19話 助けてくれたのは…



瞬く間にウォーグを倒した人物がこちらを向いた。風貌からして冒険者のようだ。しかもかなりランクが上位の者だと思う。鍛えられた体に容易に大剣を操る力強さ。無造作に伸ばされたアッシュグレイの髪の隙間から見える鋭い眼差しは魔物でなくても身をすくめてしまう。

まるで物語に出てくる勇者様のようだ。



「お! 誰かと思ったらクリス王子じゃねえか、こんなところで何してんだ?」


「勇者様、久しぶりですね。ここにはしばらくは来ない予定だったんじゃないですか?」


「「「勇者!?」」」


男は王子を見ると話しかけてきた。

…っていうか本物の勇者様だったとは!!


「それがよぉ~、セイラの奴がご神託を受けたらしくてな。国王に会いに行く途中だったんだ。ま、運よく俺達が通りかかって命拾いしたな。お前たち」


豪快に笑いながら勇者様が言った。


《ガサガサ》


「もう! ギルったらいきなり走りだすからびっくりしちゃったじゃない!!」


森から出てきたのはすっごい美人の女の人だった。金色の髪は日にあたりキラキラと輝いていてその長い髪は三つ編みにして横にながしている、聖法衣を着ているその姿はまさに聖女のように神々しかった。


「あら! クリストファー殿下ではございませんか」


置いて行かれたことに怒っていたその女性は私達を見て王子がいることに気づいたらしい。


「聖女様もお久しぶりです」


「「「ええっ!! 聖女様!?」」」


またしても王子の発言に私を含めマークとウィリアムが驚いた。まさかこんなところで勇者様と聖女様に会えるとはなんて運がいいんだ!

感動していると勇者様は私に話しかけてきた。


「おい、お嬢ちゃん。いつまでもウォールそれしていると魔力切れでぶっ倒れるぞ」


「あ」


あまりの展開に魔力を使っていたことを忘れていた。

すぐに魔力を解除したけど……。


「あ、れ‥‥?」


「レイラ嬢!!」


急に体の力が抜けて気が遠くなってく。意識を手放す瞬間、王子の慌てたような声が聞こえた気がした。







倒れていくレイラの体をクリスが咄嗟に抱きとめた。


「聖女様! レイラ嬢をみてもらえないでしょうか!?」


いつもは冷静なクリスが動揺したような声で聖女に頼みこむ。


「‥‥‥大丈夫。ギルが言ってたように魔力切れを起こしたみたいだわ。少し休ませればそのうち目を覚ますわよ。それより、殿下の足を治癒いたしませんと」


聖女は王子の怪我をしている足に手を翳すとあっという間に治した。


「これが聖女様の力…… すげえな」


「はい、素晴らしいです」


マークとウィリアムは聖女の魔法を感動したように眺めていた。


「ところで王子達はなんでこんなところにいるんだ?」


「それが……」


ギルに尋ねられて今までことをクリスが話す。


「はあ? あの『試練』の時は必ず近くに護衛騎士がいるはずだぞ。それに仮にも魔物のいる山に帯剣させずに行かすとは考えられないんだが」


「………」


「……とにかく、夜になる前に山を下りましょう」


ギルの言葉にクリスが黙り込んだ。それを見ていたセイラは暗くなった雰囲気をかき消すようにパンパンと手を叩いて明るい声で言った。


とにかく無事に帰ることができる。マークとウィリアムはその事に安堵したのだった。



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