第21話:初めてのCランク依頼2

 村人達に作ってもらった食事を食べた後は、スズと徹夜で張り込むことになった。

 今夜は寝ずに朝までシルバーウルフを待ち続ける。


 張りこむといっても、まずやることは現場の確認だ。真っ暗だけど。

 スズは村の外周を魔石ライト(懐中電灯)を使って、念入りにチェックしていく。

 僕も一緒についていって、確認をする。

 思ったよりデコボコの道で歩きにくい。


 スズは地面を何度も直接手で触りながら、時間をかけて調べていった。

 地形や土の質を念入りに調べているようだ。

 新米ペーペーの僕はスズ先輩のマネをして一緒の行動をとる。


 それに気づいたスズはこういった。


「明け方と言っても太陽が出て明るいとは限らない。急に雨が降るかもしれない。

 曇ってるかもしれない。深夜に来るかもしれない。明日は違う場所から襲ってくるかもしれない。だから状況を把握する。失敗はしない」


 昨日オーク肉を食べて「むほっ」と言っていた、可愛いスズはどこにいったんだろう。

 冒険者のスズさんは頼りになってカッコよすぎる、イケメンだ。


 確認が終わると、北側の畑の近くに腰を下ろした。

 ここでウルフを待つことにしたみたいだ。


 徹夜で見張りするときに必要なものといえば、『コーヒー』だよね。

 異世界でコーヒーって中々飲めないと思うけど、僕は違う。

 【お菓子調味料】のスキルで『インスタントコーヒー』が出せるから。

 『牛乳』も使えるし、コーヒー牛乳を作ろう。


 1.コップにインスタントコーヒーと砂糖を入れて少量のお湯で溶かす

 2.牛乳を入れたら完成


 コーヒー牛乳の良い香りにスズがよだれを垂らしている。

 僕の知ってるスズだ、ホッとしたよ。


 普段は無表情で感情が読みにくいけど、食べ物のことになると表情が変わってわかりやすい。

 クッキー好きのスズは、あま~いコーヒー牛乳も喜んでくれるだろう。


「それはなに? 私の冒険者のカンがおいしいと言っている」


 女のカンみたいなやつかな。


「あま~いコーヒー牛乳だよ。気に入ってもらえると思うから、飲んでみて」


 一口飲んだスズは、「ふぉぉぉぉぉぉ」と小声で奇声をあげた。

 気に入ってくれたんだろう、目を大きく開いて一口飲むたび、「ふぉぉぉぉぉぉ」と言っている。

 やっぱり君は僕の知っているスズだったね、安心したよ。


 食い意地の張ったスズの方が可愛いと感じてしまう。

 そんな君にはクッキーもサービスしちゃうよ。

 深夜の餌付けは1段と楽しいからね。




- 翌朝 -




 明け方になって太陽が登り始めると、少しずつ周囲が明るくなり始めていた。

 シルバーウルフは来ないなーと思った時だ。


 スズがピクッと反応する。


 今いる北側じゃなくて、東側へ向かって走り出した。

 僕はスズを追いかけながら、腐った卵を両手に1つずつ作成する。


 追い付いた頃には、すでにシルバーウルフの群れとスズが対峙していた。

 事前情報では3匹だったけど、そこにいたのは6匹。


 スズはゆっくりとしゃがんで両手を地面につけると、4足歩行で一気に駆け出した。

 まるでネコ科のチーターみたいだった。

 急激な加速からトップスピードに乗り、シルバーウルフへ襲いかかる。


 リーンベルさんが猫っぽいって言ってたけど、そこまでガチだったのか。

 猫耳としっぽを後付けでもいいから付けてほしい。

 需要は大きいと思うんだ。僕も好き。


 スズは本物のチーターのように、100キロぐらいのスピードが出ている。

 あまりの速さにシルバーウルフは反応できていない。


 ドォォォン


 トップスピードから繰り広げられる強烈なパンチで、シルバーウルフを1体ぶっ飛ばした。


 スピードで圧倒するスズの電光石火のような攻撃で、1体ずつ確実に殴り飛ばしていく。

 捉えた獲物を逃がさないような、鋭い目で襲い掛かっている。

 1体、また1体と猫が襲い掛かるように攻撃して、敵を圧倒し続けた。


 残り2体になってもシルバーウルフは逃げようとせず、二手にわかれて村へ侵入しようとしてきた。

 スズが北側に行ったウルフを追いかけたので、僕は南側を対処することにする。


 夜中に村の見回りをしていたため、ウルフが通りそうな道を把握できている。

 先回りしてウルフが通るであろう道に卵を割っていく。


 コンコン、パカッ ぷ~ん

 コンコン、パカッ ぷ~ん

 コンコン、パカッ ぷ~ん


 ガサガサッ


 卵を割り終えた僕に向かって、シルバーウルフは勢いよくジャンプして飛び出してきた!

 僕はシルバーウルフにドヤ顔で言い放つ。


「哀れなザコめ! 貴様ごときに敗れるような我ではない、秘技『たまご結界!』」


 徹夜でしてたから、テンションがおかしくなっているんだ。

 僕の隠していた中二病が目覚めてしまったよ。


 ……卵を割っただけ、なんだけどね。


 シルバーウルフはジャンプして飛びかかって来ているため、途中で引き返すことができない。

 勢いよく結界内に侵入したウルフは、途中で強烈な臭さに気付くが、もう遅い。

 空中は逃げ場がなく、すぐに気絶して地面へ転がった。


 こうなったら僕の必勝パターンだ。


 ウルフの鼻に腐った卵をかける。フゴッッッッッ!

 臭さで息絶えた。ふっ、ちょろいぜ。


 これがCランクモンスターとはな。我の相手でh……、


「やっぱり変」


 ス、スズさん!? い、いつから見てたんですか。

 勝ち台詞を声に出さなくて本当によかったよ。

 もしかして、たまご結界のくだりまで見てたんですかね?

 ……見られていないことを祈りますよ、黒歴史なんだ。


 でも、1つだけ言いたいことがある。


「スズも猫みたいに駆け出していった姿は、人として変だったと思うよ?」


「「 ……… 」」


 お互いに変人だったことを自覚して、シルバーウルフをアイテムボックスに回収する。



 依頼の報告のために村長宅へ向かう。

 事前情報と異なり、シルバーウルフが6体だったことを伝えると驚いていた。

 村の北側と東側を襲っていたウルフの群れは別々だったんだろうと、スズは判断する。


 村長は確認不足で危険な目に合わせてしまったと、丁寧に謝罪してくれたので一件落着となった。

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