第135話 夫、妻の言うこと聞くと死ぬ病気にかかる

 それはある金曜日の朝。確かに11月は半ばを過ぎてから冷えていた。


 夫は朝から咳と痰がひどかった。


 既視感がある、八月のあのときと同じ咳だ!


「夫君、検温して」


 夫、嫌がる。


「じゃ、この抗原キットで無実を示せ」


 夫、渡された抗原キットを放り投げる(漫画ではなく、本当に放り投げた)。


 こういう時のために買っておいた非接触型体温計を使う(期間限定ポイントで買った)。


『三四度』


 ……使えない。そういえばスタジアムでも三十三度などありえない数値を出していた。


「熱を測れ」


「嫌だ」


 の押し問答を数回。


 コッソリと上司に顛末及び夫の説得をするとメールして、尋問……じゃなかった、説得を再開。


「これ、唾液タイプだから食事するとしばらく使えないのよ。だから体温測れ」


 ちなみに症状が無い人は抗原キットを使っても無意味。


「俺の職場は皆咳をしてるよ」


「理由になってない。八月もそう言って『ただの風邪だ、バーカ』と仰っていましたが、あの有様でしたわよね」


「ほらほら、遅刻するよ」


「ほらほら、誤魔化さない」


「こんなのただの風邪だよ」


「常々私には『自己診断するな』と言って己は自己診断にするのはどうして?」


「……」


 都合悪くなると黙る。


「いいから使って報告しろ!」


 やむを得ず出勤し、駅までの道中、夫の職場の業務用電話に何度もかけるも誰も出ない。


 おかしい、とっくに職員は出勤してるのに。


 ツテというツテに「助けて!またバイオテロリストが咳き込んでいるのに、検温も抗原キットも拒否して出勤しようとしてるの! 夫の職場も繋がらないの!」と、助けを求めるも朝の忙しい時間。有効な対策は立てられない。


(ああ、バイオテロが……)と思い、出勤すると所長から「あちらの所長から体調不良で休むって連絡あったって。君は濃厚接触者疑いということで隔離した部屋で仕事ね」


 ……一気に力が抜けました。


 もちろんその夜は大喧嘩。


「大事にしたお前が悪い」とDV男みたいな居直り。


 もう、ダメだ。限界だ。折れた心を直しても直してもカルト信者並みになった右傾化は止まらない。


 こうなったら……フルメタル・ジャケットのハートマン軍曹になるしかない(知らない人へ。昔の映画の登場人物。鬼軍曹である)!

 高校時代の先輩にお勧めエアガンを聞き、アマゾンで検索しているところです。

 しかし、エアガンの世界はフロンガスが現役。なるべく使いたくないなあ。せめて弾はエコ素材にせねば。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る