第6話・最終手段を取らせていただきます


「あ、あの……アーサー?」

「ああ。たまんねぇ。おまえからは美味そうな匂いがする」

「お。落ち着いてね?」



 おまえが食いたい。舌なめずりするアーサーの呟きが聞こえてわたしは震え上がった。白兎族の耳は伊達に長くない。遠くの音を拾うのはもちろんのこと、小さな呟きさえしっかり聞こえてしまう。



────わたし、アーサーに食べられちゃうの?



 獣人同士で殺戮や、殺し合いは認められてないよ。その上、食べるだなんて。怖い。後退りしようとした腰をガッチリ捕まれる。

 ぶるぶる震えるわたしを前にしてアーサーはにっこり笑った。



「逃せねぇよ。覚悟しろ」

「あ、あああ、アーサー──」



 ごくりと唾を飲み込んだわたしは迫り来るアーサーを恐れて、現実逃避することにした。儚い令嬢方が自分が耐え切れないと思ったときにとる最終手段、気絶だ。



「お、おい、リズ?」



 ああ。これで逃がれられる。現実からの逃避を試みたわたしの耳は、慌てる彼の声を拾い続けたが、それもほんの数秒の事で段々と意識は薄れて行くのにあわせ、聞こえなくなった。



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