第6話:異世界の朝はオッサンで始まる
- 異世界生活2日目 -
自然豊かな異世界の朝は、アニメのワンシーンのような朝から始まる。
朝日の眩しい光が僕の顔をそっと照らし、小鳥のさえずりが朝を知らせてくれるんだ。
そして、ドス汚いオッサンの声が「ヌアー! セイ! ドリャー!」と響き渡r……。
おい、こんな朝早くから叫んでるクソ親父、ちょっとこっち来い。
オッサンの叫び声を聞きながら、2度寝なんてできない。
仕方なく眠い目を擦って起床し、オッサンの叫び声をBGMにして顔を洗う。
バシャッ セイ!
バシャッ ドリャー!
バシャッ す~ん
『す~ん』ってなんだよ。
もうオッサンの声は完全に無視しよう。
この世界に洗面所はあるけど、水道はないみたいだ。
その代わり、蛇口には小さな魔石が付いている。
魔石をタッチしたら水が出て、もう1回タッチしたら水が止まる。
光の付け方も同じだった。
電球やLEDの代わりに、魔石が光って明かりになっている。
電気や水道・ガスの代わりに魔石を使って、家電製品ならぬ魔石製品を作っているんだと思う。
だからゴブリンの魔石でも需要があるんだろう。
朝早く起きてもやることがないので、洗面所で昨日覚えたスキルを使ってみよう。
まずはステータスを確認する。
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名前:タツヤ
年齢:10歳
性別:男性
種族:ハイエルフ
状態:普通
Lv:1 (MAX)
HP:100/100
MP:0/0
物理攻撃力:100
魔法攻撃力:100
腕力:50
体力:50
知力:90
精神:320000
敏捷:70
運:100(MAX)
【スキル】
アイテムボックス、異世界言語
【ユニークスキル】
調味料作成:Lv.2
(料理調味料Lv.2・お菓子調味料Lv.2)
【称号】
悲しみの魔法使い、初心な心
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【料理調味料:Lv.2】
・醤油 ・ソース
・香辛料 ・卵
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卵から作ってみようかな。
卵をイメージすると、右手にMサイズの卵が出てくる。
コンコン パカッ
黄身が黄色の普通の卵だ。
洗面所に流れていく卵を見て、ちょっともったいない気分になった。
次に香辛料を作ってみる。
「攻撃力が高そうな香辛料は……ハバネロだよね。
ハバネロソースを出してみよう」
真っ赤なハバネロソースをイメージする。
手から赤い液体が出てきた。
こいつは使えそうだぜ。
車や電車などがなく、魔物がいるこの世界は物流が悪いはずだ。
安全に運べないし、大量に運ぶことができない。
つまり、香辛料があまり出回っていないだろう。
そんな世界の人や魔物が激辛に強いとは思えない。
そうとわかれば、早速叫んでるオッサンの声を確認しに行こう。
危なかったらハバネロビームで撃退してやるぜ。
べ、別にオッサンの声にビビってたわけじゃないけどね?
声を頼りにオッサンを探すと、解体場の方から聞こえてきた。
深呼吸して心を落ち着け、ゆっくりと扉を開ける。
ギィ~
扉の繋ぎ目は錆びていて、開けた音が響いてしまった。
当然、その音で扉を開けたことがバレたため、中にいたムキムキオッサンと目が合ってしまう。
まさか恐ろしいほどムキムキしたオッサンが、斧を叫びながら振り回していたなんて。
斧を持ったムキムキオッサンは無言でこっちに歩いてきた。
迷わず、そっと扉を閉じる。
何も見なかった。いいね?
そう思って立ち去ろうとしたら、扉が開けられる。
野生のムキムキオッサンが現れた。
「なぜ扉を閉めた?」
「お、斧を持った知らない人が無言で歩いてきたから、現実逃避したくなったんです」
「……そうか。ところでお前は誰だ?」
納得しちゃったよ。
「昨日ギルドの休憩室で泊めてもらったタツヤといいます。オジサンは?」
「お前がそうか。俺はここのギルドマスターをしているジェラルドだ」
ギルマスかよ! すごい怖いじゃん。
身長190センチくらいで、筋肉隆々のムキムキオッサンとか関わりたくない。
受付嬢の可愛さの反動でギルマスが凶悪に見えるよ。
絶対に呼び出しをくらわないように安全な冒険者を心がけよう。
「ところで、なぜギルドマスターが朝練してるんですか?」
「普段から体を動かしておかないと、いざという時に危ないからな。ギルマスの仕事は書類整理ばかりで、体を動かせるのは朝ぐらいしかないんだ」
お? なんだ? このムキムキマッチョは。
案外頭キレる系のギルマスなのか?
「お前はアイテムボックス持ちらしいな。他に魔法やスキルが使えない分、冒険者同士のトラブルに巻き込まれやすい。何か困ったことがあれば俺のところに直接言いに来い」
今、斧を持ったオジサンに絡まれてますって言ってみたい。
「冒険者同士の問題はギルドが関与しないって聞きましたけど……」
「気にするな。この国でアイテムボックス持ちの冒険者は1人もいないんだ。しょうもないトラブルに巻き込まれるくらいなら保護してやる。アイテムボックスにはそれだけの価値がある」
この人は見た目と違って、頭がキレキレだ。
パッと見が脳筋タイプだから、斧を持って無言でこっちに来たときはヤバイやつだと思ったけど。
味方でいてくれるみたいだし、逆らわないようにしよう。
ギルマスに感謝を伝えてから、休憩室に戻る。
休憩室に戻ってきても、やることがない。
ちょっと早いけどゴブリン退治に出かけようかなって考えていると、扉が開いた。
天使リーンベルさんだ。
キョトンした顔で固まっている。
「あれ? もう起きてるの?」
「おはようございます。ギルマスの朝練の声で起きましたよ」
「あぁ、そっか~。残念だな。せっかく寝顔見ようと思って早く来たのに」
もしかして、脈アリですか?
異世界で昨日知り合ったばかりですけど、僕は全然構いませんよ。
むしろ、お願いします。
寝顔見たかったって、ストレートに言われるのも嫌いじゃないですし。
僕は思いを持ってても攻めずに待つタイプだからね。
その結果、彼女いない歴32年間という記録をたたき出したんだ。
なお、現在も更新中である。
リーンベルさんは「朝ごはんあげるから一緒に食べよう」と、パンを差し出してくれた。
本当は寝顔を見に来たんじゃなくて、朝ごはんを届けに来てくれたんですね。
そうならそうと言ってください、僕は勘違いしやすいタイプなんですから。
それにしても、冒険者登録の受付をしてもらっただけなのに、すごく気を使ってくれている。
リーンベルさんは本当に優しくて天使のような人だなー。
天使と一緒に食べる朝ごはん、こんな素敵な朝が他にあるだろうか、いや……ない!
目の前で天使がパンを食べている姿が可愛くて癒される。
それだけでパンがおいしく感じてしまうよ。
こんな神聖で清らかな朝のBGMは、「ヌアーーー!」というギルマスの叫び声だ。
ギルマスも人柄がよさそうなのに申し訳ない、僕はギルマスを嫌いになりそうだよ。
パンを食べ終わると、ちょうど無邪気な元気っ子の受付嬢が出勤した。
「おはようございま……って、ベル先輩早くないですか?」
「あ、うん、おはよう。昨日登録した冒険者の子が気になっちゃってね」
「あ~、昨日ベル先輩に怒られてた子だ」
そんなにニヤニヤして見てこないでください。
僕だって怒られるとは思ってなかったんですから。
「昨日登録したタツヤです。よろしくお願いします」
「よろしくね。ボクはマールだよ」
ボクっ子……だと?!
ギルドの受付嬢たちは『癒し系・セクシー系・ボクっ子』と、逸材がそろいすぎている。
きっと受付嬢の質を高めて、冒険者をこの街から離れさせなくするギルマスの戦略だ。
ヤツめ、相当頭がきれるな。
脳筋っぽい顔しやがって。
とりあえず、マールさんの名前を知れたことに感謝しよう。
この人は話しやすそうだから、お友達になってくれそうだ。
ちなみにマールさんは貧乳だ、だけどそれがまたいい。
リーンベルさんは程よく膨らんでいるよ、だけどそれがまたいい。
アカネさんはボタンをいつ飛ばすのか楽しみなくらい大きい、だけどそれがまたいい。
32年も彼女いないとね、女性を胸で判断することがなくなるんだよ。
女性の胸とは、大きくても小さくても神聖で大変ありがたいものだからね。
「確かにこの子は気になるかもですね~。こんな小さい男の子が冒険者って、ボクは初めてですよ」
「あれ? 10歳から冒険者登録は可能ですよね?」
「登録可能なのは事実だよ。でも、早くても12,3歳で登録するのが暗黙の了解みたいなところがあってね。10歳で冒険者登録する子ってかなり少ないんだよ」
12,3歳だったら中学生くらいになるけど、10歳だったら小学4年生だもんね。
このまま素性を聞かれても困るから、話題を変えよた方がいいな。
「マールさんはリーンベルさんの後輩なんですか?」
「う、うん。ボクは半年前に就職したばかりでね。ベ、ベル先輩が指導係をしてくれてたんだよ」
あれ? なんでリーンベルさんとの関係を聞いただけなのに照れてるの?
この人……なんか怪しいぞ。
「マールはまだ危なっかしいから心配だけどねー。よーく見てないと失敗することもあるし」
「ベ、ベル先輩がそうやって見てくれてるから、安心して仕事できますよ。ほ、本当に可愛くて優しくて可愛い先輩ですから」
顔を赤くしてモジモジとしながらリーンベルさんを褒め始めた。
はっはーん、わかっちゃったなー。
マールさんはそっち系ですか。アリですね!!
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