第24話:天使の笑顔に浄化されてしまいそうだ

 何度か休憩を挟み、フリージアへ向けて街道を歩いていく。


 スズは意外に話すのが好きなんだろう。

 聞くと何でも答えてくれるし、色々教えてくれる。


「普段どうやって戦っているの? 昨日シルバーウルフと戦ったときは猫みたいに戦ってたよね。ホロホロ鳥の時は普通に殴ってたけど」


「スピードのある戦いをする時は、4足歩行で猫みたいに戦う。パワーのある戦いをする時は、2足歩行で人みたいに戦う。私は生まれたときから猫っぽかったらしい。なぜかわからない、自分でも猫みたいな行動をしている方が落ち着く」


「リーンベルさんの家で寝てた時も、猫みたいに丸まって寝てたもんね」


「うん、昔はお姉ちゃんの耳をよく舐めて怒られた。今も舐めたい願望はある。怒られるからやらないだけ」


 リーンベルさんの耳を舐めるときは呼んでほしい、そばで見たい。

 ちなみにスズさん、僕の耳、あいてますよ?


「獣人じゃないけどね。でも、獣人の友達に身体能力は獣人並みって言われた。沼地のように足を奪われる所でも、猫型の4足歩行ならダダダッて走れるから便利」


「やっぱり獣人の方が身体能力は高いんだね。神獣様と出会ってからなの?」


「多分。身体能力がグッと上がった気がする。あと魔法も強くなった」


「魔法も使って戦うことができるの?」


「うん、火魔法だけ得意」


 スズさんのハイスペックの一部をもらいたい。

 せっかく異世界に来たんだから、僕も火魔法使ってみたかったよ。


 火魔法ちょうだい、ソースあげるから。


 街道をひたすら歩いていると、辺りがだんだん暗くなってきた。

 無理して進まず、野営をして過ごすことになった。


「夜ごはん何にしよっか」


「タマゴサンドと金タマ汁」


 金タマ汁はやめて。

 絶対に『みそ』を省略しないで。

 タマネギと味噌に失礼だからね。


「ホロホロ鳥はいいの?」


「ホロホロ鳥はお姉ちゃんと一緒に食べたい。今はタマゴサンドとみそ汁がいい」


「スズはお姉ちゃん大好きだよね」


「姉妹仲良し」


 リーンベルさんは面倒見がいいから、お姉ちゃんっ子になる気持ちもわかるよ。

 マイペースのスズはスズで可愛くて放っておけないし。

 何が言いたいかっていうと、この姉妹は最強。


 夜ごはんはスズの希望通りに、タマゴサンドと金タマネギのみそ汁にした。


 夜ごはんを食べてお腹いっぱいになると、急激な眠気に襲われてしまう。

 1日中歩いたせいでヘロヘロなんだろう、足が棒みたいになってるし。

 何度か休憩したとはいえ、今の体は10歳の子供だからね。


 でも、野営するなら見張りが必須。


「タツヤは休んで、私が見張りをしてる」


「途中で起こしてね? 代わるから」


「私は2年間ずっとこんな生活してるから問題ない。良い子は休む、よしよし」


 まさかスズに頭を撫でられるとは思わなかった。

 嫌いじゃないけど。


 スズの頭ナデナデはとても心地よかった。

 また『初心うぶな心』発動してる気がする。


 トロけそうなくらい気持ちがいい。

 もっとしてほしい……。



- 翌朝 -



 頭を撫でられた記憶が5秒しかなく、気付けば朝になっていた。

 どうやら一瞬で寝てしまったみたいだ。

 なんてもったいないことを……。


 朝まで見張りしてくれたスズに感謝を伝えると、『タマゴサンドと金タマネギのみそ汁』を要求された。

 お安い御用です、お作りしますね。


 朝ごはんを食べた僕たちは、街へ向かって歩き出す。

 夜はしっかり休ませてもらったけど、昨日1日歩き続けたから筋肉痛が酷い。

 でも、スズなんて寝てないからね。

 休んでた僕が弱音を吐くわけにはいかないよ。


 そのまま歩き続けていくと、昼前にはフリージアの街へ戻ってきた。

 ギルドに報告をすれば、無事に『ショコラの初依頼』は完了だ。


 僕たちはすぐに早速ギルドへ向かう。

 ギルドの扉を開けると、4日ぶりのリーンベルさんがカウンターにいた。


 久しぶりに会うとドキドキしてしまうね。

 神々しいオーラを放っているよ、さすが天使だ。


「お姉ちゃん。ただいま」


「おかえり。どうだった?」


「依頼完了、報告する」


 シルバーウルフが3体ではなく、6体だったことをスズは報告した。

 村人の確認不足による依頼発注ミスだと処理された。


 僕は黙って横に突っ立って話を聞いてるだけ。

 また付き人感が増してしまった。


「じゃあヴォルガさんに解体してもらってね。はい、依頼報酬だよ」


 お金の管理はスズにお任せだ。

 だから、報酬を受け取るのもスズ、お金を払うのもスズ。

 絶対に捨てられないように、積極的に餌付けをしていこうと思う。


「うん、解体へ行く。別件、ホロホロ鳥がいたから狩ってきた。しかも6匹」


 リーンベルさんは立ち上がり、目をキラキラさせてスズと両手で握手をしていた。

 本当にホロホロ鳥が大好きみたいだ。


 早速シルバーウルフとホロホロ鳥を解体するため、ヴォルガさんの元へ向かう。


「おー! スズじゃねぇか、変わらねぇな!」


「うん。良いもの持ってきた」


「はっはっは、期待しているぜ」


 スズは元々この街にいたから、ヴォルガさんと知り合いみたいだ。

 まずはシルバーウルフを6体を取り出す。


「ん? お前らパーティ組んだのか?」


「パーティ名、ショコラ」


「お、おう。そ、それはまた変わったパーティ名だな」


 変なパーティ名だって言ってるようなもんですよ。


「さすがBランク冒険者だな、傷が少なく1発で倒されている。たった2年で随分成長したな。ん? これだけ……無傷か?」


「タツヤが卵で倒した」


「そういえば、お前はここらのウルフも無傷で持ってきてたな。それにしても、卵でか?」


「卵」


「「「 ……… 」」」


 1番気にしているデリケートな問題に首を突っ込まないでほしい!


 逆にCランクモンスターを無傷で倒す人いる?

 僕なんて卵をパカッて割ったら、ウルフがフゴッッッッって言って倒せるんだよ? すごくない?


 ……あんまり変な目で見ないで。泣いちゃうよ?


「ウルフとは別に解体して欲しい魔物を持ってきたんですけど、一緒に渡してもいいですか?」


「おう、出してくれ」


 ホロホロ鳥を一気に6体取り出すと、ヴォルガさんは「ファーーー!」と言って驚いた。


 僕とスズは顔を合わせてニヤリとした。やってやったぜ。

 鳥といっても、縦・横ともに2mの超大物が6体だからね。


 あまりにも驚いたヴォルガさんは、開いた口が塞がらないようだ。


「ホロホロ鳥の肉は全ていただく」


「なっ?! こんなにもか?! 腐っちまうからギルドに少しは卸してくれよ! な? な?」


「アイテムボックスは腐らない」


「ヌアーーーーーーーーーー!」


 良い年したオッサンが頭をかきむしって悔しがっている。

 ちょっと可哀想だから、スズに交渉してあげよう。


「10キロくらいわけてあげたら? 言うこと聞いてくれたら、おいしい料理が待ってるよ。夜ごはんは、ホロホロ鳥の肉汁がじゅわ~っとあふれ出「10キロわける」」


 早いよ。まだ肉汁しか言ってないのに。

 それでもスズはよだれを垂らし始めている。

 しっかり餌付けできそうで嬉しいけど。


「6体いるんだ、もう少し頼む! せめて20キロわけてくれ」


「スズ、ヴォルガさんがやっぱりホロホロ鳥の肉いらないって」


「あぁー! スマン! 10キロでいい! いや、お願いします!」


「10キロだけですよ」


 解体に時間がかかるみたいなので、後で肉を取りに来ることにした。

 解体場から戻ると、不思議そうな顔したリーンベルさんに声をかけられる。


「ヴォルガさんが2回も叫んでたけど、どうしたの?」


「スズがホロホロ鳥を卸さない、って言ったら叫ばれました」


「アイテムボックスがあれば腐らない。タツヤはいい子」


 そういって僕の頭を撫ではじめるスズ。

 や、やめて~。『初心うぶな心』のせいでトロけそうになるから。

 心地良すぎるんだよ。

 リ、リーンベルさんの前でそんなことしないで……。


「6体もいるのにギルドの取り分0だったら、確かに悲しくなっちゃうね」


「10キロだけ卸した」


 あっ、スズさんのナデナデが終わってしまった。

 もっと撫でられたい、スズさんに頭をナデナデされたい。

 むしろ飼われたい、スズさんにペットとして飼われたい。


 ……ハッ、ダメだ。

 最近は欲望に素直すぎる気がする、気を付けよう。


「そっか、ありがとね。最近入ってきてなかったから、取り合いになるだろうなー。そ、それで、その……今日の夜ごはんはホロホロ鳥で作るんだよね? 私の分も……ちゃんとあるよね? ね?」


 恥ずかしそうにホロホロ鳥料理を催促するリーンベルさんが可愛い。

 あるに決まってるじゃないですか、むしろ一緒に食べてください。


 リーンベルさんにも飼われたい。


「元々そのつもりですから大丈夫です。その代わり、お家で食べさせてくださいね?」


「うんうん! じゃあ今日楽しみにしてるね!」


 グハッ、リーンベルさんの天使スマイルが炸裂する。

 4日ぶりの神聖な笑顔に、僕は浄化されて消滅してしまいそうだ!


 え? もう消滅してしまえって?

 そんなこと言わないで、もうちょっと付き合ってよ。


 癒されすぎて逆にダメージをくらい始めているので、この場から立ち去ることにする。


「じゃあ、買い出しに行ってきますね」


「あっ、待って。もう1つお願いしてもいいかな? その……ちょっと恥ずかしいんだけど」


 そんなに恥ずかしそうにしてどうしたんだろう。


 ま、まさか……愛の告白?!

 人が少ないと言ってもギルド内ですよ。

 さっき『あなたの家でごはんを食べます宣言』した時から、マールさんとアカネさんがガン見してるのに。


 今けっこう注目されてるんですからね。

 それなのに、愛の……告白。


 僕たちがお会いするのは、4日ぶりですもんね。

 会えない時間で恋心に気付くパターンですか。


 リーンベルさんも僕と同じ気持ちだったなら、恥ずかしいですけど……い、いいですよ?


「少しね、言いにくいんだけど」


 モジモジするリーンベルさんがヤバイ。

 モジモジするリーンベルさんがヤバイ。


「今度お礼するから、タマゴサンドわけて?」


「………?」


 頭が真っ白になった。

 何を言われたのか理解できない。


 告白じゃない?

 タマゴサンド?

 タマゴサンドが欲しいの?


「タマゴサンドは至高」


「あれはズルいよね、おいしすぎだもん。ふわふわなパンにふわふわな卵、マヨネーズが寄り添って優しい味を作り出すの。お願い、今日のお昼ごはんに食べたいの」


「……ど、どうぞ」


 最高にぎこちない笑顔でタマゴサンドを渡した。

 リーンベルさんの最高にうれしそうな天使の笑顔が返ってきた。


 この笑顔、プライスレス。

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