20話 おやすみなさい、また明日。
目が覚めるとベットに寝かされていて、いつもの私の部屋の天井が見えた。どうやら無事に王宮に返ってくることができたみたいだ。
「やっと目が覚めましたか」
王子の安堵したような声が聞こえて視線を向けるとベットの側で椅子に座っている王子が少し心配そうな顔で私を見ていた。
「王子…、足の怪我は?」
「起きて早々、他人の心配ですか。私の怪我はセイラ様に治してもらいましたので大丈夫ですよ。あなたは丸二日も寝てたんですよ。どこか具合が悪いところとかありませんか?」
「え、二日も? 別にどこも悪いところなんてないです。すこし喉が渇いている気がしますけど……」
気を失ってからすぐに目が覚めたような感じがしたからそんなに時間が経っているとは思わなかった。王子と話していて喉が少しカサカサするなあとは思ったけど。
「悪いが彼女に果実水をあと、念のために宮廷医を呼んできてほしい」
「はい、畏まりました!」
側に控えていた侍女達が王子の指示で部屋を出て行った。
「私、もう大丈夫ですよ? お医者様を呼ぶようなことではないです」
なんだかいつもと様子が違う王子にもう一度大丈夫だと告げたのだけど王子は首を横に振った。
「駄目です。念のためと言ったでしょう? 魔力切れを起こして倒れたのですから。私が安心できませんのできちんと医者に診てもらいましょう。いいですね?」
「わ、わかりました!」
凄い笑みを浮かべて圧をかけられたので黙って頷いた。
「ところで、私が倒れた後どうなったんですか? 」
「ギル様とセイラ様と共に山を下りている途中で私達を探していた騎士達と合流できましてすぐに王宮に戻ってくることが出来ましたよ」
「そうか、それはよかったです。マークとウィリアムは? 」
「二人とも元気ですよ。今日も午前中にお見舞いに来てましたよ」
そう言ってベットの側にある花瓶に視線を移した。二人がお見舞いに持ってきたんだろう色とりどりの綺麗な花が夕日に照らされている。
「お礼を言わないとですね……」
「…くっくっく」
「私、何かおかしなこと言いました?」
至極まともな話をしていたのにいきなり笑い出した王子。どうせロクでもないこと考えているんじゃないかと胡乱な目で見る。
「いや、あの時のあなたの言葉遣いと今を比べてしまって…フフフ。ご令嬢の言葉使いではなかったですがあの方があなたらしいなと思っただけです」
「失礼ですわね。あの時は私もいっぱいいっぱいだったのです。それを笑うなんて……」
「これは失礼しました。……まあ、でも私の前だけでしたらあの口調でもかまいませんよ。なんだかその方がしっくりきますしね」
「王子がそう言うのなら、私もたまには楽に話したいから助かる」
「ところで、あなたは私の事を『王子』と呼んでますが名前知っていますよね?」
「く、くりすとふぁー殿下です。覚えてないわけないじゃないですか!」
あ、あぶなかった。危うく忘れかけてた。
「…なんだか怪しいですが、まあいいでしょう。クリストファーが覚えにくいのであれば『クリス』と呼んでください。マーク達にもそう呼ばせてますし」
「クリス殿下ですね。わかりました」
「『クリス』でいいですよ。あなたとは婚約者同士なので呼び捨てにしても誰にも咎められませんよ」
「わかった、『クリス』な。じゃあ私の事も『レイラ』でいいよ。ぶっちゃけ、嬢って言われるのこそばゆかったんだ」
「わかりました。では、レイラと呼びますね」
そんなやり取りをしていたら、宮廷医がやってきて質問されたり脈を測られたりしたが体に問題ないだろうと診断された。
念のため、今日までは部屋でゆっくり過ごすようにと言われたけど。
「宮廷医が言っていたように今日は大人しくベットで寝ていてください。あとで食べやすい食べ物を用意させますから」
宮廷医が部屋を出てからクリスが私に話しかける。
「はい、わかりました」
「では、また明日来ますね」
クリスが部屋を出て行くのを引き留めた。
「クリス! おやすみなさい、また明日ね!」
「おやすみなさい、また明日」
クリスの無邪気な笑顔をこの時、初めて見た気がした。
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