10話 教師陣との顔合わせをしました。




次の日、朝から王太子妃教育に関わる教師との顔合わせが行われた。


うーん、俺に入れ替わる前のレイラはどうしようもないくらいの我儘お嬢様だった事が王宮内でも有名だったらしく教師陣の俺を見る目がいささか厳しく感じた。


「今まで、サンチェス公爵家では随分と甘やかされておられたようですが、未来の王太子妃として厳しくご指導させていただきますのでご覚悟なさいませ」


キッチリと髪を結ってある修道女の様な黒と白のドレスを着た怖そうなおばちゃん ――失礼、 カミラ伯爵夫人が釘を刺してきた。前世で言うと教育ママって感じの人だ。


「もちろんでございます。皆様の期待に応えられるよう努力いたしますのでご指導ご鞭撻のほどよろしくお願いいたします」


最初から好印象ではないとわかっているが、それも仕方ないと思う(以前の性格がアレだった)がこれから挽回すればいいだろう。

素直に頭を下げて、学ぶ意思があることを示した。


カミラ伯爵夫人は俺がこんなにあっさりと頭を下げたことに驚いたようだがすぐに騙されないぞという厳しい目で俺を睨んできた。



どんだけやらかしてたんだ、昔のレイラ


「ほっほっ。カミラ夫人、そのように睨みつけなくてもよかろうて。しかし、どんな我儘なお嬢ちゃんかと思えば噂とはやはり当てにならないものようのぅ」


仙人のような真っ白い髭を伸ばして黒いローブを着た爺ちゃん ――グウェル卿はこの国で最強と言われたほどの魔導士だった。今は侯爵の座を息子にゆずり、自身は魔法史の研究に勤しんでいるそうだ。グウェル様から直接、指導いただけるのは王族とその籍に入る者のみで大変名誉なことだと、今朝、侍女のエミリーさんから聞いた。


「グウェル閣下、その噂はあながち嘘でもございません。すべて浅慮で己の愚かさに気づかなかった私が撒いた種でございます。しかし、これからは心を入れ替え生まれ変わった気持ちで皆様から学びたいと思っております」


「ほぅ。自らの過ちにきづいたとな? その若さで……。ふむ、これは面白い。ならば、心を入れ替えたというお嬢ちゃんの本気とやらを見させてもらおう。しかし、『閣下』呼びは止めてもらえないかのぅ。そうじゃ、『グウェルお爺ちゃん』でいいぞ?」


白い髭を撫でながらにっこりと笑う。


「いえ! そんな偉大な魔導士様にそのようにお呼びするにはまいりません」


「そうかのぅ…、残念じゃ」


本当に残念そうに肩を落とす爺ちゃんに申し訳ないけど、ここで『グウェル爺ちゃん』とか呼んだら不敬に当たりそうだし、カミラ夫人になんて言われるか……。


「まあ、学ぶ意思があるのならお教えいたしますが、私の指導は甘くないのでしっかりとついてきていただくようにお願いします」


栗色の髪をオールバックにしてスーツをきっちりと着こなしたインテリ眼鏡――グレイソン伯爵は宰相の補佐官として活躍している現役エリート。政治や経済、法律に長けその博識を買われてレイラの教育係に任命された。本人が本来の仕事をこなす傍ら指導をするという事で俺にとってもグレイソン伯爵にとってもこの勉学はかなりキツイものになりそうだ。


「もちろんでございます。グレイソン伯爵様、精一杯学ばさせていただきます」


「ふむ、ではさっそく。次の授業の間までにこの本を読んでおくように」


と渡されたのが、分厚い辞典のような本を2冊渡された。



……マジかよ。


心が折れかけたがやると啖呵を切った手前やるしかない。


教師陣の初顔合わせを何とか終えると応接室から辞して自分の部屋へと向かう。

部屋に戻ったらまずは本読みから始めることに決めて拳を振り上げた。




「今日も一日がんばるぞい!」


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