11話 変な奴らに絡まれた。
部屋に向かっている途中で、前から同年代くらいの少年が歩いてきた。
見覚えのある顔に元レイラの記憶を掘り起こして名前を思い出す。
確か将軍の嫡男のウィリアム・ネルソンと言ったか。父親譲りの濃紺の髪はビシッと七三分けにして黒縁の眼鏡から青い瞳が何故か俺を睨みつけるように向かってくる。
「ネルソン様、ごきげんよう。お会いするのはお久しぶりでございますね」
ウィリアムが目の前で立ち止まったので挨拶とカーテシーをした。
記憶の中ではレイラとウィリアムはあまり仲が良くなかったらしい。クリストファー王子の側近候補として近くにいるウィリアムにとって、我儘なお嬢様のレイラは目に余るようでそのことで何度か衝突があったみたいだ。
いつものレイラみたいに出会いがしらの嫌味を言ってこなかったのが意外だったのか一瞬、目を見張ったがすぐに持ち直した様で先制攻撃とばかりに嫌味を言ってきた。
「おやおや、どういう風の吹き回しですか? ……ああ、なるほど。クリストファー殿下の気を引くために趣向を変えたというわけですか。しかし、そんな付け焼刃のように取り繕っても元来の性根の悪さは隠しきれるものではないんですよ?」
厭味ったらしく顔を歪ませて言ってくる。
んあ? 何だこいつ。俺に喧嘩売ってるんか?
一瞬ムカついたが、
「今までの私の行いが間違っていることに気づきましたの。これからは気持ちを新たに精一杯、殿下の婚約者として恥じない行いをして参りたいと思っております。そして、ネルソン様にも今までの非礼をお詫びいたします」
そう言って、頭を下げた。
ま、こっちが下出に出たらこれ以上は文句も言えないだろう。
これぞ処世術という奴だ。
「は!? え? あのサンチェス嬢が自分から頭を下げるなんて……」
ウィリアムはかなり動揺しているようだ。何か言いながらあわあわと挙動不審な動きをしている。
「おーい、ウィルー。こんなところで何してんだ?」
ウィリアムの後ろから声がして人が現れた。
短く切られたツンツンヘアーの赤い髪に活発そうな緑のつり目のこれもまた同年代くらいの少年だった。この少年にも見覚えがある。確か――
「ラッセル様、ごきげんよう」
マーク・ラッセルは宰相の嫡男になる。
こいつもクリストファー王子の未来の側近候補だ。
「は? お、おまえ。あのクソムカつくレイラか? なんか変なモノでも食ったんじゃねえか?」
出会い頭にこいつも失礼な事を言ってきた。
「マーク、いくらあのレイラ嬢でも失礼ですよ」
面食らったようにレイラの方に指を差しながら言うマークにさすがにウィリアムがたしなめた。
どうやらこいつらの中で俺の評価は最底辺にいるようだ。
まあ、しゃーないよな。クリストファー王子と過ごせる時間をこいつらが邪魔していると思い込んでいた元レイラは相当辛辣な言葉を二人に浴びせていたみたいだし。
「そう言われても仕方ない事を今までしてきたと思いますわ。私も反省しましたのでこれからは皆さまの勉学の妨げになるようなことは決してございません」
「「はあっ!?」」
驚愕した声がシンクロして聞こえる。二人のびっくりした顔があまりにも間抜けに見えて笑えるのを必死に堪えた。
「おい、ウィル。俺は白昼夢でもみてるのか? それともそいつはレイラ嬢に化けた何かなのか?」
「私に聞かれても困ります」
「御二方、私はこれから先生から申しつけられた宿題をしなければならないので失礼しますわね」
そう言って、いまだに呆気に取られて固まっている二人を置いて部屋へと戻って行った。
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