第5話「ウィンダム、宇宙に舞う!」

「………マジ、かよ」



貴明は思わず息を飲んだ。


そう、そこにあったのは巨大ロボット………MMMの一体。

貴明が見たMMMは、これが最初の一体である。


けれども、貴明の長年のオタク人生の感が、それが特別な機体である事を物語っていた。



白いボディに青を加えた、空をイメージさせるカラーリング。

こめかみから二本の角が生え、人間のそれと同じ両目を思わせるメインカメラ。


スラリとした四肢、両サイドから生えたスカートを彷彿とさせる青いバインダー。

左手にはシールド、右手にはライフル。


一目で解る、これは特別な機体。



「自衛用に残しておいた機体です………連中のMMMなんて、問題にならない程の」



平成ポイントその6。

スタイリッシュな外見の主役ロボット。

である。



そう、これは平成の主人公機。


地に足着けず、作画を楽にする為に空中と宇宙空間を飛び回りながら、綺麗事と理想論を吐いて強烈なビームを放つ。


「熱い男の魂」などどこにもない、玩具の売れ行きと、若い世代と女性ファンに媚びる事だけの為にデザインされた、イケメン主人公という「王子様」の乗る「白馬」。


多くのロボットオタクから目の敵にされて、「最近のロボットアニメ」という雑な藁人形にされる機体。

それが、これだ。



令和においては、そんな主人公機が珍しく無くなった事や、その若い世代が大人になった事で、好意を持って受け入れられている機体。


だが、このG.Cは平成の世界。

この機体を目の敵にする奴なんて、きっと何処にでもいるだろう。



「………ガンd」

「マスター、それ以上はいけません」



けれども、今はこれに頼るしかない。

貴明はパフィにハッチを開けて貰い、コックピットに乗り込む。


貴明は、MMMの操縦なんて勿論やった事がない。

それでも、この機体のコックピットに一種の懐かしさを感じたのは、おそらく生前に一度だけプレイしたアーケードゲームによる所が多いだろう。


もし、そうなら。



「………動いた!」



ゲームであった、ロボットの起動シークエンス。

それを思い出しながらスイッチを押すと、ウィィンという起動音と共に、モニターに光が点る。


そして、前面のモニターに映し出されたのは。



World.

Ideal.

Narrative.

Dawn.

Obedient.

Maid.


世界。

理想の。

物語。

始まり。

従順な。

………作る?

いや「メイド」という意味だろうか?


かなり乱雑に直訳すると。

「あなたの為の世界の物語を始めるのは従順なメイドさんです」という事だろうか?

恐らく、これはMMMを動かすOSか何かだろうが、このOSを組んだのはパフィなのだろうか?


それはさておき、この奇妙な文字列を並べると、ある一つの単語が浮かんでくる。

それは。



「………ウィンダム?」



W、I、N、D、O、M、「ウィンダム」。

貴明は、それがこのMMMの名前なのだと、なんとなく考えた。

いや、そうで無くとも自分はこの機体をウィンダムと呼んでやろうという決意に似た感情も浮かんできた。



「………やっぱアレじゃねーか」



平成ポイントその7。

謎のカッコいいアイウエオ作文。

である。


とはいえ、似たようなネーミング法則は時代を問わず現実にも存在するので、これを平成ポイントに認定するのは、若干乱暴な気もするが。



『フォースゲート、オープン、フォースゲート、オープン』



何処かで聞いた事のあるアナウンスと共に、基地の外に繋がるハッチが開く。



『操縦はこちらからサポートいたしますので、十分暴れてきて下さいね、マスター♪』

「わ、わかった!」



通信越しに、足元のパフィが手を振った。

ハッチが開いて真空の宇宙空間と繋がったのに、少しも苦しく無さそうだ。

まあ、ロボットだし、空気とかは必要無いのだろう。


さて、準備は整った。


ウィンダムはバインダーを広げ、内部のバーニアに火をつける。

今こそ、出撃の時。



「う、ウィンダム………行きまーす!!」



そんなお決まりの台詞と共に、ウィンダムは翼を広げ、漆黒の宇宙空間へと飛び出した!





………………





彼等に名前はない。

ただ、巨大なシンジケートの下請けの下請けである、宇宙海賊だからだ。


ブタ鼻にモノアイ、そしてグレーにモスグリーンという、一目で解る量産機である「オッグ」。

過去の宇宙戦争で最も多く製造され、今や宇宙のどこでも見る事ができるそれを二機レストアし、遺跡化した古代の宇宙基地等を襲っては中に眠る「お宝」………戦争時代の様々な遺産を回収している。


そんな連中だ。



『ちっ、手間取らせてくれる………』



最後の移動砲台を破壊し、宇宙海賊の一人が吐き捨てる。

今日もまた、彼等はお宝を求めてこの宇宙基地跡にやってきた。


予想外だった事は、基地の防衛システムがまだ動いていた事。

まあ、MMMでは何の問題もないが、自衛の為だけの最低限の武装では、少しだけキツかった。



『さっさとお宝を回収してずらがろうぜ』

『そうだな、早く帰って酒が飲みたいぜ』



ようやく探索がし易くなった事で、オッグ二機は基地内に侵入しようとした。

だが、その時。



『………んっ?!』

『どうした?』

『センサーに反応!遺跡の中から何かが………アレはっ?!』



青い光を引いて、それは現れる。

白と青の機体。

貴明の操るウィンダムだ。



『そのMMMの性能なら、あんな奴等何の問題もありませんっ!チュートリアルだと思って軽く捻っちゃいましょう、マスター!』

「もー、他人事だと思って………!」



若干の不安を感じつつも、貴明は操縦桿を前に倒す。

するとウィンダムは、二機のオッグ目掛けて突撃する。



『来やがったな!』

『お、おい!』



オッグの内の一機が、迫るウィンダムに対して実体剣………カーボンチョッパーを引き抜き、もう一機のオッグの制止を振り切って突撃する。



『あいつもMMMに乗ってるって事は同業者だ!だったら、俺達の利益を奪う敵に決まってんだろ!!』



短絡的ではあるが、宇宙海賊としては正しい考えだ。

これまでも、仕事の最中に出くわしたMMMというのは、そのほとんどが自分達の仕事を横取りしようとする敵か、取り締まろうとする側だったからだ。



『息の根止まれやァ!!』



振り上げられたカーボンチョッパーが、ウィンダムに襲いかかる!


このオッグのパイロットは、パイロットになってからは日が浅いものの、それでも貴明よりは経験を積んでいる。


初めてMMMに乗った貴明と比べれば、どちらが勝つかは明白だ。

MMMの性能の違いは、戦力の決定的な差にはさらないのだから。


………だが、忘れてはならない。

ここ、G.Cは「平成」の世界。

「平成」の法則は、容赦なくオッグのパイロットに襲いかかった。



………がきんっ!



振り下ろされたカーボンチョッパーを、ウィンダムはシールドで受け止め、振り払う。



「どりゃあ!!」

『な、何ィッ!?』



そして、バインダー内から引き抜いた光の剣………いわゆるビームブレードとでも言うべき武器で、オッグの腰を切り裂いた。



『うわぁっ?!』



ズバアッ!!と、真っ二つに切り裂かれるオッグ。

オッグのコックピットは胸にある為、パイロットは無事だ。

だが、もう戦う事はできないだろう。



『この!よくもビーンをォ!!』



残りのオッグも、手にしたマシンガンをウィンダムに向けて撃つ。

しかし、ウィンダムの装甲が堅牢である事もそうだが、距離がある為に中々当たらない。


対するウィンダムは、そんなビームブレードを仕舞うと、腰にマウントしていたライフル………ビームショットを持ち、オッグに向けて構える。



『細かい調整は私がやります、マスターは引き金を引いてください!』

「何から何まで、ありがとっ!!」



貴明が、操縦桿の引き金を引く。

すると、ウィンダムが構えたビームショットから、一筋の光の弾丸が射出される。


ビームブレードと同じく、プラズマ粒子で構成された塊は、そのままオッグに向かって真っ直ぐ飛び、そのコックピットを貫通………


………は、しなかった。



『うわあああ!!』



もう一機のオッグもまた、ビームに貫かれた事で、最初のオッグのように上半身と下半身に分離。


こちらは下半身が爆発し、無力化されたオッグの上半身はその衝撃で吹っ飛ばされる。

そして近くにあった小惑星に激突し、そのまま静止した。



平成ポイントその7。

ほぼ経験なしの初陣で、何故か歴戦の戦士相手に勝利するロボットアニメ主人公。

である。


多くのロボットアニメファンは「突っ込むのは野暮なお約束」として認識しているが、そのパイオニアでもある某ロボットアニメに、戦闘慣れした少年兵の主人公が登場した事(執筆時点での情報です)。

それらに突っ込みが入り続けている事を考えると、もしかしたらそれも「平成の遺物」として時代に消えてゆく物になる………の、かもしれない。



「はあっ………はあっ………」



激戦を制し、オッグ二機を行動不能に追い込んだ貴明。

だが、平成のお約束が絡んでいたとはいえ、ウィンダムの圧倒的な性能を前に、ある考えが頭を過った。



「………これに乗って逃げた方が早かったのでは?」

『あ、あはは………』



気まずそうに笑うパフィを前に、貴明はそれ以上何も言わなかった。


かくして、貴明の異世界転生一日目は、こうして幕を閉じるのであった。

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