第7話:助けてください!
ゴブリン討伐へ向かう前に、リーンベルさんおすすめの宿屋へ向かっていく。
ギルドを出る時に「今日は宿を取るの忘れちゃダメだよ!」と、強く言われてしまったから。
おすすめの宿はギルドにも近くて、料理付きで手頃な値段の『猫じゃらし亭』。
元冒険者の夫婦が営んでいる宿屋で、低ランク冒険者を優遇してくれる人気の宿。(リーンベルさん情報)
宿を訪ねると、朝食を食べる冒険者たちでごった返していた。
忙しそうな時間に申し訳ないけど、宿のお願いをする。
「すいません、冒険者ギルドから紹介してもらったんですけど」
「チビっこいけど、あんた冒険者かい?」
「はい、昨日なったばかりです。今日のお部屋をお願いできますか?」
「朝晩食事付きで銀貨4枚だけど大丈夫かい?」
「お願いします」
「あいよ。一泊でよかったのかい?」
「お金がないので、また明日更新させてください」
「そうかい、頑張んなね」
「はい、では夜に来ますからお願いしますね」
無事に宿も取れたから、市場へ向かうことにする。
やっぱりお金の価値がわからないと不便だからね、物価を確認したいんだ。
商品の値段を見比べながら歩いていると、1か所だけ多くの女性が集まっていた。
気になるので覗いてみる。
【 金タマネギ大放出! 2つセットで大安売り! 】
女性が2つセットの金タマネギを取り合っている。
彼女たちは「私の金タマに触らないで」「この金タマを先に取ったのは私よ」と、金タマネギを奪い合っていた。
金タマネギを売っているオッチャンは満面の笑みで喜んでいる。
ここを覗いたのは、なんか負けた気がして悔しい。
見なかったことにしよう。
しばらく市場を覗いて観察した結果、だいたいの目安がわかった。
『1金貨:10,000円
1銀貨:1,000円
1銅貨:100円』
昨日の僕の日給は銀貨8枚で8,000円だ。
宿屋は食事付きで銀貨4枚(4,000円)だったから、本当に良心的な宿屋さんだね。
今日と明日はいいけど、このままだったらけっこうギリギリの生活になりそうだ。
雨降って冒険に行けなかったら、収入がなくなって一気にピンチになるもん。
稼げるうちに稼いだ方がいいから、早めにゴブリン討伐へ向かおう。
昨日と同じく西門から外に出て、ゴブリンを手当たり次第に倒していった。
頑張った甲斐もあって、太陽が真上に来る頃にはゴブリンを10体も倒していた。
得意の醤油攻撃で、草原は漆黒に染まっているけどね。
今のメインを醤油攻撃、サブはソース攻撃で戦っている。
醤油ばかりだと香りが飽きちゃうから、たまにソースの香りが嗅ぎたくなるだけだよ。
ハバネロソースは強いけど、独特のニオイがして苦手だ。
だんだん調味料が食べ物であることを忘れてきているよ。
ノープランで街から出てきたため、お昼に食べるご飯がなかった。
こんなことがリーンベルさんにバレたら「何でもっと考えて行動しないの!」って怒られそうだ。
絶対に言わないでおこう。
でも食べるものはある。
スキルの【お菓子調味料】でチョコレートが作れるからね。
見渡しの良い草原でチョコを食べながら休憩しようと思う。
大草原の中で座って休憩なんて、日本では考えられないことだ。
どこに危険があるかわからないから、油断はできないけどね。
でも、自然が多くてホッとする。
このまま仰向けになって、昼寝でもしたいよ。
ゴブリンのエサになるからやらないけど。
お昼休憩をしていると、ゴブリンを倒そうとする冒険者を見かけた。
きっと同じ低ランク冒険者だろう。
勝手に親近感が沸いてしまうけど、遠目で観察しているとファイヤーボールを作って攻撃していた。
魔法が羨ましくて仕方がない。
こっちは醤油だよ?
1時間ほど休憩したので、ゴブリン探しを再開する。
できるだけいっぱい狩って、明るいうちに帰るんだ。
2日連続でリーンベルさんに怒られたくない、僕は褒めてもらいたいんだよ。
あんなにニコニコした人が怖いと思ったのは初めてだもん。
リーンベルさんは笑ってこそ天使だから。
ゴブリンを倒しながら歩いていると、昨日兵士さんに「近付くな」と言われた森の近くまで来てしまった。
近くで見ると大きな森で、兵士さんが「近づくな」と言ってた意味がわかる。
入ったら戻って来れないと感じるほど、不気味な森だったから。
もうそろそろ街に帰ろう。
ここにいるのはマズい気がする。
その時だった。
森から何かが走ってくる音がした。
気になったので、目を細めて音のする方向を確認する。
「……あれ? 女の子?」
そのまま観察していると、同い年くらいの小さい女の子が森から飛び出してきた。
それでもまだ森の草木が「ガサガサ」と音を立てて揺れている。
嫌な予感がする。
悪い予感というのは的中するものだ。
女の子からしばらく遅れて、ウルフが5体飛び出してきた。
息を切らしている女の子は、僕に向かって一心不乱に走ってくる。
「ウルフが、ウルフが! 助けてください!」
ウルフを見た瞬間から、僕は冷や汗が止まらない。
ウルフ1体なら対処できるけど、一気に5体も相手をしたことがないんだ。
僕を盾にするように後ろへ隠れる女の子。
手足がガクガクと震えてウルフに怯える僕。
5体のウルフは「グルルルル」と唸り声をあげながら、僕達を取り囲むように包囲した。
まるで、すでに敗者と勝者の関係が決まっているような状態。
リーンベルさんと兵士さんの言うことをもっと聞いておけばよかった。
今まで倒したウルフも、たまたま群れからはぐれていただけに過ぎない。
昨日あれだけリーンベルさんが説教してくれたのは、こういう事態を見越してだろう。
怒っていたリーンベルさんの顔が目に浮かぶ。
でも、女の子の前で泣き言なんて言ってる場合じゃない。
後悔したってウルフは見逃してくれないんだ。
戦う覚悟を決めよう。
勝ってもう1度リーンベルさんに怒られよう。怖いけど。
戦うといっても、今まで通りの戦闘ではダメだ。
ウルフに囲まれているこの状態で、1体しか狙えない醤油ビームでは勝てない。
両手を使って2体倒したとしても、すぐ残りの3体に殺される。
思いつく方法はただ1つ。
うまくいくかわからないけど、ぶっつけ本番で賭けに出るしかない。
ウルフ相手だったら何とかなる気がする。
いや、なんとかしてみせる!
急いで【調味料作成】で卵を作成する。
ただの卵じゃない、腐った卵だ。
スキル【調味料作成】の解説文は『思い描くように料理調味料を作成することができる』と書いてある。
ならば、卵を腐らせて作り出すこともできるはず。
僕は卵が腐りすぎて黄身が緑色になっているような、異常な腐り方をした卵を思い描く。
イメージして作り出した2つの卵は、一見何の変哲もない普通の卵だった。
腐りきっていることを祈り、自分の足元へ投げつける。
ベチャッ ベチャッ ぷ~ん
間髪を容れずもう1度作成して、足元に投げつける。
ベチャッ ベチャッ ぷ~ん
合計4個の腐った卵が足元で割れ、中から緑色の黄身がドロッと出ていた。
「うぐっ。自分が思っていたよりも臭い。強烈な卵の腐ったニオイがする……。異臭ってニオイのレベルじゃない! これはアカンやつや!」
強烈な悪臭に包み込まれると、助けを求めてきた女の子はウルフの恐怖を忘れて必死に耐えていた。
両手の人差し指を鼻に突っ込んで、ニオイをなんとか防ごうとしている。
はじめてみたよ、臭すぎて鼻に指を突っ込む人。
人間の女の子ですら悶絶してるような恐ろしいニオイに、嗅覚の鋭いウルフが耐えられるはずもない。
気が付けば、ウルフは5体とも白目を向いて倒れていた。
でも、死んだわけではないらしい。
アイテムボックスに入れようとしても入らないから。
臭すぎてただ気絶しているだけみたいだ。
こんな気絶しているウルフを見過ごすなんてもったいない。
ちょっと遠めの距離で気絶してるんだ。
近距離で卵を割ったら倒せるかもしれない。
試しに倒れているウルフの鼻先に、腐った卵を割ってみる。
コンコン、パカッ フゴッッッッッ!
気絶しててもニオイはしっかり感知するらしい。
ウルフは『フゴッッッッッ!』と豚鼻を鳴らして、動かなくなった。
アイテムボックスにしまえた。
ウルフに近づく、卵割る、フゴッッッッッ!
ウルフに近づく、卵割る、フゴッッッッッ!
ウルフに近づく、卵割る、フゴッッッッッ!
ウルフに近づく、卵割る、フゴッッッッッ!
5体のウルフを倒した。
僕はウルフハンターになれるかもしれない。
……卵を作っている人には怒られるかもしれない、だが許してほしい。異世界で生きるためなんだ。
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