第23話:服の上から水浴び
フリージアまで歩いて帰っていると、街道の途中で「こんにちは」と、ゴブリンが飛び出てくる。
スズのワンパンで一瞬だ、問題ない。
問題があるとすれば、スズという美少女と2人きりで歩いているということだ。
街道はしっかり整備されてて歩きやすく、辺り一面は大草原。
手を繋いで歩けたら、最高の手繋ぎデートになるだろう。
いきなり手を繋ぐのはハードルが高い、腕とか組んでくれないかな。
腕をつかまれて強引に引っ張られるのも悪くない。
しかも、スズは美少女でスタイルもいい。
無表情で口数は少ないけど、その落ち着いた物腰にスラッとした太もも。
幼顔なのにリーンベルさんより発育がいい胸にも、つい目を奪われてしまう。
そして、火猫の異名にピッタリの赤い軽装備。
赤い装備? 赤い装備って珍しくない?
何の素材を使っているんだろう。
「ねぇ、スズ。どうして赤い軽装備にしたの? 赤い軽装備ってあんまり見ないけど」
「よく聞いてくれた。私はうれしい。この装備はレッドタイガーウルフの希少な毛皮を使った装備品。私のサイズに合わせたオーダーメイドで、見た目以上に軽くて強度抜群。この装備の特徴は……」
- 1時間経過 -
防具のことを話し始めたスズは止まらなかった。
自慢の装備だったようで、歩きながらずっとしゃべり続けている。
高ランク冒険者だから、装備が好きなのかな。
とても目がキラキラしているんだ。
防具の話を聞いていると、今度は武器が気になってくる。
武器は格闘系だけあって、手にカイザーナックル(ナックルダスター)が付いているんだ。
とても澄んだ黒色で綺麗な武器。
靴はどうなんだろうか、武器になってるのかな……。
もしかしたら、蹴りは使わないのかもしれない。聞いてみよう。
「武器のカイザーナックルは澄んだ黒色してて綺麗だよね。靴は武器になってないの? カイザーナックルと違って真っ黒だけど」
「よく聞いてくれた。私はうれしい。黒いカイザーナックルは黒翡翠とミスリルを合わせて作ったオーダーメイドの武器。靴はブラックドラゴンの鱗をベースにして作っているため、強度・耐久が素晴らしい。蹴り攻撃も可能。この2つの武器の特徴は……」
しまった、武器も地雷だった。
スズの話が止まらない。
目をキラキラさせて話すスズは可愛いけど、武器の話ばかりは嫌だ。
可愛い女の子が装備の話ばかりって夢がないよ。
- 1時間経過 -
防具で1時間、武器で1時間も話し続けているのに、まだ終わらない。
正直、何を言っているのか全く理解できていない。
僕は「うん」「それで?」「へぇ~」「すごい」と、2時間これだけを言い続けている。
よくわからない話が終わりそうにないので、スズさんのイケメンっぷりを1つ紹介したいと思う。
スズより体が小さい僕は歩幅が小さい。
運動不足で体力もない。
だから、歩くペースが遅いんだ。
スズさんはイケメンだから何も言わずに歩幅を合わせて歩き、ところどころ休憩を取ってくれる。
疲れを一切感じさせずに歩くスズ。
すぐにヘロヘロになって休憩したいと思う僕。
自分の情けなさに泣きたくなってきたよ。
もちろん、スズさんの柔らかそうな胸の中で泣いてしまいたい。
- 1時間経過 -
武器の話が終わったら、また防具の話に戻ってしまった。
そんなに話したいならもっとしゃべってくれ、僕は聞き役に徹するよ。
満足するまで聞こうじゃないか。
だから見捨てないでね、付き人がんばるから……と思った、その時だ。
急にスズが僕の腕をガッとつかんできた。
確かに強引に腕をつかまれたい願っていた。
でも、いきなりすぎるよ。
会話も盛り上がってきたし、スズも寄り添って歩きたくなったのかもしれない。
べ、別に嫌いじゃないよ?
強引なところも好きだし、人目がないところで大胆なアプローチってドキドキしちゃうから。
でも、心の準備をさせてほしいんだ。
「止まって」
「ど、どうしたのスズ。周りに人がいないからっていきなりそんな……」
「見て。あれはこの世界の人が愛してやまないおいしいお肉」
……あれ、思ってたのと違うぞ?
指を差す方向を見てみると、大きな丸い鳥がいた。
縦、横ともに2mくらいある巨大な丸い鳥で、羽が異様に小さい。
リアルゆるキャラみたいな感じで、6体もいる。
遠くで見る分には可愛いけど、あれが襲ってきたらちょっと怖いな。
「あの鳥はホロホロ鳥。群れでいるのはレア。Aランクモンスターで強い。でも、水をかけたら弱る」
スズの目が血走っている。
そんなにおいしいのだろうか。
だからって、そんなに腕をギュッとしないでほしい。
恥ずかし……痛い、痛いよスズ、ちょっと痛い。
「作戦はこう。遠くから醤油を降らせる。あとはそれを殴るだけ」
作戦を立てるのが早すぎるよ。
どれだけこの鳥を食べたいんだ。
あと、腕が痛いから放して。
僕はスズの作戦通り、遠くから上空に醤油を打ち上げ、醤油の雨を降らせた。
この技を『ブラックレイン』と名付ける。
無駄にカッコいいだろ?
急な黒い雨に驚いたホロホロ鳥たちは、キョロキョロと辺りを見回している。
雨を降らせているのが僕だと気付くと、すごい勢いでこっちにダッシュしてきた。
着ぐるみ着た中の人が走ってるような感じだ。
そこに鶏肉を食べたいスズが迎え撃つ。
今回は猫みたいに戦うのではなく、普通に殴り飛ばしていった。
醤油で弱っていると言っても、Aランクモンスターをワンパンって強すぎるよ。
呆気に取られている僕の元に、醤油でベタべタしているホロホロ鳥を運んでくれたので、アイテムボックスに入れていく。
醤油の雨の中を走っていたスズも、同じように黒く汚れている。
すると、スズは自分のマジックバッグから、水の魔石を取り出して洗い流していく。
経験したことはあるだろうか。
目の前で美少女がいきなり服(装備)の上から水浴びをして、ビショビショに濡れるところを。
僕は期待した。
胸が高鳴った。
感謝をした。
服が肌にへばりついて色っぽく、下着がスケて見えると思ったからだ!
……スズの服は透けなかった。
服の上から装備を着ているからね。
透けるはずもなかったよ。
でも、水浴びスズさんが見れて激萌えだった。
心臓がはじけ飛びそうなくらいドキドキしているよ。
水浴びが終わったスズは、タオルを出して髪を拭いている。
ただでさえ可愛いのに、お風呂上がりの女の子ように髪の毛を拭いている姿は激萌えである。
「
スズが『
『
「ホロホロ鳥はそんなにおいしいの?」
「おいしい。焼くだけでおいしい。タツヤが料理すればもっとおいしい。お姉ちゃんも好き、早く帰って一緒に食べる」
ご機嫌になったスズは「ほっろほろ♪」と、鼻歌まじりで歩き始めた。
ホロホロ鳥を食べる口実で、またリーンベルさんのお家に呼んでもらえるのか。
なんてありがたい鳥だ、僕も大好きになったよ。
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