第4話「カワイイあの娘はメードロイド」

「………メードロイド?」



ふと聞こえた聞きなれない単語に、貴明は気付いた。


メードロイド。


メードは恐らく、女性奉公人・使用人を意味する「メイド」の事だろうか?


平成ポイントその5。

唐突に盛り込まれるメイドさん萌え要素。

である。


令和では落ち着いているものの、平成のオタク達はメイドさんに萌え狂っていた。

メイドさんの給仕を疑似体験できるメイドカフェが乱立し、メディアの後押しもあってオタク、萌え=メイドさんのイメージが強く根付いた。


メードロイドの、メードの意味は解った。

では、ロイドはどうだろう?



「メードロイド………ロイド………」



貴明は、学のない片寄った知識しかない脳で考える。


自分の知る範囲で「ロイド」という単語が何を意味し、またこの平成の世界においてはどう扱われているかを。


そして「アンドロイド」という単語が頭を過った時、貴明は一つの答えにたどり着いた。

それは。



「も、もしかして………君、ロボットなの………?」

「はいっ♪」



パフィは、ニッコリと笑ってそう答えた。


メイドロボ。

90年代からのギャルゲーエロゲー、ラノベやアニメにも度々姿を現していたそれもまた、平成の産物の一つ。

令和では、メイドさん共々下火になっているが、昔はすごい人気だったのだ。



「マスターの異世界転生後の生活のサポートが、メードロイドとしての私の役割です♪以後、お見知りおきを♪」

「は、はあ………どうも」



貴明はいまいち、パフィがロボットであるという実感が持てないでいた。


だが、彼女の耳の位置にある、イカや猫の耳を彷彿とさせるヘッドフォンパーツ。

そして明らかに人間と動きが違う、カメラのレンズのように動く瞳孔や、動く度に微かに聞こえる機械音。


それらを注目して見れば、彼女がロボットである事がなんとなく解る。



空想の産物でしかなかったハズのメイドロボが、現実の存在として目の前にいる。

それに対して、貴明はほんの少しだけ興奮していた。



「では、マスターがこれから生きてゆくこの世界と、今のマスターの存在について、軽く説明いたしますね♪」



そんな貴明を他所に、パフィは話を進める。

思えば貴明は、この世界についてまだ何も知らない、赤ん坊同然の状態である。

聞いておいて損はないと、パフィの話を素直に聞く事にした。





………………





パフィの話をまとめると、以下の通りになる。



この世界………仮に、この時代で使われている暦から取って「G.Cギャラクシーセンチュリー」と呼ぶ事にしよう。


G.Cにおいて、人類はその生活圏を宇宙に移し、幾度かの宇宙戦争と開拓を繰り返しながら、その規模を銀河系に広げていた。


今貴明がいるこの場所は、そんな何度もあった宇宙戦争の時代に作られ、忘れ去られた宇宙基地の一つ。

何でも、人類種の種の保存を目的として作られた施設であるという。


今の貴明の肉体は、そんな種族保存装置とでも言うべき、生体3Dプリンタ(仮称)………つまり、あのカプセルで作られた物で、

この基地が作られた時点での地球人を再現した、いわばレプリカのボディであるという。





………………





平成の詰め合わせと聞いたので、もっと混沌とした世界を想像していた貴明。

だが、以外と王道的なSFとして纏まっており、そこは感心していた。


いや、むしろ様々な物を混ぜ混んだ結果、よくあるSFに落ち着いたと言うべきだろうか。


なんとなくボーッとしながら、貴明はそんな事を考えていた。

すると。



………ビーッ!ビーッ!


突如として、静寂を突き破って鳴り響くサイレン!



「えっ?!何?!」



貴明が狼狽えた瞬間、ズドォ!という轟音と共に、部屋が大きく揺れた。

隕石の激突か?と思ったが、答えはパフィが出してくれた。



「………どうやら、敵襲のようですね」

「敵襲?!」

「ちょっとした海賊みたいな物です、この基地の防衛システムに引っ掛かったみたいです」



パフィ曰く、このG.C世界には最もポピュラーな戦力である巨大ロボ「メカニック・マリオネット・モジュール」こと「MMMスリーエム」を初めとして、

過去の宇宙戦争で作られた様々な兵器、技術が至る所に眠っている。


それを利用して、星々の間で海賊行為を働く者が後を経たないという。

そしてこれも、基地にある「お宝」を手に入れようとする海賊が、基地の防衛システムに引っ掛かった事による物らしい。



「そ、そんな海賊って………!」



「正しい主人公」であるなら、こんな時「宇宙海賊め!俺がぶっ飛ばしてやるぜ!」と言うべきなのだろう。


だが貴明は、前世の35年を傷つけられ、逃げ続けた子供部屋おじさん。

とても、そんな男らしい啖呵を切る事はできない。



「逃げないと!」

「それは不可能です」

「な、何でよ?!」

「今、あらゆる脱出パターンを計算してみましたが、今のマスターが宇宙海賊の襲来に対して無事に脱出できる可能性は、最大で0.001%でした」

「ほぼ0………じゃん」



しかし、どうやら運命はどうしても貴明を戦わせようとしているらしい。


しかし、この世界に生まれてきたばかりの貴明が、どうやって戦闘慣れした宇宙海賊と戦えるものか。

折角幸せになる為に転生したのに、こんな所で死ぬなんて………。



「戦うにしたって、武器もないのに………!」



絶望する貴明。

当然だ。

貴明には宇宙海賊と戦う能力も、手段もない………


………はずだった。



「武器ならありますよ?」

「へ?」



貴明が顔を上げると、そこには相変わらずニッコリと微笑むパフィの顔があった。



「だーかーら、武器ならありますよ、マスター♪」



どうやら、戦う手段ならあったようだ。





………………





爆発の衝撃が走る中、貴明はパフィに連れられて基地の中を急いだ。

外では、その宇宙海賊と防衛システム………恐らく、移動砲台の類いが戦っているのだろう。

それらが全滅するより先に、その「武器」を取りに行かなければならない。



「ま、まだ進むの?」

「もう少しですよ、マスター」



三度ほどエレベーターに乗り、パフィに連れられた貴明がたどり着いた場所。

それは、硬く閉ざされた鉄の扉の前だった。


取っ手やスイッチの類いはない。

だが、扉の前にパフィが手を翳せば。



『承認、ロックを、解除します』



それが予め承認するように出来ていたか、ハッキングでもしたのかは解らない。


だがとりあえず、閉ざされた扉は開かれ、中に眠っていた「それ」を、貴明の目前に晒す。

それは………。

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