第10話「あの"わだつみ"を討て」

いくらMMMのような防衛戦力を持っていたとはいえ、所詮ワダツミ興行は民間企業。

対するこちらは、テロリストや宇宙海賊相手に戦い慣れしている連邦兵。


制圧はスムーズに進み、後はこのワダツミくんの主………ワダツミ興行の社長であり、ターゲットである男ミキ・ワダツミの居る社長室のみとなった。



「………突入!」



合図と共に、社長室に連邦兵達が雪崩れ込む。

が、その先頭を率いていた連邦兵の隊長は、信じられない物を目にした。



「………はっ?」



そこには、質素な作業机と「感謝」「やりがい」と汚い字で書かれた掛け軸があるだけだ。

その小汚ない部屋には、それ以外何も無かった。


ミキ・ワダツミは、どこにも居ないのだ。



「どうなっている………?」

「逃げた?」

「いや、この最近ここから宇宙船は出てないハズだ」



ならば、ミキ・ワダツミはどこに消えたのか?

基地の何処かに隠れているのだろうか?


連邦兵隊長が、そう怪訝な顔で考えていた、その時。



『隊長!大変です!応答願います!!』



隊長の通信機から、切迫したような声が聞こえてくる。

作業機材の格納庫を制圧した部隊からの通信だ。


まさか、MMM以外に何か伏兵でも居たのか?

そう考え、隊長は通信に答える。



「どうした?!」

『MMM………いや、作業用の重機が………ああ!こっちに来る!うわあっ!!』



メキメキという金属のひしゃげるような音と共に、ブツンと通信が途絶えた。

通信機に付属する、このワダツミくんの間取りを映したMAP画面を見てみると、

通信してきた部隊の反応が途絶えているのが見えた。



『隊長!こちら第3分隊、クレーンの化物が………うわぁ!』

『なんだアレは?!重機なのか?!それとも………』

『こっちに来る!撃て!撃て!』

『ダメだ!装甲が厚すぎて弾丸が通らない!』



………どうやら、思わぬ伏兵が待ち構えているという予想は、当たっていたようだ。





………………





オッグ二機、そしてウィンダムとゼファーの戦いはしばらく続いた。

だが、決着がつくより早く、戦いは終わりを迎えた。



「あっ!」



ビームショットを叩き込もうとしたウィンダムを前に、オッグが背中を向け、離れてゆく。

ゼファーと交戦していたオッグも、ワダツミくんの宙域から飛び去った。



「………逃げた?」

『もう戦う必要はない、って思ったんでしょうね』



宙域には、ウィンダムとゼファーのみが残された。


おそらくあのオッグを操っていたのは、ワダツミに雇われた宇宙海賊、または非合法の傭兵の類いだったのだろう。

ワダツミくんに装甲揚陸船の侵入を許した時点で、彼等の仕事は終わっていたのだ。


………そして、そんな連中に仕事を与えた時点で、ワダツミ興行はブラック企業を通り越して、ただの違法企業である。



『ミキ・ワダツミも罪状が増えたわね』



そんなミキ・ワダツミも、そろそろ突入した連邦兵に身柄を拘束されている事だろう。

だが、次の瞬間ヴィレッタの乗るゼファーのコックピットに届いた通信は、それを覆した。



『隊長、侵入した部隊の一部が、何かの攻撃を受けています』

『何か?まだ傭兵が居たの?』

『いえ、通信からして巨大戦力………恐らく、MMMの類いと思われます』



あのオッグ以外にも、まだ戦力を有していたようである。

それが何であるかは解らないが、対人装備しかない歩兵でMMMと戦うのは厳しい。



『わかったわ、座標を送って頂戴、私達も直ぐに向かう』



ここは、MMMに乗っているヴィレッタと貴明が向かうしか無いだろう。

通信を切ると、ゼファーはワダツミくんへと向かう。



『行くわよ、タカ!』

「は、はい、ヴィレッタさん」



ウィンダムも、それに続く。


連邦兵隊長から送られたワダツミくんの内部座標。

そこに、一番近い物資搬入口に近づく。


そして、固く閉じられたハッチに向けて、ウィンダムがビームブレードを引き抜き、一刃。



ずばあっ!



ハッチは意図も簡単に切り裂かれ、ウィンダムとゼファーはそこをこじ開けてワダツミくん内部に侵入した。


侵入した瞬間、ウィンダムとゼファーは内部の床に降り立った。

どうやら、重力発生装置が働いているようだ。



そこは、山積みにされた物資のコンテナ以外には、作業用のマシンぐらいしか置いてない、広い部屋だった。


貴明は、もしサバイバルゲームをするとしたら、こういう所でやったら面白いかも知れないと、なんとなく考える。

すると。



『………ッ!来るわ!』



ヴィレッタが叫ぶ前後に、ウィンダムの索敵センサーも、こちらに近づいてくる機影を捉えてビーッという警告音を流した。

その、直後。



………ずどぉっ!!



山積みにされたコンテナを吹き飛ばし、部屋の奥のゲートから、それは姿を現した。


蜂を思わせる、イエローを基調に黒をアクセントに加えた、いわゆる警告色と呼ばれるカラーリング。


下半身は丸々が戦車や重機のようなキャタピラになっている。

上半身はオッグの物を流用しているが、左肩にはクレーンが伸び、右腕は木工で使うような細いドリルに。

左手には「ネイルガン」と呼ばれる、釘を射出する銃のような工具が握られている。


戦闘で壊れたオッグを、作業用マシンとして改修した。

そんなイメージを抱かせる機体だ。



『あなた達ですか、私の会社に文句をつけるのは』



改造オッグ………胸に書かれた文字から「ワダツミ1号」という名前をつけられたそのMMMもどきから、紳士を気取ったような男の声が、オープン回線で流れてくる。



『来るなら来るで、ちゃんとアポイントメントを取ってもらわなくては困ります』

「………ミキ・ワダツミか」

『その通り』



そのワダツミ1号に乗っていたのは、他でもないミキ・ワダツミその人。

意識の高そうな言葉を並べるその男は、見るからに現場主義をイメージさせるような作業着を着て、骸のような痩せ細った顔でウィンダムとゼファーを捉えていた。



『一応聞いておくわミキ・ワダツミ、それは何の真似かしら?』



脅すように、ヴィレッタが尋ねた。

お前は何故それに乗って自分達と相対しているのか、と。

それは抵抗のつもりか、とも。


連邦軍の、しかも大佐という立ち位置の人間からの圧にも関わらず、ワダツミは笑いながら答えた。



『決まっているではありませんか、私の社員達を横暴な軍人から守るためです』

『ブラック労働で社員を使い潰しにしておいて、よくもいけしゃあしゃあと………!』



ヴィレッタの主張には、貴明も同意だった。

守る。

そんな言葉は、ワダツミのような人間に言う資格はない。


だが、ワダツミからは衝撃的な返事が帰って来た。



『それの、何がいけないのです?』

『はぁ………?』

『皆仕事にやりがいを持って働いた、それでいいじゃありませんか』

「………お前は何を言っているんだ?」



おもわず貴明も、ネットでよく見る画像のような台詞を漏らしてしまう。

この男は、他人の身体や人生を無茶な労働で狂わせておきながら、罪悪感の一つも持っていない。

それどころか、それを「善行」だと考えているフシがあるように思えた。



『人間という物は、お金なんか無くても生きていけるんですよ、仕事に対する情熱と熱意、そして感謝の心があれば………私はその為に、彼等にやりがいのある、自分を犠牲にしてもやり遂げる価値のある仕事を与えた………それの、何がいけないのですか?』



ああ、ダメだ。

貴明は悟った。


こいつは、人間として持つべきモノが欠落している。


人間を人間として「見た気になっている」だけでなく、人の死や犠牲を美談にするようなヤツだ。



「………ミキ・ワダツミ………」



他人の痛みをコンテンツとしか見ず、感動の為と言って消費するようなヤツだ。



「あんたは………存在してはいけない生き物だ!」



だから、生前読んだ漫画の台詞を流用し、貴明は怒りを見せた。


貴明も、かつては消費される側だったから言える。

こんなヤツは許してはおけない。

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