無題(Sequel:後日譚)

@ayumi78

死神草子(Sequel:後日譚)

あれから何年もの月日が流れた。そう、あのビルの屋上で死神に会ってから、少し自分自身が変わった気がする。

あの後、しばらくしてから転職した。こちらの方が自分には合っていたのだろう、ストレスを感じない仕事、人間関係。息をするのさえ億劫だったのに、そんな事はもう無くなっていた。

結婚もした。子供も生まれた。あの時はこんな未来を想像だにしなかった。いや、出来なかった。毎日毎日朝から晩まで仕事に追われ、上司に散々文句を言われ、目の前の物しか見えなくなっていたから……

時は過ぎ、今は病院のベッドの上にいる。もう、思い残す事は

「ないんやな?」

あの時聞いた声がする。

「ああ、もう何もない」

「分かった。」

「そういえば、前に会ったよな?喫茶店で」

「せやな。珍しく目が合ったな。まさかボクが見えてるとは思わんかったけど」

少し笑いながら死神が言う。

「見えていたよ、ぼんやりとだけど。」

「そっかー。」

「…死神も笑うんだな」

「一応はな。亡者怖がらせたらあかんしさ。」

「なるほどな。あんたも大変なんだな」

「…変わった人間やな。そんなん言われたん初めてや」

呆れたように呟くと、死神は真剣な顔をして

「いいな?悔いはないな?」

と、大鎌を振りかぶる

「ああ」

「じゃ、いくで」

……………………………

「よし、っと」

籠に魂を入れて、

「しかし、人間って大変やな」

と呟く。

見下ろすと、あの男の周りに家族が群がっている。泣いている。

「また、どっかで会えるのにな。何百年後か知らんけど」

さて、と

病院の中から外に出る。と、けたたましいサイレンの音が響いている。

「事故現場か。あらら、入れ食い状態やん。あ、だからか、新人が沢山いてるわ」

見ると、新人が沢山いて、籠に入れる魂と入れない魂の見分け方を、監督役から教わっている。

「まあ、頑張って覚えやー」と声をかけ、職場へ急ぐ。

道すがら、腕に沢山の魂を抱えた死神に出会った。まだ幼い子供の魂達。温もりを知らずにいた魂達に、少しでも温かさを、という事なんだろう。

何とも言えない気分で、職場の扉の前に立つ。

「戻りましたー」

扉が開く、籠を渡す。いつもの作業だ。

繰り返し繰り返し、命は巡る。ここはそれを実感する場所。

背伸びをし、次の仕事に向かう。空っぽの籠を持って。

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