第12話:テンプレを吹き飛ばす青鬼

 ステータスを見ると、1時間だけ能力が向上していた。


 なんだろう、この効果は。

 うーん、【調味料作成】のレベルが上がってるけど、違和感を覚える。


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【調味料作成:Lv.4 】


  思い描くように料理調味料お菓子調味料を作成することができる。

  生成した調味料で料理を作ると、素材の味を引き出し、あらゆる効果を産み出す。


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 前から気になってたけど『あらゆる効果を産みだす』って、ステータス上昇するって意味かな。

 状態もMP回復速度上昇って書いてあるし。

 MP0の僕には関係ないけどね。


 1時間って時間制限もあるし、【調味料作成】の影響を受けたクッキーが原因だろう。


 腐った卵の異常なニオイも、知力が上がって魔法攻撃力が高くなったからだと思う。

 そもそも調味料が魔法扱いになっているのかわからないけど。


 まぁ、能力アップは嬉しいからいいけどね。

 しばらくゴブリン狩りで時間を潰して、ギルドへ戻ろう。


 この臭い卵を以前助けた女の子にぶつけたら、めちゃくちゃ怒られるだろうなー。




 引っ越し依頼の報告をするため、ギルドへ向かっていく。

 ギルドに着くと、受付カウンターはすべて埋まっていた。

 待つのは好きじゃないけど、仕方がないからリーンベルさんの受付に並ぶ。


 すると、前から不可解な会話が聞こえてきた。

 リーンベルさんの受付にいる男が「君は美しいね!」とか言っているんだ。


 完全に口説いてるとしか思えないんだよね。

 依頼の受付・報告に関係ない話ばかりしているよ。


 リーンベルさんを奪われたような気持ちになって、だんだん腹が立ってきた。


 いったい彼は冒険者ギルドをなんだと思っているんだろうか。

 出会いの場でも、可愛い受付嬢と仲良く話す場所でもないんだぞ。

 リーンベルさん目当てで受付に来るなんて、失礼な奴だな。


 ……すっごいブーメランが返ってきた気がする。


 そんなことを考えていると、マールさんの受付仕事が終わっていた。

 マールさんが手招きして、『こっちにおいで』と呼んでくれていた。


 名残惜しい気持ちのままリーンベルさんの受付を離れ、マールさんの元へ向かう。


「今日はベル先輩ダメだよ」


 他の人に聞かれたくないのか、小声で話しかけてきた。


「ま、まさか、あの人彼氏ですか?」


「違う違う。ベル先輩が相手をしてる人は、伯爵様のボンボン息子で下手に追い出せないんだよ。見て、先輩の笑顔が引きつってる」


 確かに全てを癒す天使スマイルじゃなくて、ぎこちなくて困っているような作り笑いだ。

 僕は心の中でガッツポーズをした。


「先輩って可愛いし、しっかりしてるから人気あるんだよ。アカネ先輩も色っぽくて人気あるけど、ベル先輩はこのギルドのアイドルだからね。ボクは全然モテないけど」


「えっ? マールさんモテないんですか? そんなに可愛いのに」


 思わず言ってしまった。


「ふぇ?! も、もう。からかわないでよ」


 マールさんは顔赤く染めて照れている。


「からかってませんよ。アカネさんとリーンベルさんと違った可愛さで魅力的ですよ。ボクっ子なんて最高に可愛いじゃないですか」


 あっ、また思わず言ってしまった。


 マールさんは褒められ慣れていないのか、顔が真っ赤になっていた。

 そういう恥ずかしそうにしてるとこも可愛いと思ってしまう。


 今日はそんな恥じらいマールさんに依頼報告をして、宿へ帰ることにした。



- 翌日 -



 異世界に来て、初めて寝坊した。

 寝坊したからダメってことはない。

 何も依頼を受けていないからね。


 でも、早朝にギルドへ行ってリーンベルさん達と話をする時間がなくなってしまったんだ。

 僕の心のオアシスが………。


 ギルドに着くと、朝の依頼受付ラッシュで大混雑だった。

 僕は毎日人が少ない時間帯を選んでいるから、こんなに人が多いのは初めて。


 ところどころ獣人がいる姿も見えて、新鮮でよかったけど。

 猫・羊・犬・ウサギまでは確認できたよ。

 猫のしっぽがユラユラ揺れて、触りたい衝動を抑えるのに必死だった。


 中でも1番気になったのは、3人の猫耳パーティだ。

 3人とも猫耳とか最強じゃない?

 いつか仲良くなってモフモフしたい。


 もし僕が獣人だったら、リーンベルさんに優しくモフモフされた後で、マールさんに激しくモフモフされて、最後にアカネさんにねっとりモフモフされて、たらい回しにされたい。

 ……そんな妄想してる場合じゃないよね、リーンベルさんの列に並ぼう。


 僕より遅く来る人はいなかったため、依頼を受けた人からギルドを離れ、どんどん人が減っていく。


 20分待ってようやく僕の番になったと思ったら、


「なんだぁ~、このガキは! てめぇみたいなガキが来る場所じゃねぇーんだよ!」


 3人組の山賊みたいな男たちが、いきなり声をかけてきた。

 ちょっと遅いテンプレがやってきたことに、少しワクワクしてしまう。


「僕もEランク冒険者なので、依頼を受けに来ただけです」


「てめぇみたいなガキが冒険者だ? ふざけたこと抜かしてんじゃねえよ! 今すぐやめちまえ!」


 朝っぱらから酒臭いし、二日酔いでイライラしてるんだろうか。

 だからって、理不尽に八つ当たりしなくてもいいと思うけど。


「大丈夫です、ゴブリンもウルフも倒していますし」


「うるせぇんだよ! てめぇみてえなガキの相手をしている暇はねぇ! ブチ殺されてぇのかッ!!」


 醤油ビームをお見舞いしてやろうかなと思っていたら、目の前の光景が一瞬で変わる。


 誰かが僕の目の前に現れたと思ったら、壁にガンッと当たる音がしたんだ。

 パッと壁の方を見ると、さっきまで目の前にいた3人組が壁にめり込んでいる。


 目の前に現れた女性が壁の方へ歩いていく。


「君たちは元気だね、少しお話をしようじゃないか」


 ハッハッハと笑いながら、笑顔で訓練場へ引きずっていった。

 やだ、あの人怖い。助けてくれたと思うけど。


 呆気に取られていると、リーンベルさんが『おいでおいで』と手招きしていた。


「ギルド内だったらいいけど、外では気を付けるんだよ?」


「あ、はい。さっきの方はお知り合いですか?」


「まだ見たことなかったんだね。あの人はサブマスターをしているヴェロニカさん。ギルマスの奥さんでね、この街のギルドは夫婦で運営してるんだよ」


 そういえば、ギルマスが「何かあったらいいに来い」って言ってくれてたっけ。

 朝練で「ヌアーーー!」と、言ってるイメージしかないから忘れてたよ。


「じゃあ後で助けてもらったお礼を言いますね」


「それは大丈夫だと思うよ。むしろ、ヴェロニカさんがお礼を言いに来ると思うわ。タツヤくんのこと気に入ってるからね」


「え? 初めてお会いしたはずですけど」


「この前のクッキーだよ。ヴェロニカさんは大のクッキー好きでね。タツヤくんの作ったクッキー食べてから大変だったんだよ?」


 サブマスであるヴェロニカさんについて色々教えてくれた。



・クッキーが食べたくて毎月わざわざ王都から取り寄せていること

・お酒を飲むと「クッキーに殴られて死にたい」「私の人生はクッキーがなければ始まらない」と語ること

・僕の作ったクッキーを食べて「このクッキーは神が作ったのか?!」と泣き始め、クッキーに拝んでいたこと


・元々冒険者で『青鬼のヴェロニカ』と恐れられた、Aランク冒険者だったこと



 ちなみに、ギルマスは『赤鬼のジェラルド』と呼ばれている元Sランク冒険者。

 夫婦で鬼の異名を持って、恐れられているそうだ。


「だから、このギルドで問題を起こす人なんて滅多にいないの。さっきみたいな人は、他の地域から来た命知らずで礼儀知らずな冒険者たちね」


「そうなんですね。でもクッキーで助けてもらえるなんてラッキーです」


「私はヴェロニカさんの気持ちがわかるけどなー。あのクッキーは本当においしかったから。初めてほっぺたが落ちると思ったよ」


 リーンベルさんがクッキーを思いだして、ほっぺたを手で抑えるジェスチャーをした。

 落としたい、そのほっぺたとあなたの心を落としたい。

 すでに僕は恋に落ちていますが。


「リーンベルさんがそんなに喜んでくれているとは思いませんでした。よかったです」


 お世辞かもしれないですけど、僕はすぐ本気にする危険なタイプですからね。

 ……お世辞じゃないよね? 本気だよね?


 真に受けた僕は、もう1度クッキーが100個入った箱を差し出す。


「まだ残ってますから、どうぞ」


「だ、ダメだよ! クッキーって高価なものなんだから」


「高価な材料は使ってませんから。リーンベルさんに食べてもらいたくて作ったんですよ。それなのに、食べてくれないんですか?」


 おっ、彼女いない歴32年にしては良い言葉を言ったんじゃないか?

 こんなことをサラッと言えるようになったなんて、僕も成長したな。


「うぅ……それならいただこう、かな。またみんなでおいしく食べるね、ありがと♪」


 天使の満面の笑顔がいただけるなら安い物ですよ。

 いくらでも貢ぎますからね。


 ギルドで随分時間を使ってしまったけど、リーンベルさんと話せる時間ができたので良しとしよう。



 この日は受ける依頼もなく、いつも通りゴブリンハンターをして過ごした。

 ステータスを確認してみると、


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 名前:タツヤ

 年齢:10歳

 性別:男性

 種族:ハイエルフ

 状態:普通


 Lv:1 (MAX)

 HP:100/100

 MP:0/0

 腕力:50

 体力:50

 知力:90

 精神:320000

 敏捷:70

 運:100(MAX)


【スキル】

 アイテムボックス、異世界言語


【ユニークスキル】

 調味料作成:Lv.4

(料理調味料:Lv.4 ・お菓子調味料:Lv.4 )


【称号】

 悲しみの魔法使い、初心な心、パティシエ、クッキーの神様 new!


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【クッキーの神様】

・クッキーで感動を与え、心から神だと思われた人に与えられる称号

 落ち込んだ心を回復させる


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 ヴェロニカさん、本当に僕のことをクッキーの神だと思っているんだ……。

 今度お会いしたときに、拝まれないように気を付けよう。

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