第10話 風が吹けば桶屋が……儲からねーよ

 ……失礼、またタイトルから言葉が乱れてしまった。とにかく夫の主張やらがタイトルの言葉のように繋がらなくなってきた。思えばこの頃から夫はYouTubeにのめり込む頻度が高くなってきた。時は五月下旬、奇跡的に感染者が収束して緊急事態宣言解除となった頃である。個人的には四月からの異動で遠距離通勤に疲れてたから体力的に助かっていたのだが、出勤抑制で滞ってた仕事をひたすらこなす日々となり、帰りが遅くなる日がお互いに続いた。


 ある日、また「〇〇〇ニュース」を熱心に観ていた夫に言われた。

「君はあまりこの番組を観ないね」


「ストレスかかるから、今は情報収集を止めてる」

 とだけ答えたが、倍速の早口のしゃべりは苦手だし、極端に内容が偏っているのは見てて明らかだし、毎日「大統領選は不審な所が多い」「トランプを不利にしようとしている」やら「バイデンは親中派だからではないか」なんてニュースを見せられても困る。ここは日本だ。

 そりゃ、米中関係やら日本も無関係ではないが、なんでそこまで熱心に観るのだ? 大統領選に中国が関与しているとも言ってたように思う。

 そして番組自身が「俺たちはネトウヨ扱いされてる事になってるようですよ」と笑ってました。それ、なんてギャグ?


 ちなみに彼がよく見てるまとめサイトは分かっているだけでも「痛いニュース」「保守速報」「はちま起稿」「ツィッター速報」。頭痛が痛い頭を抱えながらも、大人な私はそれらは不確定なニュースが多いよと忠告しましたが聞き入れませんでした。

「痛いニュース」はネタとして見てましたが、フェイクニュース流して取り消さない時点でダメだと思います。確か「イタリアでは六十歳以上の患者を治療しないトリアージが始まっている」という誤報を流し、訂正せずに載せ続けてましたから。


 そして珍しく本を買ってきました。失言が多いベストセラー作家の本と、映画化もしたフクシマ50を書いた方の「疫病」でした。

 前者はともかく、後者は私もよく知らない方なので読めと言われてますがまだ未読です。

 だって去年の六月くらいに本の帯に「この疫病の正体を暴いた!」と断言しているのはちょっと。中国がウイルスのゲノムを公開していたのは知ってましたが、作家がどうやって暴いたのか。まあ、読んでみれば取材を重ねた結果が載っているかもしれません。


 逆に私が買った八割おじさんこと西浦博氏の本は一蹴されました。「大袈裟な抑制論だして経済を困窮させた戦犯」だからだそうな。

 ちなみにハマダさんも「その人、大丈夫?」と懐疑的。

 私は数学は苦手ですが、しっかり計算しての実行再生産の数値だったのだし、確かに人出を八割に抑えて収束、逆に今年(令和三年)の二度目の緊急事態宣言は七割削減を政府が掲げたのに対し、「七割では感染は抑えられない」と計算して結果的に当たっていた訳ですから(変異ウイルスなど別の要因もあるが)荒唐無稽ではないと思う。結果だけ見て「結局何も起きなかったじゃないか」と文句を言う人は一定数どうしても出るし、そのあたりは仕方ないかなと思う。

 なお、中身は厚労省との攻防戦(経済VS予防医学の綱引き)など水面下で起こっていたドキュメンタリーとしてなかなか読み応えがあった。

 しかし、新型コロナウイルスと米大統領選挙と日本。風が吹いても桶屋は儲かりそうにないのに、なぜここまでこじれ、夫はのめりこんだのだろうか。



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