第8話「依頼者はお姉さま」
彼女が女性である事は貴明も知っていたが、スラリと高い身長を見ると、乳房さえなければ美形の男性とも勘違いされるのでは?と思える。
メタリックブルーのベリーショートの髪に、切れ長の目に輝く黄色い瞳。
スラリとした顔立ちを、ピンクの
パフィに勝るとも劣らない巨乳をぶら下げているにも関わらず、メリハリの効いたモデル体型は、性的魅力よりもカッコよさを感じさせるが………やっぱりエロい。
青に黒いラインの入った、特注のパイロットスーツ………装甲のついたウェットスーツのような形状………が、一層彼女のセクシーさを引き立たせているからだ。
その上から、連邦政府軍のジャケットを羽織る姿から、一応彼女が連邦の軍人である事が解った。
パフィをロリ巨乳の年下ヒロインとするなら、彼女はクールビューティーなお姉様ヒロイン、と言った感じだ。
「久しぶりね、タカ」
「ヴィレッタさん!」
そして貴明は、彼女の事を知っている。
彼女の名は「ヴィレッタ・ライトニング」。
銀河連邦政府軍所属の軍人で、階級はなんと大佐。
それなりに権力も発言件もある彼女は、ギルドにおいても強い影響力を持つ。
そんな彼女と貴明が顔見知りの理由。
それは、パフィの提案であの宇宙海賊二名を連邦に突き出した際に色々と手続きをして貰ったからだ。
貴明にイェーガーとしての道を勧めたのも、彼女である。
その時から色々と親しく、今も貴明を「タカ」というあだ名で呼んでくる。
………こんな、若くて綺麗なチャンネーが軍隊で大佐という重要ポストにつき、ギルドでも権利を持つなんて事は、無論現実的に考えたらあり得ない。
しかし、G.Cにおいてはその限りではない。
何故ならこの、偉くてエロいお姉さんもまた「平成」の産物だからだ。
平成ポイントその9。
若いくせに組織に対する強い権力を持った身内。
である。
「まずはイェーガー試験合格おめでとう、早速で悪いけど、一仕事受けて貰えるかしら?」
「仕事………ですか?」
「ここじゃ人が多いわね………近くの喫茶店で話しましょう」
ヴィレッタが持ってきた、貴明がイェーガーになって受けるという初めての仕事。
あまり多くの人に知られると困るようだが、それは、何だろうか………?
………………
カフェ・ホワイトスター。
貴明とパフィが、ヴィレッタに連れられて入ったそのカフェは、コロニー・ゴールドラッシュの片隅で、隠れるように営業していた。
生身の従業員がおらず、古いアンドロイドが接客をする、無人カフェだ。
なるほど、ここなら秘密の話を聞き取られる事は無いだろう。
『ゴユックリ、ドウゾ』
パフィのような人間の外装すら纏っていない、某宇宙戦争映画に登場するロボットを思わせるウェイトレスが、注文のコーヒーを貴明達の席に持ってきた。
ヴィレッタは、その機械のウェイトレスに軽く礼をすると、コーヒーを一口飲む。
流石はオトナのお姉さん。
コーヒーを飲む姿も様になっている。
元とはいえ子供部屋おじさんの貴明とは、えらい違いである。
「………タカ、あなた「ワダツミ興行」って知ってるかしら?」
「………安い居酒屋チェーンでしたっけ」
「半分正解、他にもコロニー建設や資源採掘、製薬なんかにも手を出してるわ」
ワダツミ興行。
それは、このG.Cにて最近勢力を伸ばしてきた企業。
ヴィレッタが言ったように、様々な事業に手を伸ばしている一大企業であり、
「そして………」
「「社員を人とすら思わない、ブラック企業」」
貴明とヴィレッタの声がハモる。
そう。
ワダツミ興行はそうした明るい部分の反面、パワハラ・セクハラは当然のように横行し、
無茶な業務と重労働・安月給で社員を使い潰しにする悪徳企業としても知られている。
平成ポイントその10。
ブラック企業である。
某企業に勤めていた社員の自殺が発端になり、この言葉は広く知られるようになった。
それを前後として、このブラック企業を題材にした様々なメディアが展開した。
命に関わる問題をエンターテイメントとして面白おかしく消費する、人間社会の醜さと愚かさが感じられる一例だ。
ただ、これは以前紹介した平成ポイントのようなフィクションやサブカルの存在ではなく、現実に存在している問題だ。
そして………令和になっても無くならず、未だに人々を苦しめている。
「私達連邦軍は、何度も改善要求を出しても無視を続けるミキ・ワダツミに対して、摘発に出る事になったの」
軍が動くというと、ブラック企業相手にはオーバーキルな気もしない。
が、貴明の前世の時代と違いちゃんと摘発される事を考えると、そこは感心できる。
「でも………それと俺達に何の関係だ?」
貴明の疑問はそこだ。
たしかに貴明もブラック企業は許せないとは思うが、現在の貴明からすれば、ワダツミ興行は何の関係もない相手だ。
それに、摘発するだけなら何もイェーガーに協力を頼む必要も無いように思える。
「これを見て頂戴」
そんな貴明とパフィに、ヴィレッタが自身の携帯の画面を見せた。
そこに映っていたのは、一枚の画像。
度々ニュースに映るので、貴明も知っていた。
そこはワダツミ興行の本社………採掘の為に持ってきた資源衛星を改造した、宇宙に浮かぶ巨大な社屋だ。
画像には、その物資搬入用ゲートから、社屋内に運び込まれる「何か」の姿。
隠すように、巨大な布に覆われている為に解りにくいが、布の端から見えるのはオッグの足だ。
つまり。
「ワダツミ本社は、どうやらMMMで武装しているみたいなの」
それを聞いて、貴明は驚いた。
いくらなんでも、MMMで………巨大ロボットで武装しているブラック企業など、生まれて初めて見たからだ。
まあ、自分もウィンダムを持っている事を考えると、人の事は言えないのだが。
「そして、どうやらワダツミが軍の上層部に手を回したらしくて、MMMは私の機体しか使えないのよ」
そして、ミキ・ワダツミという男は、どうやらかなりの「やり手」のようだ。
ヴィレッタの話が本当なら、連邦軍にもパイプが繋がっているらしい。
まあ、無駄に事業だけは広い会社だ。
どこかで連邦上層部と繋がっていてもおかしくない………のかも知れない。
つまり、ヴィレッタの頼みたい仕事というのは。
「ようするに………恐らく現れるであろう、ワダツミのMMM部隊と戦う為の戦力を頼みたい、と?」
「そういう事よ」
ふふ、とヴィレッタが微笑した。
貴明は、ウウムと考える。
未だ口をつけていないコーヒーに、自分の顔が写る。
………貴明は「そんな悪い奴ならやっつけちまおうぜ!」と乗り気で言える程子供ではない。
相手は企業。
それも、軍の摘発に対して、武力による抵抗を選ぶような。
ワダツミという男が、連邦上層部に働きかけて戦力を減らす手を使うような知性派である事を考えても、何か裏がある事は明白だ。
軍に対して、真っ向勝負に出られるような「裏」が。
それに対して、こちらの対抗戦力はウィンダムを含むにしてもMMM二機。
目に見えてわかる、こちらが不利だ。
「勿論、報酬は弾もう、頼めるか?」
「うーん………」
しかし、貴明はヴィレッタには恩がある。
断るのも悪いし、何よりギルドにも連邦軍にも顔が利くヴィレッタとは、今後も仲良くしていきたい。
「………解りました」
「そうか、ありがとう………本当に」
何より、貴明もブラック企業は許せない。
あの時代の日本人なら、貴明でなくともそう思っただろうが。
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