ですよ。ごはん食べる時はこうなりますから。一時的にハイテンションになってるだけです」
「「「「 ……… 」」」」
すでに1人だけ暴走してタマゴサンドをがっついている。
両手にタマゴサンドを持ってバクバク食べているんだ。
僕らはその光景を黙って見守るという、変な集まりになっているよ。
スズは2つのタマゴサンドを食べ終えると、新作の『ふろふき大根』に興味を持ち始める。
箸で大根を持ち上げ、香りを嗅いだり眺めたりしている。
食べる決心がつくと、大きな大根を一気に口へ放り込んだ。
その姿を
「大根が~、ゴンゴン響くよ~。心に~、大根が響くよ~」
「ほら、そんなに泣かないで。はい、ティッシュ。鼻も出てるからちゃんとかもうね」
心に響きすぎて泣いちゃったんだね。
でも、大きな大根を一口でいったのがダメなんだと思うよ。
普通、ふろふき大根は箸で割って食べるからね。
スズは鼻をかんだ後、豚汁を食べ始める。
すると、泣いてたはずのスズの目がギンッと大きく開き、急に立ち上がった。
「これはみそ汁界の神である!! 皆の衆、神に控えよ!」
「「「「「 ……… 」」」」」
さっき騒がないでって言ったのは君だよね?
なんで叫んじゃうのかな。
外だから騒がないように気を付けようね。
魔物さんが寄って来ちゃうから。
食事が始まってからの僅かな短時間で、君だけ泣いたり叫んだりとおかしなことになってるよ。
当然、そんな姿を見続けた
スズも自分が浮いていることを理解したんだろう。
皆の顔を確認した後、静かに座って黙々とタマゴサンドを食べ始めた。
「あ、そうだ。タマゴサンドはキュンキュンするみたいなんで、気を付けてくださいね」
「すまん、意味がわからないんだが」
「僕も自分で何を言ってるかよくわからないんですけど、そうなるみたいなんですよ。……早く食べないと、冷めますよ?」
目の前に出された異様な料理。
いつもと違うスズ。
意味不明なことを言い出す僕。
楽しい食事のはずなのに、変な空気が流れている。
ここで先陣を切って食べようとするものが現れた。
子供大好きのシロップさんだ。
「男の子の手料理だから~、私は食べるよ~♪」
おいしそうだから食べるって言われたかったよ。
シロップさんに添い寝されたくて作ってるんだからね。
嬉しそうな顔で箸を持ち始めたシロップさんは、ふろふき大根を一口サイズにカットして食べ始める。
「男の子が響く、男の子が響く、男の子が響く」
怖いよ、シロップさん。目がガチだよ。
でも、可愛い。うさぎさんが大根を食べてる。
おいしいのかな、耳もピクピク動いてる。
後でモフモフしていいか聞いてみよう。
食事をしていない
ザックさんとカイルさんは放っておいても、そのうち食べ始めるだろう。
けど、ここまでスズ以上に無口で表情が崩れないリリアさんが気になる。
2人のように狂喜しながら食べたら、面白いことになると思うんだよね。
「リリアさん。豚汁は体が温まるし、おいしいですよ?」
スズとシロップさんの壊れっぷりを、チラッと何回か確認している。
リリアさんは、『絶対にこうならない』という強い意志が決まったんだろう。
ただでさえ鋭い目付きがさらに厳しくなった。
そして、豚汁を手に取りゆっくりと口に運ぶ。
「美味」
それだけ言うと、普通に食べ始めた。
クソッ、なんか負けた気分だ。
この世界の人に初めて普通の反応をされてしまった、なんか悔しい。
つ、次はタマゴサンドでキュンキュン言わせてあげるんだからねっ!!
カイルさんとザックさんは、リリアさんが食べたことに安心して食べ始める。
一口食べると『ここから巻き返しをするぜ』と言わんばかりに、すごい勢いで食べ進めていく。
「はぅ!」
あっ、シロップさんがタマゴサンドでキュンキュンしてる。
だから言ったのに……。
でも、キュンキュンしてる姿が色っぽい、好き。
ウサギの垂れ耳ってめちゃくちゃ卑怯だ。モフモフしたい。
おっ、リリアさんもタマゴサンドを食べ始めるぞ!
果たして君に耐えることができるのかな?
くらうがいい、この最強のキュンキュン攻撃を!
「ん……美味」
表情が一切崩れない……だと?!
クソッ、ここまでいろんな人がオーバーリアクションしてきたというのに!
さっき『これ食べたらキュンキュンしますよ』、と言った自分が恥ずかしい!
カイルさんとザックさんはキュンキュンしなくていいよ! キモいから!
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