平成転生～懐かしの「お約束」に満ちた世界で第二の人生を謳歌する話～

第11話「部屋の中心で肉欲を叫んだモノ」

ウィンダムが動いた。

ワダツミ1号に向けて、ビームショットを向ける。

「落ちろワダツミ！！」

ビームショットなら、一撃でワダツミ1号を吹き飛ばせるだろう。

だが、ここはワダツミくんの内部。

ワダツミはともかく、罪なき社員や連邦兵を巻き添えにしては大変だ。

そこで役立つのが、ビームショットのもう一つの機能「マシンガンモード」。

低出力のビームを、それこそマシンガンのように連続で撃ち込むのだ。

コロニー内等の、高出力の武器が使えない状況で役に立つモードだ。

ズドドド！と、低出力のビームがワダツミ1号に向けて飛ぶ。

が、それはワダツミ1号の装甲を貫くには至らず、パキンピキンと跳ね返される。

「バカなっ？！」

オッグの装甲すら貫く威力だぞ？！

と、貴明はワダツミ1号の装甲に驚く。

『甘い！新入社員のように！！』

腕のドリルと下半身のキャタピラを回転させ、今度はワダツミ1号が突っ込んできた。

『来るぞタカ！！』

「うおっ？！」

寸前で飛び上がり、回避するウィンダムとゼファー。

ワダツミ1号はコンテナの山に突っ込んだが、どうという事はない。

『私がその甘さ、イノベーションさせてあげましょう！』

それ所か、空中に飛び上がった二機に対して、ネイルガンから釘を撃って攻撃を仕掛けてくる。

「くっ！」

『ぐううっ！！』

二機共に、シールドによる防御は成功。

だが、シールドや防御し切れなかった箇所に釘が深々と突き刺さっている様から見るに、威力はオッグマシンガンよりも上と見ていいだろう。

『このっ！』

ゼファーも、手にしたマシンガンによる攻撃を行うが、それもワダツミ1号の装甲を破るには至らない。

「だったら………！」

それを見た貴明は、意を決してペダルを強く踏んだ。

バインダーからジェット噴射が起き、ウィンダムをワダツミ1号に向けて突撃させる。

『タカ？！』

「接近戦でぇーーっ！！」

ビームショットを投げ捨てたウィンダムからビームブレードが引き抜かれ、エメラルドグリーンの光が散る。

なるほど、ビームブレードなら周りに被害を与えず、チャージしたビームショット並みの威力で攻撃できる。

ネイルガンをシールドで防ぎつつ、ウィンダムはワダツミ1号との距離を詰める。

そして、ビームブレードを振り下ろそうとした、その時。

『そんな甘さは社会では通じません！』

「な………ッ！？」

ど、ごんっ！

突如、貴明を衝撃が襲った。

ウィンダムが、弾き飛ばされたかと思うと、壁に叩きつけられていた。

一体何が起きたのか？

貴明が前を見ると、そこには。

「く、クレーンだと………？！」

ワダツミくんの肩から伸びたクレーン。

それが伸びて、ウィンダムに叩きつけられていた。

まるで、パイルバンカーのようである。

『どうしますか？このまま貴方を潰す事もできるのですよ？』

現在ウィンダムは、ワダツミ1号から伸びたクレーンと壁に挟まれた状態にある。

もし、ワダツミ1号が再びクレーンを伸ばすなり何なりすれば、ウィンダムの機体は潰れてしまうだろう。

今貴明は、ワダツミに命を握られた状態にあった。

だが。

「………よし」

『は？』

同時にこれは、チャンスでもあった。

「どりゃあ！！」

『なッ！？』

ウィンダムが、自分を押さえつけたクレーンに対して、その両手で掴みかかる。

「これでお前は動けない！」

『何ッ！？』

「今だヴィレッタさん！！」

ワダツミが気付いた時には、既にワダツミ1号の背後にゼファーの姿があった。

『まったく、無茶をやるわねタカは！』

ゼファーが、マシンガンをワダツミ1号に向けて構える。

咄嗟に逃げようとするワダツミだったが、ウィンダムに押さえられたワダツミ1号のキャタピラは、空回りするだけで動けない。

ズ、ダ、ダ、ダ、ダ、ッ！！

ゼファーのマシンガンから吐き出された弾丸が、空回りするワダツミ1号のキャタピラを破壊する。

それによってワダツミ1号はバランスを崩し、ウィンダムが解放された。

「だりゃあ！！」

ウィンダムが、ビームブレードを横に振るう。

その一刃は、ワダツミ1号を切り裂き、上半身と下半身に分離させた。

『ぐわっ！？』

ワダツミ1号の上半身が、地面に叩きつけられた。

そして次の瞬間、ワダツミが見たのは。

『………ひいっ！』

『ゲームオーバーよ、ミキ・ワダツミ』

身動きの取れぬ自分を見下ろすゼファーと、ビームショットを突き付けるウィンダム。

感動とやりがいを盾に他者を貪り続けた悪魔の、最後の時だった。

………………

ミキ・ワダツミは、そのまま連邦に身柄を拘束された。

後の調べで発覚したが、違法労働以外にも宇宙海賊等の犯罪組織との裏取引や、脱税等、色々と「人に言えない事」をやっていたようだ。

これによりワダツミのブランドは地に落ち、ミキ・ワダツミもそれに似合った社会的制裁を受ける事になった。

それまで、他人の命と人生を、美談の為に食い物にしてきた男に待っていたのは、

犯罪者の烙印とその後に長く続く刑務所暮らしだった………。

………………

仕事を終えて帰還した貴明は、ウィンダムをグレイブヤード内の無人ドックで修理させ、一休みの為に自室に向かっていた。

「結構入った………けどなぁ」

貴明が見つめる携帯の画面には、今回の仕事で得た収入が映っている。

つまる所の、電子通帳である。

このG.C世界においては、世界共通の「セント」という通貨が使われている。

価値は大体日本円と同じで、1セントが1円になる。

………もしこれが、令和に作られた創作なら「なんで通貨の価値が地球の、それも小さな島国と同じなんだ」というツッコミが入るだろう。

貴明も、それに関しては「手抜きだな」と考えている。

さて、収入の方に話を戻そう。

電子通帳に表示されていた値段は、2800万セント。

十中八九ヴィレッタが世話を焼いてくれたのだろうが、イェーガーという命がけの仕事をしている事を考えると、これぐらいは普通だろう。

貴明のいた世界で換算すると、高級外車を新車で買い、一等地のタワーマンションを購入してもお釣が来るような、貴明からすれば途方もない大金だ。

「手元に残るのは………はぁ、これだけかぁ」

だがイェーガー、それもMMMを持っている立場からすれば、そうもいかない。

加えてウィンダムは高性能機体。

パーツの多くがレアな高級品である。

今回の戦いで無茶をさせた事もあり、収入は修理でごっそり持っていかれた。

残る残高から食費や、ある「目的」の為に貯めている貯金を引いて、残るのは20万セント。

一般的なバイトで得られる給料より、少し高い程度だ。

それが安定して得られる訳でもなく、ウィンダムの維持費もかかる事を考えると、憂鬱な気分になる。

「ま、十分生活はできるけどさ………」

とはいえ、嘆いた所で状況が変わるわけでもない。

いい方向に考えよう。

そう思いながら、自室のドアを開く貴明。

………本来なら、戦闘後なので少しばかりストロークするつもりだった。

だが、今回は事情が違った。

それは。

「おかえりなさいませ、マスター♪」

「うわおっ？！」

なんと、自室でパフィが待ち構えていたのだ。

完全に気を抜いていた貴明は、突然の事にびっくりして声を挙げてしまう。

「ぱ、ぱ、パフィ？どうして、こ、ここに………？」

しどろもどろになりつつも、貴明は訪ねる。

普段、パフィは貴明の許可なしに部屋に入る事はない。

それが、何故ここに居るのだろうか？

「ふふっ、マスターだって待ってたくせに………♡」

誤魔化すように、微笑みかけるパフィ。

いつも見ている笑顔なのに、どこか色っぽく感じてしまう。

「待ってた？それってどういう………」

「知ってるんですよ？マスターがぁ、私の写真でいつもシてる事♡」

「なッ？！」

手を何か握るような形にして、上下に動かす仕草を取るパフィ。

それを見て、貴明の背筋がゾゾゾゾッ！と凍った。

あの仕草が、何を意味しているかは貴明にも解る。

「な、なんでそれを………？！」

「ふふ、私、この施設のシステムにアクセスできるんですよ？それぐらい朝飯前です♪」

そういえば、転生初日にパフィがこのグレイブヤードのシステムにアクセスしていたのを思い出す貴明。

ならば、この施設のあれやこれやにアクセスして、ここを盗撮できた事も頷ける。

つまり、今までパフィや街のセクシーな格好の女性をオカズにしてきた事も、彼女には筒抜けという事である。

「………メードロイドは、マスターの「シモ」のお世話もできるんですよ？」

赤面する貴明に、パフィはそう言って微笑みかける。

「は………はい？」

「マスターにどこまでも尽くす為に作られたのがメードロイドです………無論、こっちも♡」

パフィはベッドに倒れ混むと、こちらを悩ましい視線で見つめてきた。

誘っている。

貴明は、本能でそれを理解した。

「来てください、マスター♡」

「………ダメだ、こんな事」

「………何故、ですか？」

「だって、俺は身体は高校生でも、中身は30のオッサンだぞ？そんなの………」

貴明は、ヘタレであった。

いや前世では、未成年に手を出す芸能人が吊し上げられるような時代を生きていた考えると、ある意味正しい感覚の持ち主とも言える。

確かに、貴明はパフィに興奮していた。

パフィはロボットではあるが、外見は巨乳女子中学生なのだ。

生物的には当然である。

本当ならすぐにでも飛び付きたいのを、理性と罪悪感で必死に踏み留まっていたのだ。

………もし、これが漫画か何かであったなら、SNSにでも上げられて「これが大人の男の正しい対応だ！性欲猿のジャッポスは見習え！！」と、無数のいいねを獲得しただろう。

だが、残念ながら貴明にそんな正しい主人公としての道など最初から無い。

何故かって？

このG.Cという世界そのものが、そうした「アップデート」をしない世界だからだ。

「………そうですか」

諦めてくれたか。

と、貴明が安堵したのもつかの間。

「でしたら………作戦変更です♡」

「えっ………う、わああっ！？」

パフィが貴明の手を掴んだかと思うと、物凄い力でベッドの中に引きずり込まれた。

見た目は美少女でも、やはりロボット。

そのパワーは人間以上だ。

「な、何をっ？！」

「マスターは、強引にされるのが好みのようですので、そのように♡」

ベッドの上で、貴明に股がるパフィは、発情したような顔でジュルリと舌なめずりをする。

それを見て、貴明は悟った。

もう、逃げられないと。

「マスターの事………食べちゃいます♡♡♡」

………このグレイブヤードに、自分達以外誰もいないのは幸運だった。

この後の数時間、貴明は部屋に響くパフィの艶声を聞きながらそう思った。